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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
2章

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契機

 天使のベインジア訪問が始まろうとしていた頃、アルベール魔王国の首都、リキュアナの王城の自室で妃のミルヒガナはディルシュナと会っていた。


 冒険者ギルドの活動が本格的に始まった後のアルベール魔王国全体での対応などはディルシュナにはあまり関係が無かった。


 しかしディルシュナにリファロとの関係を深めるように指示を出していた以上、リファロが『回答者』で相手の考えを知る事ができるという事実はディルシュナに伝えておく必要があるとミルヒガナは考えた。


 このためリファロとの対談後の幹部たちとの話し合いを終えたミルヒガナはディルシュナと話す時間を作り、リファロに自分たちの思惑が知られている可能性があると聞かされてディルシュナは動揺している様子だった。


「……リファロ様に私たちの考えが……」


 自分が下心を持って近づいていた事がリファロに知られている可能性があると知りディルシュナは羞恥と恐怖が入り混じった感情を抱いていたが、ミルヒガナはリファロとディルシュナの関係においてのみは『回答者』が必ずしも脅威ではないと考えていた。


「リファロ様の説明が本当なら今の私たちの会話も聞かれている可能性があるのですからあなたが怖がるのも無理はありません。ですがある意味では好都合かも知れません」

「……どういう意味ですか?」


「だってあなた、自分からリファロ様との距離を詰められないでしょう?」


 母親だけありミルヒガナの指摘は正確で、ミルヒガナからの指示以降、ディルシュナは何とかリファロとの距離を詰めようとしたが奥手なディルシュナではリファロの隣に立つのが精一杯だった。


 魔王の一族と他種族の間に子どもができた場合、子どもは確実に他種族の子どもが生まれてくるので魔王の一族は同族間で子どもを作らないと数が減る一方で、戦争前ですら魔王の一族の数は百人もいなかった。


 魔王の一族が長命種なのでそこまで焦る必要は無かったが今回の戦争で先代の魔王、ディルグリオンを含む魔族十数人が死んだ事もあり、リファロがいなければディルシュナは生き残った魔王の一族の男の誰かと遅くても数年以内に結婚させられていただろう。


 しかし子どもに遺伝する可能性がある強力な能力を持ち、魔王の一族の体も再現できるリファロの存在は一族間でしか子どもを作れない魔王の一族にとってまさに逸材と言えた。


「……どうしてもあなたがリファロ様との距離を詰められないようなら他の子に声をかけます」

「それは!……」


 自分の質問を受けて大きな声を出した後、黙り込んだディルシュナを相手にミルヒガナは質問を重ねた。


「リファロ様の事が好きなのですか?」

「……はい」


 ミルヒガナがリファロとの関係を深める相手にディルシュナを選んだ理由は初めの内は完全に打算の結果だったが、指示を出した後のディルシュナの言動の節々からミルヒガナは娘の気持ちに気づいていた。


「あなたがリファロ様の事を好きなら『回答者』という能力はむしろ好都合でしょう。あなたが何も言わなくても気持ちは伝わるのですから」


 リファロに対するディルシュナの最初の印象は都合が良過ぎる救世主で、当時のミルヒガナの苦労を間近で見ていたディルシュナはアッキム王国の人間に捕まり凌辱されるぐらいなら自殺するしかないとまで考えていた。


 しかしリファロが現れた直後から全てが好転し、もっと早く現れてくれればと思わなかったと言えば嘘になるが今ではディルシュナはリファロの感謝以上の感情を抱いていた。


 このためミルヒガナの都合も理由に含まれている事は理解していたが魔王の一族の中からリファロの相手に自分が選ばれた時、ディルシュナはとても喜んだ。


 しかしミルヒガナから指示を受けた後に全く成果を出せていない事をディルシュナは自覚しており、落ち込んでいた時に『回答者』の存在を知りディルシュナは驚くと同時に喜びもした。


「もちろん私たちもできるだけの支援はします。リファロ様の協力を得るためにリキュアナに来ていただく数を増やして、できるだけあなたたちだけの時間を持てるようにするつもりです」


 このミルヒガナの発言を受けてディルシュナは自分は『回答者』の存在に加えてミルヒガナたち周囲の助けが無いとリファロとの関係を深める事ができないのかと情けない気持ちに襲われた。


 しかし自己嫌悪に襲われながらも心のどこかで安心していたディルシュナはリファロが今どこにいるかを聞かされて表情を硬くした。


「リファロ様は冒険者ギルドについての話し合いをするために今天使たちのところにいるそうです」


 ディルシュナは天使について話でしか知らなかったが大昔に自分たちの先祖と争った種族のもとをリファロが訪れていると聞き驚き、言葉を失っていたディルシュナにミルヒガナは安心するように伝えた。


「リファロ様は今のところは私たちと様々な計算を含めてつき合って下さっていますし、いきなり訪れたリファロ様が心変わりをするような条件を天使たちが用意する可能性は低いでしょう。それにあさってには顔を出して下さるらしいですから」


 ミルヒガナがリファロが天使側につく可能性が低いと考えているのは事実だったが、安心ばかりもしていられないともミルヒガナは考えていたので、危機感を持たせるためにディルシュナに自分が抱く不安を伝えた。


「今回リファロ様の行動を把握できたのはたまたまルドディスさんがリファロ様に聞いていたからで毎回こうはいきません。それに今日と明日で他の国にリファロ様が行く可能性もあるのでこの間にリファロ様にどんな勢力が接触しようとするか分かりません。……リファロ様も若い殿方です。今は忙しくしているようですが落ち着いた時にはどうなるか分かりません。いつまでも時間があるとは思わないように」

「……はい」


 リファロの隣に自分以外の女がいる場面を想像してディルシュナは眉をひそめ、その後先程の会議の内容を簡単に伝えられてから自室へと戻った。


 ミルヒガナとディルシュナが今後について話していた頃、クララス王国の首都、ベインジアにある冒険者ギルドの支部には緊張が走っていた。


 数分程前に数十年振りとなる転移装置を通しての天使側からの連絡があったからで、今の職員の誰もが経験した事が無い事態に動揺しながらベインジアの冒険者ギルド支部支部長、マッカランは今後どうするべきか考えていた。


 楽観的に考えれば天使側が何らかの指示を書いた書類を送ってくるだけの可能性もあったが、昨日エイメルグに竜が現れた事を考えるとあの偽善者が今回の天使の行動に関わっているという最悪の事態を想定するべきだとマッカランは考えていた。


 話にしか聞いた事が無い天使の天秤はどこまで相手の嘘を見破れるのか。

 これまでの不正の証拠を消すまでの間、転移装置の反応を無視するべきか。

 もし転移装置で天使を呼び込んだ場合、天秤すら出さずに実力行使に出られるのではないか。

 歴代の支部長たちも不正を働いてきたのにどうして自分だけこんな理不尽な目に遭うのか。


 突然自分を襲った逆境にマッカランはリファロを激しく憎んだが現状に対する具体的策は思いつかず、とりあえず国内の転移装置があるギルド支部全てに天使からの連絡は無視するように通達を出した。


 しかし天使からの連絡無視は時間稼ぎにしかならない上に天使側の怒りを買うだけだったので、転移装置の一斉点検という苦しい嘘等を現実逃避気味に考えていたマッカランのいた支部長室の扉を職員の一人が叩いた。


「何だ、今私が忙しい事は分かっているだろう!」

「それが、……先日ギルドから追放された男が職員の制止も聞かずに転移装置を勝手に操作し始めて……」


 今回の天使の動きの裏にリファロがいる事まではマッカランも予想していた。


 しかしリファロがギルド支部に侵入して転移装置を無断で操作するといった強硬策に出るとまではマッカランも予想しておらず、自分を含めた数人しか知らない転移装置の起動番号をなぜあの男が知っているのかと不思議に思いながら支部長室を飛び出そうとした。


 そして続いて別の職員が現れた事でマッカランの足は止まり、今度は何だとわめき散らしたくなったマッカランに職員は現状を伝えた。


「転移装置で何十人もの天使の方々がお越しになりました!先日ギルドを追放された男と鳥の様な、おそらく魔族の女も一緒です!」


 天使の到着を防げなかったと知った瞬間、マッカランは絶望の表情を浮かべると同時に鳥の様な魔族という報告に混乱し、一瞬逃げようと思ったが現実的ではなかったのでしかたなく天使やリファロの到着を待った。


「いきなり来てごめん。先に私たちが行くって手紙で知らせるつもりだったんだけどそっちが無視するから」


 リファロとハーピィのマナリュース、そして天使二人と共に現れたメルシーナのいきなりの指摘をマッカランは慌てて否定した。


「いえ、別に無視をしたわけでは!……申し訳ありません。いつも転移装置の前には職員を一人待機させているのですが今日はこちらの不手際で、」


「そんな嘘つかなくていい。あなたが他の支部に私たちを無視するように指示を出した事も、あなたが彼にした事も、他の不正も全部知ってて今日私たちここに来てるから」


 こう言うとメルシーナはリファロから渡されたマッカランたちの不正をまとめた書類を取り出し、メルシーナに渡された書類にしばらく目を通してマッカランは言葉を失った。


 自分や弟のゴスキルなど数人しかしらないはずの自分たちの不正がここ数年のものだけとはいえ既に天使に把握されているとは思っていなかったからだ。


「……これを一体どこから……」

「彼からもらった。ついでに言っておくと他の国についての報告も受けてる。私たちかなり怒ってるから言い訳は慎重にして」


 突然の天使の登場に諦めかけたマッカランだったが情報の出どころがリファロと知りわずかながら希望を抱き、これまでのリファロの『悪行』をメルシーナに伝えた。


「この男から何を吹き込まれたのか分かりませんがこの男は独断で竜を襲った上に自分を捕らえようとした兵士数人を殺して逃げたような男で我々を逆恨みしています。こんな書類、何の証拠にも、」


 マッカランが自分の罪を素直に認めるとはメルシーナも思っておらず、マッカランの言い訳を最後まで聞かずにメルシーナが天秤を出すとマッカランの言い訳が止まった。


「安心して。もちろん彼からの報告だけであなたたちを裁くつもりは無い。……この天秤の前でもう一回同じ事を言って」


 こう言うとメルシーナは事前にリファロと話し合っていた通り『回答者』についてマッカランに説明し、以前いくら調べてもリファロの情報源が分からなかったマッカランは自分を含む数人しか起動できない転移装置が勝手に起動された理由も含めて納得すると同時にリファロに化け物を見るかの様な視線を向けた。


 しかしメルシーナがマッカランに伝えたのは『回答者』の概要だけではなく、今後天使たちが違反者に課す予定の罰の数々を聞いたマッカランは虚勢を張る事すらできずにいすに崩れ落ちた。


 リファロを連れてメルシーナがマッカランを問い詰めていた頃、ギルドのベインジア支部一階、及び支部周辺も騒然としていた。


 いきなり天使を名乗る武装した存在三十人程がなだれ込んできたからで、天秤を出した天使たちは支部にいた人間をギルド関係者だけを残して全員外に追い出してしまった。


「おい!衛兵を呼べ!」

「マッカランさんは無事なのか?」

「アッキムから逃げてきた魔族か?」


 クララス王国のみならず周辺の国々まで巻き込む冒険者ギルドの転換期の始まりとなる一日は様々な憶測が流れる中、突然始まる事となった。


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