第87話 ひよと次郎法師Ⅱ
※ 現在執筆の時間を余り取れない為、投稿を優先して話が短くなっております。また、誤字脱字の確認も不十分です。以上、ご了承ください。
※ 井伊直虎には様々な説がありますが、本作では通説を参考にしております。
◎近江国・近江八幡城 井伊直虎
1563年 4月下旬
月夜見殿のお陰で道中、特に苦労する事なく、楠木様の拠点である近江八幡へと到着しました。
月夜見殿のお話では、この近江八幡は昨年新たに拠点として移って来たばかりとの事でした。確かに先日拝見した楠の城下と比べると少し見劣り致しますが、淡海の湊も見事に整備され、街道の集中する重要拠点だけあって、人通りは驚くほど多く、活気に満ちております。
更に驚くべきは楠からこの近江八幡まで可能な限り直線で街道が整備されており、雨でも道が泥濘とならぬように、こんくりーとなる物で塗り固められていました。それにより楠からこの近江八幡まで驚くほど速く到着する事が出来ました。
それは兎も角として、私たちは月夜見殿の案内にて町を抜け、楠木様の居城である近江八幡城の門前まで来ているのですが、このように巨大で堅牢な城郭を私は知りませぬ。特にあの天守でしたか…あの威容には感嘆致しました。流石は伊勢・志摩・伊賀・大和・近江・山城・摂津・河内の八ヶ国を統べる大名であり、お伊勢様の神子として名高い御方に相応しい居城と言えましょう。
「月夜見殿、お役目ご苦労様です。殿にはお話を通しておりますので、白鷺の間(謁見の間(小))でお待ち下さい。」
「態々、恩智殿がお出迎えとは痛み入る。」
月夜見殿が出迎えに来られた恩智殿と申される方へ丁寧に頭を下げられる。わたしとひよ殿も月夜見殿に倣い、頭を下げる。
それから引き続き月夜見殿の案内にて目的の場所に向け、城内を進む。しかし本当にこの城は広いです。それに何故か城門を潜った瞬間から僅かに辺りが暖かくなった気がします。
それからまた暫くの時が過ぎ、ようやく目的の部屋へと到着しました。そこで楠木様をお待ちしていると、太刀持ちの小姓と先程城門でお会いした恩智殿、そして奥方と思われる女性を御二人連れて、若く美しい殿方が部屋へとご入来されました。
「頭を上げよ。幻斎、此度の件、大儀であった。」
「はっ、有難う御座います。」
「うむ、其方らが井伊次郎直虎殿、ひよ殿、そして虎松か?」
「はっはい、初めて御意を得ます。私が井伊次郎直虎と申します。この度は無理をお聞き下さり、誠に有難う御座います。(っ?!…本当に私より九つも年下の十八ですか?!以前拝見した事のある義元公以上の威圧感を感じます…。)」
「ひよと申します。何でも致しますので、この子に庇護をお与え下さい。」
ひよ殿が少し緊張した面持ちで頭を下げた。
「フッ…あまり緊張せずとも良い。あらましは幻斎からの報告で聞いておるが、虎松の庇護と引き換えに自らの身を捧げると申しておるそうだが…。」
「はい、私たちのような女子が引き換えと出来る物など、この身を置いて他にはございません。」
「私も同様です。虎松の為であれば、どうと言う事はありません。」
「ふむ…そうか…。」
何か反応が芳しくありませんね。私とひよ殿は少し年嵩ですが、見目はそれなりであるとは思いますが…。
「俺は無理やり夫婦の契りを結ぶ事をしたくは無いのだ。別にそのような事をせずとも虎松の庇護の事は約束しよう。どうする?」
「それでも私の決意は変わりませぬ。最低でも、虎松がご奉公出来る歳になるまでは、替わりに我らが楠木様のお役に立たねばなりません。真に我らの事をお考え頂けるのであれば、何卒御受入れ頂きたく、お願い致します。」
「私も直虎様と同様、お願い致します。何もせぬまま庇護を受け入れる訳には参りませぬ。」
楠木様は目を閉じ腕を組んで考え込んでしまわれましたが、隣の奥方のお一人が口を開かれた。
「旦那様、宜しいのではないですか?私はこのような心持の御方であれば、上手くやって行けると思います。」
「そうね、私も問題ないわよ。それにこれで夜のお勤めが少しは楽になるでしょうし…。」
「…(夜のお勤め?…夜のお勤めとは、伽の事ですよね…そんなに大変な物なのでしょうか?)」
黙って頭を下げて楠木様のお言葉を待つ。
「ふぅ…分かった、二人を側室として受け入れよう。」
「「有難うございます。」」
「ただし、問題が一つある…寿命の問題だ。」
「「あっ!」」
楠木様のお言葉に奥方のお二人が固まっておられる。
ひよ殿は小さく「寿命?」と呟かれた。
「あぁ、実はな…」
それから楠木様が語られた内容は理解しがたい内容でした。特にひよ殿はこのままでは虎松が自分より先に死ぬ事を理解すると、虎松を見つめ涙を流していた。
「解決策としては二つだ。一つはひよの側室入りを白紙とする事。そうすれば虎松と同じ時間軸を生きる事が出来る。そして二つ目は虎松を俺の娘と娶せる事だ。」
「娶せる?」
「そうだ、俺の血を引く者は普通の人ではなくなる。その寿命は俺の実子であれば、五百年以上となり、俺の力の一部を引き継ぎ、その子が自分の伴侶と真に認めた者もその子と同様に長命となる。ただし、それは俺の子と寿命が同期する事であって、俺の子が死ねば伴侶も遠からず死する事になる。また、その恩恵を受けとれるのはその子の生涯でただ一人の伴侶のみだ。」
「それであれば、虎松も?」
ひよ殿の目が光を取り戻す。
「あぁ。ただし、まだ娘は産まれていないし、春の娘以外の最初の娘は誠仁親王へと入内する可能性が高い。故に一旦虎松は俺の猶子として養育をする。その上で時機を見て…可能であれば二十までには娶せたいと思う。…これで良いか?」
「はい、構いませぬ。」
ひよ殿は笑顔で深く頭を下げた。
「おっと、そうだ、ひよ。我が楠木では基本的に子の養育は母親主導で行い、侍女や乳母は飽くまでも母親の補助となる。これは親子が供に愛情を感じ合い、情を深めて貰う為だ。そうすれば何があろうとも、親子で命の奪い合いを行うような事は起こらないと確信している。当然俺も可能な限り養育には参加する。」
私とひよ殿は楠木様…お前様のお言葉に頷いた。そして御方様と春殿から自己紹介をして頂き、春様曰く「裸の付き合いをしましょう!」と言う事で、旅の汚れを落とす意味でも、四人と虎松とで浴場へと向かう事になった。




