ホーエイト山脈訪問①
ルドディスたちとの会議の翌日の昼、リファロは天使による竜への苦情申し入れに立ち会うためにホーエイト山脈に出向き、リファロの後ろにはマナリュースがいた。
リファロたちの訪問は事前に竜側にも伝わっていたのでリファロたちは転移後すぐに三十体以上の竜に迎えられ、これまで同様リファロに同行する事を強く望んだマナリュースも山の様な巨体を持つ竜三十体以上が一堂に並んでいる光景に圧倒されている様子だった。
「リファロ様、今日はわざわざお越し下さりありがとうございます」
まだ天使たちが来ていない中、ホーエイト山脈に住む竜の長、トリダルネがリファロに頭を下げ、頭を下げられたにも関わらず相手を見上げる形となった事に心の中で苦笑しながらリファロは口を開いた。
「今日の僕はみなさんの話し合いを見届けるだけなので気にしないで下さい。天使のみなさんにはもう伝えてありますけど天使のみなさんが仮に荒っぽい手に出たら僕はどっちの味方にもなりませんから」
今回天使側は長、スイリーシュと幹部四人を含む四十人程でホーエイト山脈を訪れる予定で、天使たちは全員が完全武装で訪れるとリファロは聞いておりこの事は竜側にも伝わっていた。
スイリーシュと幹部四人が含まれているとはいえ天使四十人程度の戦力ではどれだけ武装を整えても竜を十体も倒せず、この事は天使・竜双方分かっていたので今回の場はリファロの存在が前提のものだった。
「じゃあ、そろそろ天使のみなさんを呼んでもらっていいですか?」
今回スイリーシュが率いる天使の一団はリファロが強化された『転移』でホーエイト山脈まで連れてくる事もできた。
しかしレウグ聖峰とホーエイト山脈両方に転移装置がある以上、アルベール魔王国の魔族たちに代償を払わせてまで天使たちの移動を手伝う必要は無いとリファロは判断し、リファロに必要以上の借りを作りたくなかった天使たちも転移装置での移動を望んだ。
このためリファロはトリダルネに転移装置の起動を頼み、数分後トリダルネの指示を受けた竜たちに案内されて天使の一団がリファロたちの前に姿を現した。
天使の一団の先頭に立つスイリーシュは見た目こそ十代半ばの少女にしか見えなかったが天使の中で唯一竜と互角以上の強さを持ち、武装次第では当代最強と言われた竜、ブノワーム相手に刺し違える事もできる存在だった。
そして小柄ながら堂々とした表情で天使たちを従えるスイリーシュの後ろにはフォルネーズたち幹部四人が横並びに控え、その後ろには強さで選ばれた天使の精鋭四十人程が武器や旗を手にして並んでいた。
可能性はほぼ無いがもし天使と竜の間で戦闘が起こりそうになったら天使を全員『裏世界』に送り込もうとリファロが考えていた中、天使と竜の会談が始まり、最初に口を開いたのはスイリーシュだった。
「よくも私たちの顔に泥を塗ってくれた。あなたたちが粋がってる子ども一匹押さえられなかったせいで私たちがどれだけ恥をかいたか分かってる?」
スイリーシュはあまり声や表情に感情が現れない性格でトリダルネに話しかけている間も声は淡々としていたが、スイリーシュが怒りを押し殺していようがいまいがトリダルネは頭を下げるしかなかった。
天使の許可状を無視して人間を襲った竜が一族の中で強い竜だったらまだ言い訳のしようもあったが、グチャルーツは他の竜が本気を出せば負傷者を出す程度で取り押さえる事ができる程度の強さしか持っていなかったからだ。
またホーエイト山脈の竜たちにも昨日の時点で『奉身者』と『回答者』の詳細は伝わっており、トリダルネたちは自分たちの事情がどこまでリファロや天使たちに知られているか分からないまま今日の会談に臨む事になった。
このためトリダルネはスイリーシュの苦情に頭を下げるしか無く、あれだけ大きな顔をしておきながら面倒事だけ残して殺されたブノワームへの恨み言を心の中でつぶやきながらスイリーシュの苦情に耳を傾けていた。
「私たちにでたらめな報告を挙げてた人間を捕まえに行ったら竜の被害も抑えられないくせに大きな口叩くなとか言われて、……あなたたちの不始末のせいでどうして私の部下が人間に頭下げないといけないの?」
グチャルーツが天使の許可状を持った人間を殺した事実を知った後、具体的な行動に出られなかった事は天使たちにとっても負い目で、クララス王国の交渉役と交渉する際、天使側は他の国と比べて譲歩した条件を受け入れる羽目になった。
「どうする?あなたたちが直接人間たちに謝りたいって言うなら場所用意するけど」
自分たちが人間ごときに頭を下げるなどあり得ないというのが竜の総意でスイリーシュも竜が乗ってくる事はまずあり得ないと分かった上でこの提案をし、スイリーシュが意趣返しのつもりでこの提案をしてきた事をこの場にいた竜の多くが察していた。
このためトリダルネの後ろに控えていた竜数体が怒りを露わにし、ブノワームを瞬殺できる存在がいるこの場で短絡的な行動に出ようとしている同族たちを視線で制止した後、トリダルネはスイリーシュの提案を断った。
「グチャルーツの暴挙を止められなかった事は悪かったと思っている。だが私たちにも誇りがある。どうしても謝りに行けと言うなら私が行くが、いくら強くてもリファロ様は人間だ。リファロ様が亡くなった後、同族たちを抑えられるか分からないぞ?」
リファロの強さを盾に挑発してきたスイリーシュにトリダルネは反撃をしたつもりだったのだが、トリダルネがリファロの寿命に言及した直後、リファロが二人の会話に口を挟んできた。
「すいません。口を挟むつもり無かったんですけど一つ誤解があるみたいなんでそれだけ訂正させて下さい」
スイリーシュもトリダルネもいきなりのリファロの発言に驚いたがリファロに逆らうつもりは無く、二人に頭を下げてからリファロはスイリーシュに視線を向けた。
「今からこの腕輪の機能について説明をしようと思ってます。無理にとは言いませんけど天秤を出した方がいいんじゃないですか?」
事前の打ち合わせに無かったリファロの提案への驚きと天使の長である自分が魔法の行使を命じられた怒りにスイリーシュは数秒間言葉を失ってしまったが、周囲の部下たちのざわめきを受けてようやく我に返った。
「どうして今なの?二度手間を避けるため?」
数秒で落ち着きを取り戻したスイリーシュの中では現時点では怒りや戸惑いよりリファロの腕輪の機能とやらへの興味が大きかった。
このためスイリーシュは純粋にリファロに突然の提案の意図を尋ね、周囲からの視線を感じながらリファロはスイリーシュの質問に答えた。
「すいません。僕一応人間なのであんまり寿命の違いとか気にした事無かったので」
このリファロの発言は嘘で腕輪をつけている限り自分は不老だと明かす機会をリファロはずっとうかがっていた。
天使や竜といった長命種が自分の死後に約束を反故にする、あるいは暴れ出す可能性がある事を事ある毎に『回答者』で知らされていたからで、場合によってはフォルネーズ辺りを挑発して機会を作ろうと考えていたのでリファロは今回のトリダルネの発言に感謝していた。
そしてスイリーシュが天秤を創り出した直後、リファロは腕輪の機能を簡潔に説明した。
「この腕輪をつけている限り、僕は歳を取りません」
このリファロの発言の直後、スイリーシュの天秤は当然真実の方に傾き、リファロが自分たちより先に死ぬ事を前提に動いていたマナリュース以外のこの場の面々は個人差こそあれ動揺を露わにした。
スイリーシュですら放心状態で棒立ちになっており、周囲が落ち着いてからリファロは説明を続けた。
「ついでに言っておくとこの腕輪にはもう一つ機能がありますけどこれを教えるつもりはありません。ただ僕が何十年かで死ぬって心配されてるならそれは訂正しておいた方がいいと思ったので少しだけ腕輪の機能を教えました。あ、後一つ言っておくとこの腕輪は僕以外がつけてても何の意味も無いです」
『回答者』の存在が広く知られた今、まずあり得ないとは思ったがこの腕輪を奪おうとする者が天使や竜から出ると面倒だったのでリファロは一応周囲の面々を牽制し、とりあえず周囲の反応を待とうと考えていたリファロにトリダルネが話しかけた。
「……その腕輪はどこで手に入れたのですか?」
「天使のみなさんにはもう伝えたんですけど僕は転移魔法でも帰れないぐらい遠くの国の生まれで、その国で今の僕と同じぐらい強い魔獣と戦って死にかけました。でもその魔獣は何とか倒せてその魔獣を間違って生み出した人にお礼だって言ってこの腕輪をもらいました。……多分色々気になる部分はあると思うんですけど、さっき言った通り、僕はもう生まれた国には帰れませんし、この腕輪をくれた人にも会えません。だからこの説明で納得して下さい」
自分が『回答者』やこの腕輪を手に入れた経緯をこの世界の住人に正直に説明しても信じてもらえないだろうとリファロは考えていたので説明を終えるとすぐに後ろに退がり、これ以上説明するつもりは無いと意思表示をしたリファロに代わる形でスイリーシュがトリダルネに話しかけた。
半端な長さになったので今日と明日に分けて投稿します




