第76話 降嫁Ⅱ
※ 現在執筆の時間を余り取れない為、投稿を優先して話が短くなっております。また、誤字脱字の確認も不十分です。以上、ご了承ください。
◎近江国・近江八幡城 楠木正顕
1562年 4月上旬
市以外の女子と過ごした初めての夜が明けた次の日の朝、女房衆の呼び掛けによって意識が覚醒する。低血圧なのか、春はまだ眠いようで、俺の腕を抱き抱えたまま微睡んでいる。
俺はそれを邪魔せぬようにゆっくりと腕を引き抜き、春の拘束から逃れると、日課である朝の修練の為、奥御殿に併設されている武道場へと足を運ぶ。
この武道場は広さ自体はそこ迄では無いが、朝の日課を行う為には十分すぎる程の広さがある。
俺は特注の刀(100㎏)を手に取り、身体の状態を確認する様に、無心に素振りを行う。おおよそ半刻ほど日課を熟すと、汗を流すためにこれまた道場に併設してある温泉(檜造り)へと向かい、朝風呂を楽しむ。
因みにこの近江八幡城は天守こそ安土城を模してはいるが、城郭の広さも造りも、施設さえも本来の安土城とは別物で、様々な施設が機能的に配置されている。天守や各曲輪などの防衛施設は元より、表御殿(当主執務室、各部門長の執務室、評定部屋[大・中・小]、大宴会場、待合室、食堂、休憩室、台所[冷蔵設備完備]、大倉庫、大金庫など)、奥御殿(当主私室[書斎、温泉併設]、妻用私室[衣裳部屋併設](15室)、家族私室[書斎併設](20室)、温泉施設[大・中・小]、小姓待機室、女房衆待機室など)、各種軍事施設(武器庫、訓練場、防具庫など)、来客者用区画(宿泊施設、温泉施設、食堂など)など、細かく上げたら限が無いほど設備が充実している。これで50,000PPとはお買い得であったと言えよう。そしてこれから建設して行く城はこの城を参考にして、可能な限り近づけていく事になるだろう。
汗を流しサッパリして風呂を出ると、脱衣所には新しい衣が準備されていた。朝の日課はいつもの事ゆえ、女房衆が支度してくれていたのだろう。新しい衣に袖を通すと、古い衣は脇にある汚れ物用の籠に放り込む。
この後の予定としては午前中は春と家族の対面があり、午後からは親族衆や評定衆などの重臣や、力を持った従属勢力の当主を対象にした披露会が催され、会場を大広間に移しての祝宴が執り行われる。
因みにこの降嫁の時期には重要拠点も含め、多くの当主や責任者がこの城に集まり防衛戦力が低下するが、恐らく他の勢力がこの機に乗じて侵攻して来る事は無いと思われる。仮に侵攻してきた場合、その勢力は朝廷により確実に、朝敵認定される事になる。俺が帝の立場だったら自分の娘の門出を汚す輩に対して、許す事無く同様の措置を取るからだ。
それにこの日ノ本は戦国時代だと言っても朝廷や幕府などの権威に対して、軽んじるような行動をしたり、非礼な事をする者は少ない。理由も無くそんな事をすれば周りより批判を浴び、信用を失い、総スカンを食らう事になる。そういった意味で日ノ本は基本的に、礼儀と面目を重要視する民族と言えよう。
そんな事を考えながら春に割り当てられた部屋へ着くと、既に武家の娘の装いへとなっていた。身に着けている着物は春の名前に合わせるような桜色の小袖だ。因みに市は淡い紅色の衣を好んで着ている。
「あっ正顕様、紹介しておくわね。彼女が私付きの侍女で友人でもある夏子よ。一応近衛所縁の家の娘だから、手を出すならそれなりの覚悟を持って出してね。」
「出さねぇよ!」
「フフフ…仲が御宜しいんですね。夏子と申します。宜しくお願い致します。」
と言うか猫を被っていない春を知ってるって事は相当仲のいい友人、少し歳は離れているようだが、そういう事なのだろう。
「それじゃあ、そろそろ父上たちの待つ部屋へ向かうぞ?」
「えぇ良いわよ…そう言えば、猫被った方が良いかしら?」
「あのなぁ、素を出さずに猫被ったままこの先過ごせるのか?無理だと思うぞ?」
「そうよね、分かったわ。ありのままの私を見て貰う事にするわ。」
「それでいい、家の人間はそんな事は気にしない。それからそのメイク、似合ってるぞ。」
「えっ?あ…ありがとう…フフフ。」
昨日プレゼントした化粧品を使って、現代風の化粧を施した春を連れて皆の待つ部屋へと向かった。部屋に入ると父上、母上、お爺、市が待っており、八重と月夜は遠慮している。因みに皆、頭を下げて平伏している。
「(あぁ、そうか…この時代の者にとって皇家の人間は雲の上の存在、この態度が当たり前か…。だが春は家族の一員になった。この態度は改めなければな。)駄目ですよ、それは。春は俺の妻になったんです。家族に対してそんな態度では春が悲しみますよ?」
「いっ、いや…しかしだな。」
「しかしも案山子もありません。父上は例えば市に他人行儀にされたり、過剰に平伏されたりしてどうですか?気持ち良いですか?気軽に接して欲しいと思いませんか?」
「確かに。正具、これは正顕の言う事の方が正しいと思うぞ?儂は家族に他人行儀に接して欲しいとは思わんぞ?」
「そうですね、あなた?」
そんな中、市は俺の意図をいち早く察して、春の元へと歩み寄り、手を取って話し始める。
「春様、私は市と申します。旦那様の申された通り、私たちは家族になりました。この戦国の世では親兄弟で争い、実際私の兄も兄弟同士で争いました。でもこの楠木では親兄弟の仲も良くそのような事はありません。春様も私たちと共に、この楠木を盛り立てて参りましょう。」
「えぇ、それは私も望むところよ。二人で…違うわね、皆で正顕様を支えて参りましょう。義父上様、義母上様、義祖父様、そして市様、家族として末永く宜しくお願いしますわ。」
こうして楠木家への春の加入により、より一層楠木家の絆は戦国の世では珍しい程、強固な物になって行くのである。




