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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
3章

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交換条件

「さっきも言いましたけどヒクリバクさんやその部下は殺さないで逮捕する、というかしてもらうつもりです。これからヒクリバクさんのとこに行く時少し痛い目にはあってもらいますけど」


 会議室にいる魔族のほとんどがヒクリバクや部下たちの命だけで今回の事態やリファロの怒りが治まるなら安いものだと考えていたので、今回のリファロの発言の後半部分には誰も触れずミルヒガナはリファロに質問をした。


「ヒクリバクたちを逮捕すると言っても具体的にはどうなさるおつもりですか?……もちろんリファロ様だけに頼る事無く私共も今回捕まえたオーガたちを取り調べてアマロロを含めた三つの街に苦情等は入れるつもりですが」


 いくら実行犯たちが自分たちはヒクリバクやアマロロとは無関係と主張しても実行犯全員がアマロロ出身なら自分たちも他の二つの街はともかくアマロロには強気に出られるとミルヒガナは考えていた。


 そして同様の考えを抱いていた魔族数人はミルヒガナに視線を向けられて無言でうなずいたのだが、今回リファロはミルヒガナたちに表立ってヒクリバクたちに対処してもらうつもりは無かった。


「独立されたとなるとお妃様たちも無視はできないのは分かってるんですけど今回は僕に任せてもらえないでしょうか?いくつか頼みたい事はあるんですけど」

「……先に頼みたい事をお聞きしても?」


 さすがにこの場で口にはできなかったがリファロがヒクリバクたちの件の解決に積極的に参加する事自体はミルヒガナとしても歓迎するところで、リファロの頼みも相当な無理でも聞き入れるつもりだった。


 しかし頼みとやらの内容次第では断らざるを得ないかも知れないと考えながらのミルヒガナの質問にリファロは即答した。


「三つあって、まず一つ目は僕のニードベルの領主就任をできるだけ早くして下さい。これは二つ目の頼みとも関係あるんですけど、ニードベルで『回答者』も逮捕や裁判の時に証拠になるって法律を作っていずれは他の領内でも同じ様にできればいいなと考えています」


 アッキム王国を除く冒険者ギルドの活動が盛んな国では既に天使の天秤魔法が裁判の際の証拠として採用されているというリファロの説明にミルヒガナたちは考え込み、十分程かけてミルヒガナたちからの質問に答えてからリファロは三つ目の頼みを口にした。


「これはかなり無茶な頼みだって事は分かってるので返事は今すぐじゃなくていいですし、無理なら無理で構いません。……リキュアナでも『回答者』を証拠として採用してもらえませんか?」


 他の周辺国家同様、アルベール魔王国でも各領内の法律の内容がそれぞれの領主の裁量により一部変わる事は珍しくなかったが、それでも法律の大部分は王の領内のものがそのまま使われていた。


 このため内定段階の一領主がまだ正式に運用すらしていない法律の首都での採用を自国の妃に求めるなど失礼にも程があり、実際会議に参加していたオーガ、バーキレスはリファロの要望に難色を示した。


「さすがにそれは!いくらリファロ様といえども一領主に過ぎません!一領主の頼みで国全体の法律を変えるなど前例がありません。もしそんな事をしたら仮にヒクリバク殿たちの件が片づいても我が国の権威が揺らぎます!」


 ミルヒガナに視線を向けながらのバーキレスの発言に内心同意した魔族は多く、リキュアナでの『回答者』関連の法律改正は別に急ぐ必要は無いと考えていたリファロは何も言わずミルヒガナの返事を待った。

 そしてリファロや魔族たちの視線を受けながらミルヒガナは口を開いた。


「一つ条件を飲んでもらえるならアルベール魔王国全土で『回答者』を証拠として採用する準備を始めても構いません」


 ニードベルの領主就任前倒しとその後領内で行う『回答者』関連の法律の施行は自分のこれまでの功績を考えれば通るだろうとリファロは考えていた。


 しかし事実上アルベール魔王国全土の法律改定に等しい三つ目の要望は通るどころかミルヒガナたちの怒りを買っても不思議ではないとリファロは考えていたので、条件つきとはいえミルヒガナに三つ目の要望を聞き入れると言われて喜びより先に戸惑いがきた。


 そして自分の三つ目の要望の大きさを考えるとミルヒガナも相当大きな要望を通そうとしてくるはずだと警戒すらしていたリファロにミルヒガナは自分の要望を伝えた。


「ディルシュナと婚約して下さい」


 この単純かつ予想外のミルヒガナの要望に室内は一瞬静まり返り、魔族たちが互いに視線を交わす中、リファロは口を開いた。


「……王族のみなさんにとっては当たり前なのかも知れませんけど僕平民の生まれなのでそういうのは遠慮させてもらいます。ディルシュナさんの気持ちもありますし」

「ディルシュナはリファロ様に好意を持っているようです。これは本人に確認済みです」


 ヒクリバクたちの行動について話し合っていた中、予想外の話題が出た事にリファロは困惑したが、適当にごまかせる話題でもなかったので何とか返事を返した。


「……それは多分僕が国を救った事への感謝とかが大きいと思うので……」


「大変失礼な言い方になりますがリファロ様の能力と功績を考えるとこれから先リファロ様が純粋な好意を向けられる事はまずないと思います。……私に下心が無いと言えば嘘になりますがディルシュナとの婚約はリファロ様にとってもディルシュナにとっても悪い話ではないと思います。……法律改正はお急ぎではないとの事でしたのでどうかごゆっくりお考え下さい」


「……あー、リファロ殿、お妃様もおっしゃっていましたが法律の改正は別に急ぐわけではないのですよね?突然の話で驚きだとは思いますがヒクリバクたちへの対応についての話を進めてもらってもよろしいですか?」


 このルドディスの発言を受けてリファロは現実逃避気味に頭を切り替え、正直助かったと思いながら今後の予定についての説明を再開した。


「さっきアマロロとかに苦情を入れるって言ってましたけどそういうのも含めてヒクリバクさんたちには何もしないで欲しいんです。さっきも言いましたけどヒクリバクさんには本当に怒ってるので、殺しはしませんけど二度と同じ様な事をしないように暴力以外での方法で徹底的に追い詰めるつもりです。だからアルベール魔王国には無視されて僕一人に虚仮こけにされる方がヒクリバクさんたちも悔しいと思うのでできれば何もしないでもらえると助かります」


「今回の件でリファロ殿の『奉身者』は弱体化しているはずです。それでも一人でアマロロを含む三つの街全てを相手にできるとおっしゃるのですか?」


 この発言をしたのはバーキレスだったが他の魔族たちも探りと疑いの視線をリファロに向け、バーキレスはともかく他の魔族たちにまで自分の強さを疑われている事を意外に思いながらリファロはバーキレスの質問に答えた。


「はい。ヒクリバクさん追い詰めて他の二つの街を裏切らせるだけならどうにでもなると思います。アッキム王国の兵士たち追い払ったの『奉身者』が強くなる前でしたから」


「……失礼ながらもしリファロ殿が失敗した場合、後始末をするのは我々です。具体的に今後どう動くおつもりなのかお教え下さい」


 あまりに事も無げにヒクリバクたちの相手など余裕だと言い放ったリファロを前に他の魔族たちが言葉を失う中、バーキレスは質問を重ねたが、リファロは今回はバーキレスの質問に答えなかった。


「今回は切り札を使うつもりで切り札の内容も作戦も教えるつもりはありません。能力の条件や弱点を教えてまた今回みたいに僕以外が狙われても困りますし」


 今日起きたばかりの事件を引き合いに出されてバーキレスは黙り込み、その後ミルヒガナがリファロに質問をした。


「今回もリファロ様のお力に頼りたいと考えていますが、何か私共にできる事はありますか?」

「全部終わったらアマロロを含む三つの街には『蘇生』とかこれから使う『転移』の料金とかを全部請求するつもりですけど、それ以上は何もしないつもりです。だからあっちが降伏してきたらアマロロ以外の二つの街への罰はできるだけ穏便に済ませてもらえると嬉しいです」


「……分かりました。……トービルの領主は魔王の一族が務めているのですが彼らはヒクリバクたちの考えに同意しているのですか?」


「今回ヒクリバクさんたちが新しく作る国の王様はバレームクさんで、バレームクさんの家族はヒクリバクさんたちの考えに賛同してます」

「……他の魔王の一族はどうしているのでしょうか?」


 バレームクはトービルの先代の領主が戦争で亡くなった事で新しく領主になった男で、アルベール魔王国の先代国王、ディルグリオンの血筋が絶えれば国王就任も夢ではなくバレームク自体も王への就任には前向きだった。


 しかしディルグリオンこそ戦争で亡くなったがディルグリオンの子どものディルシュナとビンガが生きている以上、このままではバレームクは王になれず、人間であるリファロに領地を与えた事を理由にバレームクが自分を追い落とそうとしている事はミルヒガナも聞いていた。


 このためバレームクが今回の独立騒動に関わっていると聞いてもミルヒガナは驚かなかったが他の魔王の一族全員がバレームクに賛同しているとまでは考えたくなく、特に戦争で両親を失った姪の身を案じていた。


「バレームクさんとその一族以外の魔王の一族は今一ヶ所に集められて閉じ込められてるので、バレームクさんにあいさつするついでに全員助け出すつもりです。……ここに連れてきていいですか?」


 こう言ってリファロが挙げたバレームクたちに閉じ込められている魔王の一族の中にはミルヒガナが身を案じていた姪、オムニプルの名もあり、安堵を表情に出さずにミルヒガナはリファロに返事を返した。


「もちろんです。……私の力不足で身内を抑えられずご迷惑をおかけします」


 我ながらアルベール魔王国のために日夜尽力していると考えていたリファロはただでさえ忙しいところに暴力を伴う方法で水を差してきたヒクリバクたちに強い怒りと同時に裏切られたという気持ちすら抱いていた。


 しかしこの怒りは本人たちにぶつけるべきだと考えてリファロは怒りを声にも表情にも出さずミルヒガナに気にしないように伝えた。


「今回もお妃様は被害者なんですから謝る必要は無いです。……今まで気を遣ってましたけどこれからアマロロとかには遠慮無く『回答者』を使うつもりなので、また何か分かったらすぐに知らせます。後さすがに一週間じゃ終わらないと思うのでゼーナマイン皇国との会談場所を変えて下さい」


 現在アルベール魔王国とゼーナマイン皇国の関係修復のための会談はオーガたちによる使節団襲撃が起こった街、ゲルギーツで行われる予定だったが、アルベール魔王国から独立した街で両国間の会談を行うわけにはいかなかった。


 このためリファロは強化された『転移』がしばらく使えないので苦労を掛ける事を謝りながら新しい会談場所を決めるようにミルヒガナたちに頼み、その後リキュアナに潜伏しているアマロロからの諜報員の名前と潜伏場所をミルヒガナたちに伝えてから会議室を後にした。


 会議が終わり一時間程経った頃、バーキレスは王城の魔導通信機が置かれた通信室へと向かっていた。

 バーキレスはリファロの影響が大きくなり続けている今のアルベール魔王国に不満を持っており、トービル出身の知り合いから誘われて十日程前からヒクリバクたちに内通していた。


 このため先程リファロがリキュアナに潜伏しているヒクリバクの部下たちの名前を挙げ始めた時バーキレスは緊張したが、結局リファロはバーキレスに視線を向ける事すらせずミルヒガナたちへの報告を終えた。


 しかしバーキレスは助かったが会議終了後すぐにルドディスとトリュゼッハがそれぞれ部下を引き連れてヒクリバクの部下を捕らえに向かったので、会議後の雑事を手早く済ませたバーキレスはヒクリバクに先程の会議の内容を伝えるために通信室へと向かっていた。


 リファロの意識がヒクリバクたちに向かっている内は安心だがリキュアナで『回答者』が証拠として採用されるようになったら自分もいつまでも安全圏にはいられないとバーキレスは考えていた。


 このため独立発表直後に予定されているリファロの襲撃に備えるようにバーキレスはヒクリバクに伝えるつもりで、通信室前にいた兵士に嘘の連絡先を伝えると通信室へと入った。


 リキュアナの王城の通信室は会議室の一つをそのまま使っており、バーキレスは扉を閉めると室内に誰もいない事を確認してからアマロロのヒクリバクの屋敷にある魔導通信機の番号を目の前の魔導通信機に入力した。


 そして待つ事五秒程で相手と繋がり、これまで何度も話していたヒクリバクの部下にバーキレスは急ぎ独立発表が既にアルベール魔王国側に知られている事を知らせた。


「おい、今すぐヒクリバクの守りを固めろ!もう独立の件はあの男にばれててアルベール魔王国にも伝わってる!リキュアナに残ってたお前たちの仲間も今頃全員捕まってる頃だ!」


「……あなたの裏切りはばれていないのですか?」


「ああ、お前等相手には『回答者』を遠慮無く使うと会議で言ってたが俺は大丈夫だ!」

「そうですか。……あの男がのこのこヒクリバク様を狙ってくるならむしろ好都合です」


 独立発表の式典のために今ヒクリバクの屋敷にはアマロロ中から精鋭が集まっており、戦争の被害を全く受けなかったアマロロの精鋭部隊の強さは今やアルベール魔王国最強と言えた。


 このため弱体化したリファロがのこのこ乗り込んできても軽く返り討ちにできるとヒクリバクの部下は考え、ある不安を覚えながらバーキレスとの通信を終えた。


 そしてヒクリバクの部下との通信を終えて振り返ったバーキレスの視線の先にはリファロとルドディス、そしてルドディスの部下のオーガ三人がおり、入室時には確実にいなかったルドディスたちがいつの間にか背後にいた事に驚きながらもバーキレスはすぐに魔導通信機を破壊しようとした。


 使用した直後の魔導通信機を調べられたら連絡先はすぐに分かるのでバーキレスはヒクリバクたちへの内通の証拠を消そうとしたのだが、会議開始時点で既にバーキレスの裏切りに気づいていたリファロが証拠の破壊など許すはずが無かった。


 魔導通信機が『裏世界』に送り込まれた事でバーキレスが振り下ろした拳は床にめり込み、目の前で堂々と王城の備品を破壊しようとしたバーキレスにルドディスは話しかけた。


「お前とヒクリバクの部下の話は最初から聞いていた。……何か言い訳はあるか?」

「人間の奴隷風情が偉そうな口をきくな!」


 怒号を飛ばすと同時にバーキレスはルドディスに殴り掛かろうとしたがルドディスの後ろから出てきたオーガの振り上げた鉄のこん棒であごを叩かれて床に倒れ、その後別のオーガ二人に難無く押さえつけられた。


「……これで勝ったと思うなよ!人間共に負けて数を減らしたお前等と違って南部にはヒクリバクの考えに同意した魔族が何万人といる!精々転移魔法で逃げ回った後でなぶり殺されるんだな!」


 ルドディスからリファロへと視線を動かしたバーキレスは狂気に満ちた表情で二人を挑発し、結局バーキレスはルドディスの部下たちに部屋から連れ出されるまで二人を挑発し続けた。


「……申し訳ありません」

「ルドディスさんが謝る事じゃないですよ。僕を弱くするために魔族八十人以上襲う相手に良識とか期待してませんし、怒っても疲れるだけなんで、……とりあえず終わらせてきます」


 これ以上ルドディスと話していると八つ当たりしてしまいそうだったので、疲れた様な表情を取り繕っていたリファロは話を適当に切り上げると『裏世界』に送り込んでいた魔導通信機を元の場所に戻してからアマロロに転移した。

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