独立集会
リキュアナでの襲撃事件から二時間程経った頃、アマロロにあるヒクリバクの屋敷には二千人程の魔族が所狭しと並び、彼らの視線の先にはヒクリバクの他に今回建国されるドランド魔王国の国王となる魔王の一族、バレームクとラミアの姿があった。
ヒクリバクとバレームクと共に魔族たちの視線を受けていたラミア、ローザンは今回アマロロ、ゲルギーツと共に独立した街、トービルの領主で、今回集まっていた魔族の中にはローザンの部下のラミアも三百人程いた。
ゲルギーツの領主でこそあったが名目上はドランド魔王国の国王のバレームクがアマロロに出向いている事が三人の力関係を如実に表しており、実際集められた魔族たちへの声掛けはほとんどヒクリバクが行っていた。
そして午後三時を迎えてヒクリバクは予定通り魔導通信機を通してアルベール魔王国全土に自分たちの独立を伝え、その後集められた魔族たちに自信に満ちた表情で話しかけた。
「リキュアナの腰抜け共はゼーナマイン皇国との交渉にあたり、こいつらをゼーナマイン皇国に引き渡そうとしていた!」
こう言ってヒクリバクが視線を向けた先には以前ゼーナマイン皇国からの使節団を襲ったオーガ数人の姿があり、どこか不安そうにしていたオーガたちにヒクリバクは安心するように伝えた。
「安心しろ!俺たちが引き取ったからにはアルベールの連中の様にお前らをゼーナマイン皇国に売ったりはしない!俺たちを見捨てて全部終わった後でのこのこやって来るような連中は殺されてもしかたないからだ!我がドランド魔王国は人間に尻尾を振るアルベールの連中とは違う!誰が相手でも国民の誇りと命を守ってみせるぞ!」
このヒクリバクの発言を受けて観衆も気勢を上げた後、ヒクリバクは先程部下から報告されたばかりの情報を観衆に伝えた。
「俺たちの独立は何時間か前にはもうリファロという人間に知られていた可能性がある。さっきリキュアナにいる俺の協力者が伝えてきた」
このヒクリバクの発言には高揚していた観衆たちも表情を硬くしたが、リファロの襲撃を恐れている様子の観衆を前にヒクリバクは自信に満ちた態度を崩さなかった。
「安心しろ!俺が送り込んだ部下たちがあの人間に協力していた連中を襲ったせいであの人間はまともに能力を使えなくなっている!もしあいつが襲ってきても俺たちなら余裕で返り討ちだ!」
さすがにヒクリバクも一人でいる時にリファロに襲われたら危ない事は理解していたが口にはせず、自分の言う事に従う貴重な魔王の一族、バレームクの身の安全も自分の次ぐらいには優先してやろうと考えながら観衆の前での演説を続けた。
「お前らの中には同じ魔族と争いたくないと考えている奴も多いだろう!俺だってそうだ!だから安心してくれ!俺たちも積極的にアルベールの連中と事を構えるつもりは無い!リキュアナはもちろん、チルディンダやバンキュムスと交渉を続けてできるだけ穏便に話を進めるつもりだ!お前ら、魔族のための国を作るために力を貸してくれるか?」
「「「うおーっ!」」」
直属の部下を含む観衆からの力強い返事を受けて満足した直後、少しは華を持たせてやろうと考えたヒクリバクはバレームクに視線を向け、ヒクリバクに促されたバレームクが動き出そうとした時、観衆の中から一人のオーガがヒクリバクたちのいる舞台目掛けて歩き出した。
突然ヒクリバクたち目掛けて歩き出したオーガにこの場の全ての魔族の視線が集まり、オーガが後二、三歩の距離まで舞台に近づいた時、舞台を護衛していたオーガ二人が突然場を乱した同族に声をかけた。
「おい、何のつもりだ?まさかヒクリバク様たちの言う事に文句があるわけじゃないだろうな?」
アマロロにも今回の独立に反対する勢力はあり、ヒクリバクは彼らを殺しこそしなかったが力で弾圧して今回の独立までこぎ着けた。
このためヒクリバクは独立に反対する領民がこの場に紛れ込む可能性も考え、事前に部下たちに怪しい動きを見せた魔族は容赦無く取り押さえるように指示を出していた。
しかしヒクリバクの評判や自分たちの手間を考えると穏便に済ませるに超した事は無いとヒクリバクの部下たちは考え、武器にこそ手をかけていたが敵意までは示していなかったオーガ二人にリファロは返事を返した。
「文句なら山程ありますよ。……文句だけで済ませるつもりは無いですけど」
オーガの姿から元の姿に戻りながらのこのリファロの発言の直後、リファロの近くにいたオーガ二人は腰に帯びていた武器に手を伸ばし、彼らが武器を抜くより早くリファロは彼らを『裏世界』へと送り込んだ。
事前にヒクリバクに可能性を指摘されていたとはいえ、話でしか知らなかった存在、リファロの突然の登場に周囲の魔族たちは言葉を失い、一応『回答者』で周囲の魔族を警戒しながらリファロはヒクリバクたちに視線を向けた。
「ずいぶんと馬鹿で乱暴な事してくれましたね」
「……俺たちの不幸につけ込んでニードベルをかすめ取った人間風情が!偉そうな口をきくな!」
怒号と共にヒクリバクが合図を出すと舞台の近くに控えていたオーガ三十人程がリファロ目掛けて動き出したが、今度も『裏世界』に送り込む事でリファロは彼らを無力化した。
「……どうして転移魔法でお前以外を跳ばせる?」
ミルヒガナたちと距離を取っていたヒクリバクの下に配布された魔導通信機の数は少なかったが、独立後の最大の障害、リファロの弱体化は最重要案件だったのでヒクリバクはリキュアナに送り込んだ部下に魔導通信機を三つ渡して襲撃の結果を報告させた。
そして魔導通信機を持たせた部下全てからリキュアナでの襲撃は成功したと報告を受けていたのでヒクリバクは安心していたのだが、目の前で強力な転移魔法を見せられた今、部下たちの報告に間違いがあった可能性について考え始めていた。
しかし予想外の事態に混乱しているヒクリバクの質問に答える義理はリファロには無く、ヒクリバクの質問を無視してリファロはバレームクに話しかけた。
「独立宣言、ゲルギーツじゃなくてここでやるなんてあなた本当にただのお飾りなんですね」
「うるさい!シービー、やれ!」
気にしていた事を指摘されて激高したバレームクは眷属のハーピィに指示を出したがバレームクの眷属も成す術無く『裏世界』に送り込まれ、リファロに襲い掛かった魔族が次々に転移させられた事を受けて言葉を失っていた観衆にリファロは話しかけた。
「どうしました?あなたたち、ヒクリバクさんがリキュアナでさせた事知っててここに集まってるんですよね?今度はあなたたちが襲われる番になったってだけです。さあ、どうぞ?」
このリファロの発言を受けても観衆は動き出さず、自国の首都での無差別襲撃からの独立などという蛮行に賛同しておきながら当事者意識の薄い観衆に呆れると同時に怒りを覚えながらリファロはヒクリバクたちに話しかけた。
「最初に言っておきます。あなたたちの独立を邪魔するつもりはありません。放っておいても仲間割れ起こして自滅するでしょうから。お妃様たちにも相手にしないように頼んでおきましたから安心して独立ごっこ楽しんでて下さい」
「お前や妃たちに不満を持っているのが俺たちだけだと思っているのか?余裕振っていられるのも今の内だ!」
「そうですか。今回あなたの部下に殺されたみなさんを蘇らせる時の料金とかこれからゲルギーツに行くのに使う転移魔法の料金とかは全部今回独立した三つの街に請求するつもりです」
自分の発言を適当に聞き流して自分の言いたい事だけを伝えてきたリファロにヒクリバクは声を荒げながら反論した。
「ふざけるな!貴様らに金など銅貨一枚も払わんぞ!」
「え?請求は次の領主にするつもりだからあなたの意見なんて聞いてませんけど?」
登場直後から一貫してこちらを警戒する様子を見せないリファロを前にバレームクとローザンは少なからず恐怖を覚え始めていた。
しかし既に自分たちが引き返せない事ぐらいはバレームクもローザンも悟っていたのでリファロに命乞いなどはしなかったが、これからゲルギーツに行くというリファロの発言はバレームクとしては聞き逃せなかった。
「ゲルギーツに行って何をするつもりだ?」
「安心して下さい、街で暴れたりはしません。ぼろぼろの街に降参されてもお妃様たちも困るでしょうから。閉じ込められてる魔王の一族のみなさんを助けるだけです。後、魔導装甲と魔導通信機と転移装置はアルベール魔王国の街に配った物なのでみなさんが独立した以上、今日中に全部回収させてもらいますね?」
自分を含む魔族二千人以上を前にしながら今後の予定を決定事項の様に語るリファロを前にヒクリバクは更に怒りを募らせたが、ここまで自分を虚仮にした相手に逃げられては今後の統治に影響が出ると冷静に考えてもいた。
このためリファロの逃走を封じるためにヒクリバクはリファロを挑発し始めた。
「さっきからでかい口を叩いているがやっている事は敵を転移魔法でどこかに跳ばしているだけだ!どうせ後何回か転移魔法を使ったら尻尾を巻いて逃げ出すつもりだろう!俺たちはお前の虚仮脅しになんて屈さない!とっとと失せろ!」
ここまで煽ればリファロも転移魔法を使いにくくなるはずでもしリファロが転移魔法で逃げ出せばとりあえずこの場は自分の勝利という事にできるとヒクリバクは考えていた。
しかしドランド魔王国の幹部たちへの気遣いなど一切するつもりが無かったリファロはこうしたヒクリバクの考えを『回答者』で把握しており、そもそも最初に言った通り文句だけで済ませるつもりなど無かったリファロにとってヒクリバクの挑発の内容などどうでもよかった。
「その挑発を受けてあげます」
こう言うとリファロは先程『裏世界』に送り込んだオーガとハーピィたちを全てこちらの世界に呼び戻し、突然消えたヒクリバクたちと合流できてオーガたちは安心している様子だったがこの直後に何らかの道具を創り出したリファロの発言を受けて気を引き締めた。
「今からここにいる全員に攻撃を仕掛けます。たださっきのヒクリバクさんみたいな的外れな事言われても困るので今回は誰かが逃げ出さない限りは転移魔法は使いません。……正面から力で潰します。ああ、でも今の僕が強くなった『奉身者』を使えないっていうのはヒクリバクさんの言う通りなんでそこは安心して下さい」
この発言の前にリファロが『創造者』で創り出した片手で持てる大きさの道具は魔導通信機の技術を応用して開発された魔導拡声器で、魔導拡声器を手に竜の翼で移動しながら行われたリファロの発言はヒクリバクたちだけでなくこの場にいる魔族全員に伝わった。
「さてと、じゃあ、始め、」
ましょうと続けようとしたリファロだったが地上に降り立ったリファロの発言を最後まで聞かずにオーガたちが襲い掛かり、四方から振るわれた剣やこん棒がリファロの体に叩き込まれた。
しかし頭部に直撃したこん棒も腹に突き立てられた剣も竜の能力を再現していたリファロの体にはかすり傷一つつけられず、知ってはいたが実際に体感すると本当に竜の耐久力は理不尽だなと考えながらリファロは自分の腹に突き立てられていた剣に手を伸ばした。
リファロが少し力を入れただけで剣はたやすく折れ、その後軽く動いたつもりのリファロが足を踏み出しただけでリファロに攻撃を仕掛けたオーガ三人は体勢を崩した。
「多分こいつは竜の能力を使ってる!武器じゃ駄目だ!魔法を、」
周囲の仲間たちにリファロの情報を伝えようとしていたオーガの左太ももにリファロは折ったばかりの剣を突き刺し、人の姿になって弱まっているとはいえ竜の力で押し込まれた刃はオーガの太ももをたやすく貫通した。
そして痛みに表情を歪めたオーガの腹にリファロが尾を叩きつけるとオーガは吹き飛ばされ、地面に二回叩きつけられた後動かなくなったオーガから視線を外した直後、リファロの右こめかみにオーガの振るったこん棒が命中した。
しかしこの攻撃自体は把握していたリファロは脚に力を入れてこの攻撃に耐え、リファロを傷つけるどころか体勢を崩す事すらできずに恐怖していたオーガの左脚をリファロは右手で掴んだ。
オーガの左脚を握り潰さないように力を調整しながらリファロが右腕を持ち上げるとオーガは難無く持ち上がり、リファロが手にしていたオーガを武器代わりに振り回す度に周囲のオーガたちが吹き飛ばされていった。
そして五人目のオーガを吹き飛ばした時点でリファロが手にしていたオーガが限界を迎え、今回誰一人殺すつもりの無かったリファロは手にしていたオーガを適当に放り投げると周囲のオーガたちに視線を向けた。




