第16話 告白
「ルクさん、話したいことがあります。聞いてくれますか?」
「ええ、もちろんです」
私のお願いに、ルクさんは二つ返事で頷いた。
「信じられないかもしれないけれど、私にとってこの世界は――」
そうしてすべてを話す。
ここは自分にとってゲームの世界であること。
アイちゃんやヒトミちゃんのこと。
攻略対象の彼らのこと。
そして、クロノスの涙というゲームタイトルにもなっているアイテムのこと。
「クロノスの涙って言うアイテムがあって、それを使うと時間を移動できるんです」
「時間の移動ですか」
「はい。過去に行ったり、一度行った未来に行ったりできました」
勇者と聖女――異世界から来た彼女らに与えられた神具は、簡単に言えば周回用アイテムではあるのだが、明確にそれを使うルートがあった。
「神、クロノスを攻略するときは、そのアイテムを使って神の世界に行きました。2つあればそういう使い方もできるらしいです」
私には与えられなかった道具だ。なぜ与えられなかったのかはわからない。そもそも、神クロノスに会った記憶もないのだから仕方ないのかもしれない。
「なるほど。荒唐無稽な話ではありますが、納得できることも多いですね」
ルクさんはあっさりと信じてくれた。
「レンゲに高い霊力があるのにクロノスの涙が与えられなかったというのは、神の間を通過しただけという可能性がありますね」
「通過しただけ?」
「要は『クロノスの涙を受け取ってね』『ありがとう』というやり取りがなかったということです」
ルクさんの言い方が面白くてつい笑ってしまった。ルクさんもくすくす笑っている。
「ところで、そのゲームとやらにワタシはいましたか?」
その問いへの答えはすでに用意していた。
「多分、いました」
ゲームの中に妙に顔のいいアイテムショップの店員がいたことを思い出す。平面と立体の違いこそあるが、彼がルクさんだったのだと思う。
商会の帽子を目深にかぶったミステリアスな人物だったせいで「コイツ実は攻略対象でしたってオチだろ」とアイテムショップ店員を攻略しようとした人も多かった。
「あれが、ルクさんだったんだと思います」
「なるほど。だからあの店であれほど目を輝かせていたのですね」
無意識だったが、どうやらオタクが滲んでいたらしい。
「すみません……ゲームで見たままだったからつい……」
「ああ、いえ、構いませんよ。ただ、惜しいことをしたなと思っただけですので」
「惜しいこと?」
「あの店があれば、レンゲの喜ぶ顔がもっと見られたのかもしれないと思いまして」
その言葉に思わず素直に返す。
「今はルクさんがいてくれるだけでいいです」
「……最高の殺し文句ですね」
「え?」
「いえ、なんでもありませんよ」
そう言うとルクさんはおもむろに前髪をつまんだ。
「思えば、この髪もあの店の店員であると印象付けるためのものだったのかもしれませんね」
「ああ、髪って印象に残りますからね」
ルクさんは紫色の髪を見て苦笑する。
「不思議なのですよ。地毛は金色なのになぜこんな色になるのかと。髪には魔力が宿るのでそのせいだろうと思っていたのですが、どうやら神の仕業のようですね」
「確かにてっぺんは金色ですもんね」
「嫌なのですよ。頭頂部だけ色が薄いと年齢が上に見られますので。でもどれだけ切っても伸びるとこの色になるんです」
ルクさんが指で毛先を弄ぶ。ここ何日か、前髪がうっとおしそうにしている様子を見かけていた。
そこで少しだけ踏み込んだ提案をしてみた。
「今度、私が切ってもいいですか?」
「良いのですか?」
「ルクさんが嫌でなければ。前髪整えるくらいですけど、妹とか弟とかの髪も少し切ってたので」
「ぜひお願いします。自分だとうまく見えないのでなかなか切ることができなかったんです」
何の気のない口約束だった。
だが、この約束は遠くない未来に果たされることになる。




