予定追加
エプランテが部下になった二日後の午前中、リファロはマナリュースとエプランテ、そしてオーガとラミア一人ずつの計四人と共にゼーナマイン皇国の首都、クオルルシに転移した。
転移装置でクオルルシのギルド支部に転移したリファロの前にはギルドの幹部や天使たちがいたが、最初にリファロに話しかけてきたのはギルドとは直接関係無いエルフの女だった。
「お初にお目にかかります。ゼーナマイン皇国で騎士団長を務めているシルナローバといいます。今日はリファロ様にお願いがあり、天使のみなさまに無理を言ってこの場にお邪魔しました」
リファロは天使側から天使の幹部の一人、ネルモンが討伐し切れなかった魔獣の討伐依頼とレオエフェールの紹介については事前に知らされていた。
しかしこの場にシルナローバがいるとは聞かされていなかったのでリファロは多少戸惑い、リファロが一瞬視線を向けるとギルドの幹部やネルモンたちが気まずそうな表情を浮かべていた。
シルナローバは見た目こそ二、三十代と若かったが八百歳以上のエルフで同年代のもう一人のエルフと共に建国時からゼーナマイン皇国に仕えてきたエルフだった。
このため役職こそ騎士団長だったがシルナローバは将軍や大臣はおろか皇帝にすら意見する事ができ、ゼーナマイン皇国の上層部に強い影響力を持つシルナローバからの強い要請にはギルドの幹部も天使たちも逆らえなかったのだろうとリファロは考えた。
特に今この場にいるギルドの幹部たちは今回の不祥事で幹部が軒並み逮捕や追放された結果繰り上がりで幹部になった者がほとんどだったので、幹部就任早々、この様な場に顔を出す羽目になった幹部たちに同情しながらリファロはシルナローバに返事を返した。
「お願いというのは何でしょうか?もしギルドに関係の無い事ならすみませんけど後にして下さい。もう聞いているかも知れませんけどアッタプロという街の近くで魔獣による被害が何百人も出てて早めに駆除しないと被害が広がる可能性があるので」
一週間程前にある魔獣がゼーナマイン皇国の南西にある小さな村を襲い、村民七十人程が犠牲になった。
この被害は村を定期的に訪れていた薬師がギルド支部に知らせた事で発覚し、その後国が正式に調査したところ他に周辺の四つの村が犠牲になっていた事が判明した。
この世界では村が魔獣に直接襲われる事は珍しくなく、こういった場合は村に大きな犠牲こそ出るが魔獣自体は全員魔法が使える村人の手で倒される事がほとんどだった。
このため近隣の五つもの村が一人の生存者もおらず全滅していたと知りゼーナマイン皇国上層部は『名持ち』の出現を確信し、一つ目の村がいつ襲われたかすら正確には分からない状況に冒険者ギルドの混乱が重なり頭を抱えた。
この騒ぎを引き起こした魔獣はムカデ型の魔獣で地中を掘り進み村々を襲撃し、この魔獣自体は体長七メートル程までに成長していたところを六日前にネルモンと部下たちにより討伐された。
しかし三日前にアッタプロ近郊でムカデ数十匹に二十人程の商隊が襲われる事件が起き、大きいもので体長一メートル程まで成長していたムカデたちは偶然近くを巡回していた天使たちの攻撃を受けて地中へと逃げ込んだとリファロは聞いていた。
今回ゼーナマイン皇国や天使たちを悩ませているムカデ型の魔獣は繁殖する点も厄介ではあったが一番の厄介な点は地中を移動している点だった。
親の魔獣は七つ目の村が襲われていた時にネルモンたちが発見して討伐したがこの際も魔獣は即座に地中に逃げ込もうとし、強力な土属性の魔法が使えるネルモンが周囲の地面ごと魔獣を引きずり出さなければ逃げられていた可能性が高かった。
そして親の魔獣との偶然の遭遇以降、魔獣の群れを発見できなかった天使たちは襲撃の瞬間まで姿を確認できない上に戦闘が始まると即座に地中へと逃走を図る魔獣の群れの根絶という不可能に近い難題を抱えそうになった。
しかし『回答者』を持つリファロなら魔獣の群れの発見から討伐まで容易に行えるのではと天使たちは考え、天使たちから事情を聞いたリファロはすぐに魔獣の討伐を引き受けた。
そして近場に餌場が無くなった魔獣の群れは現在移動を始めており、この移動の際に群れが分かれては面倒だったので一刻も早く魔獣の討伐に向かいたかったリファロの発言を受けてシルナローバは大人しく引き下がった。
「はい。リファロ様たちの事情は聞いております。……ここに部下を一人残していくので都合のいい日時を教えていただけないでしょうか?」
「……明日は魔獣退治の仕事がありますけど、あさって以降は急ぎの仕事は無いのであさって以降ならいつでもいいですよ」
魔獣の討伐依頼が途絶える事はまず無かったが今回の様な大きな被害が出る事案はめったに無く、アッキム王国の軍がアルベール魔王国から完全に撤退するまで急ぎの用事も無かったリファロの返事を聞きシルナローバはすぐに口を開いた。
「ではあさっての午前十時にお迎えにあがります」
「あ、いや、ここをギルドに関係無い用事に何度も使うのも悪いですし、もしあなたたちが気にしないなら城の前まで転移します。僕の他に部下も何人か来ると思いますけど」
こう言ってリファロが視線を向けた先にはオーガとラミアの他にエプランテまでいたのでシルナローバは一瞬怯んでしまったが、竜より強いと聞いている相手を城に招こうとしているのだから竜の一体程度誤差だと自分に言い聞かせた。
「もちろん部下のみなさまも歓迎いたします。ではあさっての午前十一時に城の前でお待ちしております」
「はい。分かりました」
リファロとあさっての予定についていくつか話し合った後、シルナローバは部屋の外で待機していた部下たちと共に城へと帰り、ギルドの幹部たちも退室してからネルモンはリファロにレオエフェールを紹介した。
「現場に行く前に彼女の紹介だけさせて下さい。今日からリファロ様の下で働くレオエフェールです」
「レオエフェールといいます!リファロ様の活躍はネルモン様たちからお聞きしています。どうかよろしくお願いします!」
一見十代半ばの少女にしか見えないレオエフェールだったがリファロの倍は生きており、今回レオエフェールが自分の下に派遣された理由を『回答者』で把握していたリファロは心の底からレオエフェールを歓迎していた。
「僕も何でもできるわけではないのであなたの力を借りられて心強いです。今後の事についてはとりあえず魔獣を倒してから話しますけどこれからよろしくお願いします」
こう言ってリファロが頭を下げるとレオエフェールは慌てながら頭を下げ、苦笑しながらレオエフェールに頭を上げるように頼んだ自分を見てエプランテが眉をひそめている事に気づかないままリファロは口を開いた。
「今回は小さな魔獣をたくさん倒すだけなので僕一人で行きますね」
魔獣討伐への参加は明日の予定で今日は人間の街に慣れてもらうために連れてきたオーガとラミアはともかく、一応は直属の部下のマナリュースとエプランテは現場に連れて行くべきかリファロは一瞬悩んだ。
しかし三分もかからない仕事に二人を同行させるために強化された『転移』を使うのはもったいなかったのでリファロは今日の現場には一人で向かう事にし、エプランテが少し不満そうにしていたが結局リファロは一人で現場へと転移した。
リファロはアッタプロから南に二十キロ程離れた場所に転移し、転移直後地面に視線を向けた。
「……本当に音全然聞こえないんだな」
襲われた村で生存者がいた村がネルモンたちが間に合った村だけだったので予想はしていたが、『回答者』によると数十体の魔獣たちが進んでいるらしい地下からは何の音も聞こえない事にリファロは驚いた。
そしてしばらく耳を澄ました後、襲撃直前なら少しは移動音が聞こえるのかも知れないが今回の魔獣たちの接近をこの世界の人間が事前に察知する事は不可能だなと考えながらリファロは『創造者』でネルモンの能力を再現した。
土属性の魔法を得意とするネルモンは土から鉄を作り出して操る事ができ、土は通常の土属性の魔法で創り出せるので事実上どこでも鉄を作り出す事ができた。
そして視界を埋め尽くす程の量の鉄を操る際、この魔法は『黒嵐』と呼ばれ、作り出されてから数分間は鉄をはるかに超える硬度を持つこの『鉄』は無数の刃や盾となり戦場を支配した。
今回リファロは刃渡り一メートル程の刃を三百枚程創り出して『回答者』で探り当てた魔獣の群れのもとへと差し向け、移動中の魔獣たちと違い魔獣たちに全方位から迫る刃は移動音を周囲に響かせながら地中を掘り進んでいたので魔獣たちは何者かの接近にすぐに気づいた。
しかし音のしない方向に逃げようとした魔獣たちは逃げ場所が全く無い事にもすぐに気づき、近くの仲間たちと押し合いになりろくに動く事もできないまま体中を斬り刻まれていった。
一度も練習せずにいきなり『黒嵐』を使ったリファロの刃の操作の練度は決して高いものではなかったので最初の襲撃でリファロは魔獣を半分も倒せず、最初の攻撃の直後生き残った魔獣たちは散り散りに逃げ出してしまった。
しかし最大の武器、隠密性の高さを『回答者』で潰された魔獣たちが逃げ切れるわけも無く、運の悪い魔獣は死ぬまでに七回以上体を斬り裂かれて魔獣たちは三分とかからずに全滅した。
「……これ便利だけど使い過ぎるとまずいかな」
極端な話、避ければいい『熾炎』と違い使い手を倒さない限りどこまで敵を追う武器を操る『黒嵐』は威力が過剰ではないという点も含めて理想的な技だとリファロは考えた。
しかも『黒嵐』で作り出した鉄は時間が経っても消えないのでリファロは今回作り出した鉄を復興のために物資が必要なアルベール魔王国に贈ろうと考えており、鉄が値崩れしたら責任を持てないので『黒嵐』で鉄を調達するのは今回限りにしようと考えながら地中の刃を引き上げた。
「げっ……」
予想はしていたが地中から引き上げた刃は全てに魔獣の血や内臓がついており、十秒もかからずに周囲が異臭に包まれる中、もちろん今回手に入れた鉄は洗ってからアルベール魔王国に贈るつもりだが包丁などには使わない方がいいと伝えようとリファロは考えた。
しかしこの直後『回答者』を使ったリファロはアルベール魔王国の魔族たちが自分たちとの戦闘でアッキム王国の兵士が使った武器なども溶かして利用していると知り、鉄の使用方法は当人たちに任せた方がいいと結論づけた。
「……とりあえず洗うか」
訓練の結果、リファロは現在位置とは違う場所に現れる形で『裏世界』を創り出せるようになっており、今回『裏世界』に入ったリファロはアルベール魔王国にある大きな河の岸の近くにいた。
そして確実に人目を避けられる場所に着いたリファロはネルモンの魔法を使い天使を三百体召還し、天使たちに刃を洗わせると刃を変形させて大きな三つの塊に変えた。
今回の魔獣の群れとの戦闘で『黒嵐』を使う事になると予想していたリファロは屋敷で働いているドワーフに相手に贈る際に鉄をどの様な形で贈ればいいか事前に相談し、ドワーフの助言通りに鉄を変形させた。
もう少し小さくした方が色々使いやすいのではとリファロは鉄の塊を前に考えたが専門家の意見なのだから黙って従おうとすぐに考え直し、強化された『転移』で鉄の塊を事前に打ち合わせていたリキュアナのとある場所に送るとクオルルシに転移した。




