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戦国太平記 〜大きな楠の木の下で〜  作者: 流星群
伊勢国統一編

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第28話 大河内城の戦い・暗躍

◎伊勢国・大河内城 楠木正顕くすのきまさあき

 1559年 6月上旬


 正輝たちと別れた翌日の朝、大河内城の戦場に戻り、戦場が見渡せる丘の木の上に陣取った。


 予想通りと言うべきか、戦況はそこまで進んではいなかったが、楠木に有利な状況で推移しているようだ。


(ふむ、これなら俺が態々《わざわざ》出て行く事も無いな…ここは光秀たちに任せてもう一つのすべき事をするか・・・)


 当初の予定通り戦は光秀たちに任せて、もう一つの仕事を片付ける為に細野峠を一路西へ走り抜ける。そうして小原城を過ぎた辺りで先行していた月夜見の幻斎と合流した。


「若殿、こちらです。」


「幻斎、待たせたかな?」


「いいえ、大丈夫です。先方も先程ご到着されましたので、問題ないかと思われます。」


「それでは案内してくれるか?」


「畏まりました。」


 幻斎に案内を頼み、目的の小原西城へ向かった。城の入り口には男が一人待っており、俺を見ると頭を下げて出迎えた。


「ようこそ御出下さいました。拙者は大河内具良おおこうちともよし、大河内城主を務めさせて頂いております。」


「おぉ、では其方が?」


「はい、ご隠居様より仰せつかりまして、情報を流しておりました。」


「しかし、大河内城は今、戦の真っ最中ではないのか?」


「そうなのですが、ご隠居様よりその旨の書状を前もって頂いておりましたので、ご隠居様をお守りする名目で、籠城前に兵五百でこちらに移っておりました。」


「成る程な…では、案内してもらえるか?」


「畏まりました、こちらです。」


 大河内殿の案内で城内に導かれる。そして城内の奥の間では、長野工藤家を降した頃に文を送って来た張本人であり、多気北畠家の前当主、ご隠居様こと北畠晴具本人が平伏して待ち構えていた。


「ようこそ御出くださった。此度は六角の援軍について情報を掴むことが出来ておらず、申し訳なかった。」


「いいえ、その件については既に解決しておりますので、問題はありません。」


「なんと?!そんな筈は…六角侵攻の報がそちらにもたらされてからそんなに時は…」


「フフッ…流石によくご存知で。昨日報せが入ったので、父上が籠城中であった保々西城まで全力で駆けて戻り、六角を撃退した後にまた戻って参りました。いやはや、此度のことは油断大敵という事で、大変な教訓になりましたね。」


 さすがの晴具殿も唖然とした表情で固まっていた。まぁそうだろう、通常は有り得ないことだ。


「フゥ…正に神の如きお力…儂の判断に間違いは無かったようじゃ…」


 晴具殿は額に浮いた汗を拭い頷いている。


「では、早速北畠家の従属の条件について確認を行いましょう。」


 まず北畠からは先程案内をしてくれた大河内殿が発言する。


「それでは…我ら北畠からの条件は北畠家の存続の一点のみです。具教様と晴具様の身柄をお預けしますので、具房様の家督継承を以って家名の存続をお許し頂きたい。」


 先の晴具殿の文にも認められていたが、一貫して北畠の家名存続を求めておられる。


「では我らの条件はこちらの紙にしたためております。因みにこの紙は特別製であり、記載された内容を違えれば、記名血判したものは誰であろうと神罰を受けます。それは俺であってもです。」


 渡した紙には従属の条件と俺の記名血判が既に記載済みである。


----------

 一つ、北畠具教は隠居の上、出家すること。

 一つ、家督継承は嫡男である北畠具房きたばたけともふさとし、北畠晴具を後見とする。

 一つ、北畠家は霧山御所を含め近隣の五万石を所領とし、それ以外の領地は楠木へと譲渡する。

 一つ、北畠家は楠木家分国法を遵守すること。


 以上の内容を北畠家従属の条件とし、楠木正顕、北畠晴具、北畠具教又は北畠具房の記名血判をもって完了とする。また以上の内容を変更または破棄をする場合は両家の当主の合意の下、行うものとする。

----------


「こっ、これは…このような内容でよいのか?儂らに随分と譲歩した内容になるが…」


「ええ、良いのですよ。父上曰く、『今から百数十年前・・・楠木が朝敵とされ、行き場を失っていた時、楠木を助け、伊勢に導いてくれたのは紛れもなく北畠家であり、その恩は決して軽くはない。この度は様々な要因が重なりこのような仕儀と相成ったが、その時のご恩を少しでもお返しさせて頂きたい。』との事です。かく言う俺も北畠顕家公を尊敬しておりまして、俺の名の顕の字も顕家公から頂いたものなのですよ。この度は最初に戦を仕掛けられそうだった為に先手を打たせてもらいましたが、俺ははなから北畠家を滅ぼすつもりはありません。」


「そうか…そうか…我らはご先祖様に助けられたか…」


 晴具殿は緊張から解き放たれたのか、そう呟きながら涙を流されていた。


 それからしばらくの後、落ち着かれた晴具殿は、俺の渡した証書に記名血判をして返して来られた。


「これにて北畠の従属は果たされたと言う事かの?」


「いいえ。まだここに現当主である具教殿、または次期当主の具房殿の記名血判が必要です。更に別紙の【分国法を遵守じゅんしゅし、我ら楠木と共に歩む事を誓う宣誓書】、長いので【例の書類】と俺は呼んでおりますが、それへの具教殿か具房殿の記名血判が必要になります。この二つの証書への記名血判をもって北畠の正式な従属が完了となります。特に例の書類への記名血判は、各家門から人質を取る必要性をなくす為に我が家では採用しております。」


「なるほどの、了解致した。それでは儂は戦の決着がついた後、すぐに対応出来るように、大河内城近くの坂内城にでも具房らと共に入城しておくかの。」


「そうですね、大河内城が焼け落ちていなければ、大河内城内で論功行賞が行われますので、その際にお越し頂ければと思います。因みに我らが負けた場合は、以上の契約もその限りではありませんので、よろしくお願いします。」


「はっはっは、それはまず無かろうが、良くわかった。」


 これにて北畠とのやり取りは九割方終わりだ。あとは戦の終了後、具教殿が存命であれば具教殿の記名血判をもって完了となる。


「それでは俺はこれにておいとまさせて頂きます。」


「分かりました、それでは大河内城でまたお会いしよう。」


 晴具殿一行と別れ、小原西城を後にした。そして新たな任務として幻斎には六角家の監視、特に六角義治と蒲生定秀の監視を命じ、俺は大河内城を目指してその場を後にした。





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