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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
伊勢国統一編

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第32話 帰還

◎伊勢国・采女城 明智光秀

 1559年 6月中旬


 大河内城での雑務を終え采女城に戻ったのは論功行賞から五日以上経った水無月の12日であった。


 采女城では妻の熙子ひろこを始め、従兄弟の次右衛門(明智光忠あけちみつただ)、重臣の行政(藤田行政ふじたゆきまさ)、家人の庄兵衛(溝尾茂朝みぞおしげとも)が出迎えてくれた。


御前様おまえさま、ご無事のお帰り…祝着至極にございます。」


「「「祝着至極にございます。」」」


「うむ、皆のお陰で無事帰る事が出来た。行政、良き報告もある故、皆を集めてくれ。」


「畏まりました。」


 従軍していた兵は解散させ、自宅へと戻させた。今は久し振りに家族との時間を満喫している頃だろう。


 それはさておき、荷解にほどきも早々に着替えを済ませると、熙子を伴って皆の待つ広間へと向かった。


 広間には使用人を含め、城に詰めている主だった者たちが集まっていた。


「それでは早速始めるとしよう。まずは城の留守を守ってくれた事、誠に感謝する。皆の協力と頑張りのお陰で見事、勲功一位を取る事が出来た。」


「おぉ、それは誠に目出度い!」


 行政が声を上げる。


「うむ、そしてその褒賞として二つの物を頂いた。まずは員弁郡いなべぐん5万石をお任せ頂ける事となり、早急にこの采女城より移る事となった。」


「それは誠におめでとう御座います!」


 次右衛門じえもん(光忠)が笑顔で頭を下げる。


「移る…と言う事は采女を引き払うと言う事でしょうか?」


「そうだ、庄兵衛(茂朝)。楠木家では飛び地での所領運営を基本的には認めていない。故に采女城は若殿にお返しし、梅戸城へ移る事とする。また、員弁郡は国衆が約定を破り六角に組した事による神罰を受け、当主は殆どが没している。よって所領を担う人員が足りん。」


「そこで秀満、白瀬城に入り周辺地域を治めよ。」


「わっ、私がですか?」


「そうだ、美濃国境に近い重要な地になるが、頼んだぞ。」


「はい!身命を賭して励みます!」


「つづいて、次右衛門には…」


 と言うように主要な家臣には次のように所領の守りを割り振った。


 ●明智秀満:白瀬城しらせじょう

 ●明智光忠:治田城はったじょう

 ●藤田行政:田辺城たなべじょう

 ●溝尾茂朝:下平城しもひらじょう

 ●明智光秀:梅戸城うめとじょう


「うむ、一応形にはなったが、正直全く足りんな…通常であればこういった事態には若殿に与力の打診を行う所ではあるが、楠木家自体が急激に大きくなった弊害で、与力を回す余裕もない。…熙子、妻木の義父上にお願いする事は出来んか?」


「分かりました、父に文を出してお願いしてみましょう。」


 嬉しい悲鳴とはこの事なのだが、このままでは明智もだが、楠木も人員不足で瓦解しかねない。早急に解消する必要があるだろう。


「明智にとって今が踏ん張り所だ。苦しいだろうが、宜しく頼むぞ!」


「「「「ははあ!(分かりましたわ)」」」」


 そして最後は…


「頂いた褒賞の二つ目は…熙子、約束の薬液だ。れっさーえりくさ…だったか?飲んでみるが良い。」


「これが、若殿様の仰られていた…それでは…頂きます。」


 熙子は期待の入り混じった表情で薬液を口に含み…意を決して飲み込んだ。すると熙子の身体が淡く光り輝きだすと左頬にあった疱瘡の痕が徐々に薄くなり、最後には跡形もなく消え去った。いや、前以上に肌艶が良くなり、若返った感さえする。


 熙子は自身の手鏡で顔と頬を何度も確認し、感極まったのか涙が頬を伝っている。


「っ…御前様…あり…ありがとう…ございます…うぅ…。若殿…様…このご恩は…決して…」


 家の者、特に古くから仕えてくれている者や、女房衆などは貰い泣きをしている者さえいた。若殿には感謝せねばなるまい…明智家は熙子を中心に、より一層強固な家門となるだろう。



◎伊勢国・楠城 楠木正顕

 1559年 6月中旬


「旦那様ぁ!!」


 馬から降りると門前で待ち構えていた市が腕の中に飛び込んで来た。うん、久しぶりの市は相変わらずいい匂いがする。だって仕方ないよね?新婚さんなんだもん。


 久しぶりの市を堪能していると、母上が市と俺との間に割って入り、後にする様に言ってくる。


「ハハハ…ただいま戻りました。」


「まぁ…良かろう。この分なら早晩にでも曾孫の顔が見れそうじゃしの。」


「よし…積もる話もあろうが、居間で落ち着いて話そう。」


 父上に促される形で父上と母上、お爺様に八重、市と茜と共に奥御殿の奥まった位置にある居間に向かった。


「それで、戦の方はどうであった?無事に戻ったと言う事は勝ったのであろう?」


「はい、長野工藤、北畠の両家共に従属する運びとなりました。また、北畠晴具殿に家臣団の動向の取り纏めと志摩国の国人衆への根回しも依頼しておきました。」


「ふむ、上々の結果じゃな。特に北畠家には大恩があるからの、良い塩梅に落ち着いたようで安心した。」


 お爺様は心底安心したようで、ホッと一息と言った様子だ。


「一旦急ぎにて国境の防備を固める必要性を感じましたので、大河内城にて論功行賞を行い、大和国宇陀郡やまとこくうだぐん三万石を一益に、員弁郡5万石を十兵衛に任せました。また、北畠には多気周辺の5万石を任せ、旧北畠領へ睨みを聞かせて貰います。それでも人員不足が否めず、決して十分とは言えませんが、これにて伊勢国の統一は成りました。」


「おめでとう御座います、()()。」


「有難う、八重。しかし、喜んでばかりもいられない。楠木は急激に拡大した事もあって、各所を任せられる人材が少ない。よって早急に人材確保に動く必要がある。」


「そうだな、その上、六角の状況次第では更に領地が増える可能性すらある。贅沢な悩みよな…。」


 父上の申される通り贅沢な悩みではあるのだが、このままでは非常に不味い。特定の人物に負荷が掛かり過ぎている。特に軍事面で光秀、内政面で満和、二人に仕事が集中し過ぎているのだ。


(この時代の優秀な人材…特に在野の人物、いただろうか…。それとも他家から引き抜くか?…あっ?!歴史通りに進めば、一年後は桶狭間がある…それを利用して…ふむ、行けるか?)


「どちらにしても、早々の改善は難しいですね。俺の方でも月夜見を使って全国の優秀な人材を探してみますので、父上とお爺様の方も当たってみて頂けると助かります。」


「ふむ、わかった。知り合いに当たってみるか…」


「そうじゃの、儂の方も探ってみよう。」


 俺の方でも未来知識と月夜見の情報網で当たりを付けつつ、先ほど思いついた内容の確度は如何なものなのか、頭の中で思考を廻らせていた。






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