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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
2章

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探索

 メルシーナたちと別れた後、リファロはマナリュースと共にベインジアの大通りに向かい、予想していたとはいえマナリュースへの周囲からの視線にリファロは顔をしかめた。


「すみません。さすがにいきなり街を見て回るのは無理でしたね。一応ギルドに関係無い人たちにマナリュースさんの姿は見せましたし、今日はこれぐらいにしておきましょう」

「いや、もうちょっと大丈夫ですよ?」


 街を二分も歩いていない時点でリファロに街の探索を止めると言われ、マナリュースは残念に思うと同時にリファロに気を遣わせた事を申し訳無く思った。


 一方のリファロはマナリュースが本気で大丈夫だと思っていてもこれ以上マナリュースの善意に甘えるわけにはいかないと考え、ここで街の探索を止めると言っても引きそうになかったマナリュースにある提案をしようとした。


 しかしリファロより先にマナリュースが口を開き、強い口調で街の探索を続けたいとリファロに伝えた。


「これから先もリファロ様は色々な場所に行って誰にも負けない活躍をいくつもされると思います。……残念ですけど私がそれに全部着いていくのは無理だと思います。でも街を歩くぐらいなら私でもできますし、リファロ様の優しさは美徳だと思いますけど少しは私にも恩返しをさせて下さい!」


 重傷を負っていたマナリュースが『治癒』で助けられた事をリファロはマナリュースから聞いて知っていた。


 しかし今回強く恩を返したいと言われるまでリファロはマナリュースに強く何かを求めるつもりは無く、自分がマナリュースだけではなくこの世界の住人全てを対等な協力者だと考えていなかった事にようやく気づいた。


「……調子に乗ってたな」


 いきなり強い力を手に入れて増長しないように気をつけていたつもりだったリファロはうぬぼれていた事を自覚して恥ずかしくなり、リファロのつぶやきが聞こえなかったマナリュースは不思議そうな表情でリファロに話しかけた。


「どうかしましたか?」


「ああ、いえ、……ちょっと調子に乗ってたみたいです。……いくつかやってみたい事もあるのでアルベールに帰ったら少しつき合ってもらっていいですか?」


「はい。喜んで!」


 無駄かも知れないと思いながらも自分の思いを伝えたマナリュースはリファロの返事を聞き喜び、予想以上の結果に喜んでいたマナリュースに後ろから声がかかった。


「申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?」


 マナリュースに声をかけてきたのは衛兵で、他に衛兵四人を引き連れていた衛兵の登場を受けてリファロは前に出た。


「どうかしましたか?」


『回答者』で目の前の衛兵も後ろの衛兵たちも自分たちに強い敵意を持っていない事をリファロは確認していたが、一応警戒しながら前に出たリファロを相手に衛兵は丁寧な口調を維持したまま話を続けた。


「お二人が天使のみなさんと一緒に今回お越しになっている事は聞いております。しかしそちらの魔族の方は少々交通の妨げになっていますのでご配慮を……」


 成人したハーピィの翼は片方だけでも成人男子を覆い隠せる程の大きさで、地上にいたのでマナリュースは翼を広げてはいなかったが衛兵の言う通り通行の邪魔にはなっていた。


 衛兵にマナリュースが通行の妨げになっていると聞かされた直後、リファロは『回答者』を発動し、近くで露店を開いている人間や通行人たちの通報で目の前の衛兵たちが駆けつけた事と通報者の一部が魔族とその飼い主を殺して欲しいと衛兵たちに伝えた事を把握した。


 通報内容の一部はともかくマナリュースが通行の妨げになっているのはこちらの落ち度だったのでリファロは衛兵たちに謝罪した。


「すみません。僕たちの配慮が足りなかったみたいです」


 こう言うとリファロは『創造者』でひものついた木製の箱を創り出し、突然巨大な箱が現れた事に周囲の人間が驚く中、人間が四人は乗れそうな大きさの箱に乗り込んだ。


「日が暮れるまで街を見て回るつもりですけど後は飛んで回るつもりです。それならいいですよね?」


 周囲にいた通報者数人に視線を向けないように気をつけながらリファロがした質問に衛兵は答えられず、これ以上この場に長居しても気まずくなるだけだと考えてリファロはマナリュースに話しかけた。


「これ以上は迷惑になりそうですから後は空から回りましょう」

「分かりました」


 リファロに徒歩での街の探索を諦めさせた事をマナリュースは心苦しく思ったが人間の街を狭く感じていた事も事実だったのでリファロの提案に素直に従い、リファロの乗った箱を軽々と持ち上げたマナリュースに周囲が驚く中、上空へと向かった。


「……もう少し上がった方がいいですか?」


 リファロの箱を持ったまま苦も無く滞空していたマナリュースは地上から五メートル程離れた位置におり、今いる高さを飛び続けたマナリュースがぶつかりそうな建物は見る限り数える程しかなかった。


 しかし五メートルという高さは地上の人間の視線から逃れるには頼りない高さで、自分は構わないがリファロの考えが大事だと考えながらのマナリュースの質問にリファロはすぐに答えた。


「あんまり高く飛び過ぎると街の人たちが僕たちに気づけないのでこれぐらいでいいです。とりあえず街の外側に行って後は街の外周を回る感じでお願いします」

「分かりました」


 リファロとその指示を受けたマナリュースの姿が見えなくなった直後、衛兵たちは周囲の市民たちに囲まれていた。


「何だ、さっきの情けない態度は!」

「たった二人にぺこぺこしやがって!」

「あのハーピィとかいう魔族は人間をさらって食うって聞いてるぞ!家族がさらわれたらどう責任取ってくれるんだ!」


 口々に自分たちの対応への不満を露わにした住民たちに先程までリファロと話していた衛兵は現状を説明した。


「長い間、冒険者ギルドの幹部たちが不正を働いていて天使たちがその摘発に来たらしい。さっきの二人は天使たちの協力者だ。へたに逆らうとギルドへの協力を止めると言っているらしい」


 カリオルクァ神聖国の東に位置して国の一部がレウグ聖峰と接していたクララス王国ではカリオルクァ神聖国程ではなかったが天使の存在が一定の権威を持っており、ギルドの幹部が天使を裏切ったと聞き驚く住民たちに別の衛兵が説明をつけ加えた。


「それにまだ未確認だが天使によるとアッキムが魔族の国に負けたらしい。今後この街どころか国がどうなるか分からないし、上がどう対応するか決まるまではさっきみたいにやり過ごすしかない」


 衛兵二人の説明を聞き周囲の住民たちは黙り込み、その後明日以降国から正式な発表があるはずだという衛兵たちの発言を受け、住民たちは漠然とした不安や恐怖を感じながらも普段通りの生活に戻っていった。


 リファロたちが街の外に行くにつれてベインジアに天使が現れた事を知らない人間が頭上を通過するマナリュースを目撃する数が増え、リファロに気を遣い時速四十キロ程しか出していなかったマナリュースは足下のリファロに乗り心地を尋ねた。


「もう少し遅く飛んだ方がいいですか?」


「いえ、乗せてもらっといて何ですけどもっと速く飛んだ事もあるのでこれぐらいの速さなら大丈夫です」


「そうですか。……それにしても人間の街をちゃんと見るのはこれが初めてですけど思ったより兵士の数が少ないんですね」


 おそらくアッキム王国の存在を念頭に置いたマナリュースの発言を受けてリファロは言葉を選びながら返事を返した。


「別に人間の国全部が戦争してるわけじゃないですからね。国境沿いにはそれなりにいるみたいですけど首都だとどこもこんなものだと思いますよ」


「……そうですか。さっき街を歩いていた人間が初めて見る模様の服を着ていましたけどあれは何の皮ですか?」


 せっかくリファロと二人きりで空を飛んでいる状況で兵士の話を続けるのが嫌だったマナリュースは先程見かけた通行人の一人が来ていた服を話題にし、マナリュースが見かけた人間の着ていた服について『回答者』で調べたリファロはマナリュースの勘違いを正した。


「あれは何かの皮じゃなくて絹です」

「きぬ?」


 今でこそ服を着ているマナリュースだったが他のハーピィ同様服への興味が薄く、服の材料は動物の毛皮か植物の二択だと考えていたマナリュースにリファロは絹の説明をした。


「簡単に言うと虫の吐いた糸です。その糸を取って加工すると手触りのいい布になるんですよ。魔王の一族のみなさんの着てる服もいくつかは絹でできてるみたいです。でもゼーナマインから少し仕入れてるだけでアルベールだとほとんど流通してないみたいですけど」

「……その虫はあんなに色鮮やかな糸を吐くんですか?」


 牛や馬程の大きさの虫が森の中で様々な色の糸を吐く光景をマナリュースは想像し、辺り一面が色鮮やかな森を想像していたマナリュースにリファロは染料の存在を伝えた。


「僕も実物は見た事無いですけど蚕の糸は白色で後から色をつけてるはずです。マナリュースさんが見た模様はこの国独特の模様みたいですね」


 ここまで話したリファロはアルベール魔王国には蚕が生息していないのかが気になり『回答者』を発動したが、アルベール魔王国の国民が誰も虫を細かく区別していなかったので蚕がアルベール魔王国に生息しているかすら知る事ができなかった。


「糸とか染料を買っていこうかな」


 レウグ聖峰を訪れた時に出された茶が気に入ったリファロは天使たちに頼み茶葉数袋を用意してもらったのだが、この際『転移』を使える自分が遠く離れた国の物を別の国で売れば簡単にお金を稼げるのではと考えた。


 もちろん最終的には大勢のハーピィに参加してもらい自分抜きの輸送路を開拓できればとリファロは考えていたが、各国の特産品が別の国でも需要があるかは試してみないと分からなかった。


 またアルベール魔王国はアッキム王国軍の完全撤退後に式典を予定していたが、リキュアナが陥落した際にミルヒガナたち魔王の一族は私物のほとんどを壊されるか奪われるかしており、今ミルヒガナたちは避難先から戻ってきた専属の職人たちに新しい服を用意させていた。


 しかしアルベール魔王国は戦争が終結した事を知らせる使者をゼーナマイン皇国に二日前に送ったばかりだったので今すぐ絹を輸入する事は不可能で、ミルヒガナの指示を受けた職人たちは服作りどころか材料の調達の段階で苦労していた。


 このため彼らの苦労を『回答者』で知っていたリファロは余計なお世話かも知れないとは思ったがミルヒガナたちにクララス王国の布をいくつか買っていく事を決め、職人たちの意見を『回答者』でまとめながら上空からのベインジア探索を続けた。


 そしてリファロがマナリュースに運ばれ始めてから三十分が経ち、リファロは乗っていた箱が消えると同時に背中にハーピィの翼を生やした。


 リファロは『創造者』の詳細を誰にも伝えていなかったが、リファロの能力の一部に時間制限がある事はさすがにアルベール魔王国の国民の間では知られていた。


 このためマナリュースはリファロとの時間が終わる事を残念に思ったが箱が消えた事には驚かず特に質問もせず、自分の指示を待っている様子のマナリュースを誘いリファロは更に上空へと向かった。


「うーん。やっぱり何も無い空はいいですね」


 地上から五メートル程しか離れていない低空を速度を落として飛び、知らない内に精神的に疲れていたマナリュースは水平線に視線を向けながら体を伸ばしていた。


「今日はありがとうございました。まだ探り探りって感じですけどやらないといけない事に色々気づけて助かりました」

「いえ、私もリファロ様がこれからやろうとしてる事を聞けて嬉しかったですから」


 まだミルヒガナすら知らないリファロの計画を最初に聞けた優越感に加えてリファロと二人で上空からの眺めを楽しんでいるという状況にマナリュースは思わず笑みを浮かべてしまい、気を遣わせている可能性もあったが一応は笑みを浮かべていたマナリュースを見てリファロは安堵した。


 まだ人間への敵意を抱いているはずのマナリュースを一時間程人間の街で連れ回してしまい疲れさせてはいないかと心配していたからだ。


 リファロは今後はマナリュースはもちろん他の魔族や各地の知人にこれまで以上に頼ろうと先程決めたが、アルベール魔王国の魔族の人間への恨みはそう簡単には消えないはずなので甘え過ぎには注意しようと考えていた。


 このため続けようと思えば宣伝を兼ねたベインジアの探索をリファロたちはまだ続けられたが、初日から無理をする必要は無いと考えて早めに宿へと向かった。


 机で食事をするのが難しいので外でリファロとの夕食を終えた後、一時間程のリファロと雑談したマナリュースは一人で宿の部屋にいた。


 リファロと同じ部屋で寝る事ができればとマナリュースは多少期待していたが、今の状況は予想通りでもあったのであまり気落ちせずに寝台に横になった。


 まだ眠くはなかったがマナリュースは寝台の上で寝心地を確かめるように横になったまま何度か動き、掃除をするはずの人間に気を遣うつもりは無かったが寝台の上に落ちた羽を見て自分たちにこの寝方は向いていないと判断した。


 しかし万が一リファロと一夜を共にする状況になったらと考えたマナリュースは上体を起こし、膝立ちの状態で寝台に立つとその後しばらく妄想を続けてから就寝した。

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