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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
4章

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遭遇

 ガロイズがアルベール魔王国に送られた後、再び冒険者たちは今回の討伐対象の魔獣の生息地へと向かい始め、先程グレンオーサがガロイズ相手に見せた戦い振りに高揚して周囲への警戒を忘れていた新人冒険者たちはセラツリムたちに注意を受けていた。


 リファロが活動している地域のギルドに所属している冒険者の階級は一級から五級に分けられており、一応特級という枠も用意されているがギルドが始まって以来、特級の称号を授かった冒険者はいなかったので一級が冒険者としての事実上最高位の称号だった。


 そして二級以上の称号は三級以上の冒険者しか務められないギルドの支部長を一定期間務める以外に授かる方法がほとんど無かったので三級が現場に出ている冒険者の最高位だった。


 クララス王国だけで三級の冒険者は二千人程いたがセラツリムとグレンオーサはマッカランたちに濡れ衣を着せられて一度ギルドを追放されていた。


 マッカランが職権を乱用して追放した冒険者たちはマッカランが奪ってでも弟のゴスキルの手柄にしたい程の功績を挙げた冒険者か、現場での『功績』だけで二級への昇格が目前だったゴスキルの地位を脅かしかねない冒険者だった。


 このためマッカランに追放された冒険者は全員が優秀だったのでリファロはギルドに不信感を抱いていた全員にギルドへの復帰を頼み、この内セラツリムとグレンオーサのクリヒビスへの引き抜きに成功した。


 二人の内、冒険者としての仕事全般への適性はグレンオーサの方が高かったが単純な強さならセラツリムの方が高く、殺して構わないならセラツリムは一対一の正面からの戦闘でガロイズに勝てる程の強さを持っていた。


 今回の任務に参加している新人冒険者たちはセラツリムの強さをまだ知らずそもそもセラツリムが本気で戦う状況になった時点で今回の新人冒険者たちの任務は失敗だった。


 しかし新人冒険者たちは先程ガロイズ相手に経験と技術の差を見せつけたグレンオーサだけではなくセラツリムにも敬意が込もった視線を向け始めており、ガロイズが起こした騒ぎで雰囲気が悪くなる事を心配していたリファロは彼らの態度を受けて安堵していた。


 そして新人冒険者たちがセラツリムとグレンオーサから周囲を警戒する方法や木々や地面に残った痕跡の意味を教わる中、リファロは『回答者』でふと気になったマッカランたちの現状やニードベルの屋敷の様子を調べながら自分の冒険者としての階級について考えていた。


 マッカランたちの追放後、リファロはギルドに復帰したが階級は五級のままだった。

 天使たちからは特例で三級まで上げても構わないと言われたが不要な嫉妬を買いたくなかったリファロは天使たちの提案を断り、ニードベルのギルド支部の支部長就任だけを特例で認めてもらった。


 このため実務面では階級が五級のままでもリファロは困らなかったのだが特例が長く続くと不満を持つ者も多いはずだと考えていたので、ただでさえ多くの相手から不満を持たれているのだからできるだけ早く三級を目指そうと考えていた。


 魔獣討伐に関してはリファロはその気になれば現場への転移から任務終了までを一分以内で終わらせる事ができるので、手間も時間もかからない任務をわざわざ依頼がきてから終えて金銭を得る事に少なからず罪悪感を覚えていた。


 しかし無償での奉仕が多くの問題を引き起こす事は『回答者』を使うまでも無く理解していたので、リファロはこの罪悪感に関しては自分が我慢するしかないと考えていた。


 考え事をしながらリファロが時折視線を向けると新人冒険者たちは先程の高揚感も薄れた様子でセラツリムたちの指示に耳を傾けており、この調子ならニードベル、ダーウォール、クリヒビスに続く四つ目のギルド支部の開設も予定より早く行えそうだと一瞬リファロは考えた。


 登録票を創るための水晶はすぐに手に入るだろうか。

 他の場所との位置関係を考えると今度はアッキム王国の東の街にギルド支部を置きたい。


 四つ目の支部を任せる指導役の冒険者の手配は少し厳しいかも知れない。

 魔族数人をクリヒビス以外のアッキム王国の街に移住させるのは時期尚早かも知れない。


 目の前の新人冒険者たちの熱心な態度を受けてリファロは様々な事を考えたが、国だけではなく国民からの反発も強いはずのダーウォールでの支部開設及び運営が一段落するまでは手を広げるべきではないと我に返った。


 ディルシュナやオムニプルにも一部の仕事を任せる準備を進めている今、他の場所での仕事まで考えるなど焦り過ぎだとリファロは苦笑し、先日エプランテに『お前なら自分の疲れもどこかに転移させられそうだ』とからかわれた事を思い出して自嘲しながらセラツリムたちの後を追った。

 

 ガロイズと別れて二時間程歩き、討伐対象の魔獣の生息地に入った一行はセラツリムの合図で足を止めた。


「リファロ様からの情報によると今回討伐する魔獣はこの辺りに生息しているらしい。来る途中で動物を何度か見かけたので魔獣はまだ縄張りを変えていないはずだ。今回は私、グレンオーサ、ルインジオは別れて探索を行う。残りの八人は私に二人ついて、グレンオーサとルインジオには三人ずつついて魔獣を探そう」


 リザードマンのルインジオも階級は他の新人冒険者たちと同じ五級だったが強さは常人より上だったので今回は戦力として数えられ、魔獣を発見しても決して自分たちだけで挑まないようにセラツリムが注意をしてから冒険者たちはリファロを残して三方向に別れて魔獣の捜索を始めた。


 分かれての探索を始めて二分程経った頃、他の三人を先導する形で森の中を歩いていたルインジオは剣を握る右手に無意識に力を込めながら前に視線を集中させていた。


 左右と後ろは他の三人に任せたがどこまで信用できるだろうか。


 今回の魔獣はムカデなので地中から襲い掛かってくる可能性もあると先程セラツリムが言っていたので足下にも注意する必要がある。


 三手に別れて探索するなら指導官役の冒険者も三人用意していないと駄目だろう。


 探索開始直前にいきなり自分と同じ新人冒険者三人の世話を任されたルインジオは緊張とリファロたちの不手際への不満から鳥の鳴き声にも過度に反応する精神状態になっており、ルインジオに余裕が無い事は既に他の三人にも伝わっていた。


 しかし新人冒険者たちは四人でそれぞれ四方を警戒しており、地中からの攻撃は耳を澄ませておけば察知可能だと聞いていたので魔獣に襲われても支給された盾で頭と胸さえ守れば死ぬ事は無いと考えていた。


 このためルインジオ以外の三人は魔獣への闘志など全く持たずに自分の身を守る事だけを考えており、一方ルインジオはリファロたちの不手際に不満こそ持っていたが今回の任務へのやる気だけは失ってはいなかった。


 先程のガロイズの言動は褒められたものではなかったがオーガもリファロに反感を持っている者をわざわざ代表には選ばないはずだったので、先程のガロイズの言動はリファロへの忠誠心の現れだとルインジオは考えていた。


 そしてガロイズの気持ちはリファロにも伝わっているはずなのでこのまま何も目立つ事無く任務が終わってしまうと同族に合わせる顔が無いとルインジオは考えており、分かりやすい手柄を立てるべく魔獣の襲来を今か今かと待ち構えていた。


 しかしルインジオの視界に魔獣が入ってくる事は無く、聞こえてくる音は風で木々や草花が揺れる音と後ろの三人の息遣いと足音ぐらいで、少し離れた場所をリスらしき動物が通り過ぎただけで戦闘態勢を取ってしまった自分をルインジオは恥じた。


「……こっちは今のところ魔獣はいない。そっちはどうだ?」


 今回の任務でルインジオは腕や脚の一本ぐらいは失う覚悟をしていたが魔獣の探索がこれ程精神的につらいとは考えてもおらず、この任務はあいつらには無理だなと知り合い何人かの顔を思い出しながら他の場所を探索している冒険者たちと連絡を取った。


 そしてセラツリムとグレンオーサ率いる班の両方から異常無しとの返事を受けた後、ルインジオは更に森の奥へと進もうとした。


 小型の魔導通信機で他の班と連絡を取れなくなった後退する事になっていたので後十分もしない内に一度後退する事になるだろうなとルインジオは考え、この直後想像以上に大きなため息をついてしまった。


 そして自分が想像以上に精神的に疲れている事にようやく気づいたルインジオは人間たちの前で失態を晒した事に眉をひそめ、ルインジオが雰囲気を悪くしてしまった事を謝るために振り向いた瞬間、ルインジオたちの近くの木が揺れた。


 既に聞き慣れていた木の揺れる音にはルインジオは何の反応も示さなかったが、同行していた冒険者二人の顔に何らかの影がかかった事に気づいた瞬間走り出しており、近くにいた冒険者と吹き飛ばす様に位置を変わったルインジオが顔の上に構えていた盾に強い衝撃が加わった。


「魔獣だ!」


 怒鳴る様な他の冒険者の声を聞きルインジオは何が起きたかを悟り、同時に盾を装備していた左腕に初めて感じる痛みを覚えると同時に鼻に届いた異臭に眉をひそめた。


 しかし木の上から奇襲を仕掛けてきた魔獣が着地後に体をしならせる中、傷口を確認している余裕はルインジオには無く、自分の最大の武器、尾による攻撃がムカデ型の魔獣には当てにくい事に気づき歯噛みしながら戦闘を続けた。


 ルインジオは奇襲にこそ驚かされたがムカデ型の魔獣の力はルインジオはもちろん他の冒険者たちでも対抗できない程のものではなかった。


 しかし全身を鞭に様にしならせて暴れ回る動きによりムカデ型の魔獣の打撃の強さは何倍にもなっており、魔獣が一度体をしならせる度にルインジオ以外の冒険者たちは近くの木々や地面に叩きつけられていった。


 ルインジオもムカデ型の魔獣に尾を叩きつけられた直後に尾を支えにしなければ吹き飛ばされていたはずで、ルインジオは魔獣の攻撃に耐えこそしたが右脚には鈍い痛みが走り尾にも今まで感じた事の無い痛みを覚えていた。


 そして痛みこそ感じたがまだ何とか動くルインジオの右脚と尾より深刻な傷を負っていたのが左腕で、中央が溶けていつの間にか落ちていた盾に守られていた左腕は肉の一部が溶けてわずかだが骨まで見えていた。


「……毒か」


 先程のガロイズとグレンオーサの戦闘を思い出しながら眉をひそめていたルインジオの視線の先ではムカデ型の魔獣が口から黄色く濁った液を漏らしており、左腕の傷がこれ以上広がらない事と左手の指が動く事を確認したルインジオは一度息を吐くと落ち着きを取り戻した。


「毒は予想外だったが大きさはそこまでじゃないな。……さあ、かかってこい」


 アルベール魔王国の魔族にとって一対一で魔獣に勝てる事は特に誇る事ではなく、最後に魔獣と戦ったのは四ヶ月程前でこの時は他のリザードマン二人と共に戦ったが、ルインジオはこれまでに一度だけ魔獣に一対一で勝った事があった。


 このため最初の奇襲で自分を殺せなかった時点で魔獣に勝ち目は無いとルインジオは考え、魔獣の奇襲から人間をかばった事も大きな評価対象だろうと現状におおむね満足していた。


 自分の腕では剣で目の前のムカデ型の魔獣の甲殻を斬り裂く事はできないが何度も尾で叩けば内臓が潰れて死ぬはずだとルインジオは考え、唯一の不安要素は魔獣が自分から周囲でうめき声をあげている人間三人に標的を変える事だとも考えていた。


 このため魔獣相手ににらみ合いを続けてはまずいと考えたルインジオは他の班への連絡も忘れて魔獣へと襲い掛かり、ルインジオが牽制のため横薙ぎに振るった剣を魔獣は口で受け止めた。


 ルインジオの剣を正面から受けた魔獣の口はわずかに傷ついただけで、一方ルインジオの剣の刃の部分は魔獣の毒を受けて中央から溶かされてしまった。


 しかしこの攻防で剣を失う事はルインジオも織り込み済みだったので、溶け残った剣の柄を手放すと同時にルインジオは魔獣の右脇腹に全力で尾を叩きつけた。


 魔獣の体の表面にこそ傷はつかなかったがルインジオは尾に伝わってきた感触から魔獣の体内に傷を負わせた事を確信し、先程の暴れ振りとは一転して自分と距離を取ろうとしている魔獣を前にして勝利を確信しながら魔獣との距離を詰め始めた。

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