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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
上洛編

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第35話 尾張往訪Ⅰ

◎尾張国・清須城 織田信長

 1559年 6月下旬


「くっくっくっく…」


 今、市から届いた文を読んでいたのだが、思わず笑いが込み上げて来てしまった。


「殿…如何なされたのですか?」


 帰蝶が胡乱うろんげな表情で問いかけて来る。


「あぁ、いやな…市が義弟と共に清須に参る旨の連絡を寄越して来たのだがな…ハハハ、お前も読んでみると良い…」


 文を帰蝶に渡すと、帰蝶も文の内容に目を通し始めた。最初は普通に目を通しておったが、徐々に笑顔になり、「フフフ…なるほど…愛しの旦那様のお話ばかりですわね。」と口にした。


「クハハ、まぁ、仲がいい事は良いのだがな、これでは義弟の情報以外、まったく入って来ぬわ…ぬはははは。」


「ですが殿…文月の五日前後の到着予定とは、随分急なお話ですわね。」


「確かに急な話ではあるのだが、五郎左(丹羽長秀)に任せておけば特に問題にはなるまい。」


 現在、尾張の発展、特に楠の発展に後押しされる形で、津島と熱田の発展が著しい。俺としてはその礼も兼ねて盛大に持て成してやろうという所だ。


「それにしても、話題の義弟おとうとようやくお会い出来るのですわね、…フフフ、楽しみですわ。」


「あぁ、楽しみにしておれ。当日は皆で出迎えてやろうぞ。」


 それから帰蝶の部屋を後にした後、現在身籠っている吉乃の元を訪れ、義弟の来訪の件についても話して聞かせた。



◎尾張国・清須城下 楠木正顕

 1559年 7月上旬


 文月1日の大評定を無事終え、俺と市、護衛の卜伝と正輝、そして侍女の茜、を含む総勢10名は津島湊経由で清須に入った。


 供回りの人数が極端に少ないのには理由がある。注目を集める事を嫌った為だったのだが、あまり効果は出ていないように感じる。


「なぁ正輝…尾張では目立たず行動するつもりだったのだが、何故にこんなに注目を浴びているんだ?」


 すると正輝はマジか?と言った表情をした。


「若殿…それ…本気で仰ってますか?」


「本気で言ってるが、どうしてだ?」


「はぁ…あのですね、馬上の若殿と御方様の容姿が目立っているのですよ…まぁ、主に若殿がですが…未だに自覚してないのですか?」


 正輝の遠慮のない突っ込みで、忘れていた記憶が思い起こされた。そういえば領内、特に楠城下では領民含め慣れて来た事もあって皆、普通に接してくれているので完全に忘れていたのだ。


 とは言え理由が分かったからと言って今更どうしようも無いので、ここは諦めて清須観光を楽しむことにしよう。


 それは兎も角として、件の大評定についてだが、各地の所領の整理を主に、各方面への配置換え等を行った。


 大きな所では、北畠より木造具政こづくりともまさが独立し、藤方朝成ふじかたともなり鳥屋尾満栄とりやおみつひでと共に紀伊方面の防衛に夫々《それぞれ》、三瀬館みせやかた、上の原館、谷野城へと移動となった。また、桑名方面は予定通り盛邦義兄上に纏め役へ就任して貰う事になった。


 それ以外では内務部と軍務部を設置し、内務部部長に恩智満和、軍務部部長に神宮寺正輝を配した。因みに警ら隊は軍務部所属となる。本来なら、ここに外交部、国交部、財務部、情報部を独立機関として置きたい所だが、情報部以外は人材不足により一旦断念し、その多くが満和の兼務となる。満和の仕事量がヤバい事になっているが、部下と共に何とか耐えて貰いたい。


 それから情報部に関しては幻斎が部長に内定しているのだが、公表するタイミングを見払みはからっている段階だ。


 本当なら大々的に組織を作り替えて各所を皆に担当してもらう腹積もりだったのだが、父上もお爺様も現時点での体制変更は時期尚早だろうとの反対意見もあって、内務部と軍務部のみの設置で他は見送る事にしたのだった。


 これが大評定での全てだ。


 皆には大きな発表がある旨、期待させてしまったこと、本当に申し訳なく思った。そしてこれからは思い付きでの発言は控えようと心に誓った。


 そして最後に先の山科卿の件だが、現時点では俺とお爺様、父上以外には秘匿する事とした。


 そうして改めて大評定の件を思い出し、反省をしていると前方で見知った者が待ち構えていた。


「おぉ、丹羽殿ではないか。祝宴以来だな、健勝そうで何よりだ。」


「有難うございます。城下にお着きとのお話を耳にしましたので、遅ればせながら、お迎えに参上いたしました。それから、於市様もお帰りなさいませ。」


「有難う、五郎左殿もご苦労様です。」


「それでは、案内を頼めるかな。」


 丹羽殿の案内で清須城に向けて進み始めた。因みに俺の馬に俺と市が乗り、正輝の馬に茜を乗せて正輝が手綱を引いている。卜伝とそれ以外の護衛は徒歩となっている。


 そうしてしばらく進むと清須城が見えて来た。城門前には義兄上と切れ長の目をした女性が一人、そして数人の家臣と思われる者たちが待ち構えていた。


「よく来た、正顕。それから市も元気そうだな。」


「義兄上、態々《わざわざ》のお出迎え、痛み入ります。それから…義姉上ですね、正顕です。お初にお目に掛かります。」


「兄様、義姉ねえ様、ただいま戻りました。」


「えぇ、初めまして、帰蝶です。それから於市殿もお変わりなく、お元気そうで何よりですわね。」


 一通りの挨拶を終えると義兄上に促されるままに清須城内に足を踏み入れた。


「ここまで疲れたであろう…夕餉は盛大に執り行う故、それまでゆるりとしておれ。」


「その前にお持ちしたお礼の品を出したいのですが、どこか広い場所はありますか?」


「お礼の品と言っても何も持ってきておらぬでは無いか。後の便で来るのではないのか?」


「説明するよりもお見せする方が早いので、どこかありませんか?」


 義兄上は反応に困るような顔をしておられたが、目の前の部屋に降ろすように仰られた。


 俺はインベントリに入れておいたお礼の品、【清酒・伊勢ノ海】100、【椎茸】10きん、【鉄砲(種子島)】100丁を順番に部屋に並べて行った。


 荷物を出し終えて後ろを振り向くと、義兄上と義姉上が大口を開けて固まっていた。そしてやっと始動したかと思うと、義兄上に肩を掴まれて揺さぶられる。


「これだけの品、一体どこから出したのだ?!如何どうなっておるのだ?!」


「こっ、これっも、俺の力で、ちょっと落ち着いて、ください。」


 落ち着きを取り戻した義兄上と義姉上に、出来る限り解り易く説明はした。俺のような現代人は、ドラ〇もんのお陰で理解しやすいのだが、義兄上たちは何となくイメージは出来るようだが、恐らく難しいだろう。


「まぁ良いわ…お前のする事に一々驚いていては身が持たん。そう言う物だと思う事にする。」


 酷い言われようだが、気持ちは分かるので突っ込まないで置く事にする。


「それで義兄上たちへの個人的なお礼があるのですが、どこか落ち着ける場所はありますか?」


「では、俺の部屋にでも行くか?そこであれば邪魔も入らんぞ。」


 義兄上の部屋に着くと、皆で車座になって座った。


「それじゃあ、さっさと見せろ!」


 相変わらずせっかちな義兄上に苦笑いを浮かべながら質問をする。


「その前に一つ質問です。義兄上は刀と槍、長刀、弓、どれが一番好みですか?」


「ん?何だいきなり…そうだな、どちらかと言えば刀だな。戦では槍や弓の方が役に立つが、個人的な好みとしては刀だな…で、それがどうした?」


 義兄上の答えにお礼の贈り物を何にするか決めた。先ほどと同じようにインベントリの中身を意識し、指定の品物を自身の手の中に出現させる。


「これが義兄上にお送りする【魔刀・加具土命かぐつち】です。刃渡りは二尺四寸一分、義兄上の身の丈に合うかと思います。」


 そう言って義兄上に加具土命を渡すと、早速鞘から抜いて見せていた。


「なんだ、この刀は…赤い刀身に箱乱刃はこみだれば…それに…少し熱を持っておるようにも感じるぞ…」


「正解です。この加具土命は緋緋色金で打たれており、更に炎の力を刀身に宿しています。そうですねぇ…あちらの庭の大岩、あれに軽く切り付けてみて下さい。」


「いやいや、刃毀はこぼれしてしまうぞ?」


「大丈夫ですから、やってください。」


 義兄上は珍しく不安そうな顔をしておられたが、意を決して大岩に向かって刀を振り下ろす。すると、まるで豆腐を切るが如く大岩を両断し、断面は赤く溶けていた。


「んな?!凄いな…この刀…本当にいいのか?」


「はい、義兄上が援軍に来て下さらなければ父上が亡くなっていたかも知れませんし、この程度安い物ですよ。」


「そうか?!有難く頂くとしよう!」


 義兄上は加具土命を鞘に戻すと、義姉上の所で嬉しそうに見せている。この辺は子供っぽいなと思うが、これも義兄上《信長》の魅力の一つなのだろうと感じた。






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