通達終了
ヒクリバクとバレームクに続いてローザンたちが創り出した炎のラミアまでたやすくリファロに負けた事を受けて独立集会に集まっていた魔族たちは一斉に逃げ出したが、リファロが大量の水で作り出した壁に進路を阻まれて魔族たちは一斉に足を止めた。
リファロが作り出した水の壁は使われている水こそ多かったが広範囲に展開されていたのでとても薄く、壁の向こうが見えていたので会場から逃げ出そうとしていた魔族たちもこの事は分かっていた。
しかし突破が簡単そうに見えてもどこから水の鞭が出てくるか分からない壁に突撃する勇気を持った者は今回この場にはおらず、他の誰かが現状を打破してくれる事を願い周囲に視線を向けていた魔族たちの耳に頭上からリファロの声が届いた。
「逃がしませんよ?そもそも僕その気になればいつでも転移魔法使えますし」
つい先程までローザンたちと戦っていたはずのリファロにいつの間にか先回りされていた事を受けて魔族たちのほとんどが絶望から黙り込んだが、リファロの近くにいた魔族たちはこのまま戦闘になったら真っ先に被害になるのは自分だと考えて何とか勇気を奮い立たせた。
「俺たちみたいな一般市民が領主が独立するって言って逆らえるわけないじゃないか!」
「そうだ!リキュアナで暴れるっていうのも少し脅すぐらいだって聞いてたんだ!」
オーガとリザードマンが口々に自己弁護の言葉を口にした直後、彼らの発言内容を『回答者』で予測していたリファロは表情を変えないように努めながら即座に口を開いた。
「森に引きこもってる年寄りなんていくら間引いても構わないぞ。もし必要になったらセスの森から連れてくればいい」
この発言と共にリファロに視線を向けられてオーガは黙り込み、その後リファロはリザードマンに視線を向けた。
「人間の血が混じった鳥や蛇がいくら死んでも俺たちは全然困らない。……これ、二日前にあなたが家で息子さんたちに言った事ですよね?……ヘイルスさん見送る時に何て言ったかも言いましょうか?」
今回リファロがオーガに向けた発言はリキュアナに向かう息子にオーガが伝えたもので、続いてリファロに視線を向けられたリザードマンも家族や知人以外の前では避けていたがハーピィやラミアに対して差別的な発言を普段から行っていた。
このためヒクリバクたち領主だけならともかく自分たちの様な一領民の言動までリファロが把握している事を知らされてオーガもリザードマンも黙り込んだ。
しかしハーピィはともかくラミアにまで差別的な発言をしていたとリファロに指摘されたリザードマンへの周囲の視線は冷たくなったので、リザードマンは周囲からの視線を振り払う様に声を荒げながらリファロに反論した。
「こいつの言ってる事は全部でたらめだ!俺はラミアの事は同じ仲間だと思ってる!」
この場に少数ながらハーピィがいる時点でこのリザードマンの弁明は正解には程遠かったが、リファロはこの事は指摘せずに近くにいた魔族二十人程の最近の言動や秘密を次々に暴露していった。
自分を含む数人しか知らないはずの秘密を指摘された魔族たちは全員が驚愕や恐怖の表情を浮かべ、彼らの動揺が周囲に伝わってからリファロはリザードマンに話しかけた。
「あなたの言った通り、僕が『回答者』で知った事には何の証拠もありません。でも実際に秘密を知られていたら信じるも何もないでしょう?信頼って理屈じゃありませんから」
例えこの場にいる魔族全員の秘密を指摘して回ったところで『回答者』への信頼性には繋がらない事はリファロにも分かっていた。
しかし『回答者』による指摘を受けた魔族は身をもって『回答者』の正確さを知ったはずで、今は敵対しているとはいえ将来的には高確率でアルベール魔王国に併呑される可能性が高いアマロロの魔族に実際に『回答者』の対象になってもらう事は無駄ではないともリファロは考えていた。
ちなみに今回リファロが秘密を指摘した魔族の中にはシービー同様アマロロの魔族の中では比較的穏健な魔族二人の内一人が含まれており、リファロは残りの一人ともこの後の制裁の最中に接触するつもりだった。
「無駄なやり取りはこれぐらいにしときましょう。……今日この場所に集まったみなさんが人間や自分たち以外の魔族をどう思ってるかはよく知ってます。僕はこの世界の人全員と仲良くしたいと思っててこれはみなさんともです。でも、さすがに今日の件は謝って済む限度超えてるので今後のために、……今日はちゃんと怖がってから帰って下さい」
こう言ってリファロが水の壁を解除した直後、魔族たちの左右にそれぞれ二千体ずつの天使が現れ、背中から翼を生やして武器を持った軍勢に突然挟まれる形になり魔族たちは動揺した。
「何だ、あれ?」
「竜か?」
「アッキムとかいう国の新兵器か?」
アルベール魔王国の魔族の中には天使の姿形どころか存在すら知らない者が多かったので天使の出現に魔族たちは激しく動揺し、浮足立つ彼らにとどめを刺すべくリファロは自分の近くに更に二千体の天使を召還すると攻撃の指示を出した。
「なっ、おい、ふざけるな!逃げないで戦え!」
「くそっ、どけ!邪魔だ!」
リファロが召還した天使たちは魔族を完全には包囲していなかったので後方にいた魔族たちは一斉に逃げ出し、自分たちを見捨てて逃げ出そうとした魔族を見て天使の軍勢と直接接していた魔族たちは怒りの声をあげた。
しかし天使の軍勢と戦うしかない位置にいた魔族たちも半分以上が可能なら逃げようと考えており、組織だった戦闘など望むべくもなかった魔族たちに天使の軍勢が襲い掛かった。
「ふん。なめるなよ!こんなちび共、全員吹き飛ばしてやる!」
突然自分たちの三倍程の数の敵が現れて独立集会に集まっていた魔族たちの多くが驚いたが、彼らのほとんどがオーガだったので現れた敵の大きさが人間と同等だと気づきわずかながら落ち着きを取り戻した。
集会に集まっていた魔族たちの中には武器を持っていない者も多かったが好戦的な者が多いヒクリバクの部下は全員が剣や斧を携えて集会に参加しており、あの化け物に勝つのは無理でも人間やハーピィの近親種の数百人程度なら蹴散らしてみせると多くのオーガが考えていた。
今回リファロはスイリーシュの能力を三人分再現して天使の軍勢を召還したが、誰が召還しても召還された天使の強さは飛行能力を除けば一般人と大差無かった。
このため自分たちなら一方向の軍勢だけなら蹴散らしてこの場を逃げられるというオーガたちの考えはうぬぼれとまでは言えなかったが、これはリファロが何もしなければの話だった。
そしてリファロが自分のいる場所以外に向かうはずという都合のいい前提を基に戦おうとしていたオーガたちが天使の軍勢目掛けてそれぞれ武器を振るおうとした瞬間、前線にいた魔族たちは脚に痛みを感じて動きを止めてしまった。
前線の魔族たちが感じた痛みはリファロが地上の水で作り出した刃によるもので、『回答者』を眼代わりにしたとはいえ一度に広範囲を対象にした結果大雑把になった今回のリファロの攻撃は巨体を誇るオーガに致命傷を与える事はできなかった。
しかし突然の痛みに動きを止めてしまったオーガたちの腕に天使の持っていた剣や槍が突き刺さり、続いて手の指や腕を斬り落とされて悲鳴と共に武器を落とした多くのオーガたちに天使たちは数人がかりで襲い掛かった。
その後もリファロは天使の軍勢に打撃を与えそうなオーガやこの場から逃げ出そうとしている魔族たちを優先的に水の刃で狙い、数少ないハーピィは最初の攻撃で翼を傷つけられていたので地面に立つ限り回避困難な水の刃の支援を受けて天使の軍勢は次々に魔族を倒していった。
リファロと天使の軍勢の連携により攻撃開始から二分後には七百人以上の魔族が地面に倒れていたが、前線の魔族の動き、天使の軍勢の損耗率、ヒクリバクたちの現状の把握を一人で行っていたリファロに自分の事に気を遣う余裕は無かった。
このため水の刃も天使の武器も届かない地中を進んできたラミア二人の接近にリファロは体を締めつけられるまで気づかず、鉄の棒すらたやすく曲げる力を持つラミアの下半身に頭と腹を締めつけられたリファロにラミア二人が話しかけてきた。
「さっさとあの妙な人間たちを消しなさい!五秒以内に消さないと頭を、」
潰すと言いかけたラミア、ガナーシュが気づいた時にはリファロはガナーシュの下半身を右手で掴んでおり、リファロの腹を両腕ごと締めつけていたもう一人のラミア、ペルルはリファロが自分の束縛も物ともせずに右腕を自由にした事に驚きながらもリファロを絞め殺そうとした。
しかし殺すつもりでペルルが下半身に力を入れてもリファロの体にはあざすらつかず、二人のラミアに巻きつかれながらリファロは口を開いた。
「ここから下を引き千切ってもラミアって死なないんですよね?試してみていいですか?」
こう言ってリファロが右手に力を入れるとガナーシュは一瞬怯えた様な表情を浮かべたが、ここで敵を開放しても結局傷つけられるだけだと考えてリファロを開放しなかった。
今回魔族を誰一人殺すつもりが無かったリファロは天使たちに次の様な命令を出していた。
一、 魔族の腕と脚以外を攻撃してはいけない。
二、 最初は魔族の腕に攻撃を集中して魔族が武器を落とす、あるいは腕に十回以上攻撃したら攻撃を脚か下半身に集中する。
三、 脚か下半身に十ヶ所以上の傷がある魔族は攻撃してこない限りは襲わない。
これらの指示に従い天使の軍勢は容赦無く魔族たちの腕、脚、下半身を破壊し続けていたので、先程天使数体に別のラミアが下半身をめった刺しにされている光景を目撃していたガナーシュはリファロの脅しにも屈さなかった。
そしてガナーシュに脅しが効かなかった理由を『回答者』で把握したリファロは左腕もペルルの体から抜くとガナーシュの下半身を両手で掴み、その後宣言通りガナーシュの体を引き千切った。
「かっ、……ひっ」
激痛のあまり悲鳴すらあげられなかったガナーシュの上半身が目の前に落ちた事でペルルは恐怖からリファロへの束縛を解いてしまい、ラミアの体を引き裂く感触が想像以上に不快だったので、リファロは地中に逃げ出そうとしていたペルルを捕まえて天使の軍勢の近くに放り投げた。
そしてペルルの悲鳴がリファロの耳に届いてから五分も経たない内に二千人程の魔族全員が戦闘不能になり、長時間放置すると命の危険がある魔族がガナーシュ含めて数名いたのでリファロは急いで『創造者』で自分の分身を創り出した。
リファロの分身の『治癒』で魔族たちの傷は瞬く間に完治し、つい先程までの惨劇を思い出しながら無事な体を見て混乱していた魔族たちにリファロは魔導拡声器を通して話しかけた。
「今回は警告だったので命までは奪いませんでした。……何かすごい怖がられてますけどみなさんが送り出したオーガたちがした事ってこういう事ですよ?僕の事はどう思おうと構いませんし、僕と距離が近いアルベール魔王国が気に入らないなら独立でも何でもして下さい。でも次に乱暴な手段に出たら僕も今回みたいに穏便には済ませませんからね?」
このリファロの発言に噛みつく気力がある魔族はこの場にはおらず、これだけ脅して再び実力行使に出るようならもうどうしようもないと考えながらリファロは魔族たちにある注意をした。
「今後の細かい要求とかは今からヒクリバクさんたちに言いますけどみなさんにも一つだけお願いがあります。今回の件、ヒクリバクさんたちにだけ責任を取らせるような事はしないで下さい。具体的に言うとヒクリバクさんたちを殺してそれで終わりなんて事は許さないって事です。もしヒクリバクさんたちが殺されても僕が蘇らせてみなさんの国の借金が増えるだけですから本当にやるだけ無駄ですからね?」
強制するつもりは無かったが自分が正式にニードベルの領主になれば強化された『奉身者』への協力者千人を集める事は難しくないだろうとリファロは考えていた。
そして自分の発言を受けてドランド魔王国から逃げ出そうとしている魔族が多い事をリファロは『回答者』で把握し、この件に関してはアルベール魔王国はもちろんゼーナマイン皇国とも相談する必要があるなと考えながら魔族たちにヒクリバクたちのもとに向かうように指示を出した。
途中で回収したローザンをヒクリバクとバレームクの近くに横たえた後、リファロは三人に今後の要求を伝えた。
「今回使った『転移』とかできるだけ早く使うつもりの『蘇生』の料金は十年以内に払って欲しいって事とか魔導通信機とか魔導装甲を回収する時の手順とか言いたい事は色々ありますけど長くなるので後でこれを読んで下さい」
こう言うとリファロは近くにいたヒクリバクの部下のオーガに三十枚以上の書類を渡し、最早この場でヒクリバクを殺せと言われたら迷わず従いそうな程自分に怯えているオーガからヒクリバクたちに視線を移した。
「あなたたちへの忠告は一つだけです。死んで逃げようなんて思わないで下さい。聞こえてたかも知れませんけどあなたたちの借金が増えるだけですから。後、今回の件であなたたちの事が完全に信用できなくなったのでこれから先あなたたちがいつ、どこで誰と会って何をしたかは常に見張らせてもらいます」
「なっ!ふざけるな!」
常に監視状態に置かれるというリファロの通達にヒクリバクは声を荒げたが、ヒクリバクたちが今回の通達の内容を快く受け入れるとは思っていなかったリファロはヒクリバクの怒号にいちいち反応せずに話を進めた。
「じゃあ、後はゲルギーツで捕まってるオムニプルさんとかを助けてから僕はニードベルに帰ります。あなたたちには少し痛い目を見てもらいますけど」
こう言うとリファロはヒクリバクとバレームクを水球から解放したが、さすがにヒクリバクも解放直後にリファロに攻撃を仕掛ける程短絡的ではなく、自分の痛い目を見てもらうという発言に怯えていたヒクリバクの右肩をリファロは掴んだ。
「何をするつもりだ!」
「右腕を引き千切って両脚を使えなくします。当然ですけど治しませんから」
この発言の直後、リファロはヒクリバクが文句を言うひまも無い程手早くヒクリバクの右腕を肩から引き千切り、傷口から血を流してのけぞったヒクリバクの両脚を竜の尾の一薙ぎでへし折った。
周囲の目も気にせずに悲鳴をあげて地面をのたうち回るヒクリバクを見てバレームクもローザンも口々に謝罪や命乞いの言葉を口にしたが、リファロは残る二人にも一切情けをかけずに事務的に今後について伝えた。
「安心して下さい。今回殺されたみなさんの蘇生が終わったら傷は治しますから。ああ、もちろん治療は有料ですから強制するつもりは無いので安心して下さい」
こう言うとリファロはバレームクとローザンへの制裁も手早く済ませ、四肢の欠損までは治らない天使の治癒魔法で三人の腕の傷口を塞いでから三人に最後の忠告をした。
「すみません、もう一つ言うの忘れてました。あなたたちに死んで逃げるなんて甘い事許す気は無いですけど、この事を使って部下の人たち脅したりしたらその時はもうしょうがないので僕があなたたちを殺して終わりにします。……こんなところですかね。じゃあ、独立直後で大変でしょうけどがんばって下さい」
この発言を最後にリファロはゲルギーツへと転移し、残されたのは恨めしそうな表情をヒクリバクたちに向ける魔族たちと無言のままうつむき続けるヒクリバクたち三人だけだった。




