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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
3章

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新しい部下

 リファロたちがアッキム王国からの転移先にしていた場所はリキュアナにある王城の敷地内で、転移直前にリファロは自分の屋敷の使用人より先にリキュアナで待っている魔族たちをエプランテの存在で驚かせてしまう事に気づいた。


 しかし今更連れて行けないなどと伝えてエプランテの機嫌を損ねるのも面倒だったのでリファロはそのまま転移装置でエプランテと共に転移し、案の定リファロと共に転移してきたエプランテを見てディルシュナたちは驚きの表情を浮かべていた。


「リファロ様?……そちらの方は竜、ですか?」


 エプランテは翼こそ消していたが尾は出したままだったので最初ディルシュナたちはリファロの横にいたエプランテをラミアだと思った。


 しかし服の裾から見えていた脚を見てディルシュナたちはすぐにエプランテの正体に気づき、一方のエプランテはこの場にいるリファロを除く全員の視線を受けて不快そうな表情を浮かべた。


「何だ?竜が珍しいか?」


 こう言うとエプランテは翼を広げて尾まで動かしながらディルシュナたちをにらみつけ、いきなり周囲の魔族を威嚇し始めたエプランテをリファロはなだめた。


「ギルド入りたいってそっちから言っておいていきなりそれですか?……悪い事言いませんから今すぐリンダホンに帰った方がいいですよ?その方がお互い不快な思いしなくて済みますし」

「ふん。さっさと話を終わらせろ」


 リファロの発言に眉をひそめた後、エプランテは翼を消して一歩退がり、とりあえずは大人しくなったエプランテに一度視線を向けたリファロはこの場をできるだけ早く収めた方がよさそうだと考えながらディルシュナに話しかけた。


「先に言っちゃいましたけどこのエプランテさんがギルドで働きたいらしくて、今から詳しく話をするところなんです。具体的な事が決まったらまた知らせます」

「……はい。分かりました」


 一応ミルヒガナの代理として救出された魔族たちの出迎えの場に出席していたディルシュナは王族としての矜持で表情こそあまり変えていなかったが、本心ではリファロがいなければ目の前の竜からすぐに逃げ出したかった。


 このため今回はさすがにリファロをお茶に誘う余裕はディルシュナにも無く、いつもより慌てた様子で死体として回収された魔族を蘇生したリファロがマナリュースとエプランテと共にニードベルに転移した後、ディルシュナは安堵のため息をついてから城へと戻った。


 転移装置でリキュアナからニードベルにあるリファロの屋敷に直接転移した直後、エプランテは抱いたばかりの疑問をリファロにぶつけた。


「おい、転移装置は一つにつき一ヶ所にしか転移できないと聞いているぞ?どうして同じ転移装置を使ったのに違う場所に転移できる?」


 転移先がレウグ聖峰に指定されていたのでエプランテは触った事が無かったがリンダホン山脈にも転移装置はあり、エプランテも他の竜同様転移装置についての一通りの説明は受けていた。


 このため自分たちが知らない間に転移装置はここまで改良されていたのかと驚いていたエプランテの質問を受け、リファロは転移装置の仕様と自分たちの事情を説明した。


「転移装置は両方の起動番号を合わせればどの転移装置にでも転移できますよ?転移先にすぐに連絡する方法が無くて、よっぽど相手を信用してないと転移装置の起動番号を相手に教えられないのであなたが言った使い方しかできないだけで」


 他国に設置された転移装置の起動番号を知る事ができれば諜報員を一人送り込むだけで他国での要人の暗殺や誘拐が可能になり、その気になれば転移装置を奪い都合のいい場所に軍隊を送り込む事もできた。


 このためリキュアナに設置されている転移装置も普段は王城の最上階の専用の部屋に置かれ、この転移装置の番号を知る者はミルヒガナを含めて十人もいなかった。


 そして各国の要人や転移装置を管理する役職に就いている者は機密事項の起動番号を紙などに記さずに覚えるしかなく、『回答者』のおかげでこうした苦労とは無縁のリファロの事情を聞かされてエプランテは呆れた様な表情を浮かべた。


「……お前のその『回答者』という能力は本当にずるいな」

「まあ、それに関しては反論できません」


 言葉こそ違ったが同様の意見はこれまで何度も聞いてきたのでエプランテの恨めしそうな視線に苦笑しながらリファロは転移装置の置かれた部屋から自分の部屋に向かい、エプランテに席に着くように促してから机の上の呼び鈴に視線を向けた。


 使用人を呼び鈴で呼ぶ事にリファロは今も慣れておらず、使用人たちを雇い始めた直後は直接声をかけていた。


 しかしこの結果使用人たちの内一人が常にリファロの私室の前で待機し始め、使用人たちとの数回に渡る話し合いの結果折れたリファロは呼び鈴を使う羽目になった。


 しかし今回はマナリュースに使用人たちへの伝言を頼んだので呼び鈴を鳴らす必要は無く、五分とかけずに使用人として雇っているラミアの一人、アクレナが二人分の飲み物を運んできた。


 そしてアクレナだけが退室した後、リファロは先程と同じ提案をエプランテにした。


「さっきも言いましたけどリンダホンに帰った方がいいと思います。探り合いとか苦手なんではっきり言いますけど竜のあなたがギルドに参加してくれるなら本当に助かります。でもギルドの仕事ってあなたが楽しめるようなものじゃないですよ?」


 ハーピィより多くの物を運べる巨体に加えて広く知れ渡っている強さにより人間から侮られる事が無い立ち位置まで兼ね備えた竜がギルドに参加してくれればできる事の幅は大きく広がるというのがリファロの本音だった。


 しかし人間にとっては刺激的な魔獣狩りですら竜にとっては草むしりの様なもので、先日のホーエイト山脈の竜たちの反応を思い出すと一番頼みたかった荷物の運搬もエプランテには頼めないだろうと考えたリファロは自分の考えを正直にエプランテに伝えた。


 そして『回答者』で個人の考えを知る事は極力避けているという説明と併せてのリファロの発言を受けてエプランテはすぐに口を開いた。


「そうだな。雑魚共の命令で荷物を運ぶのは確かに嫌だ。でもグチャルーツを殺してもらった恩もあるし、私より強いお前の命令なら荷物運びぐらいならしてもいいぞ」


 エプランテを含むリンダホン山脈の竜がホーエイト山脈の竜に殺意すら混じった敵意を抱いている事をリファロは知っていたので、仮にも婚約者だったグチャルーツを殺した自分へのエプランテの好意的な態度にはそこまで驚かなかった。


 そして竜同士の敵対関係に極力触れたくなかったリファロはグチャルーツを殺した恩云々の部分を無視して話を続けた。


「こっちから言っといて何ですけど人間や魔族の仕事を奪う事になるのであなたが本当に荷物の運搬をしてくれたとしても多分頼むのは年に数回ぐらいで、早くても数ヶ月先になると思います。だからしばらくの間は基本的には普通の冒険者と同じ仕事をしてもらう事になりますけど大丈夫ですか?」


「ああ、安心しろ。こっちから人間を襲う程物好きじゃないし、今は色々な物を見て回りたい気分だ。人間の街で楽しもうと思ったら金とやらがいるんだろう?だからギルドでの仕事はちゃんとやって楽しめる内は大人しくしてるし、飽きたらお前に言われるまでもなく山に帰る。……ああ、でもお前がまたアッキムの兵士たち相手に暴れるって言うなら手を貸してやってもいいぞ」


 アッキム王国のとある街を探索していた時、エプランテは魔族に間違われて自分をダーウォールの王城に連れて行こうとする兵士たちと揉めた事があった。


 この時竜の姿に戻り兵士たちを黙らせたエプランテは周囲が大騒ぎになる中、兵士たちに魔族を王城に集めている理由を尋ね、この際リファロがアッキム王国の兵士を大勢殺した事も知った。


「グチャルーツのした事怒ってた割にはずいぶん暴れたみたいだな?」


「……そうですね。殺した人間の数なら多分僕の方が多いでしょうから僕にグチャルーツさんを怒る資格が無いって言われたら何も言えません。多分しばらくしたらまたアッキム王国で戦う事になると思いますし」


 エプランテは人間がどれだけ死のうが興味が無くグチャルーツが殺された事には心底喜んでいた。


 このためエプランテは軽い皮肉を言ったつもりでからかうような表情まで浮かべていたので、リファロが表情を硬くした上にリファロの後ろで控えていた魔族が自分をにらみつけてきた理由が理解できなかった。


 そして自分が失言をしてしまった事だけは理解して命の心配すら始めていたエプランテを前にリファロは話を続けた。


「でもあなたの力を借りるつもりはありません。竜の評判を下げるのも悪いですし、今度は追い払う必要は無いのでそこまで乱暴な事するつもりも無いですから」

「……そうか。まあ、いい。暴れるだけの割のいい仕事があったらいつでも紹介してくれ」


 エプランテは先程のリファロが何を考えていたかは理解していなかった。


 しかし自分がリファロの怒りを買ったわけではない事だけは悟りエプランテは安堵し、一方エプランテに対アッキム王国の戦力としての期待をしていなかったリファロはすぐに話題を変えてギルドで受けられる仕事と報酬についての簡単な説明を始めた。


 そしてギルドについての一通りの説明を終え、先日天使たちから譲り受けた水晶を使いエプランテの登録票も創った後、リファロはある事をエプランテに確認した。


「一つ伝えるのを忘れてました。あなたってウィルバフさんに僕の事色々調べるように言われて山を出たんですよね?」


 左手につけた腕輪を見せながらのこのリファロの発言にエプランテは『回答者』の恐ろしさを再認識しながら黙り込み、一瞬で表情を硬くしたエプランテにリファロは安心するように伝えた。


「安心して下さい。僕の事を警戒するのは当然だと思いますし、この腕輪についてはリンダホンとホーエイトの両方の竜にもう説明はしてますから」


 こう言うとリファロはエプランテにも腕輪の機能の内、不老については伝え、突然の説明に言葉を失っていたエプランテにリファロはこれまで各所で伝えていた自分の考えを伝えた。


「能力について僕に質問するぐらいはなら構いません。言いたくない事は言わないだけですから。でも他の人にまでしつこく聞いたりするのは止めて下さい。……そこまでいくと僕もそれなりの対応をしないといけなくなるので」


「ふん。お前の方こそ安心しろ。今の時点でお前は私たちが束になっても敵わないんだ。そんなお前を怒らせるような事をする程私は馬鹿じゃない」

「そう言ってもらえると助かります」


 このエプランテの発言が真意か分からなかったがこの時点で疑ってもしかたがないと考えてリファロはとりあえず話を進めた。


「さっき言った通り、アルベールでギルドを始めるのはかなり先になります。だから今すぐ冒険者として働きたいならどこか別の国に送りますけどどこがいいですか?」


 敗戦の混乱とは無関係に元々ギルドの活動が活発ではないアッキム王国と天使の影響力が強いカリオルクァ神聖国はお勧めしないというリファロの発言を受け、しばらく考えてからエプランテは口を開いた。


「お前はアッキムの兵士たちがこの国から出るまで何もしないのか?」


「いや、割と忙しくはしてますよ?ギルド関係だけでも今は天使のみなさんを怖がって冒険者たちがギルドから離れてる時期なのでその穴埋めをしたりしてます。あさってもゼーナマインで天使のみなさんと魔獣狩りする予定ですし」


「そうか。じゃあ、私もそこに連れて行け」


 断られる事など全く考えていない様子のエプランテにリファロはある事を確認した。


「一応聞きますけどあなた僕の部下になりたいわけじゃないですよね?」

「当たり前だろう。言っておくがお前に媚びる気なんて無いぞ」


 それは今までの態度から十分伝わっていますという発言を飲み込みリファロは話を続けた。


「ゼーナマインに連れて行って欲しいなら最初は特別に転移装置で送りますけど、その後あなたは転移装置使えませんからゼーナマインで働く事になりますよ?」


「どうして私は転移装置が使えないんだ?」

「今のあなたは冒険者になったばかりの一冒険者で何の役職にも就いてないからです」


 生まれた時から住居に転移装置があったせいで転移装置が貴重な物だという認識がエプランテには無い様子だった。


 このためリファロは数が少ない転移装置は国やギルドの幹部でなくては使う機会が無く、エプランテのために一度だけとはいえ転移装置を使う事は極めて例外的な措置だとエプランテに伝えた。


「でもこの国の魔族を連れて他の国で魔獣狩りをしたんだろう?」

「それはアルベール魔王国から頼まれて有料で行っている事です。僕一応ここの領主なので」

「じゃあ、お前は、」


 転移装置無しでも転移できるのだから私の移動を手伝えとエプランテは言いかけたが、そこまでする義理は無いとリファロに返される事が容易に想像できたのでしばらく黙り込んでしまった。


 そしてエプランテが黙り込んでから十秒程が経ち、そろそろこっちから話しかけようかとリファロが考え始めた頃、エプランテはリファロをにらみつけながら口を開いた。


「……そこらの人間や天使と一緒に働くぐらいならお前の部下の方がましか。感謝しろ、お前の部下になってやる」


「……あなたがそれでいいなら僕としては助かりますけど僕の直属の部下になるって言うなら普通に冒険者する時より注文が多くなりますよ?」


 直接リファロの監視下に入る事にエプランテが抵抗を覚えなかったと言えば嘘になったが、『回答者』の存在を考えたら誤差の様なものだとエプランテは自分を納得させた。


「我慢なら人間たちの街を見てる時も散々させられた。それなら色々おもしろい物を見れそうなお前の近くにいた方がましだ」

「……分かりました。じゃあ、よろしくお願いします」


 不安は多いがエプランテが形だけでも直属の部下になれば活動の幅も広がるだろうとリファロは考え、とりあえず天使やリンダホン山脈の竜たちにこの事を知らせた方がいいだろうと考えていたリファロにエプランテが部下として最初に出した要望は寝床の用意だった。

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