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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
伊勢国統一編

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33/53

第33話 それぞれの対応策

◎伊勢国・楠城 楠木正顕

 1559年 6月中旬


 報告を終え一旦解散となった事もあって、考えを纏める為に書斎へと足を運んだ。


(美濃、南近江国境には光秀を配置し、大和には一益と北畠を配置した。美濃には斎藤、南近江には六角、大和には筒井と三好の松永がいる。後は北畠の家臣団の動向次第だが、独立を希望する者を紀伊国方面に配したい。それから桑名方面の国衆は盛邦義兄上(村田盛邦)に纏めて頂き、斎藤を警戒する。小勢力が乱立する伊賀方面は長野を使って調略を進めるか…何にしても配置換えの後は警戒しつつも内政重視で進め、積極的に人材の登用を行うか。)


「はぁぁぁ…何処かに優秀な人材が余ってないかなぁ…光秀があと十人は欲しい…」


「明智様はそんなに優秀な方なのですか?」


 俺の愚痴りを聞いたのか、部屋を訪ねて来たのだろう、茜を伴った市が廊下から覗いていた。


「あぁ、とても優秀だぞ?身体能力以外で、俺が勝てる所なんて一つも無いんじゃないか?」


 多少悔しくはあるが、事実なので仕様がない。自称気味に市に応えるとムッとした市が反論して来た。


「そんな事はありません!今の楠木家があるのは、旦那様の手腕のお陰です!それに明智様が結果を出しておられるのは、旦那様が明智様を上手くお使いになっているからだと思います。もっと自信をお持ち下さい。」


「フフフ…」


「旦那様?」


「いいや、済まない。市の言う通り、もう少し自信を持つ事にしよう。それよりどうしたんだ?何か用事があって来たんじゃないのか?」


「あっ?!そうでした!この子達を紹介しようかと思って…」


 いつの間にか市の両腕には白と黒の子犬が二匹、抱き抱えられていた。


「おっ?どうしたんだこいつらは…」


「はい、黒い子が大和で、白い子が小雪です。先日城下で見かけて親もいないようでしたので、連れ帰ってきました。今は母上と一緒に面倒を見ているのですよ。」


「ワン!」「キャフ…」


「へぇ…中々かわい…うん?これは…(こいつら…霊獣か?……なぜこんな所に…)」


 今は力を封印されているので使えないが、異世界では攻撃系の魔法の他に、召喚魔法が得意だった事もあって、神獣や聖獣、霊獣と言った特殊な生き物には敏感だ。


 まぁ、地球にも魔力や魔素と言われる物が存在すると知ってから、この種の者たちが居るかもしれないとは思っていたが、まさかここで出会うとは…。しかし市と霊線が繋がっていると言う事は、市と契約しているのか…。


 まぁ、特に悪い影響は無さそうだから、いったん様子を見る事にしよう。


 市はこの後母上と一緒に二匹の散歩も兼ねて、孤児院へと顔を出しに行くと言って、茜と共に母上のところへ向かった。


 俺はと言うと取り合えず当たって砕けろと言う事で、思いつく限りの可能性のある人材にコンタクトを取る事にした。


 そうして一時間後、六通の手紙を書き終えると、月夜見の幻斎を呼び出した。


「幻斎、この六通の手紙は楠木家への仕官の誘いの文だ。それぞれが、大和の島清興しまきよおき殿、京の東福寺の瑶甫恵瓊ようほえけい(安国寺恵瓊)殿、美濃の菩提山城ぼだいさんじょう城主の竹中重治たけなかしげはる殿、近江石田村の石田正継いしだまさつぐ殿、近江犬上郡の藤堂虎高とうどうとらたか殿、近江宮部村の宮部継潤みやべけいじゅん殿へそれぞれ届けて欲しい。そして仕官の可能性が在るのかどうか探ってほしい。」


「畏まりました。そう言えば拙者の方からも一つご判断を仰ぎたき事が御座います。我らの同業者になりますが、果心居士かしんこじを名乗る者が仕官を希望しております。また、伊賀崎道順いがさきどうとん、主に北畠晴具殿や六角承禎ろっかくじょうていに雇われていたようですが、北畠家が当家に降った事により、雇って欲しいと願い出て来ました。」


「成程な、忍びに関しては、全て幻斎に任せる。幻斎が使えると判断したならば、幻斎の部下として、それぞれ年間金50貫、武士待遇にて仕官を許す。」


「分かりました。それでは後で挨拶に伺わせます。文に関しては結果が出次第、報告に参ります…それでは失礼致します。」


 素早く気配を消し、その場を後にした幻斎に相変わらずの腕前だなと感心しながら、幻斎にも何か褒美をやらねばな…と思う今日この頃であった。



◎近江国・小谷城 浅井賢政あざいかたまさ

 1559年 6月中旬


 六角が北畠の要請で北伊勢へ援軍を派遣したとの報せを受け、密かに戦場を探らせていた喜右衛門(遠藤直経)戻ったとの事で、直接報告を受けている。


「…と言う訳で楠木は六角を退けました。拙者も直接この目で状況を確認しておりましたが、あの楠木家当主…只人ただびとでは御座いませんな。見目も人間離れした美しさであった事とも合わさって、その場にいた兵の中には、現人神として手を合わせる者さえおりました。」


「そうか…そこまでなのか…」


「はい、何せ力をふるった瞬間、空が割れ、割れた空から星空が見えておりましたので…。拙者も実際に目にしておらねば、一笑に付しておりましょうが、【お伊勢様の神子】との噂も誇張された物では無いでしょう。ゆえに楠木とは敵対すべきではありません。何とかよしみを結ぶべきであると愚考致します。」


「しかしどうすれば良い?対六角での同盟でも打診するか?今の状況で受けるとも思えんが…」


 それ程の力があれば、態々《わざわざ》浅井の力を借りなくとも六角を滅ぼす事も出来よう。その証拠に六角は降伏に近い条件の和睦案を受け入れ、うのていで撤退している。


「それでも打診はして見るべきです。それを切っ掛けとして友好関係を築いて行ければ…」


「確かに喜右衛門の言は最もだ。では次の評定に掛けた上で父上の判断も仰がねばなるまい。先の綾(六角家宿老・平井定武の娘)を離縁した件は大分お怒りだったからな。」


「そうですな、此度は皆にはかった上で大殿にも報告致しましょう。」


「それでは引き続き六角の監視と合わせて、楠木の監視も頼んだぞ。」


「はっ!状況は随時、報告致します。それでは…」


 喜右衛門が下がった後、その場に寝転がると、目を閉じて少し思案する。


(六角に斎藤だけでも大変な時に、更に強大な楠木とは…先ほどの話が真実であれば、遅かれ早かれ浅井も飲み込まれよう。それに聞けば俺より一つ年下の十四と言うではないか…)


 次々起こる頭の痛い出来事に辟易へきえきしながらも、自分と同年代の当主の登場に対抗意識を燃やさずにはおれなかった。






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