久しぶりのバイト
少し久しぶりな制服に着替えて、カフェのバイト。
この時間だけは今までどおりでいられるんだと思い、気持ちを切り替える。
ここは落ち着ける場所だし…。
そう思って店舗に出たら、早速逃げたくなる状況が…。
「やあ瑠璃ちゃん。会いに来たよ」
「紗千さん…。お久しぶりです」
「お久しぶりって…そんなに僕と会いたかったのかい?嬉しいなぁ!」
腕を広げられても飛び込んだりしません! だから子狐丸も睨まないでよ…。
いつも以上にリアクションが大きいなと思ったら、こちらでは数日しか経過していないのだった。
もう全部空回りしてるな私。
でも、これだけは伝えておかなきゃ…。
「紗千さん、色々とありがとうございました」
そう言って深々と頭を下げる。これくらいしか今の私にできるお礼はないのだから。
いつか必ず自分の力で何か恩返しをさせて頂きます。
「うん?なんの事かな。僕は大切な瑠璃ちゃんが無事ならそれでいいんだけど?」
悪い人ではないのよね。私を口説くような変わった女の人だけど…。
また一日中口説かれるのかと覚悟してたのだけど、意外とそんなことはなく。今日は真面目な雰囲気。
「瑠璃ちゃん、一つお願いがあるのだけどいいかな?」
「私にできることでしたら…」
シキみたいに変なことは言わないよね?
「一度うちの神社に来てくれると嬉しいんだ。 九城家と手を取り合う以上、うちの母に会ってもらいたいからね」
「ぜひご挨拶させてください! こちらからお伺いしなくてはいけなかったくらいですのに、ごめんなさい…」
色々とお世話になったのだもの、当然よね。
「そんなに固い感じでなくていいのだけど、でもありがとう! じゃあ早速明日はどうかな?忙しい?」
「えっと…明日もバイトの予定があるのでオーナーに確認してからに…」
「瑠璃ちゃん、そちらを優先して構わないから。次はいつものように月曜の夕方に来てくれたらいいよ」
「わかりました。ありがとうございます。 すみませんオーナー、急にお休みを頂いてしまって…」
「おや? 数日間音信不通で姿を消していたバイトくんが何を言っているんだろうね?」
「その節は本当に申し訳ありませんでした!」
「冗談だよ。またこうやって戻ってきてくれただけで嬉しいからね。これからも頼むよ」
「はいっ!」
オーナーは意地悪です! でもいい人です!
「じゃあ、明日は家まで迎えに行くからね」
「私の住んでるところをご存知なんですか?」
「もちろんだよ。ちゃんと話も通しておくから安心して待っていてね」
「はい…」
本当に私の個人情報はどうなっているのでしょう。大特価セールで投げ売られてるのかもしれない。
紗千さんの用事はそれだけだったようで、”また明日ね“と帰っていった。
また一日カフェに居座るのかと思ってたから拍子抜け…。いや、いい事なんだけど以前のことを思うとびっくりだよ。
…少し元気が無いように感じたのは気のせいでしょうか…。
紗千さんの襲来以降はランチのお客様で賑わったりと、普通のカフェのバイトをして、午後の休憩。
ずっとキッチンにいた雪乃さんは今日もお疲れで、リビングのソファーですごい格好で寝てる。
女の人が股を開いて寝てるのは、いかがなものかと思うのです。娘として見てられません…。しかもショートパンツでそれは…。
子狐丸もいるんだし、タオルをかけて隠しておこう。
「瑠璃ちゃん、おつかれ。 紅茶飲むかい?」
「頂きます」
子狐丸と一緒にオーナーが淹れてくれた紅茶を飲んでいたら、突然オーナーが慌てた様子で店舗に降りていった。なにかあったんだろうか…?
普通にお客さんかな…?でも休憩時間に?
そもそもオーナーはどうやって来客に気がついたのだろうか?本当にオーナーは謎ばかりだ。
心配になって私も店舗に降りたら、本当にお客様が。
しかもどうやら特殊な仕事の方…。
「オーナー、大丈夫ですか?」
「すまないが起こしてきてくれ」
「は、はい!」
雪乃さんの事よね。オーナーが真面目モードだったから、一大事かも。
リビングで寝ている雪乃さんを揺すって起こす。
「雪乃さん、大変です! 起きてください!」
「ああ…うるせぇな…オレは疲れてんだ。今は休ませてくれ…」
「ごめんなさい、でもオーナーが緊急っぽくて…」
「なに!? それを早く言え! 瑠璃と子狐丸にも手を借りるかもしれん、待機してろ」
「はいっ」
飛び起きた雪乃さんは一階の店舗に降りていった。
「大丈夫かな」
「どうだろう。何もわからないからなんとも言えないね」
そうなんだけどね。ここはいつもなら“僕がいるから大丈夫”って言ってくれるところじゃないかな?なんか冷たいよ、子狐丸…。
「子狐丸、なにか怒ってる…?」
「…相手してくれないから」
あぅ…。確かにしばらくご無沙汰だもんね…。でも…なかなか決心が…ね?男の子にはわかんないかもしれないけど。
子狐丸に意地悪しているつもりも、我慢させたいわけでもないのに、どうしたら…。
とはいえ、家に帰ったら帰ったで、昨夜の様子からしてアヤメさんが絶対に許してくれない雰囲気だし…。
それとも結婚まで一線を越えたらダメだったりするのかな…。
…よく考えたら普通はそうじゃない? 考え方が古いのかな。でも九城家ってものすごく歴史があるんだし、そういうのにうるさかったりするのかも。
「瑠璃、子狐丸、手を貸してくれ!」
一階から雪乃さんが呼んでる!
「子狐丸、この話は改めてしよう?ちゃんと話合わないといけないよね」
「うん、わかった! 今はやるべき事をしよう」
わかってくれて本当に助かります…。
一階に降りると雪乃さんが待ち構えてて、すぐに出かける仕度をするよう言われた。
「荒事になるかもしれん、動きやすい服にしろよ」
そんな…。私、今日はお高い感じの衣装を用意してもらって着てきてるんですが…。
カフェの制服から着替えるために更衣室に来たはいいものの、どうしたものか。
「瑠璃、はい、これ」
子狐丸が渡してくれたのは、いつも私が使っていた鞄。
「こういう事もあるかとアヤメから預かってた」
鞄を開けると、服が一式。いや、服というか巫女の衣装よね、これ…。
やっぱりどこかずれてるよ、あの人!!
「子狐丸、私はこれを着るの?」
「似合うと思うよ」
そういう問題ではないのよ。
あーもう! ままよ。
着替えようとするも、初めてだしよくわからなくて…和装だから子狐丸に手伝ってもらい、なんとか巫女姿に。
そのまま店舗の方へいったら、雪乃さんに笑われた…。
「ぷっ…お前それ…! 似合ってんじゃねぇか。 丁度いい、瑠璃。お前が主役だ!」
「え…」
どういう事ーー!!




