第77話 降嫁Ⅲ
※ 現在執筆の時間を余り取れない為、投稿を優先して話が短くなっております。また、誤字脱字の確認も不十分です。以上、ご了承ください。
◎近江国・近江八幡城 楠木正顕
1562年 4月上旬
時間は正午を回った。
俺は大評定部屋にて居並ぶ重臣らを前にして言葉を述べている。この場にいる主な顔触れは親族衆として村田(楠木)盛邦(姉婿)、神宮司正輝(義姉婿)、神戸利盛(母実家)、関盛光(祖母実家)、朽木元綱(妻の従兄弟)となり、重臣として恩智満和、明智光秀、滝川一益、前田利家、塚原卜伝、瑶甫恵瓊、石田正継、藤堂虎高、宮部継潤、細川藤孝、三渕藤英、河田長親、平井定武、蒲生賢秀、後藤賢豊、進藤貞治、三雲成持、目賀田綱清、石川数正となる。従属勢の各地方の代表として北畠具房、長野藤定、木造具政、九鬼浄隆、浅井賢政が主な面子だ。
別件だが、松平より大量に引き抜いた者たちだが、昨年接収した近江国高島郡一帯を一旦任せ、数正が取り纏め役としてこの度は出席している。(高島七党は朽木家への侵攻を繰り返した為に追放とした。)
「と言う訳で、彼女が春齢女王…俺に嫁いだ事によって名を春と改めた。また通常であれば家格の違いから、春を正室へとする事が尤もな事であり、事実織田の義兄上は元より、市自身からも正室辞退の話はあった。しかし帝と春の了承の元、何より俺の強い希望でもある為、正室は市のまま、春は側室と言う事になった。
これには先程も申したように、俺の強い希望と言う事もあるが、実はそれ以外にも理由がある。詳細は色々と問題があり省くが、将来俺の娘が誠仁親王の元へ入内することが内定している。」
この話を聞いた重臣たちがざわつく。
「そして入内する娘は春の娘では駄目なのだ。姪にあたる故な。そして入内する娘は正室の娘である事が望ましい…当然の事だな。ここまで言えば理解出来たと思うが、こう言った理由もあって、正室は市でなくてはならない。」
仮に春を正室にした場合、誠仁親王の元へ入内するのは側室となった市の娘となり、格が落ちてしまう事になる。しかしこれでは皇家として外聞が宜しくない。故にこの案は却下となった。
皆が皆、納得の表情を浮かべている。この入内の件があるので、どうしても春を正室にすることは出来ないのだ。
「何にしてもこの婚儀により、我ら楠木と皇家との絆が強固になった事で、これまで以上に皇家を、延いては朝廷を支えて行く事を求められるであろう。皆にはその事を念頭に置き、天下静謐に向かって邁進して貰いたい。」
俺の言葉に皆の目は爛々と輝き、やる気に満ちている。そんな皆に視線を送り大きく頷くと、春に視線を移し言葉を促す。すると春は小さく頷き、そして視線を居並ぶ家臣らに移す。
「先程、正顕様よりご紹介頂きました、春と申します。私の父は帝ではありますが、これからは楠木家の一員としてどのような事があろうとも、正顕様を於市様と共にお支えして行く覚悟です。皆々様に措かれましても、私と共に楠木を、正顕様を支えて参りましょう。」
春の言葉に全ての者が手をついて首を垂れる。この時代、影響力は衰えたとは言え、それでも皇族の言葉は重い。そして降嫁した立場であっても直々に言葉を賜る事は日ノ本の民にとっては誉と言える。
とは言え女子である春が、いつまでもこのような場にいる事は宜しくない為、早々に奥へと下がる。
「ふむ、春が下がったので皆が集まったこの機会に話しておこう。先頃、そこの弥四郎(三渕藤英)より重要な情報が齎された。二年前の今川の上洛についてだが、将軍家が今川家へと働き掛けを行った事で、行われた事だったのだ。目的は楠木家の討伐及び、三好家への示威行為であったらしい。」
それを聞いた皆は口々に怒りの言葉を口にする。
「皆の気持ちは良く分かっている。此度は何とか撃退できたが、下手をすれば滅びていた可能性すらあるのだ。そしてこれが最後とは限らない。こういったやり方は足利将軍家のお家芸だからな。故に俺は楠木を守るための苦渋の決断として、足利将軍家を滅ぼす事に決めた。そしてその為に京へと侵攻する。この件は朝廷へも根回し済みで、帝のご了承も頂いておる。」
皆は興奮の余り拳を握り締め突き上げている。
「時期は年明け早々を予定しておる。相手は将軍家だけでは無く、京の都を実効支配している三好とも戦火を交えねばなるまい。故に皆にはその心算で、支度をして貰いたい。」
皆は一斉に手をつき首を垂れ、了承の意を示す。
「最後に大広間にてささやかではあるが、宴の準備をさせておる。俺は参加せぬ故、遠慮なく飲んで楽しんで行ってくれ。」
それから皆には解散の意を伝え、俺は奥へと下がった。これの意図としては俺がいる事で話せない事もあるだろうし、偶には俺抜きで飲み明かし仲を深める事も必要だろうと言う考えからでもあった。
そうして大評定の間を後にして私室に戻ったところに、信じられない報せが月夜見の者より齎された。
◎美濃国・稲葉山城 竹中重治
1562年 4月上旬
御屋形様(一色義龍)が身罷割られて一年が過ぎた。その間に一色家は龍興様がお継になられ、新たな時代を迎えた。
しかし、御屋形様(一色龍興)は酒色に溺れ、政務を顧みようとなされず、我らの諌言も聞き届けて下さらない。更に一部の耳触りの良い言葉を並び立てる者を傍に置き、重用なされる。そんな時に隣国の楠木家では朝敵指定の取り消しが正式に発表され、更には春齢女王の降嫁と言う幸運にも恵まれ、正に飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
そんな折に私は御屋形様の呼び出しを受け、稲葉山城へ登城する。
「半兵衛、上様からのご下命により、早々に楠木領へ侵攻せよと仰せだ。数日以内に侵攻する故、早急に侵攻作戦を立案せよ。」
「お待ちください。楠木は今現在、春齢女王の降嫁の儀の最中です!」
「だからどうした?今ならば国境も手薄故、容易に勝てると仰せだぞ。」
何を言ってるんでしょうか?この御方は…。
「そのような問題では御座いません!今楠木に攻め込めば、降嫁の儀に泥を塗る事になり、朝廷よりお叱りを受けますぞ?!」
「えぇぇぇい、煩い!上様からのご下命である!我は朝廷などよりも上様を優先する!黙って作戦を立案せよ!!」
「はい、畏まりました。(駄目ですね…将軍家に踊らされています。これで一色は終わりました…。仕方ない、最後の手を使うしかないですが、その前に舅殿(安藤守就)へ相談せねばなりませんね。)」
早々に稲葉山城を出た私はその足で舅殿の元へ向かい、自らの計画を説明し、説得を行った。当初は領地の放棄の事もあり、相当渋っていたが残る事の危険性と、向かう先の話で何とか説得に成功した。そして次の日には竹中一族郎党と舅殿の一族を引き連れて一路、西へ西へと進路を取った。




