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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
3章

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命乞い

「どうぞ?僕から攻撃するだけだと一方的になっちゃうんで」


 こう言って棒立ちのまま動かずにいたリファロを前にオーガたちは互いに視線を交わすだけで動けず、完全にリファロに気圧されていた部下たちにヒクリバクの怒号が飛んだ。


「何を怖がってる!そいつのその能力は長続きしない!攻撃が通用しなくても動きを封じるなり何なりやれる事はあるだろう!」


「後ろから偉そうに。……あなたたちも大変ですね。上司に恵まれなかった事には多少は同情しますけど見逃す気は無いですよ。さっきも言った通りここにいる全員に痛い目見てもらうつもりなので。……後五秒何もしなければ僕の方から行かせてもらいます」


 この発言の直後、リファロの右上から刃渡り三メートル程の剣を両足で持ったシービーが襲い掛かり、バレームクの眷属のシービーを無力化するためには一工夫必要だなと考えながらリファロはシービーに視線を向けた。


 リファロの首を斬り落とすべく横薙ぎに振るわれた剣をリファロは手刀で迎え撃ち、攻撃を正面から迎撃されてシービーが動きを止めた隙を突いて剣をへし折った。


 そして折れた剣の刃部分をリファロが投げつけるとシービーの右翼に突き刺さったが、シービーが左翼で刃を叩き落す様に抜いた直後、シービーの右翼には傷一つ無かった。


 強さはともかく眷属の不死身に近い再生能力は面倒だったのでリファロはシービーの主、バレームクを先に叩く事にしたのだが、このリファロの行動を予想していたシービーはバレームクへの進路を塞ぐ形でリファロの前に立ち塞がった。


「バレームク様のもとには行かせないぞ!」


 先程折られた剣の柄の部分を右足で握りながらシービーはリファロをにらみつけ、殺気を向けながらも近づこうとしてこないシービー目掛けてリファロは飛び上がろうとした。


 しかしシービーが囮になっている間に準備を進めていたオーガたちがリファロ目掛けて鎖を投げつけ、用意された七本の鎖の内、リファロを捕らえた鎖は二本だけだったが胴体と右脚に鎖を巻きつけられたリファロは動きを止めた。


 リファロが動きを止めた直後、シービーは急ぎバレームクのもとに向かい、その後残りの鎖五本もリファロの体に巻きつけられ、観衆の中から合流したオーガも合わせて五十人程のオーガたちは力の限り鎖を引きリファロの動きを封じようとした。


「よし!そのまま離すなよ!いい様だな!転移魔法で逃げたければ好きに、」

「よいしょっと」


 部下たち同様何とかリファロを捕らえる事には成功したと思っていたヒクリバクの高笑いをよそにリファロは軽いかけ声と共に鎖を全て引き千切り、周囲に落ちていた鎖の中から手頃な物を拾い上げるとオーガたちに話しかけた。


「ここにいるみなさんの中で一番面倒なのがシービーさんなのでまずはシービーさんから動けなくしてきます。少し待ってて下さい」


 こう言うとリファロはオーガたちの返事も待たずにバレームクたちのもとに向かい、慌てて自分を追い始めたオーガたちに視線を向ける事無く最短距離でバレームク目指して飛び続けた。


 リファロが到着した時、舞台の上にはバレームクの他にヒクリバクもいたが、舞台にいたもう一人のドランド魔王国の幹部、ローザンはおらず、ローザンが逃げ出したわけではない事を『回答者』で把握していたリファロは予定通りにシービーを無力化する事にした。


「あなたたち二人は最後に相手するつもりですけど、これはこっちの都合なので襲い掛かりたければいつでもどうぞ」


 こう言って自分たちを警戒する事無くシービーに視線を向けるリファロを前にしてヒクリバクは怒りから歯噛みしたが、遠くにこちらに駆けつけようとしている部下たちの姿が見えたので何もせず近くにいた部下数人にも手を出させなかった。


 一方他の魔族二十人程と共にバレームクを守る様にリファロと対峙していたシービーは自分たちを助けようとしないヒクリバクたちに怒りを覚え、自分たちだけでバレームクを守るしかないと考えていたシービーにはリファロは質問をした。


「今回あなたの雇い主が始めた国、エルフやハーピィを冷遇するつもりみたいですし、実際今日の被害者もエルフかハーピィでした。あなたはそれでいいんですか?」


 ドランド魔王国は人間だけではなくエルフやハーピィも冷遇・排斥する事で連帯感を高めており、今回の式典の参加者二千人程の中にエルフはおらずハーピィも十人もいなかった。


 シービーが子どもの頃死にかけていた自分を助けてくれたバレームクに恩義を感じている事もドランド魔王国に住むハーピィはバレームクが領主を務める街、ゲルギーツに集めて保護する予定である事もリファロは既に知っていた。


 しかし独立のために必要なわけではない魔族の襲撃を自分の主が協力者と進めた事をどう考えているのかリファロはシービーの口から直接聞きたく、リファロが手にしていた鎖に一瞬視線を向けた後、シービーは口を開いた。


「お前は私たちの考えている事が全部分かるのだろう?どうしてわざわざそんな事を聞く?」


「ヒクリバクさんやあなたの雇い主みたいな良くも悪くも迷ってない相手はともかく、自分のしてる事に迷いがある相手はできれば助けたいと思っているからです」


「ふざけるな!私には迷いなど無い!」


 自分の忠誠心を疑われかねないリファロの発言を受けてシービーはリファロに攻撃を仕掛け、左右の足にそれぞれ持った剣で攻撃を仕掛けながらシービーはリファロに怒号を飛ばした。


「お前たち人間が何もしなければこの国は平和でいられたんだ!偉そうな口をきくな!」


 アッキム王国に侵略された件でアルベール魔王国の魔族が人間に嫌悪感を覚える事自体はしかたがなかったが、アッキム王国の兵士たちと自分を人間と一括りにされてはリファロも黙っていられなかった。


「いや、さすがに僕とアッキム王国のみなさんを同じ扱いは乱暴過ぎませんか?」


「うるさい!ニードベルを奪って得体の知れない能力で国を監視して、お前もやっている事はアッキム王国とかいう国の連中と同じだ!」


 今回の独立集会に参加した魔族の中でリキュアナでの襲撃に疑問を持っている魔族はシービーを含めて三人おり、今後の事を考えてリファロはシービーたち三人とは少しだけ話をしておきたかった。


 そして事前に『回答者』で把握していた通り、ドランド魔王国の幹部に近い魔族の中で比較的穏健派のシービーが今日の襲撃事件の被害者に罪悪感を覚えている事を再確認し、リファロは今後のドランド魔王国の行く末に一抹の希望を抱いた。


 しかし同時にシービーが本気で自分とアッキム王国の兵士たちを同一視している事も知ったリファロは驚き、結果さえ出せばアルベール魔王国の魔族も自分を受け入れてくれると思ったのだが楽観的過ぎただろうかと考えながらシービーの翼を掴んだ。


「な、何をする!」


 自分の振るう剣を物ともせず前進を続けてきたリファロに翼を掴まれ、シービーは上空に逃れようとしたが自分同様に飛べる上に速さでも力でも負けているリファロから逃げられるはずも無く五秒とかからずにシービーは翼と脚を鎖で縛られた。


「眷属のあなたを殺すのはさすがに無理なんでしばらく大人しくしてて下さい」


 こう言うとリファロは召還した二体の天使にシービーを上空まで運ばせ、近くにいたヒクリバクとバレームク以外の魔族を腕や尾でたやすく叩き伏せた。


「さてと、援軍も来たみたいですけどどうしますか?」


 シービーと話している間にリファロたちがいる舞台は魔族二百人程に囲まれており、舞台を囲む魔族たちを代表してローザンがリファロに話しかけてきた。


「どうしたの?私たちにはありがたい説教くれないの?」


 先程のシービーとの会話を聞いていたらしいローザンの嘲笑を受けてリファロは不快そうな表情を浮かべた。


「調子に乗らないで下さい。話しても無駄な相手を説得する程、僕お人好しじゃありません」

「あっそ」


 リファロの鋭い視線を軽く受け流しながらローザンはリファロ目掛けて両手を向け、ローザンの左右にそれぞれ二人ずついたラミアも同じ構えを取った。


 この世界で魔族と呼ばれている種族の内、エルフ以外の魔族は魔法を使えないが、人間の血が流れている事が多いハーピィとラミアの中には稀に魔法を使える者が現れ、こういった魔族の使う魔族は人間と比較して強力な事が多かった。


 そしてローザンとその部下たちも全員が強力な火属性の魔法を使え、更にローザンたちはそれぞれの魔法を連携させて強力な一つの魔法を使う事もできた。


 ローザンたちはそれぞれ直径二メートル程の火球を創り出すと全員の火球を合体させて三秒とかけずに巨大な炎のラミアを作り出した。


 下半身の尾の部分まで含めると全長十メートル程の炎のラミアを目の当たりにし、これだけの魔法が使えるなら調子に乗り多少強引な手段を取っても不思議ではないなとリファロは納得した。


 実際ローザンたちがアッキム王国との国境沿いの街に住んでいたら戦争の結果も変わったはずだとリファロは考え、この複数人で一つの魔法を使う技術が普及すれば生活も便利になるかも知れないと考えていたリファロの耳にローザンの声が届いた。


「どう?驚いて声も出ないみたいね?私たちが何の勝算も無しに独立なんてしたと思ってたの?この魔法があればあんたはもちろんリキュアナやゼーナマイン皇国の兵士たちが何百人来ようが余裕で焼き殺せるわ!さあ、逃げるなら今の内よ!」


 こう言ったローザンとその部下たちは今盾を持ったオーガ二十人程に護衛されており、更にオーガたちの後ろにはローザンたちと同等の魔法を使えるラミアが二人控えている事をリファロは知っていた。


「逃げたりしませんよ。僕あなたたちができる事は全部知った上でここに来てるんですから。一手は譲ります。さっきも言いましたけど僕これからゲルギーツに行かないといけないので急いでくれると助かります」


 こう言って再び棒立ちのまま動かなかったリファロを前にしてローザンは一瞬怒りの表情を浮かべたが、自分たちの切り札に転移魔法を使い回避する以外の方法で対処する事は不可能だとすぐに考えて余裕を取り戻した。


 自分たちの切り札なら話に聞く血の化け物とやらも焼き殺せるはずで『無敵化』で防ごうとしても炎の中では息が続かずに結局死ぬはずだとローザンは考えていた。


 このため転移魔法と『呪歌』にさえ気をつければ自分たちの負けは無いと考えながらローザンは部下たちに指示を出し、ローザンたちが操る炎のラミアは本物のラミアと同等の速さで尾を振るった。


「うわっ、これすごいな」


 左から炎が迫ってくると思った次の瞬間には全身を炎に包まれていたのでリファロはローザンたちの魔法技術に驚き、完全に焼失した服の代わりの服を竜の魔法で創り出したリファロの見ている前で炎のラミアの右腕が膨れ上がった。


 その後炎のラミアは先程の尾と同等の速さで右腕を振り下ろし、その気になれば『転移』や『裏世界』を使うまでも無くリファロはこの攻撃を避けられたがあえて避けなかった。


 今回の一番の目的が独立集会への参加者に恐怖を与える事だったからで、振り下ろした炎のラミアの腕を動かさずにリファロを死ぬまで焼き尽くそうとしていたローザンたちはリファロが炎のラミアの腕の中に留まり続けている事に驚きの表情を浮かべていた。


 炎のラミアの操作中、ローザンたちはラミアを構成している炎の中にある異物の存在を知る事ができるので、炎のラミアの腕の中に十秒以上留まり続けてもリファロが移動も焼失もしない事に驚いていた。


 そして二十秒程経ってもローザンたちが新しい動きを見せなかった事を受けてリファロは消火活動を始めた。


「ん?」


 突然空に雲がかかり始めた事に気づいたオーガたちが一斉に空を見上げ、魔法の発動に意識を向けていたので反応が遅れたローザンたちが空を見上げた直後、独立集会の会場周辺を大雨が襲った。


 一メートル先すら見通せない程の大雨に突然襲われたローザンたちはまさかこれもあの男の仕業かと恐怖を覚え、大雨で濡れた事では無く恐怖に襲われたローザンたちの魔法の制御が乱れた事が原因で炎のラミアは消えた。


「まさか雨まで降らせられるなんて……」

「一度退け!こんな大規模な魔法、長く使えるはずが無い!」


 頼みの綱だった炎のラミアを予想外の方法で消されて動揺しながらもローザンたちは舞台から離れようとしたが、まるで見えない壁があるかの様に舞台上に溜まっていた大量の水から伸びてきた水の鞭でローザンたちは瞬く間に捕まってしまった。


 抵抗する暇も無く舞台上に引き止められたローザンたちは舞台上に集まった水に全身を包まれ、息を止めようにも腹を水の鞭で強く締めつけられて舞台上の魔族たちは全員が溺れ始めた。


 そして三十秒程苦しみ死も覚悟したローザンたちは何の前触れも無く舞台の外へと放り出され、自分が今どこにいるかも分からずにせき込んでいたローザンの耳にリファロの声が届いた。


「じゃあ、火も消し終わったんでとどめ刺させてもらいますね?」


 このリファロの発言の直後、まだ呼吸も整っておらず命乞いすらできなかったローザンの下半身に激痛が走り、三回に渡りリファロに踏みつけられて下半身の半分以上を潰されたローザンは涙や鼻水を流しながら地を這いリファロから離れようとした。


 しかし先回りしていたリファロの脚に頭がぶつかった事でローザンは動きを止め、ようやくリファロの存在に気づいたローザンはなりふり構わずリファロに命乞いした。


「助けて下さい。私たちはヒクリバクに脅されただけなんです。独立も止めますから命だけは……」

「一応聞きますけど『回答者』の事は知ってますよね?僕に嘘は通用しませんよ」


 今回の独立はヒクリバクとローザンがバレームクをそそのかす形で始まったので、嘘を即座に切り捨てられて言葉を失ったローザンにリファロは安心するように伝えた。


「さっきバレームクさんにも言いましたけど別に独立を邪魔するつもりはありませんし、今回みなさんを殺すつもりも無いから安心して下さい。みなさんを殺すつもりならとっくにやってます。今回はあなたたちが僕に力を貸してくれてたエルフやハーピィを襲った事への仕返しです。……料金は請求しますけど後でちゃんと治してあげますから、いきなり襲われたみなさんの気持ちを味わいながら待ってて下さい」


 こう言うとリファロはローザンの返事を待たずに移動を始め、先端を刃状にした水の鞭を操り周囲に倒れていた魔族の腕や脚を斬り裂きながらヒクリバクとバレームクのもとに向かった。


 ヒクリバクとバレームクは体を完全に覆う大きさの水球に首から下を覆われており、ヒクリバクは何とか水球を破壊しようとしていたが人間や魔族ならともかく竜の魔法で作り出した水球をオーガごときの力で壊せるはずが無かった。


「あなたたちの相手はあそこにいるみなさんを適当に痛めつけてからにします。さっきも言いましたけど独立自体を邪魔するつもりは無いので今後の話し合いでもして待ってて下さい」


 こう言うとリファロは目の前の惨状に言葉を失っていた二千人近い魔族にも制裁を加えるために移動を始めようとし、自分たちのもとを立ち去ろうとするリファロにバレームクは声をかけた。


「頼む!俺だけでも助けてくれ!俺はこいつらに脅されただけなんだ!独立も止めるし何ならゲルギーツをお前にやったって、あぎゃっ」


 身勝手な命乞いをしてきたバレームクの体を水球を操り締めつけるとバレームクは何も言えなくなり、この期に及んで謝罪や命乞いが通用すると思っているのだろうかと呆れながらリファロは口を開いた。


「はい。あなたがヒクリバクさんたちにそそのかされて今回の話に乗った事は知ってます。でも魔導通信機があったんだからリキュアナに助けを求められましたよね?」

「あ、いや、それは、」


 こいつの部下に見張られていたからだと言いかけたバレームクだったがリファロの不快そうな表情を見て『回答者』の存在を思い出し、ヒクリバクから怒りの表情を向けられていたバレームクにリファロはある質問をした。


「一つ質問なんですけどこの集会が終わってゲルギーツに帰ってからオムニプルさんにしようとしてた事も気に入ったハーピィ脅して屋敷に集めてる事も脅されてやった事ですか?」


 バレームクは以前から魔王の一族の少女、オムニプルを妻にしたいと考えており、王になった事に勢いづきオムニプルの親族や領民の命を盾に無理矢理オムニプルを妻にするつもりだった。


 そしてヒクリバクやローザンが知っていたオムニプルの件だけならともかくシービーすら知らないはずのハーピィたちの件まで指摘されてバレームクは黙り込み、その後ヒクリバクとバレームクの聞くに堪えない罵り合いを聞きながらリファロは既に逃げ始めていた魔族たちのもとへと向かった。

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