第18話 女の子の時間
「ほ、本当に大丈夫なんですよね?」
「大丈夫大丈夫」
「何かあったら私が守るよ」
「何もないと思うけどなぁ」
そんな会話をしながら、私はヒトミちゃんとアイちゃんを魔王城へ案内する。エクリプス様に「勇者と聖女呼んでもいいですか?」と尋ねたら「構わん」と言ってくれたのだ。
私が今日、ふたりを呼んだのには理由がある。
「お茶淹れてくるから待っててね」
「お構いなく!」
「適当に座ってて」
エクリプス様が私に用意してくれた部屋は広くて大きなベッドがある部屋だ。ルクさんも一緒に寝ているのでベッドは大きいほうが助かる。
キッチンでお茶を淹れて、準備していた例の物をバスケットに入れて持ってくる。ふたりは喜んでくれるだろうか。
「お待たせー」
ふたりのお茶をテーブルに並べて、ついでにテーブルの中央にバスケットを置く。すぐに興味を持ってくれた。
「レンゲさん、これなんですか?」
「いいものー」
「いいもの? え、もしかして!」
ヒトミちゃんがかけてあった布を外す。色の違う小瓶に入れてあるのは、約束したシャンプーとコンディショナーだ。
「シャンプー!?」
「せいかーい」
「本当に作ってくれたんですか!?」
「約束したからね。まあ、日本の物ほどちゃんとはしてないよ。石鹸の実とポーションで試しに作った感じだから。でも私の髪はこれで洗ってる」
「触っていい?」
「いいよー」
ヒトミちゃんが私の髪に手櫛を通す。ポーションのおかげもあって髪のダメージがかなり減ったからか、手触りがものすごくいいのだ。
「やわらかい!」
「私も、私も触っていいですか?」
アイちゃんも私の髪に手櫛を通す。そしてヒトミちゃんと同じように感動していた。
「これ、いつから売るの?」
「まだ試作段階だから販売はまだ先だよ」
「そうなんだ」
少しだけ肩を落としたふたりに私は笑う。
「でさ、モニターが欲しいんだけど」
ばっとふたりの顔が上がった。息がぴったり過ぎて思わず声を出して笑ってしまった。
「やる! やりたい!」
「私もやりたいです!」
自分で作ったものは自分で使うだけだと改良点が見つけにくい。第三者の素直な意見がもらえるのはありがたい話だ。
「じゃあ、一式渡すね。かゆくなったり荒れちゃったりしたらすぐに使うのやめてお医者さんに相談してね」
「ありがとうございます!」
「やったー! ありがとう!」
そうして久々に女の子ばかりの時間を楽しんでいると、ヒトミちゃんが私の髪飾りに気づいた。
「レンゲさん、それって婚約の髪飾りじゃない?」
「え? 知ってるの?」
「うん、しかも魔法石が付いてるやつはかなり高いよ」
「……ピアスももらってるんだけど」
「本気のプロポーズじゃん! 相手はルクさん?」
「……うん」
私が少し照れつつ頷くとヒトミちゃんは「いいなー!」と笑った。
「私もさ、気になってる人がいるんだけど、なかなかアプローチできなくてさー」
「え? 誰?」
「クロノシア王国の護衛騎士の人。私みたいにガサツな女のこともちゃんと女の子として扱ってくれるんだよね」
ヒトミのストーリーでも屈指の名シナリオだ。護衛騎士の彼はヒトミを勇者ではなくひとりの女の子として接してくれる。ヒトミのストーリーの中ではスティルテくんの次くらいに人気があるかもしれない。
「……大丈夫なんですか、あの人」
「大丈夫だよ。ルクさん優しいよ」
「レンゲさんには優しいだけかもしれませんよ?」
「そうかなぁ」
私からすればルクさんは優しくて素敵な人だ。私も彼のことは好きだし、結婚はもう少し考えたいが、恋人としてお付き合いしているつもりだ。
だが、アイちゃんのことはどう扱っていいかわからないと言っていた。なんとなく、お互いに苦手意識があるのかもしれない。
「無理に仲良くなる必要はないんじゃない? どうしたって合わない人はいるよ」
私はふたりよりも少し年上だ。お姉さんぶって少しだけ偉そうなことを言ってみる。するとヒトミちゃんが頷いてくれた。
「そうだよ。私はルクさん、優しくてかっこいいと思うよ? もちろん、アイが苦手だっていうならそれは仕方ないことだと思う。でも、だからってレンゲさんの大切な人を否定していい理由にはならないよ」
その言葉にアイちゃんはハッとしたようだった。
「ご、ごめんなさい」
「いいよいいよ。どうしても苦手な人っているよね。私も大学のゼミで同じグループの人でもどうしても苦手な人いたもん」
「レンゲさんが、幸せならいいと思うんです。幸せになってほしい。それは本当です。ごめんなさい」
「気にしないで」
なんだか空気が悪くなってしまったので、私はもう一つ、とっておきを出すことにした。
「これも試作品なんだけど、ふたりとも使ってみる?」
小皿に入っているのは紅露草という着色用の植物に、蜜蝋と少量のポーションを混ぜたものだ。小指にとって唇に塗る。
「リップ!?」
「しかも色付き」
「かわいい! 使っていい?」
「いいよ」
ヒトミちゃんがリップを塗る。少し色が濃いかもしれない。
「ヒトミちゃんはブルべだからこっちの色のがいいかな? アイちゃんはこの桃露草と黄金露草のミックスが似合うと思うよ」
こうして楽しんでいるうちに私は秘蔵のマニキュアまで持ち出してしまった。
「かわいい!」
「ヒトミちゃん、嫌じゃなければ塗ってあげるよ」
「いいの!?」
「どの色がいい?」
「赤!」
「それが終わったら今度はアイちゃんね。好きな色選んでて」
「ありがとうございます」
ヒトミちゃんの爪を塗り終えて、今度はアイちゃんの爪を塗ってあげる。マニキュアが乾いて赤くつやつやになった爪を眺めながら、ヒトミちゃんがぽつりと言った。
「あいつ、気づいてくれるかな……?」
ヒトミちゃんの顔は完全に恋する女の子だ。
「気づいてもらえなかったらさりげなく言ってみたら? 今日の私、ちょっとおしゃれじゃない? とか」
「言えたらこんなに苦労してないよ」
ヒトミちゃんが笑う。アイちゃんも淡いピンク色になった爪を嬉しそうに眺めていた。
こうして私はアイちゃん、ヒトミちゃんと楽しい時間を過ごした。
その数日後、オーブ商会からシャンプーとリップ、そしてマニキュアの問い合わせをルクさんが持って来るのだった。




