意見交換
アッキム王国からニードベルの屋敷に転移した直後、応接室に入るなりリファロはマナリュースたち三人に謝罪した。
「すみません。帰ったばかりなのにいきなりアッキム王国に行く事になっちゃって」
マナリュースはともかくエプランテとレオエフェールには二人がリファロの部下になった事を知らせるために先程のアッキム王国訪問には同行してもらう必要があり、出発前にもリファロは二人に慌ただしい日程になった事を謝っていた。
しかし『回答者』でアッキム王国の幹部たちの会話の内容を時折確認していた結果、明日以降になる予定だったアッキム王国訪問が早まった事は自分の落ち度だったので、リファロは再度マナリュースを含む三人に今回の落ち度を謝った。
しかし比較的リファロに反発してくるエプランテですら今回の急なアッキム王国訪問に気を悪くはしておらず、どちらかと言うと三人は先程のリファロとウェルマスたちの会話で出た古代兵器の事が気になっている様子だった。
「先程リファロ様がおっしゃっていた古代兵器というのは放っておいても大丈夫なのでしょうか?」
今存在している天使たちの中に古代兵器を直接見た者はいなかったが伝聞や資料で天使たちの間ではいくつかの古代兵器の詳細が伝わっており、レオエフェールも以前一度だけ上司から大地や海を断つ一撃を撃ち出せる古代兵器の存在を聞いた事があった。
このためレオエフェールは人間が古代兵器の技術を一部とはいえ軍事利用した事に恐怖を覚え、同時にリファロがアッキム王国の管理下にある古代兵器を破壊しようとしない事を意外に思っていた。
そして自分が古代兵器を放置する事にレオエフェールが不満を持っている事にリファロは気づいていたので古代兵器を放置した理由を三人に伝えた。
「レオエフェールさんがさっき話に出た古代兵器を怖がるのは無理も無いと思います。……何千年も前には今アッキム王国にある様な古代兵器が何十個もあって、竜や天使のみなさんの先祖が大きな犠牲を出してようやく壊せたみたいですからね」
「……その古代兵器とやらは強いのか?」
先程のアッキム王国でのリファロたちの会話を適当に聞いていたエプランテだったが古代兵器が自分たち竜を脅かしかねない存在だと聞き表情を変え、エプランテにあまり物騒な事に興味を持ってもらいたくはないのだがと考えながらリファロは口を開いた。
「今アッキム王国にある古代兵器の強さは分かりません。僕の『回答者』は誰も知らない事は分からないので。……一応天使のみなさんが保管してる資料には昔古代兵器を壊した時の事が詳しく書いてあるんですけど、あんまり勝手に話すのも悪いので簡単にまとめると動いてる古代兵器を一つ壊すのに大人の竜が三十体は犠牲になったそうです」
リファロが天使の中でも極一部しか閲覧を許可されていない資料の内容を把握していた事にはレオエフェールも驚かなかったが、言葉は悪いが部外者のマナリュースとエプランテにまで自分たちの資料の内容が伝わった事には複雑な気持ちを抱いた。
しかしこういった振る舞いを何度も重ねた結果、リファロはスイリーシュたちを屈服させたのだろうとレオエフェールは考え、リファロのおかげでレウグ聖峰を出る事ができた自分がこの程度の暴挙に不満を持つのは失礼だとすぐに考え直した。
そしてレオエフェールの一瞬の葛藤をよそにエプランテの質問は続いた。
「という事はブノワーム様でも古代兵器には一対一では勝てないという事か?」
「はい。古代兵器が開発された時代の技術は今よりかなり発達してたみたいですから。アッキム王国にある古代兵器、大きさだけで大人の竜の二倍はありますからね。将軍のみなさんの魔法でも傷一つつかなかったらしいので竜の炎でも簡単には壊せないと思います」
大人の竜をはるかに超える巨体と硬度に加えて古代兵器は魔導装甲にも応用された魔法を撃ち出す砲口に加えて技術者たちが用途を解明できていない穴が体の各所にあり、もし古代兵器が実戦に投入されていたら強化された『奉身者』が使えなかった当時の自分では勝てなかったかも知れないとリファロは考えていた。
「さっきの人間たちは動かせないと言っていましたけど分析を続けたら動かせるようになるんじゃないですか?」
これまで何度も規格外の能力を見せてきたリファロが負けるとはマナリュースは思っていなかったが起動前に破壊できるならそれが一番なのではと不安を露わにし、レオエフェールもマナリュースに同意する姿勢を見せる中、リファロは現時点で古代兵器を破壊するつもりが無い事を三人に伝えた。
「みなさんが古代兵器を警戒するのは分かります。実際戦う事になったら何の情報も無いから出たとこ勝負になりますし、もし僕が負けたらまたアッキム王国はアルベール魔王国に攻め込んでくるでしょうから」
古代兵器の存在を知り誰もが予想した最悪の未来をリファロは語ったが、それでもリファロに古代兵器を破壊するつもりは無かった。
「でも今古代兵器を壊すと三千人ぐらいの人が仕事無くしちゃうんですよね」
「え?」
想像もしていなかった方向からのリファロの発言にマナリュースは呆然とし、他の二人も同様の表情を浮かべる中、リファロは話を続けた。
「古代兵器の研究してる軍人が千人ぐらいいて、その軍人のみなさんが利用するようになって栄えてる町が三つあるんですよ。これから先、どうあがいてもアッキム王国の軍も貴族も経済的に大変な事になるでしょうから働き口はできるだけ残しておきたいっていうのが本音です」
「それでもし人間たちが古代兵器を使えるようになっても自分ならどうとでもできる、か。ずいぶんと余裕だな?」
からかう様な笑みを向けながらのエプランテのこの発言にリファロは苦笑した。
「そこまで調子に乗ってるわけじゃないですよ。勝てるとか以前にアッキム王国の人たちが古代兵器を動かすのが無理だろうなと思ってるだけで」
古代兵器及びそれらを作り出した人間たちと戦った際、当時の天使たちは情報漏洩を避けるために自分たちが戦った古代兵器の武装の内容こそ残したが、内部の仕組みについては一切の情報を残さなかった。
このため今この世界に古代兵器の動かし方を知る者はリファロを含めて誰もおらず、人員や資金が今後間違い無く削られるアッキム王国軍が古代兵器について新しい発見をする可能性は低いだろうとリファロは考えていた。
「まあ、動くかどうかすら分からない物についていつまでも話しててもしかたないですから古代兵器の話はこれぐらいにしましょう。……これからみなさんに任せたい仕事について話すつもりですけどその前に何か質問はありますか?」
いつまでもこの場にいる四人で常に集団行動を取るなどという非効率的な事を続けるつもりはリファロには無く、リファロは三人それぞれに任せたい仕事をこの時点で考えていた。
しかし適正とは別に三人にもそれぞれ希望があるだろうと考えてリファロは質問を促し、その直後マナリュースが予想外の質問をしてきた。
「先程ゼーナマイン皇国でシルナローバというエルフに会いたがっていましたが理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
リファロは戦争終了以降何度かアルベール魔王国の魔族に夜の誘いを受けていたがこれらの誘いを全て断っており、魔族の中にはリファロは魔族を異性としては見ていないのだろうという噂が流れていた。
そしてこの噂に焦りと絶望の入り混じった感情を抱いていたマナリュースはリファロが他国のエルフの女に興味を持った事に驚き、リファロの真意を確認する機会をずっとうかがっていた。
一方のリファロは自分が他国に鞍替えしないか心配しているのだろうと考えながら質問直後から表情を硬くしていたマナリュースの質問に答えた。
「シルナローバさんに会いたい理由は二つあって一つは不老の体で高い地位にいる人の意見を聞いてみたいからです」
こう言うとリファロは左手をつけている腕輪に一度視線を向けてから話を続けた。
「この腕輪もらい物なんですけど最初は正直不老になる機能は使うつもり無かったんですよ。正直疲れそうですし。でも細かい事考えないで暴れてたら簡単には死ねなくなったので一応僕なりに責任は取って二百年ぐらいは生きるつもりです」
このリファロの発言を受けてこの場で唯一長命種ではないマナリュースが悲しそうな表情を浮かべた。
しかし慰めの言葉を思いつかなかったリファロはマナリュースに何も言わず、こういった場面の対応方法も含めてシルナローバに質問をしたいと強く思いながら話を続けた。
「で、二つ目はシルナローバさんって『血の乙女』と互角に戦えるみたいなので単純に剣士として話してみたいなと思って」
それなりに剣の腕に覚えがあるリファロだったが自分が『血の乙女』と対峙して生き残れる自信など全く無かった。
しかしシルナローバと同じくエルフのミューナギスは倒せこそしなかったが『血の乙女』の攻撃を五分間しのげる強さと技術を持っており、ちなみに同等の技量を持っている者は周辺国家には他に後一人しかいなかった。
以前いた世界では一人しかいなかった達人の存在はリファロの心を湧き立させ、このリファロの発言にレオエフェールも驚いた様子だった。
「……フォルネーズ様を圧倒したという血の戦士をエルフがですか。……すごいですね」
フォルネーズとの模擬戦で使った『血の乙女』は『創造者』と併用していたのでまた話が違ってくるのだが、シルナローバたちがすごい事に変わりは無かったのでリファロはレオエフェールの勘違いを正さなかった。
そして話でしか知らなかった『血の乙女』が強いという事が前提で話が進む中、エプランテは不思議そうな表情を浮かべた。
「お前が操る血の化け物はそんなに強いのか?」
リファロが他の竜と戦闘や会談を行った際のやり取りをエプランテはリファロが思い出せる限り聞き出していたが、エプランテが知る限りリファロが竜を相手に『血の乙女』を使った事は無いはずだった。
このためエプランテは今まで『血の乙女』にあまり興味を持っておらず、エプランテに変に興味を持たれても困るのでリファロはエプランテの質問にすぐに答えた。
「多分エプランテさんが思ってる程は強くないですよ。……僕が言っても説得力無いでしょうけど竜って子どもでも強いですから生まれてすぐの竜でも『血の乙女』じゃ倒せないと思いますし、『血の乙女』の強さは大体人間の兵士二千人分ぐらいの強さじゃないですかね」
「でもお前は血の化け物を別の能力で強くできるんだろう?その気になれば自分や他の者を創り出せるとも聞いているしな」
リファロが自分や他者を創り出せると聞きレオエフェールは驚きの表情を浮かべ、そう言えばまだ自分ができる事の一覧表をレオエフェールに渡していなかったなと思いながらリファロは話を続けた。
「……これは竜のみなさんを馬鹿にしてるとかじゃなくて単に価値観の問題だと思って欲しいんですけど、時間をかけて磨いた技術をすごいと思う種族って割と多いんですよ」
「お前程強くてもか?」
雑魚同士が程度の低い力比べで自尊心を満足させているというだけの話ならエプランテも一応納得はできた。
しかし自分たち竜を一族まとめて殺せるだけの強さを持つリファロがたかが兵士二千人に匹敵する程度の存在に興味を持っていると知りエプランテは困惑を深め、まだ納得していない様子のエプランテにリファロは焦る必要は無いと伝えた。
「種族間の価値観の違いはすぐには埋められないと思います。僕もその辺りで助言をもらえればと思ってシルナローバさんと話したいわけですし。これからも僕に力を貸してくれるならその内何となく分かると思いますよ。正直な話、正解がある話でもないですから」
このリファロの発言を聞いたエプランテは困惑を深めて不快そうな表情すら浮かべていたがこれ以上問答を続けても今すぐ自分が納得できる答えは得られないと悟り質問を終えた。
そして思わぬ方向に話が向かった雑談を終えたリファロは三人に仕事についての要望があるかを確認した後、マナリュースとエプランテに今後頼みたい仕事について書かれた書類を手渡した。
当面の間リファロはマナリュースにはアッキム王国南部及びアルベール魔王国内で荷物や人員の運搬を行うハーピィの統括と教育を、エプランテには各国での魔獣狩りを頼みたいと思っており、これらの仕事の内容の手順は既に書類にまとめてあった。
しかしリファロがレオエフェールに頼みたい仕事、レオエフェールが召還した天使によるアルベール魔王国各地での人手不足の解消の手順は直接レオエフェールと話さなくては決められず、これからリファロはレオエフェールと二人で細かい点を詰めていく予定だった。
このため具体的な仕事は明日からだったがマナリュースとエプランテはリファロたちを残して使用人たちと共用の寮へと向かい、リファロとレオエフェールはお互いの能力についての詳細も話しながら二時間程話し合いを行った。




