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ほぼ全知の勇者のギルド運営  作者: 紫木翼
2章

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レウグ聖峰訪問

 リファロが神の使いを名乗る女に転移させられた大陸の北端にある国、カリオルクァ神聖国は国民の信仰心が大変強い宗教国家で、一応は人間が治めていたが国の北東に位置するレウグ聖峰に住む天使たちには国王すら逆らえないと言われていた。


 しかし冒険者ギルドの基盤を数百年前に作って以降、天使たちはカリオルクァ神聖国の国民の前にすらほとんど姿を見せず、年に数回カリオルクァ神聖国からの要請で負傷者の治療を行う以外の人間との関りを持とうとはしなかった。


 このためカリオルクァ神聖国の国民の中でも天使と言葉を交わすどころか姿を見ないまま死ぬ者も珍しくなく、許可無くレウグ聖峰周辺に立ち入った者は天使によってその場で殺される事さえあった。


 しかし国民の信仰心の強さとそもそもの必要性の無さから聖域を冒そうとする者はこの数百年で数える程しかおらず、そんな聖域にリファロは堂々と姿を現した。


 もちろんリファロがその気になればいきなり天使の長の前に転移する事もできた。

 しかし殴り込みに来たわけではないのだから最低限の礼儀は守ろうと考えてリファロは天使たちが住む城の正門前に転移し、いきなり目の前に人間が現れた事を受けて正門を守っていた二人の天使は武器を持つ手に力を込めた。


「貴様!何者だ?ここがどこだか分かっているのか?」


 リファロが徒歩や空路で現れていたら天使二人は問答無用で攻撃を行っていたが、リファロが何も無い場所に突然転移したとしか思えない現れ方をした事で天使たちは突然の侵入者相手にどう対応するべきか迷った。


 目の前の人間が魔術の実験時の事故の被害者の可能性や自分たちが知らない上位存在の可能性を考えながらも天使たちは侵入者に武器を向け、そんな天使たちにリファロは今回の訪問の理由を伝えた。


「僕は十日程前に冒険者ギルドを追放された者です!僕が竜を独断で殺したと言いがかりをつけられた件で天使のみなさんと直接話をさせて下さい!」


 目の前の一見に人間にしか見えない存在がブノワームを殺したという発言を天使たちは信じられなかった。

 そして何より事前の約束無しで人間が自分たちを訪問した事を天使たちは許せず、いきなり現れて妄言を口にした侵入者を殺すべく天使たちは動き出した。


 リファロと天使たちの間合いは三メートル程で翼を動かすと同時に踏み込んだ天使たちは一瞬でリファロを持っていた槍の間合いに捉え、そんな天使たちをリファロは『裏世界』に送り込んだ。


『無敵化』で天使たちの攻撃を防いでもよかったのだがあいにく先程の『転移』で『無敵化』は消費してしまい、まだ城にすら入っていない段階で腕輪による回復を使うわけにもいかないと考えてリファロは『裏世界』を創り出した。


 魔族たちから文句が出ない事は分かっていたが完全に私事のレウグ聖峰訪問中に強化された『奉身者』を使うのはまずいとリファロは考えていた。


 このためできるだけ『裏世界』一回で天使たちとの交渉を終えたいともリファロは考えていたのだが、『回答者』による確認で実力者の天使との戦闘一回がほぼ確定していたので今から気が重かった。


『裏世界』に門を守っていた天使たちが送り込まれた瞬間、城内の天使たちが外の天使の気配が消えた事に気づいて現れるはずだったのでリファロは後は待つだけでよく、二分も経たない内に城内から武装した天使数十人が姿を現した。


「貴様、コールスとシドに何をした!」

「我々の領域に許可無く入り生きて帰れると思うなよ!」

「……許可無くって言われても部外者が手紙出してもここまで届きませんよね?」


 カリオルクァ神聖国の権力者の一部以外はレウグ聖峰に出向く事はもちろん手紙を出す事すら禁じられており、『回答者』で確認したところリファロがカリオルクァ神聖国を通して天使に手紙を出そうとしても取り合ってもらえず兵士たちとの衝突が起こる可能性も高かった。


 このため失礼だとは分かっていたがリファロは今回の様な形の訪問をし、立ち回り方次第では実力者の天使以外との戦闘は避けられるはずだったのでとりあえず『裏世界』に送り込んだ天使を呼び戻した。


「気をつけろ!妙な転移魔法を使うぞ!」


 こう言うとコールスは直径五メートル程の火柱をリファロ目掛けて撃ち出し、この攻撃に合わせて左右に分かれた天使たちはコールスの火柱がリファロに全く届いていない事に気づき驚きの表情を浮かべた。


 人間が天使の魔法を生身で防ぐ事自体不可能なはずだったが、リファロがコールスの魔法をただ防いでいただけなら周囲の天使たちもリファロがただの人間ではないと警戒するだけだっただろう。


 しかし天使たちの見ている前でコールスの撃ち出した火柱はリファロに触れる直前で消え続けており、先程のコールスの発言を思い出した天使たちはまさか目の前の人間がコールスの魔法を転移しているのかと愕然とした。


 人間がここまでの転移魔法を開発したなど冒険者ギルドからの報告書には記載されていなかった。

 左手につけた腕輪以外これと言った物は身につけていないがまさか生身で……。

 他者の魔法を転移させるなどという上級天使でも不可能な離れ業を人間が身一つで行えるはずが無いので服の下に最新型の何らかの道具を身につけているはずだ。


 目の前の人間が使う想像以上の転移魔法を目の当たりにしてリファロとコールスの戦闘を見ていた天使たちは敵の魔力切れを待つ、敵が身につけているはずの何らかの武器を奪うなど様々な選択肢を思い浮かべながら仲間たちに指示を出した。


「コールス、魔法での攻撃を止めろ!この人間が魔法をどこに転移させているか分からない!」

「こいつはさっきコールスとシドも転移させた!そこまで警戒してたら何もできないぞ!」


 目の前の敵が自分たちの攻撃魔法を仲間や街中に転移させる可能性を考えて一部の天使は攻撃魔法の使用をためらい、そんな天使たちの発言を受けて交渉の機会が訪れたと考えながらリファロは口を開いた。


「今から僕の転移魔法について説明するので天秤を出してもらえると助かります」


 天使たちは全員が魔法で特別な天秤を創り出す事ができ、この天秤は目の前の相手の発言の真偽に反応して傾いた。


 この天秤の魔法は冒険者ギルドの登録票にも応用されており、天使の誰かが天秤を出してくれれば自分に敵意が無い事が天使たちにも伝わると考えていたリファロの発言を受けて天使の一人が渋々天秤を創り出した。


「ありがとうございます。さっきコールスさんとシドさんにも言いましたけど僕がギルドを追放された件でここに来ただけです。みなさんはもちろん街の人にも危害を加えるつもりはありません。ああ、後僕一対一でブノワームさんに勝ってます」


 当代最強と言われていた竜、ブノワームの名前も死も知らない天使はいなかったのでリファロがついでの様に告げた事実に天使たちの表情が険しくなった。

 そしてこのリファロの発言を受けて天使の天秤は当然真実の方に傾いたが、リファロが転移魔法について一切説明していない事に気づいた天使たちの視線が鋭くなった。


 目の前の敵がブノワームを倒した事が事実と知り攻撃こそ仕掛けてこなかったが自分たちが騙されたと考えた天使たちのリファロへの敵意は強くなり、殺意すら込もった天使たちの視線を受けながらリファロは話を続けた。


「みなさんと争うつもりはありませんけどまだ戦いを続けたいって言うなら気が済むまで攻撃して下さい。みなさんの魔法は誰もいない場所に転移させてるので。でも僕の魔力切れ狙ってるなら魔法何千発撃ち込んでも無駄ですよ」


 ここで転移魔法をいくらでも使えると発言すると天使の天秤は嘘の方に傾いてしまうのでリファロは言い回しを慎重に選び、天秤の効果に全幅の信頼を寄せていた天使たちは目の前の侵入者に自分たちの攻撃が通用しないと知り次の手を打てなくなった。


「……侵入者に命令されて不愉快な気持ちは分かりますけど僕がその気になればスイリーシュさんのところに直接転移できます。さすがにそれは失礼かなと思ってこうして表から来たので何とか取り次いでもらえませんか?」


 こう言ったリファロは『回答者』の能力の一部も天使たちに伝え、リファロの発言直後天使の天秤が真実の方に傾いた事を受けて他の天使数人がそれぞれ天秤を創り出した。


 新たに天秤を創り出した天使たちは最初に天秤を創り出した天使の技量に疑いを持ち始めたらしく、そんな天使たちを納得させるためにリファロは説明を繰り返した。


 当然新たに創り出された天秤もリファロの発言を受けて真実の方に傾いたが、一定の役職に就いていない限り天使ですら会う機会が限られている天使の長、スイリーシュに取り次げと侵入者に言われても天使たちは簡単にはうなずけなかった。


 そしてこうした天使たちの反応は『回答者』で予想済みだったのでリファロは天使たちに手土産を差し出した。


「これはこの辺りの国の冒険者ギルドが本部に提出した嘘の報告をまとめたものです。受け取れないって言うなら無理強いはできませんけど、スイリーシュさんとかフォルネーズさんに会った時にあなたをかばえるかは分かりませんよ?クルニーさん」


 スイリーシュやフォルネーズといった幹部ならともかく何の役職にも就いていない自分の名前を侵入者が知っていた事にクルニーは思わず後ずさってしまい、その後リファロが周囲の天使十人程を名指しした後天使たちはリファロの手土産を受け取った。


 手土産を受け取ってもらえた後、カリオルクァ神聖国の立場もあるので予約無しの部外者を城に入れる事はできないと天使に言われ、リファロはレウグ聖峰の近くに用意された建物に案内された。


 リファロが案内された建物は数部屋しかない平屋だったが内装や家具は素人のリファロでも高級品だと分かる程豪華で、『回答者』によると年に数回しか使われないにも関わらず建物は内外共に清掃が行き届いていた。


 常駐しているカリオルクァ神聖国が用意した職員が淹れたお茶を飲みながらリファロは今日の予定を考えていた。


『回答者』によると二十分程待たされた後、天使の中で長のスイリーシュに次ぐ権力者のフォルネーズかノルニックが現れ、現れた天使と戦闘を行った後、戦った天使と共に今日中にクララス王国のギルド支部に向かうという流れになるらしかった。


 二つ目の『裏世界』を創る事になる以外この予定はリファロにとって問題無く、戦わずに済む可能性がある天使、ノルニックの登場を待ちながらリファロは先程実際に見た天秤魔法について考えていた。


 先程のやり取りではこちらの発言に嘘が無いと証明してもらえたのでありがたかったが、今後も天使とつき合う可能性を考えたら天秤魔法には警戒が必要だとリファロは考えていた。

 今後定期的に天秤魔法を使われてここ最近天使やカリオルクァ神聖国の人間に『回答者』を使った事があるかと聞かれたら面倒な事になるからだ。


『回答者』と違い天秤魔法には黙秘が通用したが黙秘した時点で関係の悪化は避けられず、自分が言える立場にいない事は分かっていたが天秤魔法は本当に面倒だとリファロは思った。


 各国の冒険者ギルドの腐敗の是正は自分が何もしなくても天使たちが行う事をリファロは『回答者』で知っていたので、後はアルベール魔王国で冒険者ギルドを始める事さえ天使に伝えれば今日の最低限の目的は終わりだと考えていた。


 理想は天使の許可を正式にもらい冒険者ギルドを始める事だったが天使は魔王の一族と多少因縁があり魔族の事も見下していたので、天使がアルベール魔王国の国民のギルドへの参加を認めなかったらリファロは独自に冒険者ギルドを始めるつもりだった。


 しかしあえて事を荒立てるつもりはリファロにも無く、天使側が確実に頼んでくる竜との仲介の見返りに何を求めるか、現時点では断る予定のクララス王国のギルド支部長就任を受けるかどうか、など待機時間の間に様々な事を考えていた。


 効率のいい方法は『回答者』でいくらでも導けたが、天使を何百人か殺してのレウグ聖峰の武力制圧や天使と協力してのアルベール魔王国への裏切りなど論外だったので結局最後の決定はリファロ本人がするしかなかった。


 このため考え事に没頭していたリファロの耳に職員の声が届き、職員がノルニックの訪問を告げるとリファロは無意識の内に安堵していた。


 天使の面子を潰す事になるフォルネーズかノルニックとの戦闘はできれば避けたかったからで、リファロは自分が先程の天使たちとのやり取りを戦闘と認識していない事に気づかないままノルニックを出迎えた。

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