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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
上洛編

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第36話 尾張往訪Ⅱ

◎尾張国・清州城 楠木正顕

 1559年 7月上旬


 義姉上に刀を見せて喜んでいる義兄上を眺めながら静かに元の位置に戻る。それから意を決して義姉上に聞かなければならない事を訊ねる。


「義姉上…今から大変失礼な事をお聞きするかもしれません。もし…答えたくなければ、答えて貰わなくても構いません。」


「正顕殿、藪から棒に何ですか?」


 義姉上は突然の俺の発言に怪訝そうな表情を浮かべた。


「義姉上は義兄上と夫婦となってどの位経ちますか?」


「そうですね、おおよそ十年ですわね。」


「…その間に一度でも妊娠、或いはその兆しが表れた事はありましたか?」


 とても失礼な質問ではあるが、どうしても必要な質問である為、聞かない訳にはいかなかった。その証拠に義姉上の顔が鬼の形相になっている。しかし美しい女性が怒ると本当に怖い。


「正顕殿、この質問は必要な事なのですか?」


「はい、どうしても必要な事なのです。」


 俺の真剣な眼差しに義姉上は大きく息を吐き、ゆっくりと話し始める。


「はぁ…分かりましたわ…殿の元に嫁いでから一度もそのような兆候が表れた事はありませんわ。当然、妾は正室として世継ぎを産むことを期待されていた事もあって、嫁いで来た当初は悩みもしましたが、世継ぎどころか娘さえ身籠る事も出来ず…。そうしてもう既に十年が経ち、今では吉乃殿が奇妙丸を産んでくれましたので、妾自身…諦めもついておりますの。」


 義姉上の悲しそうな顔を見るにつけ、聞いた俺も居た堪れない気持ちになる。しかしこれでハッキリした。恐らく先天的な異常が原因と考えられる為、熙子殿に渡した物と同じレッサーエリクサーでは完治しないだろう。であれば…


「正顕、ここまで帰蝶を辱めたのだ…訳を聞かせろ…」


「分かっています、義姉上…こちらを…」


 インベントリから取り出したのは【エリクサー】、劣化版では無い本物だ。俺自身も10本しか持ち合わせていない。これを服用すれば先天、後天、関係なくありとあらゆる肉体及び霊体の異常が完治する。


「これはなんですか?」


「これは【エリクサー】と言う神薬…神の薬と呼ばれています。これを服用すれば全ての異常が完全に治癒します。」


「ん?すると…どうなるのだ?」


「そもそも、義姉上が妊娠出来ない原因は、先天性の身体の異常に依る物と考えられます。どの部分がどの様に異常なのか、細かい事は分かりませぬが、この薬であればその辺りの事は関係なしにその原因を完治させる事が可能です。」


「え…でっ、では…」


「はい、義姉上は子を身籠る事が出来るようになります。」


「ねっ、義姉様っ!」


「真か正顕!?」


 義姉上は驚きで目を見開き、義兄上は俺の首を絞めている。俺は何とか絞め落とされる前に拘束から脱出すると…


「まっ、真です、他の側室の方に子が出来ていると言う事は原因は義兄上にはありません。そして先ほどの義姉上への質問のお答えから、先天性の異常が原因である可能性が高いと思われます。だったら、その原因を取り除いてやれば、自ずと結果は出ます。」


 義兄上と市は大喜びなのだが、肝心の義姉上は複雑な表情を浮かべていた。


「どうした帰蝶、嬉しくないのか?」


「いいえ、そうではありませんわ。」


「ではなぜ、そのような顔をする?」


「…はい、妾がもし…男子おのこを産んだら…奇妙丸はどうなるのでしょうか…もしも、奇妙丸が嫡男のままなら、妾の子はどのような扱いに?…どちらが嫡男となっても家中が混乱するのでは…」


 義姉上の話した内容は的を得ており、このまま対策をしなければ、懸念の通り家中は混乱し、最悪の場合織田家は分裂の可能性すら出て来る。


 その証拠に先程までの明るい雰囲気が嘘のように、沈んだ雰囲気へと上書きされてしまっている。


 俺が義姉上にこの話を持って行くと決めた段階で、このような話になる事は俺自身も想定していた事だった。と言う訳で、俺の考えた解決案を聞いて貰うとしよう。


「三人とも、俺に良い解決策があるんですが、聞いて貰えますか?」


「なに?!話してみろ!」


 義兄上の食い付きが半端ではないが、この際それは置いておくとして、俺は義姉上の目を見て話しかける。


「義姉上、簡単な話なのです。産まれた御子おこが男子の場合、義姉上の実家、美濃斎藤家を継がせればいいのです。義姉上の御子であれば、血筋としても美濃斎藤家を継ぐに何の問題もありませぬ。それに高政は将軍家の了承を得て、現在は一色を名乗っておりますので、なおの事都合が良いでしょう。義兄上、どうせ一色は滅ぼすお積りなのでしょう?」


「そうだな、一色を滅ぼし美濃を制し、帰蝶との子に美濃斎藤家を継がせる。クハハハハ、中々いい案ではないか!さすがは正顕だ!」


「流石は旦那様です!これで義姉様のご懸念も無くなりましたね?」


 市の問い掛けに義姉上はハッキリとした肯定の意思を示した。


「殿とわらわの子が実家を継ぐ事になれば、父上もお喜びになられるでしょう。…正顕殿、このご恩は決して忘れませんわ。」


「ははは…義姉上、礼は子が出来てからお受けします。それよりも神薬を飲んでみてください。効果があれば身体が淡く光るはずです。」


 本当に嬉しそうな顔で頭を下げた義姉上に気恥ずかしさを感じた俺は、エリクサーを飲んでみるように促す。それに促されるように義姉上は金色の液体の入った瓶を手に取ると、蓋を開けてゆっくりと飲み干す。


「あっ…体が光って…」


 身体の光は一分程度で収まった。


「義姉上、身体が光を発しておりましたので、間違いなく体の異常は全て取り除かれたでしょう。後は義兄上に頑張って頂き…って、そうだ!これもついでにお付けしましょう。」


 またしても、インベントリから緑色をした怪しい薬液を取り出し、義兄上に渡す。


「なんだこれは?」


「これはオークとゴブリンの睾丸を…って言っても分からないでしょうから、今のは忘れてください。これは【一発必中】と言う名の薬液で、男性が飲んでから致すと一発必中で相手を孕ませる事が出来ると言う秘蔵の一品です。」


「なにぃ!これも大変な薬じゃないか?!よし…今晩さっそく試してみるとしよう。」


 義兄上は薬液を奪い取ると嬉々として懐にしまい込んだ。そんな様子を他の三人は苦笑いを浮かべて眺めていた。






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