第89話 宣教師Ⅱ
※ 現在執筆の時間を余り取れない為、投稿を優先して話が短くなっております。また、誤字脱字の確認も不十分です。以上、ご了承ください。
※ 今話の中に宗教や民族に対しての厳しいやり取りがありますが、飽くまでも演出の一つであり、フィクションです。よって特定の宗教や民族を貶めたり、差別をしたり、対立を煽る事を意図する物ではありません。
◎近江国・近江八幡城 フランシスコ・カブラル
1563年 5月中旬
その身に霹を纏い、我らの言葉を淀みなく流暢に話す蛮族の王から向けられる気が遠くなる程の圧迫感と、引き込まれそうな程の深い青眼の視線を受け、俺の身体は硬直し、歯はガチガチと打ち震え、今にも気を失いそうになる。
「あぁ…。(一体…こいつは…何なんだ?!霹を纏って…ひ…人では無いのか?!このような力…見た事も…聞いた事も…。俺はいったい…何者の…怒りを…買ったんだ?!)」
俺の心は目の前の男の発する理解不能な力に対する恐怖と、軽口を聞いた事への後悔に苛まれていた。
「くっ、楠木様…申し…訳…ございません。その…圧力だ…け…でも…緩めて…頂けませんか?」
ジョーチン(小西隆佐)が苦しげな表情であの男に頼んでいる。
「おっと、其方らは無関係であったな。カブラル以外への圧は緩めてやろう。」
そう言うと俺以外の者へ掛けられていた圧力は解かれたようで、皆は息も絶え絶えで額の汗をぬぐっていた。
「はぁ…はぁ…、有難う御座います。この者には後で我々の方で罰を与えますので、この者の非礼もお許し頂けませんでしょうか。」
トーレス司祭が俺へ視線を向けた後に許しを頂けるように願い出た。
「駄目だな。」
「何故でしょうか?」
「何故?とはどういう事だ?お前たちの国では、上位者へ非礼を働いたとしても、謝罪や罰も無しに無罪放免、簡単に許して貰えるのか?例えばお前たちの本国であるポルトガル国王の【セバスティアン1世】、またはバチカンのローマ教皇【ピウス4世】などの上位者に対して、同様に失礼な口を利いて本人以外からの「許してくれ」の一言で済むのか?」
「なっ?!」「?!」「どうして?!」
宣教師の仲間が全員、驚きの表情で固まっている。当然だ、なぜこんな辺境の者が本国の王や猊下のお名前を知っている?!
「何故そのような事までご存じで…それに我らの言葉をまるで自国の言葉の如く、流暢に使って…。」
「いろいろと知っているさ。恥知らずなローマ教皇が【全世界は神のものであり、教皇にはそれを分配する権利がある】等と言う驕り高ぶった考えから、ポルトガル王国とスペイン帝国にお前たちの言う未開地を、侵略・略奪する行為を宗教的に許した事。そして布教を利用して世界各地を侵略し、植民地化している事。そして植民地の民を全てでは無いにしろ奴隷化し、虐げている事。」
次々と男の口から語られる内容は、このような辺境では知り得ない内容ばかりであり、全てが正確に言い当てられていた。
「後は布教とは直接関係は無いが、新大陸でのコンキスタドールたちによる過酷な武力鎮圧。初代バジェ・デ・オアハカ侯爵エルナン・コルテス・デ・モンロイ・イ・ピサロによるアステカ王国の征服と滅亡、コンキスタドールであるフランシスコ・ピサロによるインカ王国の征服と滅亡。それ以外にもキリスト教が絡んだ非人道的な悪事を上げたら、枚挙に暇がない。」
あのトーレス司祭でさえ顔を青くし呼吸が荒くなっている。
「これでも俺にキリスト教の布教の許可を出せと言うのか?それが俺に…いや、世界にとって何の得がある?俺としては驕り高ぶったバチカンを含め、スペイン帝国もポルトガル王国も共に滅ぼしたい位なんだが?」
「確かにそう言った側面もありますが、それが全てではありません!」
フロイス司祭が力強く告げる。
「あぁ、分かっている。其方の言うように、真に教義を信じ、布教活動に邁進している者も多くいるのだろう。だがお前たちの教義にある【神の前にすべての人は平等】と言う平等思想が形骸化された物である事は明白であり、事実ポルトガルやスペインは王政や帝政であり、支配する者とされる者とに分かれている。そして教義を重んじるべきバチカンでさえ身分や位階の上下が存在し、教皇を最上位として枢機卿、大司教、司教、司祭、修道士(修道女)、一般信徒と明確な階級が存在する。更に平民出身者が如何に努力しようとも、教皇位に就く事など不可能なのでは無いのか?…他にも色々とあるが、以上の事だけでも布教を許すメリットよりデメリットの方が大きいと言わざるを得ない。実際に布教が進んだ結果として、現地の伝統的な宗教や社会構造が破壊され、精神的な従属が進み、最終的にその全ての国が植民地と化すか、お前たちの本国の手によって滅ぼされているであろう?
そしてそういった罪は命じた者や実行した者は当然として、お前たちのように認識し、知っていたにも拘らず、何もせずに放置し、見て見ぬ振りをしていた者も直接手を下していないだけで、同罪であると言えよう。例えば国同士、勢力同士の戦争で将兵が死んだのであれば俺もここまで言う事はしない。実際俺も戦で将兵を死なせてもいるし、自分の手で敵の将兵を殺してもいるからな。だが、そうではない大義名分の無い欲望塗れの侵略行為、更には現地の民への非人道的な行為や虐殺行為などは一切許容することは出来ない。」
「それでも我らが信じるこの教義は、人々の救いになると信じています。」
今度はヴィレラ司教が言葉を紡ぐ。
「ふむ、ではお前たちがどれ程本気なのか、条件を達成出来るかどうかで見極めさせてもらおうか。そして見事達成できたなら領内での布教を認めてやろう。」
「本当ですか?!条件とは?!」
トーレス司祭の顔に笑みが浮かぶ。
「その前にトーレス司祭、先程のもう一つの質問に答えて置こう。」
「もう一つ…あぁ、言語の件でしょうか?」
「そうだ、そして一つ質問だ。お前たち宣教師には俺の喋る言葉は、ポルトガル語に聞こえているのだな?」
「はい、その通りです。」
それを聞いたロレンソの表情が困惑の色に染まる。
「では、了斎、其方にはどのように聞こえるか、トーレス司祭に教えてやれ。」
「私には日ノ本の言葉に聞こえています。」
「えっ?」「はぁ?」「?!」「ばかな?!」
「ここでハッキリと言っておこう。俺は神の代行者であり、使徒であり神子である。そしてこの世で成すべき使命を神より与えられている。それ故、神より与えられた様々な力を持ち、ローマ教皇が言う所のある権限を持っている。まぁその権限について話す必要性が無いので、明かす事はしないが、その力の中にこの世界や異世界を含めた全ての言語を理解する事が出来、そして理解させる事が出来る権能がある。それによって俺の喋る言葉がどの様な言葉であろうとも、その者の一番身近な言語に置き換えられて発せられる。」
ここまで目の前で事実として突きつけられては、皆も信じぬ訳にもいかず、俺自身も軽口を聞いた相手が悪かったと自分の運命を呪う事しか出来なかった。




