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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
3章

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実験

 天使と竜の会談から一週間程経った日の夕方、リファロはマナリュースとルドディスを伴いクララス王国の山中で魔獣狩りを行っていた。


 リファロたちは予想されていた冒険者不足を補う形で今回の魔獣狩りを行っており、今日中に三ヶ所で五体の魔獣を狩る予定を立てていたリファロたちにとって最後の現場となる場所でマナリュースとルドディスはそれぞれ一体ずつの魔獣と戦っていた。


 ルドディスが戦っていた魔獣はカマキリ型の魔獣で、魔獣との戦闘が初めてではなかったルドディスは自分と同程度の大きさの魔獣を相手に互角以上に渡り合っていた。


 カマキリ型の魔獣が振るってきた鎌を左腕に装備した盾で防いだ後、ルドディスは左腕に力を入れて魔獣の動きを制限しながら右手で握っていた剣を振るい、このルドディスの攻撃は魔獣の左の鎌で防がれた。


 しかしルドディスとの攻防で左右両方の鎌を使わされた魔獣は動きが止まってしまい、この状況を予想していたルドディスは両腕から力を抜くと同時に右脚で魔獣目掛けて蹴りを繰り出した。


 膠着していた押し合いが突然終わった直後の隙を突かれた魔獣は無防備なあごにルドディスの蹴りを叩き込まれてしまい、あごを蹴り上げられて体が浮いた魔獣を頭から両断しようとルドディスは剣を振り下ろした。


 しかし魔獣がとっさに体を横に動かしたのでルドディスの攻撃は魔獣の左腕を斬り落としただけの結果に終わり、蹴りを繰り出した事で不安定になっていたルドディスは魔獣の振るった右の鎌をまともに食らい地面に倒れた。


 アルベール魔王国での魔獣狩りは生活圏の確保以外に食料調達の意味合いもあり人間の国より活発に行われていたので、アルベール魔王国に住む魔族が戦う魔獣は成長前の個体が多かった。


 このためルドディスは今回戦う事になった魔獣を見た時点で魔獣の大きさに驚かされ、戦闘が開始してからは何度も魔獣の力の強さに驚かされていた。


 そして魔獣の左腕を斬り落とした直後に受けた攻撃も盾で防いだとはいえルドディスの左腕からは鈍い痛みが消えず、こうした状況を予想していたわけではなかったが今日来たオーガが自分でよかったとルドディスは心底思った。


 リファロが今更アルベール魔王国を見捨てるとはルドディスも思っていなかったが、今後のリファロとの関係を考えるとリファロの魔族への評価を下げる事は絶対に避けなくてはならないと考えていたからだ。


 魔獣狩りを始める前にマナリュースもルドディスもリファロから魔獣が手に余るようならすぐに自分と替わるように言われていたが、ルドディスは自分なら何とか今戦っている魔獣に勝てると考えていた。


 まして今回はリファロによる支援も受けているのだから間違っても魔獣に勝てないなどと言うわけにはいかないとルドディスは考え、このままでも押し切れるがリファロの手前借りている切り札を使うべきかと考えていたルドディスの前で魔獣が羽を動かして上空へと向かった。


 戦っている魔獣が空を飛んだ場合、普段の狩りではハーピィに任せるなり数人がかりで鎖を投げて捕まえるなりするのがアルベール魔王国流のやり方だったが今回はどちらもできず、またその必要も無かった。


 カマキリ型の魔獣が飛び立った瞬間、戦っていたルドディスも後ろで見学していたリファロも全く慌てる様子を見せず、魔獣が飛び立つ事を防げなかった自分の不手際に眉をひそめながらルドディスは背中からハーピィの翼を生やした。


 体格に比例して通常のハーピィの翼の二倍以上の大きさになっていた翼を動かしてルドディスは三秒足らずで魔獣に追い着き、ルドディスの翼の音に気づいた魔獣は降下の勢いを乗せた鎌の一撃でルドディスを斬り裂こうとした。


 一方のルドディスは一瞬盾で攻撃を防いでから魔獣を斬り裂こうと考えたのだが、先程までの戦闘の内容を考えると足場が無い空中では力負けする可能性があると考えて魔獣の鎌をその身に受けた。


 剣や盾を構える事すらせずに体を魔獣の鎌に斬り裂かせたルドディスは痛みに表情を歪め、左肩から胸にかけて自分の体を斬り裂いた魔獣の鎌が止まった瞬間、面倒そうな表情を浮かべながら口を開いた。


「面倒な。……斬るならちゃんと最後まで斬れ」


 こう吐き捨てた瞬間にはルドディスの左脚はハーピィの脚に変わっており、ルドディスはオーガの筋力は維持されたままの左脚で魔獣の下腹部を引き千切った。


 いきなり下腹部を引き千切られた魔獣は痛みからルドディスの体に鎌が突き刺さったままの状態で暴れ回り、内臓や体液を地上にまき散らしながら暴れる魔獣の頭にルドディスは剣を振り下ろした。


 下腹部の傷に気を取られて隙だらけだった魔獣の頭をルドディスは難無く斬り裂き、胸に突き刺さっていた魔獣の鎌を抜くと左脚で魔獣の死体を掴み地上へと向かった。


 一方地上で兎型の魔獣と戦っていたマナリュースは魔獣が振り回す長い耳に苦戦していた。

 マナリュースが戦っていた魔獣は体長二メートル程と魔獣にしては小さく、おそらくこちらの方が弱いとリファロとルドディスが判断してマナリュースが担当する事になった。


 そしてリファロたちの見極め通り、兎型の魔獣の力は弱く、頭から突撃してきた魔獣をマナリュースは右脚一本で余裕で止めた上に二度目の激突の際に魔獣の右眼を潰す事さえできた。


 しかし右眼を潰された直後から魔獣はマナリュースと正面から戦う事を止め、体と同程度の長さまで伸ばせる耳による中距離戦に徹し始めた。


 兎型の魔獣の耳は魔獣の動きに合わせて動いているわけではなく空中で自在に動きマナリュースに襲い掛かり、魔獣の敏捷性が加わる事でマナリュースは魔獣の耳の動きを目で追う事すらできなくなった。


 人間の腕の部分に翼が生えているハーピィは上半身を攻撃されると攻撃を掴む事ができず、翼で攻撃を防いで致命傷こそ避けていたがマナリュースは右眼を潰して以降は魔獣の体に全く触れずに翻弄され続けていた。


 耳を縮めた状態で周囲を駆け巡る魔獣の足音がマナリュースの耳に届き、これまでの経験から足音に攻撃しても遅いと考えたマナリュースは魔獣の動きに対して先回りをするために足音が聞こえてきた場所の数メートル右側に移動しようとした。


 しかし魔獣が今まで通りの動きを繰り返すだろうと考えていたマナリュースの視界の端で何かが右から左に動き、しまったと思った次の瞬間にはマナリュースは左腰を魔獣の耳で強打されて吹き飛ばされてしまった。


 今日の戦闘で何度も感じた骨が折れる感触と今日初めて感じた内臓が潰れる痛みにマナリュースは一瞬目の前が真っ白になり、口の中に広がる血の味を感じながら近くの木に激突するとそのまま地面に落ちた。


「マナリュースさん!」


 マナリュースが魔獣から受けた傷は既に完治しており、この事を把握しているはずのリファロの声が届いた直後、マナリュースは立ち上がった。


 今日の戦闘が始まって以降リファロが声を出したのは今回が初めてで、予想はしていたがルドディスが魔獣相手に有利に戦闘を進めている中、自分だけがリファロに心配をかけてしまった事を恥じながらマナリュースはリファロに心配しないように伝えた。


「他のハーピィたちに今日の事を話す時のために自分の力だけで戦っていただけです!ここからは本気を出します!」


 今回のマナリュースとルドディスの戦闘は実験も兼ねており、リファロは今ディルシュナの能力を再現して二人を眷属にしていた。


 魔王の一族の眷属は主さえ無事ならどんな傷でも一瞬で治り、更にリファロの場合は眷属に『創造者』で再現した能力等を与える事もできたので今回ルドディスはハーピィの能力を与えられていた。


 そしてリファロが今回マナリュースに与えた能力は『呪歌』で、魔獣の耳に再度吹き飛ばされながらもマナリュースは口から撃ち出した衝撃波を魔獣に命中させた。


 突然敵が大声をあげたと思った次の瞬間には胴体を見えない何かに強打されて魔獣は驚き、魔獣と違い傷が一瞬で癒えたマナリュースは上空に向かうと上空から衝撃波を撃ち出し続けた。


 マナリュースは別に能力でリファロの側近に選ばれたわけではなく、この事を自覚していたマナリュースは初めて戦う魔獣の強さに驚きこそしたが特に接近戦にこだわらずに上空からの遠距離攻撃に徹した。


 マナリュースの攻撃の正体に魔獣は気づいていなかったが、マナリュースが自分の攻撃が届かない上空に逃げた時点でこの場から離れようと考えた。


 しかし魔獣が逃げ出してからマナリュースが四度目に撃ち出した衝撃波が魔獣を上から地面に押さえつけ、ここで魔獣を自由にしたら逃がす可能性があると考えたマナリュースは衝撃波を止める事無く撃ち出し続けた。


 マナリュースの攻撃は動かなくなった魔獣の胴体が大きく陥没して内臓がこぼれ始めてようやく止まり、眷属になっていなければ何度死んでいたか分からないと今日の戦闘を思い返したマナリュースは帰国後に同族たちに話す内容を考えながらリファロのもとへと向かった。


「リファロ様、申し訳ありません!魔獣の毛皮を血で汚してしまって!」


 リファロのもとに向かう途中でマナリュースは魔獣の死体を回収したがマナリュースが殺した兎型の魔獣は頭以外の部分は原型を留めておらず、一目で毛皮をはぎ取る事が無理だと分かる状態だった。


 このためマナリュースは口を開くなりリファロに謝ったのだが、魔獣一体の毛皮の代金など誤差だと考えたリファロはマナリュースに今回の結果を気にしないように伝えた。


「魔獣を倒した事は登録票で確認できますし、後後ろから見てましたけどマナリュースさんが戦った魔獣、四級とか三級の冒険者が五人ぐらいで挑んだら普通に負けそうなぐらい強かったのでほんと気にしないで下さい」


 今回マナリュースが戦った魔獣は魔法こそ使ってこなかったが『名持ち』に認定される可能性がある程強かったとリファロは考えていたので、まだ落ち込んでいる様子のマナリュースに謝った。


「むしろ僕の方こそすみません。初めての戦いでいきなりあんなに強いのと戦わせちゃって。今回は僕の能力と眷属の組み合わせの実験が目的で実験自体は大成功でした。……これからもよろしくお願いします」


 こう言ってリファロが軽く頭を下げるとマナリュースも頭を下げ返し、このまま謝罪の繰り返しになると面倒だと考えてリファロはルドディスに視線を向けた。


「ルドディスさんはどうでしたか?見てた感じでは順調でしたけど」


「はい。私たちの国の魔獣より体が大きかったのには驚きましたけど、傷を気にしなくてもよかったので比較的楽に勝てたと思います。……ただ、ギルドで働く魔族全員を眷属にしてもらうわけにもいかないので志願者の選別は必要だと思います」


 ルドディスは魔族の中で単純な強さなら一番高いオーガの中でも五本の指に入る実力者だったが、今回の戦闘は眷属になっていなければ無傷とはいかなかったと感じていた。


 このため本番は数人がかりで挑ませるとはいえ魔獣狩りを含む仕事を行う冒険者になる許可を志願者全員に出す事については慎重になる必要があるとルドディスは考え、魔族たちに『蘇生』前提で動かれても困るのでリファロもルドディスの考えに同意した。


「そうですね。その辺りはお任せします。でも怪我ぐらいなら『治癒』の代金はギルド割り引きが利くのでこの事はちゃんと説明しておいて下さい」

「分かりました。……リファロ殿の能力は今後も借りられると考えていいのでしょうか?」


「……ああ、すみません。能力を一日に何回も再現しているとあっという間に限界がきちゃうので僕の能力の貸し出しは普段はしないと思って下さい」


「分かりました。……とりあえず魔獣狩りはこれで終わりですね。明日もよろしくお願いします」


 こう言ったルドディスの表情は魔獣との戦闘直前よりも硬く、この理由は明日ルドディスとマナリュースがクララス王国の街並みを見学する予定になっていたからだった。


 先日の反省からルドディスたちが目立たない方法を考えていたので明日の探索では問題は起こらないとリファロは考えており、この事はルドディスにも伝えていたのだがルドディスは今も不安そうな表情を浮かべていた。


 そしてこの場でいくら大丈夫と言ってもルドディスを安心させる事は難しいとリファロは考え、宿に泊まる前に魔獣討伐の報告などを行う必要もあったのでとりあえずこの場での話を終わらせて二人と共にベインジアへと転移した。

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