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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
伊勢国統一編

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第29話 大河内城の戦い・終結

◎伊勢国・泉ヶ久保城 滝川一益

 1559年 6月上旬


「慶次郎!お前は兵二千を率いて、尾根伝いに攻め寄せる脇谷城からの兵を防げ!拙者は泉ヶ久保へ攻め上がる!」


「分かったぜ叔父貴おじき、すべてこの滝川慶次郎忠益に任せてくれ!」


 この慶次郎だが先頃、晴れて元服を迎えた。有難い事にご隠居様(楠木正忠のこと)に烏帽子親を務めて頂いたばかりか一字を頂戴し、名を滝川慶次郎忠益たきがわけいじろうただますと改めた。


 こ奴はその事が余ほど嬉しかったのか、最近は何かに付けて先のように名乗りを上げている。


 それは兎も角として、この支城だが昨日から休み無く囲い、攻め掛けているのだが、案外守りが固く、いまだ落とす事が出来ていない。


 拙者自身、若殿にお仕えしてはや8年、大きな戦が無かったとは言え、未だに満足のいく手柄を上げられていない。そんな折にこの戦は絶好の機会と言える。


 このまま行けば三名のうち一人は明智殿で堅かろうが、早期にこの支城を落とす事で何とか食い込みたい。


(しかしこの城は尾根伝いに両城が連携する上、大軍も展開し難く攻め難い…であれば、時間を掛けるのは得策ではあるまい…なれば若殿より頂いた新開発の樽爆弾にて城門を破壊する!)


 この【樽爆弾】は樽の中に大量の焔硝えんしょうを詰め込んだ物で、対象近くに設置して導火線に火を付けて使用する。効果的に使う事が出来れば城門程度は軽く吹き飛ばす事が出来るだろう。


 我らは作戦を悟られぬ様に、夕刻まで押したり引いたりと被害が出ない様に立ち回り、夕闇が広がり始めると本日の戦は終いだとばかりに、城門前を引き上げた。


 それからしばらくの後、戻って来た慶次郎と夕餉を共にし、数刻の睡眠を取った。そうして敵が寝静まったであろううしの刻辺り…夜陰やいんに紛れて目的地に向かって静かに動く。


 今夜は月も出ておらず、辺りは静寂に包まれており、絶好の隠密日和となった。


 因みに慶次郎は爆発音が上がると同時に、城内に向かって攻め上がる手はずになっており、兵二千と共に息を潜めて待機している。


 我らは三つの樽爆弾を手早く門前へと設置し終えると、導火線に火を付けて脱兎の如く退避し、物陰から様子を伺う。


 するとバチバチと火花が導火線を進み樽に到達した瞬間、樽は轟音を上げて弾け飛び、近くにあった城門や土塁を跡形もなく吹き飛ばす。


「すっげえなぁ、オイ…とそれ所じゃ無かった!皆の者、城門は吹き飛んだぞ!突撃だぁぁぁぁっ!!」


 手筈通り慶次郎が槍を振り回しながら城門から突入して行く。拙者は残りの兵で城を囲みつつ援軍の警戒を行う。


 敵方にとっては思いもしない方法での奇襲であったのだろう、城内からは混乱による怒号が飛び交い、半裸のまま逃げ出して来る者もいる。そのような者らをいったん捕縛しつつ様子を伺っていると、間も無くして場内から火の手が上がり、慌てた様子で慶次郎が戻ってきた。


「すまねぇ叔父貴、敵将の波瀬何某はせなにがしって奴が火を付けやがった!」


「それは仕方がない。泉ヶ久保城を落とせただけで良しとしよう。それよりも本陣の明智殿に伝令を出して、指示を仰いでくれ。」


「分かったぜ。そこのお前、本陣まで走ってくれ。状況を説明して指示を聞いてくるんだ。」


 本陣への伝令を走らせると、引き続き城内からの逃亡者を捕縛しつつ、伝令が戻って来るのを待つ事にした。



 ◎伊勢国・大河内城前・本陣 明智光秀

 1559年 6月上旬



 静寂に包まれていた本陣内にて仮眠を取っていると、突然大きな爆発音が響き渡る。辺りが徐々に騒がしくなって来ると秀満が本陣内に駆け込んできた。


「殿、先ほどの爆発音ですが、見張りの者によると大河内の更に南方より響いて来た物ではないのか?との事です。」


「あぁ、恐らく滝川殿が【樽爆弾】を使用したのだろう。焔硝えんしょうの扱いに長けている滝川殿に若殿が試すようにと渡されておられたからな。」


「なるほど…では皆には心配ない故、警戒しながら休むようにと伝えて参ります。」


「そうしてくれ。私はこのまま滝川殿からの吉報を待つ事としよう。」


 そうして朝日が昇り始めたの刻、滝川殿からの伝令が飛び込んできた。伝令からは泉ヶ久保城を落とした事、以降の動きについて指示を頂きたい旨の伝令であった。


「樽爆弾の効果があったとは言え、流石は滝川殿ですな。早々に泉ヶ久保城を落とされるとは…」


「そうだな、これにて流れが我らに傾こう。伝令、滝川殿には『捕縛した者らはこちらに送って頂き、残りの兵にて脇谷城攻めの援軍に向かわれたし。』と伝えてくれ。」


「はっ!」


 伝令はその場を立ち戻って行く。


「順調なようだな、十兵衛。」


「わっ若殿?!」


 昨日、六角の軍勢に対処する為に戻られた若殿が姿を現された。


「六角の軍勢は如何されたのですか?まさか…」


「うむ。織田からの援軍もあって六角軍の撃退には成功した。一応な…が、その時に結んだ和睦の条件が守られなければ、今度はこちらから侵攻する事になるがな。」


「そうですか…では、こちらも早々に片付けねばなりませんな。それでは若殿、指揮権をお返しします。」


 若殿にお返ししようと軍配を差し出すと若殿は手で制された。


「よい、指揮権はそのまま預ける。ここまで来て俺が出張ってしまえば、其方の手柄を奪ってしまいかねんからな。」


「はっ、お心遣い有難く…では早速一手打ちまする。秀満、大河内城内の者たちに教えてやれ。『お前たちの待ち焦がれている六角の援軍は織田の援軍もあって退ける事に成功した。このまま幾ら籠城したとて助けは来ぬぞ?降伏した方が良いのではないか?』とな。」


「成程な、今しがたの情報を利用して降伏を促すわけだな?ならば、もう一つ情報を追加してやろう。昨晩…詳細は省くが、前当主晴具殿との会談で北畠の従属が正式に決定した。それには北畠の家名存続も具教殿の助命についても含まれておる。」


「なんと?!既にそこまで話が出来ておるのですか…それであれば、あとは仕上げをするのみですな…秀満!」


「分かっております。説得が必要でしょうから、私が使者に立ちます。」


 使者になると言う事は殺される懸念もある為、戻れぬ覚悟をする必要がある。しかし重要な任務でもある為、誰でも良いと言う訳にもいかぬ。


「ではこれを持って行け!これは会談の折に取り交わした証書だ。従属の内容に俺と晴具殿の記名血判もある。それにこれは特別製の紙ゆえ、焼く事も破る事も出来ぬ。証としては十分だろう。ついでに約を違えた際の神罰についても教えてやれ。」


「はっ、それではお預かりします。」


 秀満は若殿より証書を受け取ると本陣の外に出て行った。


 そしてそれから数刻の時が経った昼下がり、大河内城の城門は開き、北畠は降伏の意思を示した。






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