第22話 神殺し
神の間は静かな場所だった。
台座の中央に時計があるだけの真っ白い空間だ。
「誰も……いない……?」
「いえ、強い気配がします」
ルクさんがそう言った直後、時計が震えてぐにゃりと歪む。そのまま人の形になった。
その姿はゲームで何度か見た神クロノスだった。
「ほう、異物同士が手を組んだか」
「異物とは、ご挨拶ですね。最後まで排除できなかったのはあなたでしょう?」
「フン、勇者と聖女に滅ぼされる運命が意志を持ったところで、神である我輩に勝てるとでも?」
「どうでしょうねえ、やってみないことにはなんとも」
ルクさんはそう言うと即座に防御結界を展開した。すぐに時計の針が矢のように飛んでくる。ルクさんの結界はこれを防ぐためのものだったらしい。
けれど相手は神だ。そう簡単にやり合える相手ではない。ルクさんは逃げて、避けて、防ぐので精一杯だった。
防御結界の内側に来たルクさんが私に手を差し出した。
「受け取ってください、レンゲ」
ルクさんの手の中には2つのクロノスの涙があった。
「こ、これ……」
「ヒトミさんとアイさんの意志です。あなたに託します」
私の手にクロノスの涙を落とすと、ルクさんは再び、神との戦闘に戻っていった。
「こ、これで……どうしたら……」
走馬灯のようにこの世界に来てからの記憶が流れていく。ルクさんにもらった髪飾りとピアス、エリー酒、サラマンダー、ウサギ、ポーション、オーブ商会、そして、あの日、初めて会った私を助けてくれたこと。
この世界での私はヒトミちゃんやアイちゃんと同じ異世界人だ。つまり、私にしか、異世界人にしかできない何かがある。
神様ルートの攻略を思い出す。操作しているヒロインがクロノスの涙を2つとも託され、その状態で神の暴走を止めることでエンディングに到達する。その時に2つのクロノスの涙が共鳴して時間を止めることができた。その止まった時間で神を鎮めるのだ。
クロノスの涙が光り出す。
(時間を止める力は異世界人しか使えない。つまり――)
クロノスの涙が宙に浮いて1つになった。その輝きは強く、目を開けられないほどだ。
やがて光が収まる。
時間が、止まっていた。
ルクさんも、神クロノスも身じろぎひとつせずに停止していた。
(……ルクさん、何者なんだろう)
そんなことを思いながらルクさんが防御結界の中に置き去りにしたマジックバッグからエリー酒を取り出す。それをそのまま神クロノスに投げつけた。
次の瞬間、クロノスの涙が消滅した。ゲームではこんなことはなかったのに。
パリン、とガラスの割れる音。アルコールの匂い。そして簡単な詠唱。
「ワタシには不要なのですよ。悲劇を繰り返すだけの世界も、レンゲのいない未来も!!」
ルクさんの放った火魔法で神クロノスは炎に包まれた。
苦痛に悶える断末魔を上げながら、神クロノスは炎とともに燃え尽きたのだった。




