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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
上洛編

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第48話 観音寺騒動・その後Ⅰ

◎伊勢国・木浜城 新藤貞治しんどうさだはる

 1559年 9月上旬


 六角家が滅亡して10日以上が経った。旧六角領の全ての諸将は楠木正顕公へ恭順の意を示し、所領の半量の献上と既定の書類への記名血判を行う事で公…若殿の庇護を受けるに至った。


 若殿曰く、庇護とは若殿の権能の一つである【豊穣の大地】言う力の恩恵を受ける事であり、領内のあらゆる収量が二倍に跳ね上がるらしい。若殿の神仏が如き力を目にしていない拙者は半信半疑であったが、実際に目にした蒲生殿や平井殿、後藤殿に三雲殿は若殿の言葉を疑う素振りは全くなかった。


 そんな拙者は訪ねて来た目加田殿と久しぶりに一献を傾けている訳だが、拙者と同様に若殿の力を目にしていない筈の目加田殿が若殿の事をべた褒めしているのだ。


「新藤殿、若殿のお力とは凄いものだ。こちらにお邪魔する前に観音寺の様子を見てきたが、城のあった繖山きぬがさやまは至る所が抉れ、砕け散り、観音寺城などは跡形も無く消え去っておった。その上、周辺は今も若殿のお力が収まっておらず、未だに雷鳴が轟き、落雷が落ちて来ておった。」


 それが本当の話であれば拙者も目にしたい所ではあるので、時間を作って見に行ってみる事にしよう。


「更に驚いたのは、我らの所領の米や野菜などの収穫量が、例年の二倍以上になっておる。楠木領となる前は、例年通りかそれ以下になる予想であったのだが、この数日で目に見えて稲穂の量が増え、畑の実の量が増え、野山の実りの量も増えておるようだ。このまま行けば所領の半量を献上したとは言え、献上前の収量を大きく上回りそうじゃ。」


 確かにそういった報告は拙者も受けている。若殿の傘下に入った途端、急激に状況が改善した。聞く所によると、これは一部の所領の話ではなく、楠木領全てで同様の状況であるらしい。本当に恐ろしいほどのお力だ。この恩恵に預かってしまっては楠木家を、若殿を裏切る事など考えられなくなってしまうだろう。


 斯く言う私もその一人となってしまった訳だが、これから恩賞などで所領が増えて行った場合を想像すると、恐ろしくなって来る。


「あぁ、そうじゃ。これを其方にもやろう。因みに同じ者を蒲生殿、三雲殿、平井殿、後藤殿にも渡しておる。」


 突然話題を変えてそう言った目加田殿が、懐から木彫りの像を取り出し手渡してきた。その像は何処となく若殿のお姿を思わせる。


「これは伊勢国で秘密裏に広まっておる物じゃが、若殿のお姿をかたどった()()()らしい。伊勢国の多くの民は秘密裏にこのご神像に手を合わせ拝んでいるらしいぞ。」


「なぜ秘密なのだ?堂々と拝めば良いだろうに…。」


「なんでも、若殿が『感謝の気持ちは嬉しいが、むず痒いので俺のことを拝むんじゃない!』と仰られたらしく、それならば…とこのような秘密裏に信仰する形になったらしい。」


「成程な…そう言った事なら拙者も一つ、毎朝の日課として手を合わせてみるか。」


 本人の望まないところで、徐々にではあるが、だが確実に正顕を信仰する信者たちが増加の兆しを見せているのであった。



 ◎伊勢国・平井城 平井定武ひらいさだたけ

 1559年 9月上旬


 先程届けられた若殿からの書状を書斎にて読んでおる。


 内容は先頃、浅井家の遠藤直経が賢政の使者として訪れた事についての事であった。使者の目的は、浅井家と楠木家の友好的な関係を築きたいと言う事、可能であれば同盟関係まで踏み込みたい旨の打診であった。


 若殿は遠藤殿に対して即時のご返答をされ、楠木に得る物が無いこと、儂の娘を貴家の都合にて離縁して返していること、朝倉に従属関係にあるのにも拘らず、我らと対等な同盟を希望したこと、これらを問題視され、同盟の締結は保留とされたらしい。


 ではなぜ儂宛に書状を送られたのかだが、数日後、遠藤殿から急ぎの書状があり、仮にとの前置きの後、賢政と娘の綾の復縁が叶うようであれば了承頂けるか?との問い掛けがあったらしい。


 儂の賢政に対する憤りは別として、娘の綾の幸せを思えばこの話は受けるべきなのであろう。現在の綾は離縁され実家に戻った後、塞ぎ込んで部屋に閉じ籠っており、幼馴染でもあった賢政を今でも思っている事は明らかである。


 儂はしばらく考えを巡らせていたが、意を決して綾の部屋へと向かい声を掛けた。


「綾、儂だ。大事な話があるのだ、入っても良いか?」


「…………」


 返事は無いが居るのは気配から分かっておる。儂は「入るぞ。」と一声かけて部屋の中へと足を踏み入れた。


「お父様…如何されたのですか?私の事は放っておいてください。お願いします…。」


綾の弱り切って力のない声を聴いておると胸が締め付けられるようで、賢政への怒りがわいてくる。


「綾…大事な話があるのだ。詳細は省くが六角家が滅び、主家が楠木家となった。我が平井家も恭順の意を示しておる。」


「六角家が…滅んだと?」


「そうだ、そうしてその主家である楠木家に対して浅井家より同盟の…従属になるやもしれんが、打診があった。若殿は盟を結ぶに当たり、いくつかの問題点を上げられたのだが、その中に綾の離縁のことがあり、その解決案の一つとして仮に賢政とお前の復縁が叶うのであれば、受けて貰えるか?とのお話があった。」


「えっ…賢政様との復縁…。」


「そうだ、どうする?」


「ですが…宜しいのですか?…お父様…」


「儂の事は良い…今はお前がどうしたいのか?…だ。」


「私は…私は賢政様にお会いしたい!お支えしたい!命尽きるその時まで、共に居たいのです!!」


 綾は涙を流し、顔をぐちゃぐちゃにしながらも実家に戻って来て初めて、感情を露にしていた。


「わかった、父に任せておけ。儂の全てを掛けてこの話を纏めて見せよう!」


 儂はこの話を命懸けで纏める覚悟をすると同時に、綾を悲しませた賢政めをどんな事をしても必ず、一発食らわせてやると心に決めたのだった。






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