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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
3章

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救出

 リファロがヒクリバクたちに制裁を与えていた頃、バレームクの屋敷の二階にある一室で魔王の一族の少女、オムニプルは何をするでもなくいすに座っていた。


 今頃ヒクリバクと共にアルベール魔王国に独立を宣言しているはずバレームクはアマロロに向かう数日前に突然本性を現し、直属の部下数百人に命じて他の魔王の一族やその家族の身柄を拘束した。


 オムニプルも住んでいた屋敷から無理矢理連れ出されてからはバレームクの屋敷に軟禁状態でここ数日は家族にも眷属にも会えていなかった。


 バレームクは自分の妻にならなければオムニプルの家族を殺すとオムニプルを脅し、オムニプルの眷属であるラミア、オレインの安全も保障しないと言われていた。


 数日前アマロロに向かう前に下卑た笑みを浮かべながら左頬に触れてきたバレームクの姿を思い出すだけでオムニプルは身の毛がよだち、バレームクに組み敷かれている自分を思い浮かべるだけで涙が浮かんできた。


 しかし仮に家族やオレインが捕まっていなかったとしても武器を持ったオーガやリザードマン十人程が常に巡回している屋敷から逃げ出す事などオムニプルにはできず、悔しいが現状を打破してくれそうな存在、リファロも無力化したとオムニプルはバレームクに伝えられていた。


 このためこのままバレームクに従うしかないと考えてオムニプルは今日何度目になるか分からないため息をつき、隣国の人間たちにも親族にも抵抗できない自分の無力さに乾いた笑い声さえ出始めた。


 そして今日も明日以降も屈辱や恐怖に耐えるしかないのだなとオムニプルは考えていたのだが突然違和感を覚えて思考が止まってしまい、違和感の正体に気づけないまま窓の外に視線を向けた。


 しかし窓の外には魔導装甲が家屋を破壊しているわけでも武器を持った魔族数十人がいるわけでもない平和な光景が広がっており、いすから離れて庭に視線を向けたオムニプルはようやく違和感の正体に気づいた。


 二、三分に一回は視界に入る庭を巡回している魔族の姿が五分以上見えず、屋敷の中に意識を向けると二十人以上いるはずの使用人たちの動く音がいつの間にか聞こえなくなっていたのだ。


 最初はバレームクたちの独立宣言を受けてリキュアナから救援が来た可能性をオムニプルは考えたが、ゲルギーツにある唯一の転移装置の起動番号は配布直後に変更されていたのでリキュアナの魔族たちは使えないはずだった。


 このためすぐに希望を捨てたオムニプルだったが何らかの異変が屋敷で起きている事は確かだったので現状を把握するために部屋から出ようと考えた。


 バレームクがいない今なら屋敷内を巡回している魔族たちに見つかっても部屋に連れ戻されるだけで済むだろうと考えたからで、オムニプルは意を決して部屋から出ようとしたのだがこれより先に部屋の扉が叩かれた。


 まるで自分が部屋から出る事を妨げるかの様に扉が叩かれた事にオムニプルは驚いたが、何とか声が乱れる事だけは避けて何者かの入室を許可した。


「……お久し振りです」

「……あなたですか」


 リファロが来る可能性は考えていたが出発前のバレームクの発言もあり、オムニプルは実際にリファロの姿を見て驚いた。


 しかし実際にリファロが現れた以上はバレームクの発言が嘘だったのではとオムニプルは考えてリファロに質問をした。


「バレームクさんがあなたの協力者を襲ったのであなたは強い能力は使えなくなったと言っていました。これは嘘だったんですか?」


「いえ、本当です。今の僕は自分以外を転移させる事はできません。……色々気になる事はあると思うんですけど今あなたの言った通り今の僕は能力を全部は使えません。お妃様からあなたやあなたの家族をリキュアナまで連れてくるように言われてるので詳しい話はリキュアナに着いてからでいいですか?」


「……助けに来ていただいて申し訳無いのですがあなたを完全には信用できません。一度ミルヒガナ様と連絡を取れませんか?」

「分かりました。どうぞ」


 オムニプルの頼みを受けてリファロは魔導通信機を創り出し、そろそろ腕輪で魔力を回復しないといけないなと考えながらオムニプルにリキュアナの王城にある魔導通信機の番号を伝えた。


「ありがとうございました。……その物を創り出す能力も何度もは使えないのですよね?ご迷惑をおかけしました」


 ミルヒガナから現状を聞きリファロに従う事にしたオムニプルはリファロに謝罪してきたが、アッキム王国の兵士たちから助け出す時に一度会っただけの相手を信じる事ができないのは当然だとリファロは考えていた。


「こういう状況だと疑い深くなるのもしかたないと思います。ああ、後ついさっきバレームクさんたちが集まってるとこに行って全員に痛い思いをしてもらいました。殺してはいませんけど次に乱暴な事したら容赦しないって言っておいたのでここを離れた後の領民の心配はしないで下さい」

「……お気遣いありがとうございます」


 今回独立を宣言したバレームクたちへの対応と残していく領民の身の安全もオムニプルにとって気がかりな事だった。


 このためリキュアナに着いてすぐにミルヒガナに相談しようと考えていた二つの問題が既に解決済みだと聞かされてオムニプルは驚き、多少は表情が和らいだ様子のオムニプルにリファロはある頼みをした。


「……これからあなたの家族とかオレインさんが捕まってる所に行こうと思うんですけどできるだけ転移魔法は使いたくありません。だから今から竜に変身して飛んでいくので背中に乗ってもらっていいですか?」


 戦争終了後すぐにリキュアナを離れたオムニプルはディルシュナと連絡こそ取っていたがリファロの能力については漏れ聞く程度にしか知らなかった。


 このためリファロに竜に変身すると言われてオムニプルは驚きから言葉を失ったが家族やオレインたちとの再会やミルヒガナたちとの相談等やる事が山積みだと自分を奮い立たせ、これから飛んでいる竜の背中に乗ると恐怖を振り切りながらリファロの頼みにうなずいた。


「じゃあ、すみません。竜になってからだと乗りにくいと思うので手を握らせてもらっていいですか?」

「はい。どうぞ」


 家族以外の異性に手を握られる事に抵抗はあったがさすがにこの状況で文句を言うわけにもいかず、リファロはオムニプルの手を握ると部屋の窓から飛び降りた。


「ひっ」


 一気に上昇すると思っていたリファロが自分ごと窓から落下した事にオムニプルは驚いたがこれは一瞬の事で、自分の手を握ったリファロが背中から翼を生やして一気に上昇を始めたと思った次の瞬間にはオムニプルは全身を竜に変えたリファロの背中にいた。


 竜になったリファロの背中のほぼ中央にいたオムニプルから下の様子は見えなかったが、どれだけ首を動かしても空以外何も視界に入ってこなかったのでオムニプルは今自分が空中にいるのだとすぐに悟った。


「一応風の魔法で守りますけどあんまり端の方には行かないで下さい」


 こう言ってリファロが一気に動き出した直後、遠くに見える雲の動きから今自分たちが高速で動いている事をオムニプルは嫌でも思い知らされたが、リファロが発動した風属性の魔法のおかげで時速四百キロ程で飛ぶリファロの背中にいても痛みも寒さも感じなかった。


 十分とかからずにリファロたちはオムニプルの家族が閉じ込められていた屋敷にたどり着き、地上の魔族たちを驚かせないように『裏世界』を移動していたリファロは誰もいない屋敷の敷地に降り立った。


「じゃあ、ここに閉じ込められているみなさんへの説明は任せていいですか?できれば魔導通信機は創りたくないので」

「分かりました」


 今回の自分たちの救出に際してリファロが『回答者』をアルベール魔王国全土で裁判等の証拠として採用して欲しい等の条件を出した事もオムニプルは先程ミルヒガナから聞いていた。


 このため今後はどうなるかは分からないがバレームクにゲルギーツの領主の座を奪われた今の自分たちがリファロに差し出せる謝礼が何も無い事をオムニプルは気にしていた。


 リファロは何も求めないかも知れないがこれは矜持の問題で、前回助けられた直後にリファロに失礼な態度を取ってしまった事もオムニプルがリファロに対して気まずく感じている理由だった。


 このため家族たちへの説明という簡単な仕事でもリファロに何かを頼まれた事にオムニプルは安堵し、何やら意気込んでいる様子のオムニプルと屋敷に入りながらリファロはオムニプルたちの家族を『裏世界』に呼び込んだ。


「オレイン!」


 オムニプルの家族たちが閉じ込められていた部屋には二十人程の魔族が閉じ込められており、部屋に入るなりオムニプルは自分の眷属、オレインのもとに向かった。


「大丈夫?何もされてない?」


 オレインの様子を確認しながらオムニプルはオレインに話しかけ、これに対してオレインは口を開くなり謝罪の言葉を口にした。


「今回もオムニプル様の身を守れず申し訳ありませんでした!」

「いいのよ。こうしてお互い無事だったんだから。それにいきなり身内に裏切られたらどうしようもないわ」


 オムニプルがこう言ってくれる事はオレインにも分かっていたが、身を挺して主を守る事が仕事の眷属が二ヶ月足らずの間に二度も主を危険な目に遭わせた事にオレインは強い罪悪感を覚えていた。


 しかし他にも魔王の一族やその眷属がいるこの場で眷属としての自分の失態を謝ると彼らが気まずくなると考えたオレインは一度謝罪を止め、オレインとの話が終わった後、オムニプルはこの場で最年長の魔王の一族の男に現状を説明した。


 そしてこの場にいる魔族全員がリファロによる救出を受け入れた後、リファロは転移装置を創り出し、オムニプルたちを転移装置でリキュアナに送ると自身もリキュアナへと転移した。


 リキュアナの王城前に転移したリファロたちはすぐに王城へと迎えられ、リファロが一時間足らずの間にヒクリバクたちへの制裁からオムニプルたちの救出まで終えた事にミルヒガナたちは驚いていた。


「ヒクリバクたちの件はどうなりましたか?」


 この場にはディルシュナもおり先程ミルヒガナが出した条件を思い出してリファロはディルシュナを強く意識してしまい、ディルシュナも何やら言いたそうな表情を返してきた。


 しかしさすがにミルヒガナの質問を無視してディルシュナに話しかけるわけにもいかず、リファロはとりあえずここ三十分程の間の行動をこの場にいる全員に伝えた。


「はい。アマロロに集まってた魔族全員に一度大怪我をさせてから『治癒』で治しました。……こんな事何度もしたくないのでかなり徹底的にやって脅しておきましたから、今後ドランド魔王国が乱暴な手段に出る事は無いと思います」


「なるほど、……リファロ様のご要望通り、しばらくは私共の方からのヒクリバクたちへの接触は控えます。これでよろしいですか?」


「はい。今は責任押しつけ合ってるみたいなんで当分は何もしてこないと思いますから。もし今すぐ動きがあるようなら僕の方で対処します」


 当面の予定をミルヒガナたちに伝えた後、リファロはアルベール魔王国の幹部たちから今回捕らえられたアマロロ出身のオーガたちの処遇について等の説明を受け、当分はドランド魔王国の出方にだけ気をつけておけば大丈夫だなと考えながら口を開いた。


「……『蘇生』の料金の取り立てとか返ってくる魔導通信機の配り直しとかいくつか話したい事があるんですけど今からで大丈夫ですか?」


 おそらく先程出た交換条件についてミルヒガナから聞いたらしいディルシュナの熱い視線を受けながらのリファロの質問にミルヒガナは部下たちに視線を向けてから答えた。


「はい。リファロ様もお忙しいでしょうから大まかな内容だけでも今日の内に話し合いましょう。……ですがその後で少し時間を取っていただけると嬉しいです」


 ミルヒガナのこの頼みにリファロは分かりましたと答えるしかなく、ディルシュナからの視線にばかり気を捕らえながらアルベール魔王国の幹部たちと会議室に向かった。

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