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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
上洛編

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第64話 参内・その後Ⅱ

※ 現在執筆の時間を余り取れない為、投稿を優先して話が短くなっております、ご了承ください。

◎摂津国・大阪本願寺 楠木正顕

 1560年 3月上旬


 祝宴には俺と卜伝(塚原卜伝)に弥四郎(雲林院光秀)に長親(河田長親)と数人の卜伝の高弟が出席していた。


 我らの着席を待って顕如殿の号令の元、次々と膳が配膳されていく。そして配膳が終わると改めてお互いに自己紹介を開始した。


 本願寺方のメンバーは顕如殿を始め、下間頼廉しもつまらいれん下間頼資しもつまらいし下間 頼旦(しもつまらいたん)と言う比較的若いメンバーとなっていた。その中でも特に頼廉は若く覇気もあり、坊主と言うよりも武将と言った方がしっくりくる。


 紹介を済ませた後は、各々が当たり障りのない会話を続けていたが、顕如殿が若干踏み込んだ質問を投げかけて来た。


「楠木殿はお伊勢様の神子として名声を獲得されておるが、我ら一向宗を如何思っておられるか?」


「そうですね…忌憚なく申せば、私個人としては宗教に対して貴賤はありません。ただし、人々の信心を利用して金儲けに走り、更には民の不安を煽って一揆を起こさせ、命を投げ出させる行為は感心出来ません。宗教とは人々の心を安んじる物であって、金儲けをしたり、争いに利用したりすべき物では無いと考えます。」


 この辺りは本当に忌憚なく本心を述べさせてもらった。そのような遠慮ない物言いに、本願寺の坊主たちは殺気立つ。しかし、顕如殿は大きな声で笑い、俺の意見を肯定する。


「はっはっは!流石は神子殿です。その耳の痛い意見には、拙僧も同意ですな。本当にそのように出来ればよいのですが、今の乱れた世では難しいと言わざるを得ない。我らも多くの敵を内外に抱えておる故、武装せぬ訳にもいかぬ。それに確かに金儲けに走り私腹を肥やしておる者がおるのも事実であり、真に嘆かわしい事ではあるのだが、それらをすべて駆逐し、正す事は門主の拙僧の立場であっても不可能な事なのですよ。」


「えぇ、先程私が申した事が理想論である事は重々承知しております。ですから、全てを実現させる必要はありません。私としてはせめて民を煽って、一揆に駆り立てる事を、可能な限り控えて欲しいのです。確かに一揆によって民の不満を一時的に下げる事は出来るでしょう。まぁ、中には私利私欲の為に民を煽っている者もいるようですが、一揆による略奪や破壊によって国は荒廃し、更に民は貧しくなる。」


 それから暫くの間、顕如殿との祝宴と言う場を借りた意見交換は続いた。当初この本願寺顕如と言う人物に対する俺のイメージは、門主と言う立場を利用して私腹を肥やし、民を虐げる俗物と言ったイメージを持っていた。


 しかし実際に会って話を聞いて行くうちに、顕如殿に対する印象は大きく転換した。


 一向宗と言う宗派が過激な宗派である事に疑いようは無いだろう。だが、そのトップである顕如殿自身はそこまで過激な人物ではなく、相手の反対意見も受け入れる度量も持っている。また纏っている僧衣は質の良い物ではあるが、門主、宗主、住職として最低限な物であり、必要以上に着飾ったりしてはいない。さらに本日の宴の膳にしてもそうだが、庶民よりも確かに良い膳ではあるが、贅を尽くした物であるとは言えない。


 それでも諸手を挙げて信用する訳には行かないが、悪感情から普通感情という程度には改善した。


 そして次の日の朝、我々は朝課の邪魔をせぬように、出立の際の見送りを断り、早朝には堺に向けて出立した。



◎摂津国・大阪本願寺 顕如

 1560年 3月上旬


「門主様、楠木様ご一行ですが先程、堺に向けて出立なさいました。」


 陰ながら様子を伺っていた、頼廉が戻り楠木一行の報告をしている。


「そうですか…頼廉はどう思いましたか?楠木殿を実際に見て、お話を聞いて、どのように感じましたか?」


「ふむ…そうですねぇ…。」


 頼廉は少しの間、思案を巡らせ、自身の感じた物を口にする。


「いままで武家の者や公家の者、市井しせいの者も含め様々に会いましたが、あのようなお考えの方にはお会いした事はありません。更にあのうちから漏れ出る存在感というか、中々表現が難しいですが、決して凡非ぼんぴな御方ではありませんな。昨今耳にする彼の御方の噂が、真実であると断じる事が出来る程に。」


「成程な、頼廉もそのように感じたか…。私も実際に会うて話をするまでは、そこまで重要視しておらなんだ。だが会うてみて感じたが、あの御仁は私も含め、他の者とは明らかに違う。その考え方もそうだが、何と言えば良いか…存在その物の格の違いを感じるのだ。」


「はい、拙僧もそのように思います。何にしてもあのお方と敵対するべきではないと愚考いたします。仮に敵対すれば、手痛い竹箆返し食う事になるでしょう。」


 確かに現時点で楠木殿と敵対する必要は無いだろう。将来的にどのような状況になるか分からないが、今は楠木家との関係を良好に保つように関係各位にも周知させる必要があろう。


「それでは頼廉、その旨を全国の関係各位に書状を送り、末端にまで周知徹底させよ。必要以上にへりくだる必要は無いが、敵対的な行動は慎むべし…とな。」


「畏まりました。早々に書状を作成し、周知させます。」


 頼廉は俺の指示を早急に実行する為にその場を立ち去った。何にしても此度のこの出会いには御仏に感謝せねばなるまい。知らずに敵対しておれば大変な事になる所であった。






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