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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
2章

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道中

 今回天使たちが捕まえる予定の冒険者ギルドの不正に関わった人間の数はクララス王国だけで四十人程おり、天使たちがベインジア支部内で捕まえた対象者はマッカランを含めて六人だけだった。


 このためメルシーナの部下二十人程はリファロに対象者の居場所を教えてもらうとベインジア中に散り、マッカランたちを引き連れてベインジア中央にある王城を目指すメルシーナたちの後をリファロとマナリュースは歩いていた。


 メルシーナたち天使は今日、明日で行う予定の不正を働いたギルド関係者の拘束とクララス王国の王族や貴族たち有力者との交渉の際、極力目立たないで欲しいと事前にリファロに伝えていた。


 今回のメルシーナたちの行動は冒険者ギルド設立時に人間と天使・竜の間で交わされた契約に基づいてのものだったので、形だけでも天使主導にしておかなくては人間との交渉が行いにくかったからだ。


 そして天使たちの要請に対してリファロが出した条件は自分とマナリュースの天使たちへの同行だった。


 場合によっては一年以上先の話になるかも知れなかったが、アルベール魔王国やアッキム王国南部以外の場所でも魔族が冒険者として活動できればいいと考えていたリファロにとって今回の出来事は魔族の存在をベインジア住民に知らせる好機だった。


 ほとんど人前に姿を見せない天使による冒険者ギルド幹部の逮捕という人目が集まる出来事の最中、マナリュースの姿が目撃されるだけで宣伝効果は大きく、言葉を選ばずに言うならマナリュースを見せ物にするという今回のリファロの頼みをマナリュースは迷う事無く引き受けた。


 移動手段としてマナリュースはリファロの専属になったが、戦争終了以降のリファロは国外のレウグ聖峰への移動どころかアルベール魔王国内の移動すら『転移』で行う事が多かったのであまりリファロの役に立てているという実感を持てずにいた。


 このためマナリュースは今回のリファロの頼みを即座に引き受け、リファロはマナリュースに直接的な暴力からは確実に守ってみせるが差別や奇異の視線は避けられないと思うと伝えていたがこの忠告が無くてもマナリュースは今回クララス王国に来ていただろう。


 確かにギルド支部を出て程無くしてマナリュースは屋内や物陰からのベインジア市民のぶしつけな視線にさらされたがリファロの役に立てていると考えるだけで周囲からの視線も気にならず、一部の魔族から首輪をつけられている様だと不評の今着ている服すら誇らしかった。


「今日はこの街に泊まる事になるんですか?」

「そうですね。さすがに今日偉い人に会ってすぐ話し合いってわけにもいかないでしょうし」


 リファロは『回答者』で後三分も経たない内に自分たちが衛兵五十人程と遭遇する事も彼らがメルシーナたちの訪問を遭遇後二時間以内に王城に伝える可能性が高い事も知っていた。


 しかし現代、カリオルクァ神聖国以外での天使の権威は決して強くないので、クララス王国の大臣たちが天使との交渉の場に立つのは早くても明日になる事もリファロは『回答者』で知っていた。


 現在時刻は間も無く午後三時となる頃で、リファロは衛兵たちと話が着くまでメルシーナたちにつき合ってからベインジアを見て回るつもりだった。


 リファロは今夜の宿は適当に探そうと考えていたのだがここでようやく今日はマナリュースもいる事に気づきマナリュースに今後の予定を伝えた。


「もう少しメルシーナさんたちにつき合ったら僕はこの街を見て回るつもりです。できればこの時も僕に着いてきて欲しいんですけど大丈夫ですか?」


「はい。もちろんです!できるだけたくさんの人間に私の事を見てもらわないといけませんからね!」


 嫌なら無理にとは言いませんとリファロが続けるひまも無くマナリュースはリファロの頼みを承諾し、街の見学に想像以上に前向きなマナリュースに驚きながらリファロは話を続けた。


「ギルドの転移装置、後一回ぐらいなら使わせてもらえると思いますけど街を見た後、どうしますか?こっちに残るなら人間の宿に泊まる事になりますけど」


 転移装置は制作時に設定される十桁の起動番号を両方の転移装置でほぼ同時に入力しなくては起動できず、起動番号の変更は元の起動番号を知らなくては不可能だった。


 そして設置場所への部外者の侵入を防ぐために転移装置の起動番号は関係者数人のみに知らされるのが一般的だったので、転移装置は事実上二個一組という形でしか使用できなかったが『回答者』があればこの問題は解決できた。


 このためリファロは戦争の際に転移装置を一個だけ手に入れてニードベルの仮宿に置いており、レウグ聖峰にあった転移装置の起動番号を一度書き換えてマナリュースをレウグ聖峰に呼び寄せた。


 この際リファロは魔族をカリオルクァ神聖国に入れるのは今回だけだと天使たちに平謝りし、マナリュースを呼び寄せる事を事前に知らされていた上にベインジア側に転移を拒否されている以上、リファロの協力無しではベインジアに行く事すらできなかった天使たちはマナリュースの一時的な入国を渋々受け入れた。


 マナリュースをアルベール魔王国に帰すだけなら『創造者』で転移装置を創ればよかった。


 しかし顔見せが済み次第即帰国というのもマナリュースに悪いと考えたリファロは一度帰国するかどうかの判断をマナリュース本人に任せ、しばらく考え込んでからマナリュースは今夜宿に泊まる際の心配を素直にリファロに伝えた。


「明日またリファロ様に呼んでもらうのも悪いのでリファロ様さえよければこっちに残りたいです。……でも私を泊めてくれる宿があるでしょうか?」


 奴隷としてすら魔族がいないクララス王国はある意味アッキム王国より魔族を受け入れる土壌が無く、自分を受け入れる人間の宿などあるだろうかとマナリュースは不安に思った。


 また自分が受け入れられるかという不安を抜きにしてもハーピィのマナリュースは木の上などの方が眠りやすかったのでどこかで野宿した方が楽で、夕方以降は明日の朝まで別行動をと言おうとしたマナリュースの質問にリファロは答えた。


「マナリュースさんを泊めてくれる宿はもう見つけてあるので大丈夫です」


 この場合の泊めてくれるは内心嫌だが宿泊を断りはしないという意味で、この事は別にマナリュースに伝える必要は無いだろうと考えながらリファロは話を続けた。


「マナリュースさんにとって人間の部屋が休みにくい事は分かってるつもりです。でも今の僕たち、一応は天使のみなさんに同行させてもらってる身ですから夜は外にいない方がいいと思うんですよね。……どこにでも荒っぽい人っていますから余計な騒ぎ起こしても面倒ですし」


 リファロはベインジアに着いて以降常に『回答者』を発動して自分、マナリュース、天使たちに直接危害を加えようとする者がいないか周囲を警戒していた。


 しかし寝ている間は『回答者』を発動できないので自分もマナリュースも宿にいた方が安全だとリファロは考え、今夜天使たちが泊まるギルド支部に泊まる事も考えたがまだ接触したばかりなので最低限の距離を保つためにこの考えは見送った。


「後、これは失礼な言い方になってしまうかも知れないんですけど人間の宿を実際に使って感想を聞かせてもらえれば助かります」

「ああ、なるほど。そういう事なら喜んで泊まらせてもらいます」


 こう言ってマナリュースがリファロの提案に納得した直後、リファロとマナリュースの前を歩いていたメルシーナたちの動きが止まり、メルシーナたちの前に立ち塞がった衛兵たちにマッカランたちは助けを求めた。


「助けてくれ!この前ギルドを追放されて、捕らえようとした兵士を何人も殺して逃げた男に騙された天使に捕まってしまった!」


「ここにいる天使以外にも何十人かの天使が我々の同僚を捕まえに行った!これはもはや侵略だ!城に連絡を入れて応援を呼んでくれ!」

「見ての通り、天使たちは魔族とも手を組んでいる!早く助けてくれ!」


 今この場にはメルシーナを入れて四人しか天使がいなかったのでマッカランたちは衛兵数十人の姿を見て気が大きくなったらしく、たかが二百年程目を離しただけで人間とはここまで堕落するのかと呆れと怒りの入り混じった感情を抱きながらメルシーナは頭上に天使五百体を召還した。


「「「なっ……」」」


 マッカランたちや衛兵たちは突然現れた天使の軍勢に言葉を失い、武器に伸ばしかけていた手を止めた衛兵たちにメルシーナが声をかけた。


「どうする?こっちから事を荒立てるつもりは無いけど私たちの邪魔をするって言うなら相手になる」


 このメルシーナの発言の直後、メルシーナの召還した天使の軍勢は上空で左右に別れ、自分たちを頭上から挟み込む様に移動した天使の軍勢に部下たちが視線を向ける中、衛兵たちの士指揮官がメルシーナに返事を返した。


「お待ち下さい!まずは事情を話していただかない事には……」


 こう言ってマナリュースに視線を向けた指揮官を前にしてメルシーナはため息を押し殺した。


「後ろの魔族なら気にしないで。まだこの国には伝わってないみたいだけど一週間ぐらい前にアッキムとかいう国が魔族に負けて、自由になった魔族の一人が見学に来てるだけだから」


 突然の異種族の襲撃だけでも対応し切れないというのが指揮官を含む衛兵たちの本音で、更に周辺国家最強と言われていたアッキム王国の敗北まで知らされて衛兵たちに動揺が走った。


「……アッキムが負けたのはあなたたちの介入が原因ですか?」


 天使たちに捕まっている男が先程口にした侵略という発言が現実味を帯びてきた事に動揺しながら指揮官はメルシーナに質問をし、まだメルシーナの発言に半信半疑だった指揮官の質問にメルシーナは答えた。


「人間と魔族の争いにいちいち介入なんてしない。アッキムとかいう国が負けたの知ったのは私たちもついさっきだし。まあ、いいや。つい答えちゃったけどアッキムとかいう国と魔族の戦争は今日私たちが来た事とは関係無いから。私たちは長い間私たちに嘘の報告をしてきたこの男たちを捕まえに来ただけ」


「いきなり来て乱暴だ!ろくに調べもしないで!」


 このまま何もしないで罰を受けるぐらいならと考えてマッカランは声を荒げ、まだ抵抗を諦めていなかったマッカランを前にしてクララス王国の担当がフォルネーズじゃなくてよかったと思いながらメルシーナは口を開いた。


「ろくに調べもしないで?私の天秤の前での証言拒否したのあなたでしょ?……『回答者』の説明もちゃんとしたはず。どの道私たちが手に入れた情報はこの国の王や貴族にも渡すし、あなたたちの代わりは私たち天使が務める。……言ってる意味分かる?」


 マッカランたちギルドの幹部は冒険者の派遣を取引材料に使い王族や貴族相手に横柄な態度を度々(たびたび)取ってきたので、ギルドの幹部全員が入れ替わった場合、天使から渡された情報を手にした王族や貴族がどう動くかは容易に想像できた。


 天使が戦力を分散している間に衛兵たちに天使を始末させるという最後の望みも上空の天使たちを見る限り叶いそうになく、どうして自分がこんな目に遭わなくてはいけないのかと怒りを覚えながらマッカランはリファロに視線を向けた。


「さぞ、いい気分だろうな。……天使をたらし込んで私たちに復讐ができて」


 せめて最後に嫌味の一つぐらい言ってやろうとマッカランは考え、突然話しかけてきたマッカランに驚きながらリファロは口を開いた。


「別にいい気分ではないですね。あなたたちが不正なんてしないでギルド運営してれば僕今頃のんびり人助けしてたはずなので。……色々あって魔族のみなさん助けられたので最悪とは言いませんけど、まあ、……正直言うと逆恨みされても困るって言うのが本音です」


 リファロの気の抜けた声での返事を受けてマッカランは歯噛みし、マッカランと話した事で衛兵たちの注目を受けている事に気づいたリファロはメルシーナに頭を下げてから指揮官に話しかけた。


「……すいません。今日の僕はただの見学なので後はみなさんでどうぞ」


 こう言ってリファロが指揮官の視線から逃れる様にメルシーナの後ろに移動するとマナリュースも続いて移動し、心配していた通り目立ってしまったリファロの視線を背中に受けながらメルシーナはやはりリファロを連れて来るべきではなかったと後悔した。


 しかしリファロ抜きではそもそも今回の件は始まりすらしなかったので、無意味な仮定をしてもしかたがないと考えながらメルシーナは指揮官に話しかけた。


「不正を働いていた人間たちの処分とか新しい幹部の選定とかについて話がしたい。もし断るなら二百年前の契約に従ってこの国のギルドで使われてる水晶を全部持って帰る。あなた、そうなった場合、責任取れる役職に就いてる?」


「いえ、今おっしゃった件は私では返答できかねます。すぐに城に使いを送りますので少々お待ち下さい」


「分かった。とりあえず今日は不正働いてた人間を捕まえる以上の事はしないから安心して。邪魔された場合も殺さないように言ってあるし、怪我なら私たちで治せるから」

「はい!ありがとうございます!」


 この時点で突然現れた天使たちへの対応を上司に丸投げするつもりだった指揮官はメルシーナの一部物騒な発言に反射的に礼を述べ、とりあえずの目的、クララス王国の王城への連絡役の発見を果たしたメルシーナはリファロたちと別れてギルド支部へと向かった。

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