第21話 神様ルートのフラグ
どうしてヒトミちゃんが死ななければならなかったのだろう。
どうしてヒトミちゃんが狙われたのだろう。
どうして、ヒトミちゃんのクロノスの涙が見つからないのだろう。
(どこにいってしまったの……)
クロノスの涙は2つ揃えば時間を移動するときにかなり前の時間まで戻ることができる。つまり、ヒトミちゃんのクロノスの涙があればヒトミちゃんを生き返らせることも可能なのだ。
だからこそ、ヒトミちゃんのクロノスの涙がどこにあるのかはとても重要な問題だ。
けれど、考えても何も浮かばない。食事も喉を通らなかった。
扉が開いてルクさんが帰ってきた。その手には湯気の立つスープがあった。
「食べられますか?」
「……がんばってみます」
ルクさんが用意してくれたスープを少しずつ口に運ぶ。とても美味しい。
ヒトミちゃんの一件からまもなく三日。少しは心の傷も癒え始めたのかもしれない。食べ物の味がわかるようになってきた。
「クロノスの涙は2つで本来の力を発揮するそうです」
「時間移動が長くなる?」
「それもありますが、2つあればできることがあるでしょう? あなたの知識ですよ」
何のことだろうと少し考えて思い出す。クロノスの涙が2つある状態で条件を満たすと攻略できる存在がいたではないか。
「神様ルート……」
「ええ。神クロノスと相対する方法があるということです」
食べ終わったスープのお皿をルクさんがサイドテーブルに置く。
「神クロノスに会えればヒトミちゃんを助けられるかも……!」
そうだ、その手があった。だが、それにはクロノスの涙が2つ必要だ。やはりヒトミちゃんのクロノスの涙が見つからないことにはどうにもならない。
そう思っていた私にルクさんは笑った。
「会いに行きましょうか。時の神、クロノスに」
私が了承するよりも早く、ルクさんはクロノスの涙を発動させた。
時間移動中は宇宙空間のような場所を高速で移動しているようだった。ルクさんが私の体を支える。
「レンゲ、答えてください」
「……はい?」
「たとえば、目の前でワタシとアイさんが崖から落ちそうになっています。ですが、あなたもケガをしていてどちらかひとりしか助けられません。ポーションもありません」
ルクさんの意図がわからず「え?」と声を出す。けれどルクさんはそのまま続けた。
「どちらを助けますか?」
なぜ、そんなことを聞くのだろうか。ルクさんは私がルクさんを好きか確かめたいのだろうか。そんなことをする人ではない。というか、現状、私はルクさんからもらった髪飾りだけを付けている。ほとんど答えを言っているようなものだろう。
ルクさんはただ、私の考えが知りたいだけなのかもしれない。
「きっと、場合によります。ただ……」
ルクさんが知りたいというなら、私はそれに答えるだけだ。
「2人、必ず助かるなら……ルクさんもアイちゃんも助かるなら、私は2人の手を引いて、自分が崖から落ちます」
私が助かるよりもアイちゃんとルクさんが助かったほうがこの世界には得るものが多い気がする。だから、私は私を犠牲にする。
ルクさんは驚いたような、納得したような顔をしていた。
「……今までずっと、そうして生きてきたんですね」
私の生き方に想いを馳せるような言い方だった。
なんとなく、居心地が悪くてルクさんにも聞いてみる。
「ルクさんならどうしますか?」
「ワタシはアイさんを見捨てますよ。少なくとも、将来を求めた相手とアイさんでは比べる必要もないでしょう?」
「ルクさんらしいですね」
「ええ、そうですね」
少しだけ肩の力が抜ける。その瞬間、光が辺りを包んだ。
時の神クロノスの間に辿り着いたようだった。




