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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
4章

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調査

 ナインテルたちと話した翌日の午前中、リファロは予定通りクリヒビス領主、ラクロブルの屋敷を訪ね、使用人に案内されたリファロは応接室に入るなり五十代の恰幅のいい男、ラクロブルから品定めする様な視線を向けられた。


 お茶を出さないというささやかな嫌がらせを受けた後、リファロは早速ラクロブルに森の一部に魔族の冒険者用の宿舎を建てる許可を求めた。


「あなたの持ってる森の一部をギルドの活動に使いたいので貸してもらえませんか?賃貸料はクリヒビスの人たちが払ってるのと同じ額でと考えています」


 リファロの入室直後からラクロブルはリファロへの不満や警戒心を隠しておらず、リファロも別にラクロブルと仲良くするつもりは無かったので手短に交渉を終えようとした。


 しかし森の一部の貸し出しを含めたギルドへの関わり方を話し合う前にラクロブルにはどうしてもリファロに言いたい事があり、声量こそ抑えられていたが不満を露わにした声でラクロブルはリファロに話しかけた。


「貴様、昨日融和派の連中と話をしたそうだな?領主の私を後回しとはずいぶんとなめられたものだ」


 リファロは今回交渉の主導権を握るためにあえてラクロブルを後回しにして怒らせたので、想定内のラクロブルの怒りを受けても全く動じる事無く用意していた言葉を口にした。


「別に来る必要も無いあなたのところに僕の方から顔を出した時点でかなり気を遣ったつもりなんですけど」


 クリヒビスへのギルド支部の設置はアッキム王国とリファロの間で決まった事でこの決定を覆す権限はラクロブルには無く、ギルドに資金援助をする予定も無かったラクロブルは現時点ではギルドについては完全に部外者だった。


 しかしあえて領主と領民の不和を放置する必要も無いだろうと考えてリファロは今回ラクロブルの屋敷を訪ね、相談の結果ラクロブルが森の一部を格安でギルドに貸し出したという形にするつもりだった。


 しかし自国の長年の計画を潰した上に自分の資産を三割も奪った若造に気を遣ったつもりなどと言われてラクロブルはとうとう我慢の限界を迎えた。


「こっちが下手に出れば調子に乗りよって!貴様と話す事など何も無い!とっとと出ていけ!」


 ラクロブルが一体いつ下手に出ていたのかリファロは尋ねたい気持ちになったが、別に喧嘩を売りにきたわけではなかったので必要以上に煽りはせずラクロブルに数枚の書類を手渡した。


「年間金貨二百枚、うまくいけば三百枚以上稼げる話を持ってきたんですけど本当に帰っていいですか?……僕だって喧嘩腰の人のところに何度も来る程お人好しじゃないですから今日帰ったらもうここには来ませんし、後からあなたの私兵をギルドに参加させようとしても問答無用で追い返しますからね?」


 アッキム王国の兵士はクリヒビスから引き上げられたが貴族たちの中には個人的に兵士を雇っている者が多くラクロブルも八百人程の私兵を雇っており、全員に実戦経験があるわけではない彼らの内、兵士と呼べる強さと技術を持つ者は二百人程だった。


 しかし元々冒険者の育成に時間と手間を割く予定だったので、素人と大差無い六百人も含めてラクロブルの私兵が冒険者として活動するようになればラクロブルもギルドも得をするはずだとリファロは考えていた。


 そして最初に具体的な金額を伝えた事でラクロブルはリファロの話に興味を持った様子で、貴族に上下関係抜きで人と話せる人間が一人ぐらいはいないのだろうかと考えながらリファロはラクロブルに話しかけた。


「さっきも言いましたけど今日僕がここに来たのはあなたに気を遣っての事です。あなたの兵士がギルドに参加するかどうかは正直大きいですけど、別に三百人がくびになるのを待ってから兵士のみなさんに直接声をかけてもよかったわけですから」


 リファロの言う通り、ラクロブルは部下に命じて私兵三百人程の解雇の準備を進めており、まだ私兵たち本人すら知らない解雇計画に言及されて言葉を失っていたラクロブルを前にリファロは話を続けた。


「脅しに聞こえるかも知れませんけどこれから先、ギルドが本格的に活動を始めたらあなたの影響力はどんどん小さくなっていきます。でも冒険者ギルドに私兵を参加させて森も安く提供すれば一応は面目も立つんじゃないですか?」


「……兵士を派遣して兵士たちの収入の一部を私が受け取るという形になるのか?」

「はい」

「少し待て」


 多少上から目線である自覚はあったが今回のリファロのラクロブルへの提案は本当に善意によるものだった。


 しかし自国の軍隊をアルベール魔王国から追い返した上にその後もアッキム王国内での影響力を拡大し続けている敵が単純にうまい話を持ってくるはずが無いとラクロブルは考え、リファロが手渡してきた書類に目を通し始めた。


 リファロが用意した案では冒険者ギルドに登録したラクロブルの私兵は毎月定められた量の仕事を終える事を条件に今の兵士としての給料の七割と冒険者としての収入の八割を手にする事ができた。


 私兵が冒険者として得た収入の二割がラクロブルの取り分で私兵に払う給料まで抑える事ができるリファロの案は魅力的に思えたが、だからこそラクロブルの警戒心は強くなった。


「……話がうま過ぎる。何が狙いだ?」


 こちらは何もしていないにも関わらず疑心暗鬼に陥っているラクロブルを前にリファロはため息をつきたくなったが、ここでラクロブルを怒らせても意味が無いと考えて何とか我慢した。


「狙いって言うとあれですけどしたい事は、……そうですね。自分が関わった人にはできるだけ幸せになって欲しいと思ってます」


 全くからかう様子も見せずにこう言い放ったリファロを前にラクロブルは何も言い返せなかったが、ラクロブルが自分の言葉に納得したわけではない事を理解していたリファロはラクロブル用の理由を口にした。


「お飾りの領主が潰れて面倒事が増えても困るから適当に仕事を用意してあげた。……これなら納得してもらえますか?」

「……いいだろう。お前の話を飲んでやる」


 この期に及んで上から目線のラクロブルを前にどうして一緒にがんばっていきましょうで納得できないのかと不思議に思ったがリファロは何も言わず、後は細かい部分を私兵たちの代表とラクロブルの部下の文官相手に詰めていくだけだなと考えていた。


 そして私兵たちの代表がラクロブルの屋敷に来るまで二時間程かかるとの事だったのでリファロは一度自分の屋敷に戻る事にし、応接室を後にしながらメタフィロで行われている古代兵器の調査について考えていた。


 リファロは自分への反逆を諦めていないアッキム王国の将軍たちが部下たちと共に古代兵器の鋼の巨人の分析を進めている事を把握していたが、アッキム王国の技術者たちが分析を終えたとしても古代兵器を起動させる事は不可能なので放置していた。


 メタフィロの古代兵器が動かない理由はエネルギー切れで古代兵器を動かすためには膨大な量の魔力か電気が必要だった。


 この事は古代兵器について書かれた資料を管理している天使たちの中でも極一部しか知らず、リファロは『回答者』でこの事と共にエネルギーという聞き慣れない単語も知った。


 古代兵器が動かない理由が何らかの故障だと考えている内はアッキム王国の技術者たちは決して古代兵器を動かせず、仮に古代兵器が動かない理由を知ったとしてもこの世界ではリファロか竜しか用意できない膨大な量の魔力をアッキム王国の人間が用意できるわけも無かった。


 そして魔力の代わりに膨大な量の電気を用意するためには別の古代の技術が必要になるのでリファロはアッキム王国の将軍たちの動きを放置しており、古代兵器が埋まっている地下を巡回している鋼の兵士に使われている技術の分析についてはアッキム王国の技術者たちを応援すらしていた。


 あの見た事も無い光の魔法や金属の歯車は応用のし甲斐がありそうだとリファロは素人ながらに考えており、どこからともなく無尽蔵に現れるらしい鋼の兵士たちとの戦闘で今も地下の探索を行っている将軍や技術者たちが怪我をしないように祈りながらラクロブルの屋敷を後にした。


 一方リファロがラクロブルの屋敷でラクロブルの私兵の代表や部下の文官との話し合いを行っていた頃、メタフィロの地下ではアッキム王国の将軍、ユラギとミキシュが鋼の兵士三体を相手に戦闘を繰り広げていた。


「邪魔だ!俺たちが呼ぶまでは全力で後ろに逃げろ!」


 メタフィロの鋼の巨人の調査の場となる地下には整備された通路などは無く、鋼の巨人の周囲を適当に掘り広げて作られた足場があるだけの人がすれ違うだけでも苦労する狭い現場での活動を考えてユラギとミキシュは部下の兵士を数人しか連れて来ていなかった。


 そして地下の探索を始めて八日目となる今日、ユラギたちが連れて来た部下の内、兵士は全て死ぬか重傷を負い地上で待機していたので、戦闘では足手まといにしかならない技術者たちに全力での撤退を命じながらユラギは中央の鋼の兵士に火球を叩き込んだ。


 ユラギたちと鋼の兵士たちの戦闘は今日が三回目で鋼の兵士は身長二メートル程の人型で両腕が大砲になっている兵士と両腕が剣になっている兵士の二通りをこれまでアッキム王国では確認していた。


 これまでの報告では一回に現れる鋼の兵士は常に一体だけで、ユラギたちも一回目の戦闘では魔力の砲弾を絶え間無く撃ち続けてくる鋼の兵士一体を難無く倒す事ができた。


 しかし一回目の戦闘から二日後に起きた二回目の戦闘では同時に三体の鋼の兵士が現れ、ユラギたちは何とか勝つ事はできたが兵士たち全員が探索を続けられなくなった。


 そして今回ユラギとミキシュは兵士たちがいない状況で鋼の兵士三体と戦う事になったが、二人共現状を面倒だとは考えても危険だとまでは考えていなかった。


 鋼の兵士は回避行動を一切取らないのでユラギの撃ち出した火球を胴体にまともに受けた鋼の兵士は後ろに大きく吹き飛んだが、残る二体の鋼の兵士は後方に吹き飛ばされた仲間を気にもせずにミキシュに攻撃を仕掛けようとした。


 ミキシュに襲い掛かろうとしていた鋼の兵士は腕が大砲の物と剣の物が一体ずつで、大砲の腕を持つ鋼の兵士を見てミキシュは警戒心を強めた。


 鋼の兵士の大砲から撃ち出される薄緑色の光弾が一撃で兵士の顔から胸にかけて吹き飛ばした事を知っていたからで、遠距離攻撃の応酬になると負けかねないと考えたミキシュは自分に迫る鋼の騎士二体に突風を叩きつけた。


 本気を出せば自分を覆い隠す大きさの竜巻を創り出せるミキシュが全力で起こした突風は人間が受ければ一瞬で骨が折れて内臓が潰れる威力だったが、鋼の兵士は二体共近くで露わになっていた鋼の巨人の表面に叩きつけられても壊れはせず手足を動かし続けていた。


 そしてミキシュが鋼の兵士二体を倒し切れない内に最初にユラギが火球で吹き飛ばした鋼の兵士も立ち上がり、一見ユラギたちに勝ち目は無いように見えた。


 しかし事前に受けていた報告とこれまでの二回の実戦でユラギたちは守勢にさえ回らなければ鋼の兵士は何十体いようと自分たちの敵ではないと確信しており、二人は予定通り鋼の兵士三体をまとめて溶かす事にした。


 鋼の兵士二体の動きを封じていた突風を止めた次の瞬間、ミキシュは自分の前方に竜巻を創り出し、ミキシュが創り出した竜巻は鋼の兵士三体を巻き込む形で瞬く間に大きくなっていった。


 周囲の足場を作るために使われていた資材と共に鋼の兵士三体は成す術も無く竜巻に巻き上げられ、頭上の土が崩れる中、鋼の兵士の内の一体が苦し紛れに撃ち出し続ける光弾に冷や汗をかきながらユラギはミキシュが創り出した竜巻に炎を撃ち出した。


 ユラギは本気を出せば直径五メートル程の火球を創り出す事ができたが、この際の炎の威力は並の火属性の魔法の使い手が創り出す炎の威力と大差無く鉄や鋼を溶かす事などとてもできなかった。


 しかしユラギが全力で威力を高めた際の炎は大きさこそ手のひらに収まる程度まで縮むが威力は鉄を一瞬で溶かす程になり、ミキシュの竜巻と合わさり威力を維持したまま燃え広がったユラギの炎を受けて鋼の兵士たちの体は二秒と持たずに溶け始めた。


 数日前の戦闘でもこの方法で鋼の兵士たちを倒したのでユラギとミキシュはこのまま炎の竜巻を維持できれば勝てると考えていたが、今いる場所が数日前より地下深い場所である事が不安要素だった。


 鋼の兵士たちを溶かし切る前に熱か酸欠で倒されたら自分たちはそのまま殺されるだろうなと考えながらユラギとミキシュは魔法の維持を続け、炎の竜巻の中から聞こえる音が小さくなっていく事に安堵しながらユラギはリファロなら一人でこの鋼の兵士を余裕で破壊できるのだろうなと考えていた。


 この程度ではリファロに通用しない、この問題はリファロのあの能力ならすぐに解決できるなどユラギは事ある毎にリファロの事を思い浮かべるようになっており、他のアッキム王国の兵士たちも同様のはずだとユラギは確信していた。


 そして三十秒程かけて鋼の兵士を溶かし切った後、ミキシュはユラギにこれ以上の調査を諦めるように進言した。


「……そろそろ限界でしょ?ここより深い場所で今の技使ったらまじで私たち倒れるわよ?」


 息が荒くなり汗も止まらない状態なのはユラギもミキシュと同様だったが、ここで諦めては自分の未来は無いと考えてユラギはミキシュを説得した。


「お前が警戒するのも分かる。一体だけならともかく立て続けに三体もあの兵士が現れたわけだからな。でも考えてみろ。これまでの調査の間は一体ずつしか出てこなかったあいつらがいきなり三体現れるようになったんだ。あの兵士を作り出してる何かに近づいてる証拠だと思わないか?」


 初遭遇からしばらくは苦戦したが鋼の兵士は予め準備をしておけば一体だけなら通常の兵士でも数十人がかりで倒せる相手で、鎖で動きを封じて鉄製の鈍器で何百回と叩くという方法でアッキム王国は既に百体以上の鋼の兵士を破壊・回収していた。


 残念ながら鋼の兵士を修理して利用する事はできなかったが回収された鋼の兵士を調査した結果は魔導装甲などに反映さえ、この調査の過程で鋼の兵士は古代に作られた物ではなく現代に作られた物という考えがアッキム王国では主流になっていた。


 鋼の兵士のいずれにも錆一つ無かったからで、メインギオの言う通り今更鋼の巨人を動かす方法が見つかるとはユラギも思っていなかったが、鋼の兵士を今も作り続けている何かがあるならそれだけでも回収したいと考えていた。


「あいつらは動きは遅いからもしやばい事になっても逃げるだけならお前の魔法でどうにでもなる。あいつらが五体に増えたら俺ももう諦める。……もしかしたら後一時間潜っただけで何か見つかるかも知れない。もちろん何の保証も無いがそれは最初からだろ?」


「そこまで言うなら……。やばいと思ったらまじですぐ撤退するわよ?」


 古代の文献でも道具でも何でもいいのでリファロに好条件で降るための材料が欲しいとユラギが考えている事など知る由も無く、ミキシュは鋼の兵士が四体以上現れた場合の技術者たちの逃がし方を考えながら後ろに逃げた技術者たちのもとに向かった。


 そして技術者たちのもとに向かうミキシュを追おうとしたユラギは先程の自分たちの魔法を受けた鋼の巨人の一部がほとんど溶けていない事に気づき、質と量に優れた兵士をそれぞれ作り出した古代の技術に改めて驚きながらミキシュの後を追った。

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