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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
3章

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王城訪問

 ムカデの魔獣の群れを倒した翌日の昼、リファロは予定通りゼーナマイン皇国の王城前に転移し、リファロの訪問を事前に伝えられていたので城門を守っていた兵士たちはリファロたちがいきなり姿を現しても驚く事は無かった。


 今回リファロはマナリュース、エプランテそしてレオエフェールと共に王城を訪れ、リファロたちを出迎えた文官たちはリファロの部下に人間が一人もいない事に驚いていた。

 文官たちはシルナローバからリファロが竜を連れて来る可能性には言及されていた。


 しかし一応は人間だと聞いているリファロが部下を人間以外で固めているとは文官たちは思っておらず、ゼーナマイン皇国は他の国同様今後のギルド運営についての話し合いは既に天使たちとの間で終えていたのでリファロに天使が同行していた事に驚いていた。


 カリオルクァ神聖国から出てくる事すら稀な天使がリファロに同行しているという事は天使は完全にリファロの支配下にあるのかと疑いながら文官たちはリファロたちを会議室に案内し、こちらに探る様な視線を向けてくる文官たちを前に既にリファロは疲労感を覚えていた。


 しかし昨夜『回答者』で確認した文官たちの悩みを放置するとアルベール魔王国とゼーナマイン皇国の間に修復不能な亀裂が入る可能性があったので、リファロは彼らの不快な視線に気づかない振りをしながら足を進めた。


「まずは一昨日と昨日の魔獣討伐に感謝いたします。特に一昨日の魔獣はリファロ様でなければ対応が困難だったと聞いております。本当にありがとうございました」


 全員が席に着くなりゼーナマイン皇国の外務大臣、クロテインがここ二日間の魔獣討伐に対しての礼をリファロに述べ、これに対してリファロは謝罪の言葉を口にした。


「いえ、あそこまで被害を出してしまってすみませんでした。……割と多いんですね。発見や追跡が難しい魔獣って」


 国民の強さの平均が高いアルベール魔王国を除く周辺の四つの国々では毎日の様に魔獣の被害が出ており、『回答者』を持っている自分でもこれら全てに対応する事は不可能だとリファロはこの世界に来てすぐに判断した。


『転移』の使用回数に限りがあるからでこの判断は今でも間違っていないとリファロは考えていたが、数十人単位の被害を出す可能性がある魔獣の出現だけに限ればこの限りではないと今回の魔獣の群れの一件で思い知らされて反省していた。


 今回のムカデの魔獣の様に繁殖力が高い魔獣は珍しかったが空中や地中を移動して広範囲に大きな被害を出す魔獣自体は決して珍しくなく、先日自分の『眷属』になったルドディスが倒したカマキリ型の魔獣も放置されていたら村の一つぐらいは壊滅していた可能性があるとリファロは一昨日『回答者』で知った。


 このため大きな被害を出す可能性が高い魔獣には今後警戒しようとリファロは反省したが、アッキム王国と竜の動向やアルベール魔王国内で起こりつつある問題について『回答者』で一日に何度も調べている現時点で仕事量がリファロの許容を超えつつあった。


 そしてこの他にも能力の実験や領主としての仕事も少なからずあるので今後魔獣の被害をどこまで防げるかとリファロは不安を覚えており、自分たちはもちろん天使たちですら対処が困難だった魔獣を事も無げに討伐しておきながら謝罪してきたリファロを見てクロテインは黒い感情に襲われた。


 リファロが今回の件で罪悪感を覚えているなら強気の交渉ができるのではと考えたからだ。

 しかし相手がアッキム王国軍相手に大虐殺を行った上に竜を従えている化け物だという事をすぐにクロテインは思い出し、アッキム王国の二の舞は踏むまいと考えながら口を開いた。


「私どもは魔獣の事には詳しくないのですが騎士団長の話ではあの魔獣は数十人以上の冒険者を長期間派遣する必要がある相手だったそうです。犠牲が大きくなってしまった事は残念でしたがどうかお気になさらずに。ですができるだけすぐに村を再建したいとは思っていますのでその際はお力添えいただけると幸いです」


 今回魔獣に襲われた村々のあった場所は国防や資源といった点で特に重要な場所ではなかったが、無人の場所を放置すると強力な魔獣の発見が遅れてしまうので移住者を国が多少強引に募ってでも今回犠牲になった村々の再建を急ぐ必要があった。


 こうした事情をリファロは『回答者』で把握していたがギルドの手前あまり安請け合いもできなかったのでとりあえずあいまいな返事を返した。


「はい。毎日は無理かも知れませんけどできるだけ気をつけておきます」


 このリファロの発言を受けてクロテインはもちろん他の文官たちも『回答者』の詳細が気になったが、ギルドを通して発表した以上の情報をリファロが話す気が無いと天使たちに伝えられていたので『回答者』に対する質問は控えた。


「天使のみなさまはギルドと無関係の仕事には関わらないと聞いていましたが、今日彼女が同席している理由を聞いてもよろしいでしょうか?」


 カリオルクァ神聖国以外と関わろうとしない天使の方針を高慢だと受け取る者も多かったが、こうした天使の方針を歓迎している者も多く、特に各国の上層部ではこの傾向が強かった。


 このため各国の冒険者ギルドの幹部の不正に端を発した天使のギルドへの介入を各国の上層部は警戒しており、こうした状況で要注意人物のリファロが天使を連れて来たのだからクロテインたちは警戒心を強めていた。


 そしてクロテインに視線を向けられたレオエフェールは戸惑った様な表情をリファロに向け、自分がクロテインたちへの説明を行っていいのか悩んでいたレオエフェールに代わりリファロがクロテインの質問に答えた。


「ご存じかも知れませんけど天使のみなさんはあまり外部と関りを持とうとしません。でも彼女は外部との交流に積極的なので僕のところで働く事になりました。昨日から僕のところで働く事になったのでまだ正式は発表されてませんけど彼女は別に天使の代表でも何でもありません」


 外部との交流に積極的というレオエフェールの思想は天使の基準では異端で、このためレオエフェールは半月程前までは幽閉されていたがリファロの下に潜り込ませるには最適の存在だった。


 そして天使たちはリファロの監視下ならレオエフェールの能力をどの様な目的で使っても構わないという破格の条件でレオエフェールをリファロの下に派遣したが、レオエフェールの思想が自分たちにとって異端だという事を天使たちは隠すつもりは無かった。


 このためレオエフェールをリファロの下に派遣する際、天使たちはレオエフェールのした事に一切責任を持たず、レオエフェールが例え殺されても一切報復はしないという条件もつけた。


 あさってに各国のギルドを通じて正式に通達される予定のこの条件にリファロは眉をひそめたが、天使の矜持を守るためであなたの事を信じているからこその条件だとノルニックに直接頭を下げられて渋々引き下がった。


「ギルドの仕事をする魔族と一緒にいる事はこれからもあるかも知れませんけど僕の部下はこの三人だけです」


「……なるほど。こちらの方もあくまでも個人的にリファロ様の下で働いているという事でよろしいですか?」


 全く恐怖を隠せないまま自分に視線を向けてきたクロテインをにらみつけながらエプランテは口を開いた。


「当たり前だろう。ホーエイトの竜たちは馬車代わりに使われているらしいが私たちリンダホンの竜は別にこいつに従ってはいない。私が暇潰しにつき合ってやってるだけだ」


 その気になればエプランテは尾も消せるのだが面倒だからという理由で尾をそのままにしていたのでいすに横たわったままクロテインの質問に答えた。


 このエプランテの体勢については着席前にリファロが断っていたのでクロテインたちは内心はともかく何も言わず、言いたい事は言い終えたとばかりに黙り込んだエプランテを横目にリファロはクロテインたちに自分たちの立場を伝えた。


「こうやって城に呼ばれてから言うのも何ですけど僕たち別にそれぞれの集団の代表でも何でもないです。僕もアルベール魔王国では領主の一人ですし。だから聞ける頼みにも限界はあると思いますけど何か頼みがあるならどうぞ」


「……リファロ様は私たちの頼みを知っているのでしょうか?」


『回答者』の詳細を伝聞でしか知らなかったクロテインの質問を受けてリファロは少し考え込んだ。


「……まあ、一応。でも僕が勝手に話を進めて後から文句を言われても困るので一応直接言ってもらっていいですか?ただ一つ言っておくと援軍を送ろうとして途中で引き返した事はアルベール魔王国のみなさんに知られる前に謝っておいた方がいいと思います」


 アルベール魔王国の国民はアッキム王国の侵略を受けていた自分たちにゼーナマイン皇国が一切援軍を送らなかった事を今でも恨んでいた。


 しかし実際はリファロの言った通り、ゼーナマイン皇国は戦争開始から一ヶ月も経たない内に一万五千人からなる援軍を用意してアルベール魔王国に送り込もうとし、その後アルベール魔王国の劣勢を知り慌てて援軍を引き上げた。


 ゼーナマイン皇国の上層部は援軍をかなり早めに引き上げたので、他の国と違い他国に諜報員を潜り込ませる事ができないアルベール魔王国にこの事実は知られていないと思っていた。


 このためリファロに自分たちがアルベール魔王国を早期に見捨てた事を指摘されてクロテインたちは表情を硬くし、クロテインたちをにらみつけるマナリュースをなだめてからリファロは話を続けた。


「他の国の大臣のみなさんとかにも言ったので言いますけど僕はこの国が他の国に送り込んでる諜報員の数も名前も全部分かります。……みなさんが答え知らないみたいなので今すぐ証明はできませんけど」


 思わぬ形で『回答者』の脅威を思い知らされて言葉を失っていたクロテインたちにリファロは安心するように伝えた。


「安心して下さい。こう言い方もあれですけど諜報員送り込んでるのはどの国も同じなのでアルベール魔王国に送り込まない限りは特に何も言いませんから」


 アッキム王国の融和派との交流があるニードベルを除くアルベール魔王国内では人間は目立つので、送り込みたくてもどの国も諜報員は送り込めないだろうがと考えながらリファロは話を続けた。


「まあ、とにかくそういうわけでみなさんが僕に頼みたい事は察しがついています。でもさっきも言いましたけど一応言葉にして欲しいです」


 このリファロの発言の直後、部下たちと視線を交わしてからクロテインはリファロにここ十日程自分たちを悩ませている問題を伝えた。


「リファロ様がアッキム王国に勝利なさったと知り私どもはすぐにアルベール魔王国に謝罪のための使節団を送りました。使節団は十日程前にアルベール魔王国との国境に着いたのですがそこで足止めを受けている状況でして……。アルベール魔王国と私どもの仲介をお願いできないでしょうか?」


 ゼーナマイン皇国はアルベール魔王国との国境から徒歩で四時間程の場所にクオルルシに直通の転移装置を設置しており、アッキム王国の敗北という全く予想していなかった事態に慌てながらも二日で準備を終えて謝罪のための使節団をアルベール魔王国に送った。


 そしてこの際、クロテインを含む使節団の全員が自分たちは歓迎されないだろうと覚悟してアルベール魔王国との国境に向かったのだが、アルベール魔王国の魔族の反応はクロテインたちの想像以上に苛烈だった。


 一度目に使節団が国境沿いの検問所を訪れた際、魔族たちは今更何をしに来たと使節団を罵った上に一部の魔族は武器まで手にし、手紙を渡すどころかろくに言葉も交わせないまま使節団は逃げ帰る事となった。


 魔族たちが本気で自分たちに危害を加えるつもりならハーピィによる追跡が行われていたはずだったので、アルベール魔王国の魔族たちとの交渉の余地はあるはずだと考えたクロテインたちは二日後に二度目の交渉を行おうとした。


 しかしこの際、周囲の制止を振り切ったオーガ数人に使節団の馬車の一部が破壊された上に負傷者まで出たのでクロテインたちはアルベール魔王国との交渉を一時中断して撤退し、そして今日、ようやくリファロと話す機会を得る事ができた。


 ゼーナマイン皇国は国内にエルフが多く住むセスの森と呼ばれる森を抱えており、街の中でも数こそ少なかったがエルフの姿を見る事ができた。


 しかしゼーナマイン皇国とアルベール魔王国以外では他の魔族同様エルフも肩身の狭い思いをしており、戦争前ですら訪れたエルフが行方不明になる事が多かったアッキム王国は論外だったが、他の国でもエルフは店の利用を断られる等の扱いを受ける事が珍しくなかった。


 このためアルベール魔王国との行き来を頻繁に行う者も多かったゼーナマイン皇国のエルフの中には援軍を引き上げる決定をしたゼーナマイン皇国上層部に不満を持つ者も多く、この状況でアルベール魔王国との関係悪化を放置し続ける事は避けたいとゼーナマイン皇国の上層部は考えていた。


 また今後情勢や経済の悪化が避けられないはずのアッキム王国から他の国々に難民が流出してくる可能性があり、難民がアルベール魔王国に逃げる事はまず考えられなかった。


 このため難民の流入の影響を一番大きく受ける可能性が高いゼーナマイン皇国としてはこの問題への対策のためにもアルベール魔王国との協力が不可欠だと考えており、場合によっては一部難民の受け入れをアルベール魔王国に頼みたいとまで考えていた。


 そして難民の受け入れについては時期尚早だと考えて口にしなかったクロテインたちの説明を受けてリファロは少し考えてから口を開いた。


「……安全にアルベール魔王国と話し合える場所を用意する。ここまでは多分大丈夫だと思います。でも話し合いの結果がどうなるかまでは責任を持てませんよ?」


「こちらとしてもできる限り条件等はのむつもりですがリファロ様にもお力添えいただければと思っています」


「アルベール魔王国に交渉の場を用意してもらう。これ以上の事をするつもりはありません。……僕の頼みってアルベール魔王国のみなさんにとっては命令と変わらないでしょうから」


 正直な話、リファロにアルベール魔王国からの譲歩を引き出す役割を期待していたクロテインたちはリファロの考えに内心顔をしかめたが、アッキム王国の侵略で疲弊しているアルベール魔王国が相手なら交渉の場にさえ立たせれば互角以上の条件を引き出せるはずだと考えて何も言わなかった。


 一方クロテインたちから侮蔑などの悪意を強く感じ取っていたリファロは『回答者』を数分前から発動しており、難民の受け入れを含むゼーナマイン皇国側の思惑全てとアッキム王国の侵略から始まった一連の騒ぎに振り回され続けている事へのクロテインたちの強い怒りを把握していた。


 しかしシルナローバへの手前、クロテインたちがアルベール魔王国相手に露骨に無理や犠牲を強いる交渉をする可能性が低い事もリファロは『回答者』で把握していたので、素人の自分がへたに口を挟まずとも両国間はそれなりの形には収まるだろうと考えながら話し合いを終わらせる事にした。


「今から帰ってアルベールのみなさんに今日の話をして、……返事の手紙はこの城の転移装置に送ればいいですか?」


『回答者』で世界中全ての転移装置を使える事をリファロが伝えるとクロテインたちは一瞬表情を硬くしたが、そもそもリファロが身一つで転移魔法を使える事を思い出すと諸々の対策を諦めてリファロの提案を受け入れた。


「それと、これは個人的な頼みなんですけどシルナローバさんに会う事はできないでしょうか?国の事とか関係無く少し話してみたいと思って」


 このリファロの発言にマナリュース、エプランテ、レオエフェール全員が表情を変えたが、リファロとの雑談はシルナローバの希望でもあったのでクロテインは動揺する事無くシルナローバからの伝言を口にした。


「シルナローバ様もリファロ様とゆっくり話したいとおっしゃっていて、二日前までに連絡をもらえればいつでも構わないとおっしゃっていました」


「……分かりました。多分みなさんの最初の話し合いまでは僕も忙しくなると思うのでその翌日に会いたいと伝えておいてもらえませんか?」


「……分かりました」


 自分の半分も生きていないはずのリファロに伝言役にされてクロテインは少なからず怒りを覚えたが、他に解決策の無かったアルベール魔王国との仲介の見返りだと考えて我慢した。


「先程も申しました通り、アルベール魔王国との話し合いでは双方が納得できる形を目指したいと思っております。しかしそれとは別に私どもの間を取り持って下さったリファロ様にささやかながら謝礼を用意させていただきました」


 こう言ってクロテインが差し出した謝礼金、金貨六十枚は通常の『転移』の使用料二回分だったのでリファロは遠慮無く受け取り、その後軽い礼と牽制を兼ねてクロテインの政敵の弱みをクロテインに伝えてから三人と共に『転移』でニードベルへと帰った。

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