第10話 献上品
(魔族と言ってもみんな姿が違うだけなんだよなぁ)
魔王城下の町は想像していたよりもずっと賑やかで明るいところだった。
ゲーム内の魔王城下はもっと薄暗くおどろおどろしいところだったが、それはゲームが進んで穢れが溜まってしまったからという描写だった。
私とルクさんを見る目は物珍しそうではあったが、敵意は感じない。
「離れないでくださいね、レンゲさん」
「はい」
ルクさんに言われ、私はルクさんのすぐ近くに立つ。ルクさんも私に気を配りながら笑顔を見せていた。
ルクさんの手持ちのバッグには私が大量に作ったエリー酒が入っている。それを見ていたら昨日の会話を思い出してしまった。
「エリー酒を作るために必要なものはなんでしたか?」
「……サラマンダーの血と心臓?」
「ご自身をお忘れですよ」
笑顔でそう言われ、私は思わず聞き返した。
「ルクさんも作れるんじゃないですか?」
そう尋ねた私に、ルクさんは首を横に振って苦笑した。
「それが、できないのですよ。魔力の質でしょうか?」
「え、じゃあ別の、それこそ本物のエリクサーになったりは?」
「しません。変化なしです。おかげでひどい目に遭いました」
ルクさんは笑顔のまま空の火傷用ポーションと外傷用ポーションの瓶を見せた。
「……まさか、飲んだんですか? サラマンダーの血」
「いえ、飲んだというほどは……少々口に含んですぐに吐き出しました」
「うぇ……想像しただけで口の中が鉄臭い……」
「とても辛かったです」
「辛いんだ!?」
「辛いんです。いまだに口の中がヒリヒリします」
空のポーション瓶を見てもわかるが、それでもまだヒリヒリするとは。思わず、自作のポーションを差し出した。
「飲みます?」
「すでにレンゲさん作のポーションを3本は飲みました」
「……それでもまだヒリヒリするってすごいんですね、サラマンダー」
「だからこそ、いい酒になるのでしょうけれど」
ルクさんはそう言ってから再び笑った。
「まあ、バレたら密造酒なわけですが、そこはオーブ商会の流通網で手に入れたことにしておきましょう」
「それはいいんですけど、本当にエリー酒で魔王をなんとかできるんですか?」
「やってみなければわかりません。だからやってみるのです」
そう笑ったルクさんを、私は信じてみることにした。
思考の海から私を引き上げたのは目の前の魔族の嬉しそうな声だった。
「こんなうまい酒、初めて飲んだぜ!」
目の前の魔族は二足歩行のトカゲ、リザードマンだ。その隣ではボロ布を纏ったゴブリンがルクさんから試飲用のカップを受け取っている。
「これなら魔王様に献上できるな!」
「ああ、本当にうまい!」
「人間の商品ってのも馬鹿にできないもんだな!」
次々と試飲していった魔族が嬉しそうに声を上げていく。その光景が、なんだか嬉しくて少しだけ心の中で胸を張ってしまった。
「こちら、魔王様に献上してもよろしいですか? 少々、お願い事がありまして」
「お願い事?」
「詳しくは魔王様とお話ししたいので。魔王城までご案内いただきたいのですが」
ルクさんの言葉に魔族たちは少しだけ考えるようなしぐさを見せる。けれど、ルクさんがエリー酒の瓶をちらつかせると、互いに頷きあって見せた。
「いいぜ! 魔王様にも味わってもらおう!」
「エクリプス様はオレたちなんかよりも酒好きだからな!」
そう言って魔族たちは「こっちだぜ」と魔王城への道を案内してくれた。
城の目の前について魔族たちが「ここまででいいか?」と尋ねてきたので、ルクさんは笑顔で「ありがとうございます」とエリー酒の瓶を1本ずつ、彼らに渡した。魔族たちは大喜びして帰っていく。本当にお酒が好きなようだ。
城門が開く。庭園の奥に扉があり、そこからさらに奥の謁見の間に連れてこられた。
「いよいよですね。がんばりましょう」
「はい」
ルクさんの言葉にうなずく。
そのまま待っていると、そこに銀髪のダークエルフが現れた。
あ、と気づく。
伸びた背筋。
柔らかい眼差し。
薄い唇。
ダークエルフらしい色黒の肌。
そして、何より、
「あなた方が魔王、エクリプス様に謁見を願う商人ですか?」
そう尋ねる声。
今、目の前に、ゲーム内での最推しが立っていた。




