第34話 来訪者
◎伊勢国・楠城 楠木正顕
1559年 6月下旬
文月(7月)1日の大評定に向けての準備が始まった水無月(6月)25日、俺の下をある人物が訪ねて来ていた。大河内城の合戦の折に、本陣へ奇襲を掛けて来た塚原卜伝その人である。
卜伝は改めて俺への弟子入りを志願し、床に頭を擦り付けている。
「剣聖殿、先程から何度も言っている通り、俺に弟子入りしたとて剣術を理論立てて教える事は出来んぞ?手合わせの相手や、動きを見ての助言程度が関の山だ。」
「それでも構いませぬ。この日ノ本で拙者に助言を与える事が出来、更に本気の剣を受け止められる者など一人居るかどうかです。況してや赤子扱い出来る者など皆無に御座います。」
「ハァ…まぁ、あの時約束したからなぁ…分かった、楠木家剣術指南役兼俺の護衛として弟子入りを許す。ただし、無報酬と言う訳にもいかぬ故、年50貫にて登用する事とする。住まいは城下に用意する故、詳しい場所は満和に聞いてくれ。それから、必要であれば、弟子や門人を呼んでも構わんぞ。」
「ははぁぁぁ!有難き幸せに御座います。」
それともう一つ、1571年に83歳で死去するらしいので、オーラの習得法を記した書をインベントリより出して手渡す。因みに書には魔法が施されていて、どの種族でも読める仕様になっている。(数多の種族が暮らす異世界では一般的な魔法だった。)
「これは…」
「それはオーラ…所謂気功のような物だが、それを習得する為の修練方法が書かれている書物だ。それを習得すれば肉体が活性化する事でより強固になり、若返りの効果もあるらしい。習得にはある程度の才が必要だが、剣聖殿なら問題ないだろう。」
「有難うございます。必ずモノにして見せまする。それから拙者の事は卜伝と呼び捨てて下さい。弟子であり、臣下でもありますので。」
「フッ、分かった卜伝。これから宜しく頼むぞ。」
「ははぁあ!!畏まりましてござる。」
卜伝は無駄のない動きで頭を下げる。こんな所にも武術の成果は現れるのかと感心しつつ、小姓に卜伝を満和の元へ案内するように命じると、次の客の待つ部屋へと向かった。
目的の部屋の前に行くと中から年配と思われる男性の声と共に、お爺様の声が聞こえて来た。
「失礼します。」
部屋に入るとやはりお爺様がおられた。
「おぉ正顕、ようやく来おったか…こちらが権大納言、山科言継卿じゃ。山科卿とは古くからの馴染みでのぉ…昔話に花を咲かせておった。」
「山科言継じゃよ、其方が正忠殿自慢の孫で、楠木家現当主であり、【お伊勢様の神子】と呼ばれておる正顕殿じゃな?」
「お初にお目に掛かります、楠木正顕です。お噂はかねがね聞き及んでおります。」
そう言って軽く頭を下げる。
「ハハハ…神子殿に頭を下げられると、主上に頭を下げられておるようで、妙な気分になって来るわい…」
「わっはっは…本日、山科卿がいらっしゃたのも、その事が関係しておるのじゃ。実は京の公家の間でもその事が話題上っておるらしく、帝のお耳にも入ったらしい。」
「それでの、主上より真偽の程を確認して参れとのお達しがあったのじゃ。まぁそれで、正忠殿と旧知であった儂に白羽の矢が立ったのじゃ。」
いつかはこのような事態になると思ってはいたが、随分早かったな…と言う印象だ。帝のお耳に入ること自体は特に問題ないのだが、その事を証明する手立てが今の所乏しいと言う事が問題だ。恐らく花菱の神紋が記された勾玉と痣だけでは証拠として幾分か弱い。お伊勢様に降臨して貰えれば一発なんだが、連絡の手段がない。
(多分、伊勢神宮の正殿であれば連絡が取れるような気がするんだが、正殿には神職以外入れないらしいし…さぁて…詰んだか?)
対応に苦慮していると頭の中にシステムのメッセージが響く。
『封印度が60%に弱体化しました。それによって一部スキルの封印が解除されました。』
〓〓〓〓〓ステータス〓〓〓〓〓
氏名:楠木正顕
Lv:835(2,087)
権能
[神子:豊穣の大地・施設設置・オルド・密林市場]
スキル
[武神][雷神][召喚魔法][全言語マスター][インベントリ][状態異常無効][特殊封印60%]
称号
神の因子保有者
その他情報
基準石高:65万石[実収穫:130万石]
GDP[石高換算]:160万石
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「よっしゃぁぁぁ!!」
余りのご都合主義ではあったが、封印が弱まり今の事態に対応可能なスキル【雷神】と【召喚魔法】の封印が解かれていた。スキル【雷神】は雷撃系の魔法を制限なく使用でき、【召喚魔法】は契約した存在(神獣、聖獣、霊獣、神霊、精霊など)を呼び出す事が出来る。
「如何したのじゃ、正顕!?」
「アハハ…何でもありません。それよりも山科卿…このような力が使えるのですが、証になりましょうか?」
言葉を発すると同時に、自分自身の周りに拳大の雷撃の玉を複数個出現させた。因みに玉の中には小さな電撃が渦巻いている。
「んなっ!?」「なんとっ!!」
二人は一様に驚いた表情を浮かべ、その場に固まっていた。
「まっ正顕、何時からそのような事が…」
「今しがたです。お伊勢様より証の一つとせよとの事です。」
「お伊勢様とお話に?!」
「はい、現在こちらから連絡を取る事は叶いませんが、ただ…伊勢神宮の正殿であればもしや…とは思われますが…」
「伊勢神宮の正殿か…」
それを聞いた山科卿の表情は幾分残念そうなものだった。やはりと言うか伊勢神宮の正殿には神職以外入れない…
(ん?神職…神子って神職と言えないか?伊勢神宮で聞いてみないと判らないな…いったん保留だな。)
「山科卿、伊勢神宮に参拝する予定がありますので、その時に大宮司殿に確認してみましょう。それで…山科卿、如何でしたか?真偽の程は…」
「そうじゃのぉ…儂の判断としては証として十分じゃと思うが、難癖をつけて来る輩が多いからのぉ…参内する必要が出て来るかもしれんの。」
「参内については時機を見てと言う事であれば可能ですが、宜しいのですか?我ら楠木は朝敵となっておりますが…」
「ああっ?!そうであったわ!ならば、この件はいったん保留とし、主上には報告のみ上げて置く事とする。後は主上のご判断を仰ぐ事と致そう。」
山科卿は項を扇子でトントン叩きながらそのように仰られた。
「まぁ難しい話は此処までにして、一つ訪ねても良いかの?」
「何でしょうか?」
「久方振りに楠の城下を訪れたが、楠の発展速度は異常じゃ。それに城下に入る前に農村地帯を通ったが、ほとんどの農民が農民にしては…と言っては語弊があるが、良き着物を着ておった。これは如何した事じゃ?」
「そうですねぇ…理由はいくつか御座いますが、大きい所で言えば、四公六民の年貢割合に楽市楽座による関所の廃止、兵農分離、そして俺の権能に寄る所が大きいですかね。それに依って生活にゆとりが出て来ているのだと思います。」
「権能?」
流石に気になるよな。特に隠している訳ではないので、【豊穣の大地】について山科卿に説明をした。
「なんじゃ、その出鱈目な力は…それは単純に石高などの収支が倍になるのと同義ではないか…。」
山科卿は少しの間考え込むと、不意に言葉を発した。
「…のう、正顕殿…早急に京を…上洛して京を楠木領に出来んかのぅ?」
「……はあ?!いやいや、流石に現時点では難しいですよ?六角の動向次第では、南近江までは早々に何とかなるかもしれませんが、三好は無理ですね。最低でも伊勢、志摩、南近江…欲を言えば伊賀、大和もですが…この辺りを領有した上で、更に有能な人材を確保し、2~3年の内政期間が必要です。特に人材です、楠木は急激に大きくなった為に今現在、人材不足に陥っていますので…」
「はぁ…そうか…無理を言って済まんかったの。」
山科卿の本当に残念そうな表情を見ると心が痛む。俺としても色よい返事をしてあげたい所だが、こればかりは仕方がない。
その後は気持ちを切り替えて様々な話をした。その中で山科卿は、献金集めで各地を巡っておられる事もあって、交友関係が広い事でも知られる。その伝を利用して心当たりを当たって頂ける話にもなった。
「なに、下手な相手に話を持って行く事はせんよ。楠木の弱点を晒す事にもなりかねんからの…儂は少しでも早く楠木に京へ上って欲しいのじゃ。」
そう言って山科卿は微笑まれた。その顔を見た俺は山科卿の期待に応えるために、全力を尽くす事を心に誓った。




