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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
3章

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報告

 リファロとディルシュナの婚約及びオムニプルのニードベルへの移住が決まった日の夜、リファロはマナリュース、エプランテ、レオエフェールの三人と夕食を取っていた。


 リファロとマナリュースたちはそれぞれ忙しかったので朝食と昼食を共にする事はほとんど無かったが報告の場を兼ねて夕食は極力共に取る事にしており、リファロの婚約の話を聞きエプランテは驚きの表情をリファロに向けた。


「……お前、女に興味あったんだな」

「……それはまあ、人並みには」


 どこか呆れも含む表情をエプランテに向けられてリファロは自分の事を何だと思っていたのかと聞き返したくなったが、突っ込んだ返しをされた場合うまく返す自信が無かったのであいまいな返事を返すだけに留めた。


「……まあ、ディルシュナさんがここに来るのは数ヶ月先の事ですからその時にはまた話し合うとして、オムニプルさんは三日後にここに引っ越してきて眷属の他に使用人も何人か連れてくるみたいなんでこの後アクレナさんたちと話を、……マナリュースさん?」


 先程魔導通信機で細かい打ち合わせをした際、オムニプルが連れて来る魔族はオムニプルの眷属以外は今リファロに仕えている使用人の部下として扱って構わないとリファロはミルヒガナから言われていた。


 このため最初は使用人たちの束ね役のラミア、アクレナも戸惑うかも知れないが使用人同士で揉める可能性はほぼ無いだろうとリファロは考えていた。


 しかし自分の報告を聞いたマナリュースの様子がおかしい事に気づきリファロはマナリュースに話しかけ、リファロに声をかけられてすぐにマナリュースは慌てた様子でリファロに視線を向けた。


「すみません!いきなりの事だったので驚いてしまって!……ご婚約おめでとうございます」

「はい。今すぐどうなるってわけじゃないですけど、名前だけとはいえ領主じゃなくて王様になるのでその辺りもアクレナさんたちと話し合いたいと思います」


 リファロも上流階級に詳しいわけではなかったが仕える相手が領主と国王では使用人たちの仕事の内容も変わるのではと考え、負担が多過ぎるようなら今の使用人たちの転職もリファロは受け入れるつもりだった。


「調子に乗ってた連中を痛めつけてきたついでに王女と婚約して金貨三千枚近くの仕事まで取ってくるなんて国王様はさすがだな」

「……からかわないで下さい」


 リファロは冒険者ギルドの普及や安定した運営を実現したいとは考えていたがこのためなら何でもするとまでは思っておらず、自分に好意を向けてくれているディルシュナとの婚約までならともかく国王就任については今でも抵抗があった。


 しかしドランド魔王国の一件もあった以上、一領主という肩書きでは権威が足りないと考えてリファロはミルヒガナの提案を受け入れ、仮にも国王になるからには領民改め国民のために全力を尽くすつもりだった。


「ニードベルが国になったとしても事務仕事とかは『回答者』でどうにでもなるのでみなさんにはこれまでと同じ様に力を貸してもらえればと思っています。どうかよろしくお願いします」


 こう言ってマナリュースたちに頭を下げたリファロが頭を上げるとエプランテはまだからかう様な笑みを浮かべていた。


「まあ、仕事自体は金さえもらえばやってやる。……それはそうとして一ついいか?」

「はい。何ですか?」


「今回国を建てた連中相手に暴れた時、どうして私を呼ばなかった?天使と違って私たちは人間や魔族からの評判なんて気にしないぞ?」


 リファロが自分たち竜を含む全種族の能力を再現できる事は当然エプランテも知っていたが、格下とはいえ二千人程の相手に殺さずに制裁を加えるのはかなり手間だったはずだと考えた。


 そして金さえもらえれば相手を殺さずに戦闘を終わらせる程度の気遣いはしてみせるというエプランテの発言を受けてリファロは苦笑した。


「はい。エプランテさんがいればもう少し楽に戦えたと思います。……でもエプランテさんと一緒に戦うと僕が怖がってもらえないと思って。アッキム王国の人たち、特に兵士は僕の事怖がってるみたいですけど、アルベール魔王国のみなさんは僕の事まだ完全には怖がってないみたいで今回こんな事になりました。で、何かある度に暴れるわけにもいかないので今回は僕を怖がってもらうために一人でかなり暴れてみました」


「ああ、そういう事か。でもそういう事ならこの国で暴れるだけだと意味無いと思うぞ?」


 各国とギルドの幹部は自国の国民や自分たちの関係者がリファロの怒りを買う事を避けるためにリファロの能力と功績を積極的に周知していた。


 このためリファロの強さを疑う者は国民も含めて周辺国家にはほぼいなかったが、一方で『回答者』を持ちながら各国の盗賊団などに対応できていないリファロがどこまで各国で起きている犯罪に対処するつもりかを疑う声も周辺国家の国民の間からは挙がっていた。


 こういった声はリファロも当然『回答者』で把握していた。


 しかし盗賊団は生活に困った人間が集まり常に結成され続けており、盗賊団が結成される度にリファロは当該国の幹部に魔導通信機で伝えていたが大きな街から離れた場所で活動している盗賊団にまではどの国も手が回らないのが現状だった。


 こうした現状で自分の評価が下がる事をリファロは理不尽に感じていたが人手や予算の不足を理由にされるとリファロも各国に文句は言えず、自分が各国に何かを頼むと命令になりかねないと感じていた事もリファロが各国に強く出られない理由だった。


「……強さはともかくやる気とか性格を疑われるのは困りますね」


 この世界に来た直後ならともかく現時点で自分の強さを疑い行動するような相手はもう何をしても無駄だろうとリファロは考えていたが、自分がやる気さえ示せば足を踏み外さずに済む者もいるはずだとも考えていた。


「とりあえず今いる盗賊団は全部潰す方向でいきます」


 ギルドの権限拡大や新しい冒険者の確保、及びこれらにかかる経費の確保の手順をリファロは『回答者』で既に確認済みで、数年がかりのこの計画を達成できれば盗賊団の発生数自体を抑えられるはずだとこれまでの『回答者』の実績から確信していた。


 しかし準備が終わるまで各国の被害者に我慢してもらうわけにもいかなかったので、リファロはエプランテの助けも借りて今確認されている盗賊団を全て潰す事にした。


「……僕が盗賊団の位置や構成員の名前を知っている事を知らせるために全部の盗賊団に自首を勧めます。一日で全部の場所には行けないので二日かけて自首を勧めて三日以内に自首しなかったり新しく犯罪を犯した盗賊団の構成員たちは全員痛めつけてから衛兵に突き出すつもりです。力を貸してもらえますか?」


「……いいのか、国王様?またお前をなめる馬鹿が出るかも知れないぞ?」


「さっきも言いましたけど何かある度に暴れるわけにもいきませんから僕の強さより『回答者』での監視のすごさを広めた方がいいと思います。……今回は僕一人じゃさすがに手が回らなくて、担当してもらうつもりのゼーナマイン皇国には僕から話しますけど現場までの移動は自力で頼む事になります。大丈夫ですか?」


「……何ヶ所回らないといけないんだ?」

「ゼーナマイン皇国で相手をして欲しい盗賊団は三つです。ゼーナマイン皇国だけでも数日がかりの仕事になると思います」


 ゼーナマイン皇国には街から離れた場所で十人以上で活動している盗賊団が五つあり、エプランテに相手を頼んだ三つの盗賊団からかなり離れた場所で活動していた二つの盗賊団はリファロが自分で対応するつもりだった。


「小さな村を拠点にしてる盗賊団もありますけどエプランテさんが戦う時は村人は全員避難させるので目の前の人間は全員盗賊だと思ってもらって構いません」


 食事の席という事を除いても我ながら物騒な事を話しているなと考えながらリファロがマナリュースとレオエフェールに視線を向けると二人は怖がる様子も無くまじめにリファロとエプランテの話を聞いていた。


「……避難か。お前の得体の知れない転移魔法で逃がすわけだな。本当に現場に着いたらいる人間全員叩きのめすからな?……脅すためにも半分ぐらいは殺しておいた方がよくないか?」


 リファロと行動を共にする事が多いマナリュースたち三人は『裏世界』が転移魔法の応用だというリファロの説明に時期や程度の差こそあれ違和感を覚えており、三人だけで話す時にこの違和感を話題にする事もあった。


 しかしリファロが『創造者』を差し置いて切り札と断言する謎の転移魔法について深く詮索するつもりはマナリュースたちには無く、今回もエプランテは最も重要な点、リファロの怒りを買わないかだけに注意しながら話をしていた。


「盗賊たちを相手にする時はこの仕事だけに集中するつもりですから大丈夫です。相手を殺すのは、……今回は『回答者』の能力を宣伝するのが目的ですから殺す必要は無いと思いますけど動かなくなった相手に止めを刺したりしなければ最悪相手を殺してしまっても何も言いません」


 所属している盗賊団により差こそあったが半年から四年程に渡り窃盗や殺人を行っていた相手を積極的に助ける程リファロもお人好しではなく、エプランテの物騒な発言を強くはたしなめなかった。


「……カリオルクァにも三つ盗賊団があるんですけどこれは天使のみなさんに頼めば対処してもらえるみたいです」


 盗賊団の一斉討伐は今決まったばかりだったのでリファロは当然どの国にも要請も根回しもしていなかった。


 しかしカリオルクァ神聖国、より正確に言うならレウグ聖峰に住む天使たちから盗賊団の討伐のための入国及び活動の許可を取ろうとした場合、リファロに国内で力を行使されるよりは自分たちが動いた方がましと考えた天使たち自らが盗賊団の討伐に赴く可能性が高い事をリファロは『回答者』で知ったばかりだった。


 天使たちが人間の犯罪者を捕縛あるいは殺害するためにレウグ聖峰を出る事は本来ならあり得ず、リファロも最初は気を遣い自分が行くかレオエフェールに頼もうと思っていたので『回答者』が出したこの結果に驚いた。


 そして自分はともかくレオエフェールまで他の天使たちから避けられている事をリファロは気の毒に思ったが、レオエフェールと他の天使の関係についてはレオエフェール自身が特に気にしていない事も知っていたのでこの場で余計な事は言わなかった。


「……一応自首を勧めますけどほとんどの盗賊団が僕の忠告聞かないで逃げ出すみたいなんで逃げる方向によってはその国の兵士たちに待ち構えてもらうつもりです」


 今回リファロは盗賊団たちと接触する前に各国及び各国のギルドの幹部に自分の行動について断りを入れるつもりだったが、天使たち以外に盗賊団の相手を任せるつもりは無かった。


 人間かエルフしかいない各国の衛兵たちは陸路で盗賊団のもとに向かうしか無く、最短でも十五日はかかる彼らの到着を待っていては盗賊団による新たな被害が出る可能性が高かったからだ。


 レウグ聖峰の天使たちが自分たちの出撃をためらい国を通して冒険者に盗賊団を対処させようとしていたらリファロは無理矢理にでも自分が出るつもりで、空路を使い数日で盗賊団のもとに向かえる天使たちが自ら出る可能性が高かったので今回カリオルクァ神聖国での活動を見送った。


 そして手柄を自分とエプランテだけで挙げて各国の兵士に妬まれても困るので可能なら兵士たちが関わる形で盗賊団を確保したいともリファロは考えていたのだが、盗賊団もわざわざ各国の正規の兵士たちが配置されている場所に逃げ込んだりはしないので難しいだろうとも考えていた。


「明日から僕とエプランテさんは三日ぐらいは忙しくなると思いますけどハーピィのみなさんでの宅配の準備に関してはお願いします」


「はい。リファロ様のおかげでリキュアナとその近辺の住民たちは積極的に協力してくれているので、後二週間以内にアルベール魔王国の北半分全てで荷物の宅配が可能になる予定です」


 マナリュースの強さはハーピィ内ですら精々中の上といったところだったので、レオエフェールとエプランテが来る前に既にマナリュースは強さでリファロの役に立つ事を諦めていた。


 そしてリファロとディルシュナが婚約したと聞きマナリュースはリファロへの想いも諦める事にしたがリファロへの恩を返したいという気持ちは変わらず、未練こそあったが仕事の話を続けた。


「ゼーナマイン皇国とも接しているのでトービルとゲルギーツも宅配地域に入れるつもりで準備を進めてたんですけど、……どうしましょうか?」


「……ああ、その二つの街はしばらくはそれどころじゃないと思いますし、危険も無いとは言えないのでしばらくは何もしないで下さい。少しひまなハーピィが出ちゃいますけど初めての仕事するんですから少しぐらいは余裕持たせてた方がいいと思いますし」


 その後ハーピィによる荷物の宅配開始から二ヶ月程経ち余裕があるようならアルベール魔王国の東の流通網の構築にも力を入れて欲しいとマナリュースに伝えてからリファロはレオエフェールに話しかけた。


「何の相談も無く色々話を進めてしまってすみませんでした。王様になったからって今までやってきた人助けを止めるつもりはありませんし、王様の地位が邪魔になるようならいつでも捨てるつもりです。だからこれからもよろしくお願いします」


「はい。こちらこそよろしくお願いします。それはそうと私にも盗賊団退治を手伝わせてもらえませんか?」

「えっ?……だって人間と戦う事になるんですよ?」


 レウグ聖峰の天使たちの閉鎖的な考えを嫌い他の場所で大勢の役に立ちたいと考えているレオエフェールの考えをリファロはとても尊いものだと考えていた。


 このため悪人の中でも極めつけの盗賊の相手などレオエフェールにさせるわけにはいかないとリファロは考えていたのだがレオエフェールの考えは違った。


「これまで一緒に働いてきた魔族の方々には大変親切にしていただきましたし、リファロ様のお気遣いにもとても感謝しています。ですが悪人の相手をリファロ様たちに押しつけて人助けを続けるのはとても歪だとも思うのです。エプランテ様程速くは飛べませんが私も空を飛べます。少しでもリファロ様の力になりたいのです。どうかお願いします」


 こう言うと頭まで下げてきたレオエフェールの頼みをリファロは迷う事無く聞き入れた。


「レオエフェールさんが力を貸してくれるなら助かります。じゃあ、アッキム王国の二ヶ所をお願いします」


 せめて現在ギルド支部が無く天使と会う可能性が無いアッキム王国での仕事を任せようと考えながらリファロはレオエフェールに頭を下げ返し、レオエフェールとエプランテと盗賊団討伐について本格的に話す前にアクレナたちと話すために一度マナリュースと共に食堂を後にした。

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