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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
4章

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提案

「しばらくの間、怪我をする人が出るのは避けられないと思いますけど半年間クララス王国とゼーナマイン皇国から交代で冒険者の人が来て講習や魔獣を狩りに行く時のつき添いをしてくれるそうなのでその間に戦い方を覚えてもらうしかないですね」


「……教育して下さる方の手配までしていただいてこういった質問をするのは申し訳無いのですが、その方たちの給料や宿泊費はどこから出るのでしょうか?正直な話、国や領主が出してくれるとは思えないのですが……」


 融和派といっても構成員のほとんどは何の役職にも就いていない一般人でナインテルもフォーカも領主とは一年に一度顔を見るかどうか程度のつき合いしか無かったが、自分たちの住むクリヒビスの領主が国寄りの考えを持った人物である事は知っていた。


 このため融和派が迫害された際、領民をかばうどころか国のために率先して行動していた自分たちの領主、ラクロブルがアッキム王国と正面から対立したリファロが始める事業に金など出すはずが無いと二人は考えていた。


 そしてリファロもラクロブルの性格やこれまでの行いは知っていたのでナインテルの不安を聞いても慌てる事無く話を続けた。


「お金の心配はしないで下さい。三日以内にとりあえず金貨六百枚ぐらいは用意できるので」


 自分たちの年収の二十倍程の額をわずか三日で用意すると言われて最初ナインテルもフォーカも驚いたがすぐにリファロならこれぐらい容易かと納得しかけた。


 しかしリファロにとってどうかは分からないが自分たち一般市民にとって金貨六百枚は大金だとナインテルは考え、リファロを前に甘える事も思考放棄する事もしないように意識しようと自分に言い聞かせながら質問を重ねた。


「そのお金の出所を聞いてもいいでしょうか?もちろんリファロ様が犯罪を犯しているとは思っていませんが、もしリファロ様の個人的なお金なのでしたらさすがに申し訳無いので計画を一部遅らせる事も考える必要があると思います」


 今の融和派にリファロを疑える余裕など無い事はナインテルも承知していた。


 しかし何も返せない状況で大きな経済的支援をしてもらう申し訳無さと何らかの見返りを求められるのではというわずかな警戒からナインテルはリファロに資金の出所を尋ね、特に隠す事も無かったのでリファロはナインテルの質問に答えた。


「ギルドで受けつけてる仕事とかについてはこれに詳しく書いてあるんですけど、ギルドで受けつけてる仕事の一つに僕か天使のみなさんじゃないと受けられない怪我の治療があるんです」


 ギルドで受けている仕事についての説明が書かれた書類を指し示しながらリファロは話を続けた。


「この治療の仕事は一回で金貨三十枚をもらう事になっててちょっとした怪我ぐらいで頼む人はいないんですけど、僕じゃないと受けられない病気の治療は今申し込みが入ってるだけでも十七件あります。……後、これはここだけの話にして欲しいんですけどアッキム王国にも家族に重い病気の人がいて僕の方から売り込みに行けば治療の依頼をしてくる人が三人いるんです」


 アッキム王国を含む周辺国家でリファロの治療を必要としている人間はおそらく他にもいるだろうが、リファロは今回『回答者』で依頼人候補を探す際に『治癒』の料金を払える事を条件につけ加えた。


 無償で『治癒』を行っては全てのギルドの依頼に影響が出ると考えての判断で金貨三十枚という額は一般の家庭にとっては決して低い額ではなかった。


 このため今回の『回答者』による依頼者探しでは取りこぼす人間が出る事をリファロは理解していたが、そもそもこれまでも周辺国家全てで起こった犯罪の被害者を助けてきたわけではないと心の中で言い訳しながらナインテルたちとの話を続けた。


「そういうわけで当分の間のクリヒビスのギルドの運営資金とか来てくれる冒険者のみなさんの給料とかは僕が出します」


 こう言うとリファロはあらかじめ『回答者』で調べていた今は使われていない屋敷の位置とその所有者の名前を二人に伝えた。


 そして金は出すので二人のどちらかの名義で教官役の冒険者たちの住居となる屋敷を買って欲しいと頼んでからリファロは今回自分が冒険者ギルドクリヒビス支部に貸した金の返却についての話を始めた。


「……お金を出すって言っておいてからこう言うのも何ですけど今回のお金はあくまでも貸すだけです。予定では三年もあれば返し始められるようになって十年後には返し終わるはずです。でも不安でしょうから一応返済期限は二十年って事にしておきました」


 今回リファロが貸しつけた金についての借用書と今後一年間のギルドの運営・活動計画が書かれた紙をリファロは二人に渡し、返事は一週間は待つので他の融和派の構成員とも相談して欲しいと伝えた。


 一方リファロに断った後、リファロの差し出された書類に軽く目を通したナインテルとフォーカはリファロが用意した計画の細かさに驚いている様子だった。


「……リファロ様の強さは聞いていましたが頭もよろしいのですね。正直な話、何から始めればいいか分かっていない状況だったのでこれをいただけて助かりました」

「……まあ、『回答者』で楽しただけでそれ考えたの僕じゃないですけど」


『回答者』で情報面では圧倒的に有利にも関わらず最終的に力押しで解決する事が多い自分は馬鹿なのではないかと最近リファロは考えていたのでナインテルの賞賛に苦笑し、自分の苦笑を受けて戸惑う二人を前に話を進めた。


「予算とか人材育成はそんな感じで進めるとして人間の冒険者の他に魔族もクリヒビスで冒険者として働いてもらおうと思っています」


「……その魔族もクリヒビスに住むのでしょうか?」

「はい。とりあえずは三十人ぐらいを予定してて魔族のみなさんの住む場所はクリヒビスから少し離れた森の中に簡単なのを作るつもりです」


「ギルドへの参加はともかく森の利用まで認めてもらえるでしょうか?森のどこを使うおつもりは分かりませんが、この辺りの森は全て領主の土地で私たちは毎月使用料を払って入っています。……魔族の方々の住居を建てる許可まではさすがに無理なのでは……」


 アルベール魔王国との国境沿いという立地上、融和派の存在を抜きにしてもクリヒビスの住民の魔族への忌避感は薄かったので、住民から魔族の移住に関する不満が出る可能性は低いとナインテルもフォーカも考えていた。


 しかし森の持主の領主が素直にリファロに協力するか二人は不安に思い、リファロは領主を脅迫でもするつもりなのだろうかと考えていた二人にリファロは明日の予定を伝えた。


「明日ラクロブルさんに会うつもりで多分森の利用に関しては何とかなると思います」


 貴族であるラクロブルはリファロがアッキム王国に出した要求が原因で資産の三割を失っていたのでリファロに強い恨みを持っていた。


 しかし領地から兵士を全て引き上げられてアッキム王国から半ば見捨てられたラクロブルが自分に頼る事も視野に入れている事もリファロは知っており、実際明日の面談もすぐに決まったのでラクロブルとの交渉はそこまで難しくないだろうと考えていた。


「……冒険者ギルドに参加してくれる人がかなりいるのは嬉しいですけど、今まで兵士のみなさんがやっててくれた魔獣退治を自分でやるかギルドにお金払ってやってもらわないといけなくなって不満に思ってる人もそれなりにいますよね?」


「……それはそうですね」


『回答者』を持つリファロに嘘をついてもしかたがなかったのでナインテルは正直にリファロの質問を肯定し、回答後も気まずそうな表情を浮かべていたナインテルにリファロは安心するように伝えた。


「一応それについても考えてはいます。完全に納得はしてもらえないでしょうけど、兵士のみなさんがいなくなって魔獣狩りを国がしなくなったんですからその分の税金は来年から安くしてもらいますし、今年の分も一部は返してもらってきます」

「……それで兵士たちがまた戻ってきたら面倒な事になりませんか?」


 当然の様に国相手に自分の要求を通すと口にしたリファロを前にフォーカは隣のナインテル共々絶句したが一応は思いついた不安を口にし、予想通りのフォーカの不安にリファロはすぐに返事を返した。


「兵士の引き上げを決めたウェルマスさんたちにも面子があるのでそもそも兵士が戻ってくる可能性が無いと僕は思っていますけど、もし戻ってきてもその場合は冒険者の仕事から魔獣狩りが無くなるだけです」


『回答者』でクリヒビスに兵士が再び派遣される可能性がほぼ無い事を確認したと前置きをした後、リファロは二人に冒険者の仕事が魔獣狩りだけではない事を伝え、街の周辺の魔獣討伐しか行わない兵士たちに代わり自分たちで魔獣を討伐すれば利益を増やせる事も伝えた。


 冒険者としての収入に加えて魔獣の肉や皮の販売、活動範囲の広がりによる薬草や果実の採取量増加など様々な利益を上げた後、リファロはできるだけの事はするがどうしても命の危険は避けられないとつけ加えて今日のギルドについての説明を終えた。


「最悪の場合、お金さえ払ってもらえれば魔獣狩りは全部僕がやっても構いません。……正直な話、収入という点ではかなりいい話だとは思うんですけどこればっかりはみなさんの決める事ですから」


 今後クリヒビスの住民が冒険者として活動するようになれば負傷者や死者が出る日は必ず来るので、後になってから文句を言う事だけは無いように冒険者志願者にはこの点を念押しして欲しいとリファロは二人に強く頼んだ。


 クリヒビスとニードベルとの交易などについては一度ラクロブルと話す必要があったが、ラクロブルとの話し合い後に二つの街でやり取りされる予定の物品やその値段が書かれた一覧表をリファロは新たに二人に渡した。


 そしてこれだけの利益を得られるなら融和派の構成員はもちろん融和派に所属していない知人の説得も簡単に行えそうだという二人の意見を聞いてリファロは満足し、その後クリヒビスとニードベル間の転移装置での移動についての取り決めなどについて二人に伝えた。


 三人の話し合いは二時間程で終わり次の話し合いは一週間後という事に決まったのだが、話し合いが終わった後、ナインテルとフォーカは視線を交わし、しばらく黙り込んだ二人を前にしてリファロは気まずそうな表情で口を開いた。


「……あー、一応言っておきます。僕が今から言う事、ナインテルさんたちの考えを『回答者』で調べたわけじゃなくてクリヒビスのみなさんの噂話とかを少し前に調べただけです」


 このリファロの発言と表情でナインテルとフォーカは自分たちが言いよどんでいた内容がリファロに知られていると悟り、このまま二人が口を開くのを待っていてもよかったのだが気まずかったのでリファロはすぐに話を進めた。


「……戦争前にクリヒビスのみなさんと魔族のみなさんが色々交流してた事は知ってます。何と言うか、……お互い同意の上でならギルド用に建てる建物での交流だけ避けてもらえれば以前の様に交流してもらう分には何も言わないつもりです」


 事実上人間としか子どもを作れないラミアやハーピィにとって人間相手の様々な交流の窓口となっていたクリヒビスとの交流の断絶は死活問題で、リファロが領主になって以降、ニードベルの領民からもクリヒビスに行きたいという要望が多く上がっていた。


 クリヒビスの住民の間にも需要があるようだったので何も言わず前の様にすればいいというのがリファロの本音だったが、アッキム王国の人間が魔族をさらうために戦争まで起こした以上、自分の許可が欲しいというクリヒビスの住民の気持ちを理解できたので面倒ではあったが今日こうして許可を出した。


 そして最後に徒労感を覚えながらリファロは二人を見送り、その後しばらくして自分がクリヒビスの住民と魔族の交流再開の許可を出した事を大々的に領民に知らせる必要がある事に気づき深いため息をついた。

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