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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
3章

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詐欺

 一方早朝に二時間程事務仕事を行った後、リファロはある問題の解決のためにクララス王国北西部にあるビーチェ村に転移した。


 リファロがビーチェ村に着くと剣や武器代わりの農具を持った村人数人が周囲を警戒しており、突然現れたリファロに驚きながらも村人たちは武器を持つ手に力を込めた。


「お前、最近噂になってるリファロとかいう奴か?」

「はい。お金だけ取って魔獣を倒さなかった人たちがいると聞いて話を聞きに来ました」


 ここ数日の間にクララス王国とゼーナマイン皇国のギルドの支部に各地の村からが苦情が入り始めていた。


 村人たちによると村の近くに魔獣が現れて困っていたところに元冒険者たち数人が現れて正規の六割の料金で魔獣討伐を引き受ける提案してきたので村人たちは料金を払い、いずれの場合も彼らは数時間後に魔獣を討伐したと村人に報告してから村を離れたらしい。


 しかし元冒険者たちが村を離れた二日後、ビーチェ村は魔獣に襲われて何とか村人たちは魔獣を討伐したが、戦闘の際に出た被害と合わせて十一人の村人が死亡、二人が重傷を負った。


「勝手にしゃしゃり出といてお前が適当な仕事をするからこんな事になったんだぞ!」

「そうだ。そうだ!どう責任を取るつもりだ!」


 口々に怒りを露わにする村人たちを前にしてこの状況を後でレオエフェールに伝えるのは気が進まないなと考えながらリファロは口を開いた。


「責任って何の責任ですか?」


 一切怯む事無く質問をしてきたリファロに村人たちは一瞬たじろいだが、今更引く事もできなかったので声を荒げながらリファロに再度不満をぶつけた。


「お前のせいでたくさんの冒険者が辞めてそのせいで俺たちは今回騙されたんだぞ!」

「俺の母親と弟も魔獣に殺された!お前等ギルドがちゃんと冒険者の管理をしてなかったからだ!」


 出会った直後からリファロに怒号を飛ばし続けている村人たちだったが、彼らは自分たちが安い料金に釣られて正規の冒険者を雇わなかった事が今回の事件の原因だと気づいており、この事をリファロに指摘されないように先程から怒号を飛ばし続けていた。


 こうした村人たちの心情をリファロは『回答者』で把握しており、そもそも冒険者ギルドが一切関わっていない今回の事件で自分たちが批判される理由など無い事ぐらい『回答者』を使うまでも無くリファロでも理解できた。


 このためリファロは村人たちの自分勝手な怒号を不快にこそ感じたが特に焦りはせずに村人たちに返事を返した。


「ギルドは冒険者の管理はちゃんとしてますよ?安い料金に釣られてギルド通さないで契約した場合までは責任を取れないってだけで。魔獣退治を安く済ませたくて余計な被害出したのあなたたちですよね?八つ当たりするのは止めて下さい」


「……何もする気が無いって言うなら何のために来た?」


 この期に及んで謝罪の言葉一つ口にしようとしない村人たちにリファロはさすがに怒りを覚えたが、こういった流れになる事は予想していたので事務的に話を進める事にした。


「……最初に言っておくべきでしたね。今回のあなたたちの言動は後でギルドに全て報告します。一度失礼な態度を取ったぐらいで冒険者の派遣を断ったりはしませんけど、次に今回の件で何か言ってきたらギルドからの心証が悪くなると思うので気をつけた方がいいですよ?」


 このリファロの発言で村人たちが黙り込んだ後、リファロは歩き出しながら村人たちに話しかけた。


「亡くなった人たちはどうしようもないですけど怪我をした人たちは治していきます。本来なら治療一回に金貨三十枚もらうんですけど、ここに来る時に使った転移魔法の料金と合わせてあなたたちを騙した人たちに請求するので安心して下さい」


 金貨三十枚は四人家族が一年間楽に生活できる額だったのでリファロの発言に村人たちは一瞬表情を硬くした。


 しかし請求先が自分たちを騙した元冒険者たちだと知るなり村人たちは表情を和らげ、無料で負傷者が治るならと考えてリファロを止める事無く共に村へと向かった。


 リファロが負傷者たちのもとに向かうと二人の内一人は左腕が完全に失われており、天使の治癒魔法では眼や四肢の損傷までは治せなかったのでリファロは『治癒』を使う事にした。


 今回の様な詐欺は今日の時点でクララス王国とゼーナマイン皇国で合わせて二十件程ギルドに報告されており、彼らの逮捕や関係各所への連絡など今日のリファロはやる事が山積みだったので『治癒』の代償で半日消えている暇など無かった。


 このためリファロは『治癒』を使わせるために自分の分身を創り出し、突然リファロが二人になった事に村人たちが驚く中、分身による村人たちの治療が終わった。


 治療自体は一瞬で済んだので既にビーチェ村に用は無かったのだが、今後の事を考えてリファロは村人たちに一つ忠告をする事にした。


「さすがにまた身元の怪しい人に仕事を頼むような事はしないと思いますけど、一つだけ言っておきます。自分たちだけで魔獣を退治するのは止めた方がいいですよ。今回は僕たちのせいにできましたけど次からはそうはいかないので、絶対に犠牲になった人の家族と他の人たちで揉めると思うので」


 全ての人間が魔法を使えるこの世界で小さな村が魔獣討伐を外部に頼む理由の一つがこれで、現時点で村の雰囲気が悪くなっている事を実感していた村人たちはリファロの忠告に何も言い返せなかった。


 そしてこれ以上の忠告は嫌味や憂さ晴らしになってしまうと考えながらリファロは最後に村人たちにある事を頼んだ。


「あなたたちを騙した人たちは今日中に捕まえます。お金はまだほとんど使ってないみたいなので誰かがギルドに取りに来て下さい。……一ヶ月以内に来なかったらギルドの方で処分するのでそのつもりでいて下さい」


 こう言ってリファロは立ち去るつもりだったのだが村人の一人がリファロに話しかけてきた。


「待ってくれ!あんた、死んだ人間を生き返らせられるんだろ?だったら今回死んだ連中も生き返らせてくれ!」


 具体的な金額までは知らなかったがこの発言をした村人、カミュはリファロによる『蘇生』の料金がとても個人では払えない程高額である事を知っていた。


 しかし自分たちが払うわけではないのならリファロに『蘇生』も使わせようとカミュは考え、こうしたカミュの考えを『回答者』で知ったリファロは今の気持ちを表情に出さないように努めながら口を開いた。


「無理です。亡くなった人を蘇らせるためには金貨二千枚払ってもらわないといけませんけど、あなたたちを騙した人たちにこんな大金が払えるとは思えませんから」


『転移』と『治癒』の代金の金貨六十枚すら今回の事件を起こした元冒険者たちから取り立てるのに何年もかかるとリファロは考えており、この状況で『蘇生』を使うつもりは無かったリファロの発言にカミュは怒りを露わにした。


「貧乏人は助けないって事か!人の弱みにつけこみやがって!」


「相手がお金を持ってるかどうかに関係無く僕は『蘇生』を気軽に使うつもりはありません。……今日クララス王国だけでもう十七人の人が事件とか事故で亡くなってて僕はこの人たち全員を蘇らせる事はできません。仮に一人か二人蘇らせても文句はどこかから文句は出るでしょうから、『蘇生』の料金に関しては足下を見てるんじゃなくて最初から断るつもりでつけてます」


 この発言の直前、クララス王国で今日この時間までに起きた事故と事件全ての詳細を『回答者』で把握したリファロは眉をひそめ、リファロの発言内容に気圧されながらもカミュは発言を止めなかった。


「ふん。お前の言っている事が本当かどうかなんて確かめようが無いからな。好きに言い訳をしていろ」

「そうですね」


 赤の他人、特に自分に敵意を持っている人間からの『回答者』への信用はリファロも課題だと考えていたのでリファロはカミュの発言に素直にうなずき、その後カミュの発言の内容が同じ事の繰り返しになった頃、リファロは転移装置を創り出してビーチェ村を後にした。


 クララス王国の首都、ベインジアのギルド支部に転移した直後、リファロはギルド職員に断ると魔導通信機のある部屋へと向かい、クララス王国とゼーナマイン皇国の王城に連絡を入れた。


 今回リファロが二つの国に伝えた内容は魔獣退治を行わずに料金だけを騙し取った元冒険者たちを王城の前に転移させるので捕まえて欲しいという内容で、一時間後に王城の前に犯人たちを転移させると伝えてからリファロはビーチェ村同様重傷者が出ていた二つの村に向かうために『転移』を発動した。


 二つの村での治療を終えた後、リファロは転移装置を使いベインジアにある王城近くへと転移し、リファロや天使たち用の転移装置が置かれていた王城近くの待機所にいた天使たちはいきなりのリファロの登場に驚いた。


 しかしここ最近ギルドの仕事を行っていた天使たちの間でも話題になっていた詐欺事件の犯人をこれから一斉に検挙するとリファロに伝えられた天使たちは納得すると同時に慌て出し、自分たちも現場に向かおうとした天使たちを説得してからリファロは徒歩で王城へと向かった。


 近くで適当に時間を潰してからリファロが王城に向かうと王城前には既に衛兵百人程が待機しており、リファロに気づくなり衛兵たちの指揮官が近づいてきた。


「今日は急なお願いをしてすみませんでした」

「いえ、こちらとしても犯人捜索の手間が省けて助かりましたので」


 ビーチェ村でリファロが言った様に今回の詐欺事件に関して冒険者ギルドには一切落ち度が無く、捜査権等も無いギルドとしては詐欺を働いた元冒険者たちの捜索から逮捕までを衛兵たちに任せるという流れが一般的だった。


 しかし今回リファロが関わった事で本腰を入れると百人単位の人員を割く必要がある仕事が一瞬で終わったのでクララス王国側としても大助かりで、ゼーナマイン皇国の準備も整っている事を確認してからリファロは『回答者』を眼の代わりにして詐欺を働いた冒険者たち五十人程をそれぞれの王城の前に転移させた。


 今回クララス王国の王城の前に転移させられた元冒険者たちは二十人程で、次はどこで詐欺を働こうかと考えていた元冒険者たちは突然周囲の光景が変わった事に驚き足を止めた。


 そして自分たちが転移させられたらしい事と衛兵たちの近くに場違いな少年が一人立っていた事を受けて元冒険者たちは状況を一瞬で理解し、一斉に逃げ出そうとした元冒険者たちを前にリファロは竜へと姿を変えた。


『創造者』を使ったリファロが一瞬で竜に変わり自分たちが巨大な影に覆われた事で元冒険者たちだけではなく衛兵たちも動きを止め、できれば衛兵たちには今の内に元冒険者たちを捕まえて欲しいのだがと考えながらリファロは口を開いた。


「ここに転移させられた時点でもう分かってると思いますけどどこに逃げても無駄ですし、今逃げるって言うなら容赦無く殺します。大人しく捕まるなら後はクララス王国の法律に任せるつもりです。……忠告はしたので後は好きにして下さい」


 こう言ってリファロが見下ろす中、元冒険者たちは全員が大人しく衛兵たちに捕まったのだが、リファロに『治癒』や『転移』の料金を請求されて元冒険者たちの一部が声を荒げ始めた。


「ふざけるな!お前が勝手に使った魔法の料金、何で俺たちが払わないといけないんだ!」

「安心して下さい。大人しく払ってくれるとは思ってませんから仕事はこっちで用意するので」


「おい!何黙ってこいつの言う事聞いてるんだ!こいつの言う事だけで俺たちを捕まえるって言うのかよ!俺たちは捕まるような事なんて何もしてない!こいつの言ってる事は全部でたらめだ!」


 自分たちが捕まる根拠が『回答者』などという得体の知れない能力だけならいくらでも言い逃れできると考えて元冒険者たちはしばらく声を荒げたが、近くにいた元冒険者一人をリファロが『裏世界』に送り込むと他の元冒険者たちは一瞬で黙り込んだ。


「今消えた人は別に殺してません。後でちゃんと元に戻すのでその前にこの人たちに天使の魔法についての法律を説明してもらっていいですか?僕が言っても信じないかも知れないので」


 自分たちの反論を気にも留めていないリファロや指揮官の態度に元冒険者たちが不安を覚え始める中、リファロに促された指揮官は元冒険者たちにクララス王国のある法律についての説明を始めた。


「冒険者と依頼人の間に揉め事が起こった場合、登録票でどちらが嘘をついているかはすぐに分かるので裁判にまで至る事はほぼ無い。しかし仮に裁判になった場合、クララス王国の法律では冒険者ギルドで使われている登録票は証拠として採用される」


「……それがどうした?」


 指揮官の説明を聞いた元冒険者たちはギルドを辞める際に失った登録票に証拠能力があろうが知った事ではないと考えたが指揮官の落ち着きようから何も言えず、元冒険者たちの予想通り、指揮官の発言には続きがあった。


「そして正式には我が国の法律では冒険者ギルドで使われている登録票を含む天使の魔法は全て証拠として採用される事になっている」

「だからそれがどうした!」


 天秤魔法の存在を知らなかった元冒険者たちは指揮官の発言の意味をすぐには理解できなかったが、指揮官から天秤魔法の説明を受けた直後、元冒険者たちのほとんどが絶望から表情を硬くした。


 しかし元冒険者たちのほとんどは自分たちが黙秘を貫けば天秤魔法は無意味だと気づき余裕を取り戻し、予想通りとはいえ全く反省していない彼らにリファロはとどめを刺した。


「何も言わなければ天秤魔法は意味が無いって思ってるのかも知れませんけど、あなたたちが裁判で黙秘を続けたら騙された村の人たちを連れて来るだけです。もちろんその場合、使った転移魔法の料金はあなたたちに請求しますのでそのつもりでいて下さい」


 このリファロの発言の直後、抵抗する術を全て封じられたとようやく悟った元冒険者たちは黙り込み、大人しく衛兵たちに連行される彼らを見送るとリファロは改めて指揮官に礼を述べた。


「ありがとうございました。部外者の僕が説明してもあの人たち納得しなかったと思うので本当に助かりました」


「いえ、これが仕事ですので。……彼らの取り調べに立ち会いますか?上からの許可はもらっています」


 今日訪れた村全てで怒号を飛ばされたリファロは精神的に疲れており、元冒険者たち全員が抵抗の意志を無くしていた事を『回答者』で把握していた事もあり指揮官の提案を断った。


 そして今日は疲れたので夕食まで屋敷で休もうと考えた瞬間、リファロは強化された『奉身者』が全て使えなくなった事に驚き、突然表情を硬くしたリファロに指揮官は心配そうな表情を向けた。


「大丈夫ですか?」

「……あー、大丈夫です」


 本当は全く大丈夫では無かったがアルベール魔王国で起きた問題をクララス王国の人間に伝えてもしかたないと考えたリファロは言葉を濁し、その後指揮官に断ると怒りを押し殺しながら転移装置を創り出してリキュアナへと転移した。

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