第15話 傍にいたい
ベッドの周りに人がいる。顔はよく見えないが、彼らは私を害そうとしているのがわかる。
抵抗しようにも体が上手く動かない。喉から出るのもかすれた呼吸だけだ。
いやだ。やめて。助けて。
全身に汗をかいて目が覚めた。呼吸もままならない。
苦しい。怖い。
けれど、助けを呼ぼうにも声が出せない。
室内にははあはあという荒い呼吸だけが響いていた。
ふと、扉の外から声が聞こえる。
「レンゲ、どうしました?」
ルクさんの声だ。けれど、返事はできない。喉からは引きつった呼吸音しか出てこなかった。
「……入りますね」
扉が開く。顔をのぞかせたルクさんはすぐに私に駆け寄ってきてくれた。
ルクさんの大きな手が背中を撫でる。それだけで少しだけ動悸が落ち着いてきた。
けれど、体は酸素を求めるように、ますます息を荒くする。
「……ちょっと失礼しますね。嫌だったら暴れてください」
ルクさんは私を背中から抱きしめて、そっと私のお腹を撫でた。
「ゆっくり吸って、長めに吐いて」
ルクさんに言われた通りにゆっくり呼吸する。何度も息を吐いて、少し吸って、繰り返しているうちに、少しずつ呼吸が落ち着いてきた。
「そう、いい子ですね。吸うよりも吐いて。そう、上手ですよ」
肩まで大きく上下していたのが、少しずつ収まっていく。時間はかかったけれど、ようやく普通に息ができるようになってきた。ルクさんの体温と優しい声、それが私を救ってくれたのだ。
「る、く……さん……」
「怖かったですよね。ひとりにしてしまってすみませんでした」
今のことか、それともアイちゃんと別れた時のことか。どちらにしても私が返すべき言葉はひとつだ。
「だい、じょうぶ……です……」
声が震えてしまった。
本当は大丈夫じゃない。
すがりたい。
助けてほしい。
ひとりにしないでほしい。
怖かった。
今でも怖い。
触られたところが気持ち悪い。
「……今夜は、隣にいても良いでしょうか?」
「え?」
「隣の部屋ではなく、ここにいても?」
もしかしたら、私の気持ちを察してくれたのかもしれない。
だからこそ、甘えてはいけない。
「そ、そこまで、迷惑をかけるわけには……」
「ワタシが傍にいたいのです。今のあなたをひとりにするのは、ワタシが嫌なのです」
ルクさんは横から私の顔を覗き込んだ。
「だめ、でしょうか……?」
ルクさんが傍にいたいと言ってくれている。それなら、断る理由はないのではないだろうか。
少しくらい、甘えてもいいのではないだろうか。
「……だめじゃ、ない……です」
「良かった。横になりましょうか」
ルクさんが体を横たえるのに合わせて、私もベッドに寝転がる。背中から抱きしめられていた体をルクさんのほうに向けて、その腕に頭を預けた。
ルクさんは子供でもあやすように私の背中を優しく叩く。
ルクさんの匂いと温かな体温に包まれて私は眠りに落ちた。
もう悪夢は見なかった。
(ルクさんに、全部話したい)
まどろみの中で、私は確かにそう強く思った。




