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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
2章

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実演

 戦闘開始直後、背中から翼を生やして上昇したフォルネーズは天使百体を召還してリファロに突撃させ、フォルネーズが小手調べに繰り出してきた天使の集団に向けてリファロは口から炎を撃ち出した。


「見ろ!あの人間の頭から角が!」


 周囲の天使の言う通り、竜の能力を『創造者』で再現したリファロの額の左右から後ろにかけて流れる様に二本の角が生えていた。

 竜の能力を再現する際に別に角まで再現する必要は無かった。


 しかし今回の戦闘は天使たちの前での能力の実演という意味合いが大きかったのでリファロは視覚的に分かりやすい竜の角も再現し、熟練の冒険者の技術を上乗せするまでもなくリファロが撃ち出した炎は天使百体を数秒で焼き尽くした。


「ふん。……この程度はやってもらわないとな!」


 フォルネーズもさすがに天使百体を突撃させた程度でリファロを殺せるとは思っておらず、リファロが撃ち出してきた炎を自分が創り出した障壁で防げた事で自分の勝利に向けての手応えを感じていた。


 一方のリファロは全力には程遠い炎が想像以上に広がってしまった事に驚き、審判役のノルニックに話しかけた。


「あの!今更なんですけど僕たちの攻撃が周りのみなさんに当たっちゃいませんか?」

「ご安心を。ここには私とフォルネーズと同格の天使が後二人いていざという時には障壁を張りますから」

「……分かりました!」


 ノルニックの自信に満ちた発言の直後、あなたたちの障壁が当てにできないという話をしています、という発言を飲み込んだリファロは竜の炎を使った攻撃は多用しない方がいいと考えながら竜の翼を生やして空中にいたフォルネーズに突撃した。


 自分目掛けて突撃してきたリファロに対してフォルネーズは得意とする火属性の魔法を発動し、攻撃範囲より威力を優先した炎の槍三十本がリファロ目掛けて降り注いだ。


 天使が生まれつき魔法で創り出せる障壁は練度が低い者が創り出した障壁でも鉄すら曲げる魔導装甲の攻撃を無傷で防ぐ事ができ、今回フォルネーズが創り出した炎の槍は一本一本が平均的な天使の創り出す障壁をたやすく貫通する威力を持っていた。


 更にこの炎の槍は遠隔操作も可能だったので回避は無駄だと知っていたリファロは一切曲がる事無くフォルネーズ向かって上昇を続け、炎の槍三十本を全身に受けて火傷を負いながらも再び炎を撃ち出した。


 先程の天使百体を焼き払った炎と違い今回リファロが撃ち出した炎は拡散する事無くフォルネーズ目掛けて一直線に向かい、迫りくる炎を防ぐためにフォルネーズは障壁魔法を発動した。


 先程リファロの炎を防いだ際、フォルネーズの障壁は三秒程で破壊されてしまったのでフォルネーズは念のために障壁を三枚重ねて創り出して炎を正面から待ち構えた。


 多少恐怖を覚えながらも矜持と見栄から一切回避行動を取らなかったフォルネーズの見ている前で炎が障壁に命中し、リファロが撃ち出した炎は一瞬で障壁三枚を貫通した後、フォルネーズの左側の翼二枚を焼き尽くした。


「なっ……」

 周囲の天使たちのどよめきが聞こえる中、フォルネーズも驚きの声をあげてしまった。


 一撃で致命傷を負わせる事はできないがフォルネーズの創り出す炎の槍は竜にも有効な攻撃で、実際に竜と戦った事が無いフォルネーズは竜の能力を再現できると言っていたリファロが自分の攻撃で火傷を負った事に安堵していた。


 しかしリファロに攻撃が通った喜びも長くは続かずフォルネーズは同時に翼を二枚も焼かれてしまい、残る四枚の翼で飛行は続けられたがリファロの攻撃のある部分が引っ掛かったフォルネーズは周囲の視線を忘れて声を荒げた。


「貴様、何のつもりだ?わざと攻撃を外したな!」


 先程のリファロの攻撃は最初フォルネーズの胴体を捉えていたがリファロが頭を動かした事で翼を焼くだけに終わり、敵に手心を加えられた事に激高するフォルネーズの質問に自分の火傷の具合を気にしながらリファロは答えた。


「僕の勝利条件にあなたが死ぬが入ってない時点で気づかなかったんですか?僕にあなたを殺すつもりはありません。あなたを殺してしまったら今後天使のみなさんといい関係を築くのはどうあがいても無理でしょうから」


 殺すつもりが無くても勝てるとはっきり告げられてフォルネーズの怒りは頂点に達し、切り札を使う事を決めたフォルネーズは同僚たちに声をかけた。


「ノルニック、ネルモン、メルシーナ!『熾炎しえん』を使う!床に全力で障壁を張れ!」


 生まれつき二枚の翼を持つ天使は翼の数に比例して魔力量や魔法の強さが上がるが翼の数が訓練で増える事は無く、幹部を務める六枚や八枚の翼を持つ天使が死ぬと別の天使の翼が増えるという特性を天使は持っていた。


 天使たちの間で六翼、八翼と呼ばれる上位天使の数はどの時代でもそれぞれ六人、一人と決まっており、世俗を離れていた二百年程の間、天使の幹部の入れ替えは無かったが歴代の六翼は現役のノルニックたちを除いても二十人程いてそれぞれが使用した魔法の記録なども残っていた。


 今回フォルネーズが使用を宣言した『熾炎』は火属性の魔法を得意とした先代の六翼の使用記録が残っている魔法で、天使の間では火属性最強の魔法と言われていた『熾炎』は先程の炎の槍の三十倍の威力を秘めた炎の壁を上空から地上目掛けて落とす魔法だった。


『熾炎』発動時のフォルネーズは最大で三十メートル四方の大きさの炎の壁を創り出す事ができ、今回フォルネーズは『熾炎』の威力はともかく範囲は絞るつもりだったがそれでも何の対策も行わなかったら訓練場の床の大半は消滅するとリファロを含めた室内の全員が考えていた。


 上から下への攻撃なので周囲の被害を考えなくてもいいのはリファロとしても好都合だったが、『熾炎』は発動されてから動いて回避できる程甘い魔法ではない事も知っていたのでリファロは大怪我を覚悟した。


「どうした?逃げるなら今の内だぞ!」

 部外者のリファロが『熾炎』の詳細を知っているなど知る由も無いフォルネーズは自分への妨害・逃走いずれもする様子を見せないリファロに嘲笑を向け、自分の勝利を疑っていないフォルネーズにリファロは正直な気持ちを伝えた。


「僕、今回の試合は自分の能力のお披露目だと思ってるのであなたの攻撃は全部受けるつもりです。よく分からないですけど強力な魔法使うつもりなんですよね?どうぞ?邪魔する気無いんで」


 このリファロの余裕の発言を受けてフォルネーズは怒りのあまり言葉を失い、一方のリファロは今天秤を出されていたら自分の発言が嘘だとばれていたなと戦闘と無関係な事を考えていた。


 そしてノルニックたち三人が部下十数人と共にリファロとフォルネーズの周囲を四十枚以上の障壁で覆った直後、フォルネーズは『熾炎』を発動し、頭上が明るくなったと思った瞬間、リファロは高速で降下してきた炎の壁を叩きつけられてそのまま床に衝突した。


「痛った、……って言うか、熱っ!」


 本来の姿の竜ですら五秒以上受け続ければ死ぬ可能性がある『熾炎』を人間大の姿で受け、リファロは予想していたとはいえあまりの痛みに驚きながら炎の壁と床に張られた障壁に挟まれた。


 この状況で竜の姿になれば致命傷を避けられる可能性があったが確実に訓練場を壊してしまうのでリファロは『熾炎』を受け続け、一分程続いた『熾炎』による攻撃が終わった後には五メートル四方程に渡り焼けた床と頭と胴体だけが辛うじて残っている人間の死体らしき黒焦げの物体が残されていた。


「おお、思ったより床は燃えなかったな」

「当然だ。俺たちが全力で障壁を張ったんだぞ」


 意地を張り転移魔法で逃げずに死んだ馬鹿な人間の死をフォルネーズは当然の結果と受け止め、勝ち誇った様な笑みを浮かべていた同僚に視線を向けながらネルモンは疲れた様な表情を浮かべていた。


 敵を殺すと決めた時にしか使わない技、『熾炎』を使ったフォルネーズはもちろん訓練場にいた他の天使たちの誰もがフォルネーズがリファロを殺した事を問題だとは考えておらず、ノルニックはリファロの死を隠すどころか自分たちに歯向かった侵入者が殺された事を冒険者ギルドを通して公表しようとすら考えていた。


 そして末端の天使が愚かな侵入者の死体を片づけようとした時、黒焦げの死体から勢いよく血が噴き出し、二秒程で血が人間を形作った時には黒焦げの死体は無傷のリファロへと変わっていた。


「さてと、じゃあ、続けましょうか」


 こう言ったリファロの額からは再び竜の角が生えており、竜の翼も生やしていたリファロが召還した『血の乙女』は通常より一回り大きく竜の角と翼が生えていた。


 リファロの意志を受けた『血の乙女』が翼を動かして上昇するとフォルネーズは直径五メートルの火球を創り出して迎撃し、フォルネーズの火球に正面から激突した『血の乙女』は頭と翼の一部をわずかに損傷しただけで上昇を続けた。


 戦争終了後のリファロは空いた時間を使い『奉身者』と『創造者』の組み合わせの可能性を模索し、『創造者』で再現した種族の能力を『血の乙女』にも付与できるようになった。


 このため今回リファロが召還した『血の乙女』は本来の力に人の姿になっている時の竜の力が上乗せされており、本来なら体の大半が吹き飛ばされるはずのフォルネーズの魔法を食らってもほとんど傷つかなかった。


 わずかな損傷を一瞬で復元して火球の中から飛び出してきた『血の乙女』を前にしてフォルネーズは恐怖の表情を浮かべながら二発目の火球を撃ち出したが、この攻撃はフォルネーズの視界を奪うだけの結果に終わった。


 まるで進路上に火球など無いかの様に上昇を続けた『血の乙女』は難無くフォルネーズの左足首を掴むと力任せに腕を振り下ろし、フォルネーズは全力で抵抗したが二秒後には背中から床に叩きつけられていた。


「がっ……」


 自分の最強の技、『熾炎』を使い勝利を確信してから十秒足らずで自分が床に叩きつけられているという状況をフォルネーズは信じられず、左側の最後の翼を『血の乙女』に力任せに引き千切られた直後、怒りの声をあげた。


「この卑怯者が!転移魔法を使って用意していた死体と入れ替わったな!」


 このフォルネーズの言いがかりにつき合う義理はリファロには無かったので引き続き『血の乙女』を差し向けてもよかったのだが、試合が終わってから文句を言われても困るのでフォルネーズに天秤魔法を使うように頼んだ。


「今の質問に答える前に天秤を出して下さい。同じやり取り何度もしたくないので」


 自分の指摘を受けても全く動じる様子を見せないリファロにわずかながら気圧されながらもフォルネーズは天秤魔法を発動した。


「僕はこの試合が始まってから一度も転移していません」


 このリファロの発言を受けてフォルネーズの天秤は当然真実の方に傾き、自分の天秤の動きに呆然としていたフォルネーズにリファロは話しかけた。


「やっぱ天秤魔法って便利ですね。見当違いの言いがかりつけられてもすぐに本当かどうか分かるんですから」

「ではどうやって『熾炎』を防いだ?俺の『熾炎』をまともに受けて無事でいられるはずが無い!」


 リファロは『血の乙女』について血の戦士を召還するとしかノルニックに説明しておらず、ノルニックから『奉身者』と『回答者』についての説明を受けていたフォルネーズはリファロに『熾炎』を防ぐ手段など無いはずだと困惑していた。


 そして困惑と決して少なくない恐怖をごまかす様に声を荒げていたフォルネーズにリファロは『血の乙女』と入れ替わる形で近づいた。


「『熾炎』をどうやって防いだか実際にやってみせます。いや、正直言うと防いではいないんですけど……。三十秒抵抗しないので好きに攻撃してみて下さい。あ、でも『熾炎』みたいな派手な技だと僕の体がどうなってるか見えないから使う技はちょっと考えた方がいいかも知れません」


 こう言ったリファロは人間の体に戻るとフォルネーズの前で棒立ちになり、自分がリファロを恐れている事に気づかないままフォルネーズは炎の槍五発をリファロ目掛けて撃ち出した。


 フォルネーズが撃ち出した炎の槍はリファロの頭と右肩を跡形も無く焼き尽くしたが、次の瞬間には傷口から血が湧き出してリファロの頭と右肩は元通りになった。


「『熾炎』ってすごい魔法なんでしょうけど人間の体で受ける分にはこの魔法も『熾炎』も同じですね。どっちもすごく痛いってだけですから」


 幸い頭を焼き尽くされた事でリファロは痛みによる表情の歪みを隠す必要が無くなったので、どんな攻撃を受けても平然としてフォルネーズを含む天使たちに恐怖を与えるという作戦を実行しやすくなった。


 しかし次にどんな攻撃がくるか分からない以上、油断はしないようにしようと考えていたリファロの前でフォルネーズは天使五十体を召還して突撃させ、天使の数が多かったので一斉にとはいかなかったがリファロは二十本程の剣に全身を貫かれた。


「……痛った、いや、あの、のどぐりぐりされると話しにくいのでできれば止め、うわ!」


 フォルネーズに命令された天使たちはリファロの体に刺さったまま剣を上下左右に動かしたが『血の乙女』発動中のリファロはこの程度では死なず、フォルネーズが天使たちも巻き込む形で巨大な火球をリファロに撃ち出してようやくリファロの口は一旦止まった。


「やれやれ、……どうしたんですか?まだ十秒ぐらい残ってますよ?」

「傷が治るのが早い程度で調子に乗るなよ!」


 再生が早いなら死ぬまで焼き続けてやろうと考えたフォルネーズはリファロを左右から挟む形で二つの火球を撃ち出し、二つの火球が合わさりできた直径五メートル程の火球は拡散する事無くリファロを焼き続けた。


「どうだ?これでもまだ減らず口を叩けるか!貴様が死ぬまで決してその炎は消さないぞ!」


 手札だけは無駄に多い人間ごときに『熾炎』を使ったのが間違いで通常魔法で確実に殺せば問題無い。


 こう考えて二十秒程火球の維持に意識を向けていたフォルネーズは自分の死角から『血の乙女』が火球に飛び込んだ事に気づかず、『血の乙女』が飛び込んだ直後、フォルネーズが創り出した火球は内部から発生した大量の血を浴びて消滅した。


「余裕持ったつもりなんですけどさすがにもう三十秒経ちましたよね?」


 このリファロの発言の直後、火球を消すために飛び散った血が寄り集まるとリファロとフォルネーズの間に『血の乙女』が姿を現し、化け物二体を前にして虚勢すら張れなくなったフォルネーズの耳にリファロの声が届いた。


「まだ翼は三枚も残ってます。さあ、続けましょう」


 こう言って『血の乙女』を差し向けたリファロに対してフォルネーズは天使三百人を召還し、『血の乙女』の攻撃で天使の数が瞬く間に減っていく中、周囲の天使に助けを求め始めた。

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