第47話 観音寺騒動・終結
◎近江国・観音寺城麓 楠木正顕
1559年 8月中旬
全軍、駆けるに駆けて三十分ほどで繖山(観音寺山)の麓にまで辿り着いた。恐らく十数分もすれば魔法陣は発動する事だろう。
「若殿、ご下知通りに全軍の退避が完了致しました。」
「賢秀、大儀である。」
「若殿…一つお聞きしても宜しいでしょうか。」
神妙な顔をして賢秀が問いかけて来る。
「なんだ?」
「あの空に浮かんでおる物は何でありましょうか?」
「うん?あれか…あれは魔法陣と言って…ふむ、説明が難しいな。あの空に描かれておる陣によって魔法…俺の力の放出を制御しておるのだ。」
「んむう…申し訳ありません、分かりませぬ…」
賢秀が理解できぬ事を認め首を垂れる。
「気にするな、この世で理解できる者はおるまい。それよりも、童たちの様子はどうだ?」
「はい、ここまで駆けて来た疲れと、親を失って泣き疲れたことで、今は皆天幕の中で眠っており申す。」
「そうか…(この子供らは俺が義治を見逃した事で両親を失ったのだ。俺の猶子として養育する事にしよう。)」
賢秀と話をしていると隙をついて観音寺城を脱していた細川藤孝が目通りを願ってきた。
「楠木様、此度のご戦勝、祝着至極に存じます。」
「ふむ、まだ最後の仕上げが残っておるが、此度の戦は概ね終結したと言っても良いだろう。仕上げの完了の後、正輝が城の接収を終えて戻れば此度の戦も終わりとなる。細川殿、城攻めの前に申した事、あれは世辞ではなく本心で申した事ゆえ、足利の相手に疲れたら何時でも参られるが良い。」
「そこまで仰って頂けるとは、光栄の至りに御座います。私としましても楠木様にお誘い頂ける事は嬉しい限りですが、将軍家にもお引き立て頂いておりますれば、簡単に翻意することは出来ませぬ。」
「ふむ、仕方ないな…残念ではあるが此度は大人しく引き下がる事と致そう。」
「申し訳ありませぬ。」
そう言って細川殿が頭を下げた矢先、空に浮かんだ魔法陣が激しく明滅し、光を放ち始めた。そしてそれから数秒後、無数の雷鳴と共に繖山全体に雷撃が雨霰と降り注ぐ。
降り注ぐ雷撃は轟音を伴い触れる全ての物を破壊し、消し炭に変えていく。木々は砕け焼け落ち、山肌は抉れ、砕け散る。恐らく…いや確実に、轟雷の範囲にいた者は消し炭となっている事だろう。
将兵の中には膝を突き手を合わせている者や、祈っている者がおり、俺が望む望まないに拘らず、見る者に俺に対する畏怖や畏敬の念を植え付けていく。
三十分後、徐々に落雷は収まり始めたが、上空の魔法陣は消えず、落雷が完全に収まる気配を見せない。
「あぁ、これは不味ったな…」
「如何されたのですか?」
賢秀の問い掛けに頭を掻きながら答える。
「いや…魔法陣を構築する時に魔力を…力を込め過ぎた。当分消えないな、あれは…。俺以外の者が立ち入れば、生きてはおれまい。賢秀、この場所…繖山一帯は禁足地とせよ。俺の許可なく立ち入ることを禁ずる。」
「はっ、畏まりました。各所に連絡の上、看板を設置して周知徹底致します。しかし、見事に全てを破壊し尽くしましたな…。」
「まぁ、そうだな…俺の使える範囲攻撃の中では強い部類に入るからな。」
「しかし若殿、これだけのお力をお持ちであれば、若殿お一人のお力で天下を統一する事も可能では無いのですかな?」
賢秀の言葉に傍にいた細川殿や他の諸将たちも聞き耳を立てる。
「はっきり申せば、仮に敵軍が百万の軍勢であったとしても俺一人で無傷のまま制する事も出来よう。だが、そんな事をして天下を制したとしても皆が心から従ってくれるとは思えん。何より、そのように皆の活躍の場を奪ってしまう主君に武士としては仕えがいがあるまい?」
「それは確かに…」
「故に俺は軽々しくこの力を使う心算はない。まぁ此度は怒りの余り使ってしまったがな。」
俺の話に納得し皆が頷き合っていると、正輝から種村城と建部城の接収を完了した旨の早馬が届いた。
「よし、それでは一旦後藤館まで引くぞ。賢豊、観音寺城が消え去ったので、済まぬが後藤館を借り受けての論功行賞とする。」
「構いませぬ、ご随意にお使いください。」
「賢秀、出立の号令を。」
後に観音寺騒動、観音寺崩れと呼ばれる事件に端を発したこの戦は、観音寺城と六角義治の消滅によって幕を閉じた。
◎近江国・後藤館 楠木正顕
1559年 8月下旬
後藤館を借り受けての数日間に及ぶ論功行賞は無事に終了した。基本的には北畠戦の後の論功行賞と流れは変わらない。決まった事は元六角家の六宿老をそのまま評定衆として入って貰い、元六角家家臣団の取り纏め(上役)として働いて貰う事となった。因みに兵の殆どは護衛兵を残して現地解散とした。
また、元六角領が加わった事で、ステータスも次のように変わった。
〓〓〓〓〓ステータス〓〓〓〓〓
その他情報
基準石高:65万石 → 140万石[実収穫:130万石 → 290万石]
GDP[石高換算]:160万石 → 350万石
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〓〓〓〓〓特殊施設リスト〓〓〓〓〓
PP:800P → 2,360P[配布PP:650P → 1,400P/10日]
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〓〓〓〓〓オルド名簿〓〓〓〓〓
OP:118,000P → 138,000P[1P/1円][1,000×人数/1日]
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名目上の総石高は大台の100万石を超え、140万石にもなり、実際の実入りでは290万石となり関ケ原の決戦前の徳川家を超えた。
確かな成長に満足した俺は最後に予定されていた使者との謁見の為に謁見場へと足を運んだ。そこへは一人の使者が首を垂れ俺を待っていた。
「初めての御意を得ます。浅井家家臣、遠藤直経と申します。此度は我が主君、浅井賢政の親書をお持ち致しました。」
「ほぉ…浅井賢政殿…小谷城の主にして、先頃六角家より独立を果たされた、あの浅井殿か?」
小姓が遠藤殿より親書を受け取り、俺の元にまで持って来る。俺は親書を受け取ると中身を確認する。
「…なるほど、浅井家としては我らと友好関係を築きたい、可能であれば同盟にまで踏み込みたい…か。これは難しい問題だな…。」
「どのようなご懸念が御有りなのでしょうか?」
「まず一つに我らが貴家と盟を結んだとして、得る物がないこと。」
「それについては最悪従属でも構いませぬ。」
「…仮に条件が整ったとして我が家臣の平井定武の娘を貴家の都合にて離縁し送り返しておること。まぁこれは平井の了解があれば問題ないが、果たして納得してもらえるかな?」
「そっ…それについては…」
「最後にこれが一番の問題になると思われるが、俺は両属は認めておらん。この意味は分かるな?」
「朝倉家と手を切れと言う事でしょうか?」
「そうだ、両属の状況を許しては他の従属家に示しがつかぬ。それに我らが朝倉家を攻めたとしたらどうするつもりだ?敵になるか味方になるか分からぬ者を信用して背中を預けられまい?大体、朝倉に従属している状態で我らに同盟を打診して来るとは、楠木を朝倉より下に見ておると言う事か?」
「いっ、いいえ…そのような事は…。」
俺の指摘に遠藤殿は焦りの表情を浮かべている。
「まぁよい。単純に思いつく限りに並べてもこれだけの懸念事項が存在する。これが解消できぬ限り友好関係を結ぶことは出来ぬ。」
「一つお伺いしても宜しいでしょうか…」
「構わんぞ。」
「仮に我らが朝倉家と手切れをしたとして楠木家は浅井をその後の脅威からお守り頂けるのでしょうか?」
「遠藤殿のその懸念は尤もだな。我が楠木家の分国法の中に楠木家の負う義務の条項があり【従属家を含む臣下の家が攻められた場合、主家である楠木家はその家を守る義務を負う。】と言う文言がある。その代わり従属家も楠木家に対して負う義務も存在する訳だが、この条項がある為、余ほどの事がない限り見捨てる事はあり得ない。」
「分かり申した。拙者は急ぎ戻り、先程の懸念事項について当主様と話し合って参ります。」
俺は当分は内政に専念する予定でいるので、良く話し合って結論を出して貰いたい所だ。最後に俺への別れの挨拶を済ませると遠藤殿は急ぎ謁見の間を退出して行った。




