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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
2章

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提案

 リファロとノルニックが会話中の部屋に無断で入り込んできたのはノルニックと同格の天使の幹部、フォルネーズで、城の中で待機しているはずのフォルネーズの登場に驚いたノルニックが制止する暇も無くフォルネーズはリファロに食って掛かった。


「さっきから黙って聞いていればノルニックが下手に出てるからって調子に乗りやがって!転移で帰ると言うならさっさと失せろ!魔族と魔族にくみする者が冒険者ギルドに入れるわけが無いだろう!」


 正体までは分からなかったが自分に敵意を持った誰かが扉の前で自分たちの会話を聞いていた事もノルニックが天使の中では比較的穏健派である事もリファロは『回答者』で知っていた。


 このため人間で言うなら三十代半ばの男の見た目をしているフォルネーズが右手に剣を握りながら室内に怒鳴り込んできてもリファロは驚かなかったが、ノルニックはそうもいかなかった。


「フォルネーズさん、どうしてここに?この方との交渉は私に一任されています!城で待っていて下さい!」


 フォルネーズは魔族だけではなく人間すら下に見ている天使の中でも選民思想が強い天使で、その強さからノルニック同様スイリーシュ直属の四人の幹部の一人にこそ選ばれていたがカリオルクァ神聖国の上層部との交渉などの仕事からすら外される程言動に問題がある天使だった。


 このためこの場においては来訪者と天使どちらにとっても邪魔にしかならない同僚をノルニックは何とか待合所から追い払おうとした。


 しかし人間ごときに引く気の無かったフォルネーズはリファロどころかノルニックとの意思疎通すらそこそこにリファロに炎属性の魔法を撃ち出そうとし、さすがにこれは看過できなかったのでリファロは新しく創り出した『裏世界』にフォルネーズを送り込んだ。


 フォルネーズが消えて待合所には再び平穏が訪れ、自分と同等の強さを持つフォルネーズが一瞬で消えた事にノルニックはしばらく呆然としたがすぐに我に返りリファロに謝罪した。


「申し訳ありません!今入ってきたフォルネーズという方は少々好戦的な方でして、先程フォルネーズさんが言っていた事は決して天使の総意というわけでは……」


 得体の知れない転移魔法の使い手に挑み案の定あっけなく転移させられた思慮の足りない同僚を心の名で罵倒しながらフォルネーズは頭を下げたが、フォルネーズと戦う可能性もあると思っていたリファロは特に怒っていなかった。


「……怒った方がいいんでしょうけどいきなり乗り込んだらこうなるって事はある程度予想してたんで気にしないで下さい。でも次襲われそうになったら僕も反撃します。今からあなたをノルニックさんのいる所に転移させて頃合い見計らってここに戻しますから説得してもらっていいですか?」


 わずか数分間に転移魔法を三回使う事が前提のリファロの提案を受け、ノルニックは先程のリファロの能力の使用には回数などに制限があるという説明に疑いを持ちそうになった。


 しかし天秤魔法を使いながら説明を受けていた以上、先程聞いた説明に嘘は無いはずだとノルニックはすぐに考え直し、あのフォルネーズをどうやって説得するかと考えていたノルニックにはリファロは追加である提案をした。


「僕が勝ったら冒険者ギルドで使ってる水晶を三つもらえるって条件なら転移魔法無しの一対一で戦っても構わないとフォルネーズさんに伝えて下さい。……ごまかしてもしょうがないからはっきり聞きますけど、さっきのフォルネーズさんみたいな事考えてる天使って他にもいますよね?それなら一回僕の強さを見せた方が話が早いと思うので。もちろん積極的に戦いたいわけじゃないですけど」


 天使との戦闘を全く恐れていない提案を受けて目の前の化け物との交渉をスイリーシュに丸投げしたくなりながらノルニックはリファロの提案について考えた。


 天秤魔法使用下で説明を受けたにも関わらずノルニックは人間が転移魔法の他に体の硬質化や血の戦士の召還といった多彩な能力を持っている事を今も信じられず、これは他の天使たちも同様だろうと考えていた。


 このため城の倉庫に数十個保管されている水晶三個と引き換えにリファロの能力を実際に見る機会を得られた事にノルニックは内心喜び、フォルネーズが多少痛い目に遭うのは自業自得だと考えながらもリファロにある事を頼んだ。


「あなたが力を示して下さるとおっしゃるならもちろん歓迎します。……ですがあなたがフォルネーズさんを殺してしまうとさすがに私たちも部下を抑えられなくなると思いますので、勝手なお願いなのですがどうかご配慮を……」


 外部との武力衝突などここ二百年程起こしていなかった天使たちにとって強さ自慢の幹部一人の犠牲はそこまで大きいものではなかった。


 しかし突然現れた人間に幹部が殺されたとあっては幹部から末端に至るまで天使たちが敵討ちに動く事は容易に想像でき、またカリオルクァ神聖国内における天使への信仰にも悪影響が出る可能性が高かった。


 このためノルニックはリファロにフォルネーズを殺さないように頼み、元々フォルネーズを殺すつもりなど無かったリファロはノルニックの頼みをすぐに聞き入れた。


「もちろんそこまでするつもりはありません。フォルネーズさんの翼を六枚全部壊すだけにするつもりです。これぐらいは許容範囲ですよね?」


 自分の翼の損傷は天使にとって大変屈辱的だったが翼は仮に完全に失われても二週間程で再生するので身体的には問題無く、リファロの言う通り、先に乱暴な言動を取ったのはフォルネーズなのだから部下の前で恥をかく程度は許容範囲だとノルニックは考えた。


 そしてリファロが追加で出した条件を聞きノルニックは表情を硬くし、面倒な仕事を押しつけられたノルニックに同情しながらリファロはノルニックを『裏世界』に送り込んだ。


 一瞬で『裏世界』に送り込まれたノルニックは自分が転移させられたにも関わらずリファロの方が姿を消していた事に戸惑いながらも待合所から外に出た。

 そして自分同様戸惑いながらも城に戻ろうとしていたフォルネーズに気づいたノルニックはすぐにフォルネーズと合流した。


「無事だったか?俺以外の天使の気配が無いから心配したぞ」

「はい。どうやらあの人間の転移魔法は私たちの知っている転移魔法とはかなり違うみたいですね」


 リファロがもう一つの世界を創り出しているなど想像すらしていなかったノルニックは自分と共にリファロの転移魔法を体験したフォルネーズと現状について意見を交わしたいと一瞬考えたが、優先事項が別にあったのですぐに気持ちを切り替えた。


「ブノワーム様を殺した相手にあんな態度を取るなんて何を考えているんですか?」


 リファロが一対一の試合を提案してきた事を伝えるより先にノルニックはフォルネーズの先程の言動をたしなめたが、自分なりの考えでリファロに高圧的に出たフォルネーズは全く悪びれた様子を見せなかった。


「じゃあ、これから先ずっとあの人間に尻尾振って生きていくつもりか?言っておくがお前があそこまで下手に出なかったら俺だって口を挟むつもりは無かった」


「これから先と言っても精々数十年ですよ?放っておけばすぐに死ぬ相手を刺激してどうするんですか?相手はその気になれば私たちなんて今日中に皆殺しにできるかも知れないんですよ?」


 いくら強くても人間が相手なら寿命を待てばいいと考えて下手に出ていた自分の目論見を邪魔されてノルニックは少なからずフォルネーズに怒りを覚えており、いくら何でも敵を警戒し過ぎていたノルニックにフォルネーズも反論した。


「あの人間がどれだけ強力な魔法を使えようが精々数十回といったところだろう?それぐらいなら俺とその部下で盾になってみせる。その後でお前たちがあの人間を殺せば済む話だろう」


 レウグ聖峰に住む天使の数は一万人だったのでフォルネーズの予想通りなら確かにリファロを倒す事も不可能ではなかったが、自己犠牲を前提に勇ましい発言をしてきたフォルネーズを前にしてノルニックはこれ見よがしにため息をついた。


「あの人間が転移魔法を使える事を忘れていませんか?仮にあなたの言う通り、あの人間が数十回しか魔法を使えなかったとしても限界を迎える前にアルベールに転移されたら私たちは追う事すらできません。あの人間の魔力がどれぐらいで回復するかは分かりませんけど、転移魔法での撤退と奇襲を繰り返されたら私たちは一ヶ月も持ちませんよ?」


「……あらかじめ警戒していればあいつの奇襲ぐらい俺と部下で止められるがあいつの寿命を待った方が確実か」


 いくら天使に睡眠が必要無いとはいえフォルネーズとその部下だけで転移魔法の使い手の攻撃を防ぎ続ける事は現実的ではなかったが、ここでこれ以上フォルネーズの顔を潰してもしかたがなかったのでノルニックは何も指摘せずに話を続けた。


「あの人間の底が見えればもう少し強気に出られるとは私も思います。……実はあの人間の方からフォルネーズさんと戦っても構わないと申し出がありました」


 転移魔法を使わないで自分と戦っても構わないとリファロが提案してきたと聞きフォルネーズは再び怒りを露わにし、予想通りの反応を見せたフォルネーズをノルニックはなだめた。


「落ち着いて下さい。これであの人間が約束を破って転移魔法を使ってきたら今後私たちが強気に出られますし、もちろんフォルネーズさんがあの人間を殺せれば言う事はありません。どちらに転んでもあの人間の手の内を見られる好機です」


 今の自分たちの会話の内容もあの人間に知られているのではと考えてノルニックは恐怖を覚えながら最悪の場合、牢屋に収容されているあの異端者の出番かも知れないと考え始めていた。

 そしてこれから行われる戦闘の先の事を考えていたノルニックにフォルネーズは質問をした。


「……お前、俺があの人間に勝てると思っているか?」

「いえ、全く」


 ブノワームより強い存在が相手なのでノルニックの答えは当然だったが即答されたフォルネーズは怒る事無く苦笑してしまい、この直後二人は元の世界へと戻された。


 ノルニックとフォルネーズが元の世界に戻ってから十分後、リファロはノルニックたちに城内の訓練場に案内され、五百人程の天使に視線を向けられる中、ノルニックから注意を受けていた。


「他に場所が無かったのでここに案内しましたが本来私たちの城にはカリオルクァ神聖国の王や貴族すら簡単には入れません。今日私たちの城に入った事は決して口外しないで下さい」

「分かりました」


 ノルニックからの注意に返事を返しながらリファロが『回答者』で確認すると周囲の天使の中にはノルニックとフォルネーズと同格の二人の幹部もおり、スイリーシュがいない事だけが残念だったが、この状況でフォルネーズに勝てば天使相手の示威行為としては十分だろうと考えながらリファロはフォルネーズに視線を向けた。


「後で揉めたくないので戦う前にもう一度確認しておきます。あなたの翼が六枚全て壊される、他の天使がこの試合に手を出す、あなたが負けを認める。これが僕の勝利条件で僕は転移魔法と天使の能力を使った場合も負け。これでいいですか?」


 このリファロの発言はフォルネーズへの確認と言うより周囲の天使への確認という意味合いが強かったが、聞いていなかった条件が加わった事にフォルネーズは表情を変えた。


「俺たち天使の能力を使わないだと?」

「はい。天使の能力を使ってあなたの翼を壊すのはさすがに気が引けるので。もちろん僕が勝手に言ってるだけなので負けても文句は言いません」


 一度他の二人の幹部に視線を向けながらのこのリファロの発言を受けてフォルネーズは怒鳴り散らしそうになったが、自分の部下を含めた多くの天使の視線があったので辛うじて自制できた。


「負けた時の言い訳が欲しいなら好きにしろ。俺の勝利条件はお前を殺す事で降参は認めない。……転移で逃げた場合は二度とここに顔を出さないなら許してやる。これでいいな?」


 いきなり天使の能力を使わないなどと余裕を見せてきたリファロへの意趣返しでフォルネーズはリファロが逃げた場合に言及し、自分が逃げる状況など全く想定していなかったリファロが真顔でうなずいた直後、ノルニックの合図で二人の戦闘が始まった。

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