第30話 大河内城の戦い・その後Ⅰ
◎伊勢国・大河内城 楠木正顕
1559年 6月上旬
大河内城の本曲輪内の一番大きな広間に、この度の戦に参戦した家門の当主たちが顔を揃えている。
俺が元服した時に【例の書類】に記名血判した当主の人数は13人だった。だが今は100人近くいるだろうか。大変申し訳ないと思うが、殆どの者は接点が無い事もあって、顔も名前も分からない。
これからも多くの臣下が増えて行くのだろう…そしてその中からどれだけの者が俺に顔と名前を刻み込めるほどの活躍をするのだろうか。頭を下げている皆を一段上がった場所から眺めながら感慨にふける。そして腹に力を入れて言葉を発する。
「皆の者、面を上げよ。まずは此度の戦は大儀であった。六角の侵攻と言う想定外の出来事もあったが、概ね予定通りに進んだように思う。それは偏に皆の頑張りと、献身があったからであろうと思っている。」
皆の真剣な視線を受け止めながら、更に言葉を続ける。
「通常であれば、楠城にて論功行賞を行う所ではあるが、此度は六角の侵攻等もあった故、早急に所領の割り振りを決定し、少しでも早く国内を安定させるため、このような形を取らせてもらった。俺からは上位三名の発表のみを行い、残りは光秀から伝えて貰う事とする。最後に褒賞の内容に不満のある者は後日、上役が取り纏めた上で評定衆まで申し出るように。その訴えが正当な物であった場合は再度の検討を行う物とする。」
全員静かに頷きながら話を聞いている。ここまでは特に問題ないようだ。
「それでは発表をして行くとしよう。まずは第三位から行こうか。勲功第三位は…長野藤定及び稙藤親子。脇谷城を落とすには至らなかったが、夜襲を仕掛けてきた芝山秀定を討ち取った功を以って第三位とする…長野藤定!」
「はっ!」
皆の注目を浴びながら藤定が前へと歩み出る。
「長野藤定、其方には正式に鈴鹿郡南西部三万石の所領安堵を約す物とし、そこへ更に一万石を加増とする。詳しい領境に関しては楠城の恩智満和へ確認するように。そして…」
インベントリから見せつけるようにして取り出したそれを、目の前の台の上へと乗せる。
それは淡い光を放つ直径1センチ程の透明な玉が数珠状に連なったブレスレットであり、異世界産の魔導具である。
皆は光を放つ透明な数珠に感嘆の声を漏らす。
「これは【防人の数珠】言ってな、見た通り腕に身に着ける数珠なのだが、この世にはない材料で作られ、加護の力が込められておる。」
「加護の力…ですか?」
「そうだ、まぁ論より証拠だ。取り合えず身に着けてみよ。」
小姓が持って来た防人の数珠を藤定が身に着けたのを確認した俺はインベントリから取り出した石を藤定目掛けて投げつけた。
「それで如何すれ、うわぁ?!」
いきなり投げつけられた石に反応する事も出来ない藤定だったが、投げつけられた石は目の前で不思議な壁に阻まれ空中で停止し、その場に転がり落ちた。
「今のが加護の力だ。一日十回が限度だが、刀で切り付けられようが、槍で刺されようが、弓や鉄砲で撃たれようが今のように防いでくれる。」
「あっ、有難き幸せ!!我が家の家宝とさせて頂きまするっ!!」
藤定は顔に満面の笑みを浮かべて元の位置に下がった。周りの者たちからは羨望の眼差しを向けられ、稙藤からは背中をバシバシ叩かれていた。
場の興奮冷めやらぬ中、次の発表に移る事にする。
「続けて第二位の発表に移る事ととしよう。勲功第二位は滝川一益だ。見事に泉ヶ久保城を落とし、戦の早期決着に貢献した。その功を以って勲功第二位とする…一益、前へ。」
「はっ!」
「よっしゃぁ!!」
一益の隣に座っていた慶次郎が喜びの余り拳を突き上げる。それを一益に咎められ拳骨を食らい、辺りは爆笑に包まれた。
「申し訳ありませぬ。」
「はっはっは、慶次郎はあの位で丁度良い。それでは滝川一益、其方には大和国宇陀郡三万石を任せる。北畠から独立した吉野郡の旧領は取り合えず無視して良いので、早急に領内を整え大和を侵食せよ。」
「っ?!ははぁ!!必ずやご期待に応えて見せまするぅ!!」
「更に其方には…これだ。」
インベントリから大きな長い朱槍を取り出すとその場で軽く扱って見せる。
「この朱槍には特殊な能力は付与されてはいないが、刀身が緋緋色金で作られており、金属でも簡単に貫く。」
「ひひい…」
「ヒヒイロカネだ。伝説では三種の神器にも使用されている金属らしいぞ?本当かどうかは知らんがな…」
三種の神器と聞いて、場は色めき立つ。緋緋色金は知らなくても、天皇家秘蔵の三種の神器を知らない者はいないようだ。
「と言う事で一益、受け取れ。」
そう言って一益に朱槍を手渡した。
「あっ、有難き幸せ!!この朱槍に恥じぬ働きをする事をここに誓いまする!!」
「あぁ、期待しておるぞ。」
一益は受け取った朱槍をウットリと見つめながら、元の席に戻って行った。
「最後はこの度の戦の勲功第一位だ。まぁ、皆も予想できておると思うが、明智光秀…其方が一位だ。長野攻めの総指揮から始まり、更には六角侵攻の際に俺と正輝が抜けた穴を見事に埋めて見せたその功績は大きい…光秀!」
「はい!」
「其方には現在任せている采女城から移って貰う事にはなるが、替わりに員弁郡五万石を任せる。ここは六角軍の侵攻の影響もあって領主不在の地域が多い。二年間の年貢免除を与えるので、領内の安定に注力せよ。また、場合によっては六角への侵攻も考えられる為、その心算でいるように。」
「はっ!この明智十兵衛光秀、若殿の手足となって働く所存にて…どのような事もご命じください!」
十兵衛はその場で深々と頭を下げた。
「さてと…十兵衛への褒美の品はこの薬液だ。この品は先の二つの品と同様にこの世には存在しない材料にて作られており、身体のあらゆる不調を完治させる事が出来る。それは後天的な物も先天的な物も全てだ。」
俺は光秀も前に歩み出るとレッサーエリクサーを手渡す。
「有難うございます!これで妻も…っはっ!なっ、なんでもありません!誠に有難うございました!」
光秀は顔を赤くした後、頭を下げてから動かなくなった。
「わっはっはっは!光秀、恥ずかしがる事はないぞ?妻の為に力を尽くす事は恥ではない…くっくっく…。」
いつものクールな光秀とのギャップに笑いを堪えられなくなった俺は悪いとは思いながらも、暫くの間笑いを止める事が出来なかった。




