九城の家
慣れないのもあり、落ち着かないまま、しばらく車は走り…。
その間に凪さんから自己紹介や、色々と話を聞かせてもらった。
ほとんどが理解し難い内容ばかりだったけど…。
今から行く九城の家にいる人は全部私に仕える人だとか、希望があれば何でも叶えるからとか…。
それなら今すぐ妖魔界に帰りたいです…。なんて言えるわけもなく。
数時間ほど車は走り、到着したのは物凄く大きなお屋敷。
見える限りずーーっと塀で囲まれてて、どこまでが敷地かわからない。
その玄関に直接車が着けられ、ドアが開かれる。
「では瑠璃様、参りましょう?」
「はい…」
凪さんに手を引かれて車を降り、開かれた大きな門をくぐる。
「………」
あまりの光景に声も出ない。
だって、ぱっと見ただけでも数十人か、それ以上の数の人がお屋敷までの道沿いにずらっと並び、頭を下げてる。
門からお屋敷までが遠すぎないかな?不便過ぎるよ…。ここに住む人は敷地内に帰ってきてから靴を脱ぐまでに何分かかるのよ。
出かけるにも、行ってきますと言ってから門を抜けるまでにもまた何分も…
「瑠璃様? どうかされましたか?」
「い、いえ。大丈夫…です」
凪さんは満足そうに微笑むと、ゆっくりと私の手を引いてお屋敷に向かう。
ゆっくり歩いたせいで、建物につくまでに本当に何分もかかった…。
お屋敷は純和風な建物で、この建物が文化財だと言われても納得しそうなくらい年季がはいっている。
それなのに隅々まで手入れは行き届いていて、ピカピカ。汚したらと思うと気が気じゃない。
案内されたのは十畳くらいの部屋。あら、意外…。
てっきりものすごく広い部屋に通されそうな気がしてたから…。
ふかふかの座布団に座るよう言われ、子狐丸と凪さんは後ろに控えるように、一歩下がってしまった。
どうしていいかわからず、キョロキョロとしてて気がついたのが、目の前のこれって壁じゃない…。御簾だ…。
その先にすごい数の人の気配が集まってきてる。大小の差はあれど、妖力を感じるのはそういう事だよね? 門までの道沿いに居た人もそうだったし…。
「瑠璃様、お待たせして済みませぬ。外でお迎えをさせましたので、こちらに集まるのに少々手間取りまして…」
「待つくらい大丈夫ですから。気にしないでください」
「寛大なお言葉痛みいります」
そんな程度で!? もう何しても肯定されそうで怖いよ…。
「ご当主様、御成〜」
凪さんのセリフと共に御簾があげられて、その先は何十畳あるかわならない広い広い部屋がひろがり、ものすごい数の人が集まって平服状態。
「瑠璃様、なにかお言葉をいただけますか?」
凪さんにそう耳打ちされた。 ええ!? いや…どうしろと…。 あ、でも先ずは自己紹介だよね。
「初めまして、九城瑠璃といいます。 これからよろしくお願いします…?」
でいいのよね?
「皆顔を上げろ。こちらにおられる御方がご当主様になられる瑠璃様だ。いいか、今後一切の失礼のないよう各自気をつけろ」
一斉にこっちを見る沢山の人に気後れするけど、なんとか耐える。雪乃さんにドシッと構えてろ。って言われたし…。
その雪乃さんも沢山の人たちの中に混ざってて、キレイな白い髪がちらっと見えた…。
直ぐに御簾が下げられたけど、そこで緊張の糸が切れてしまい、体の力が抜ける。
「瑠璃様、大丈夫ですか?」
「はい…凄い人の数にびっくりしてしまって…」
「あれでも全体の一割にも満たないですのよ」
はい? もうどうなってるのよこの家は…。
凪さんが言うには、さっき集まってたのはいわゆる幹部クラスの人たちだけだそうで…。
全体でなら三千人を超える数になると言われた。もうね、理解の範疇を完全にこえてる。
フラフラしていたら凪さんが別の部屋に案内してくれて、メイドさんがお茶とお菓子を出してくれた。お茶を飲むと落ち着き、やっとホッとできた…。
「瑠璃様は思うよう、ご自由にお過ごしくださいませ。こちらの事はわたくしたちがどうとでも致します」
「それでいいのでしょうか…。形だけのトップなんていらなくないですか?」
「それは違いますよ瑠璃様。ご当主様というのは居られるだけで尊く、皆の心の支えになります。御家の運営は、これから少しずつ学んでいただければ充分です。今はご自身の学業に専念していただいて構いませぬ」
「わかりました…」
居るだけでいいんだから、下手に口を出すなって事よね。私としては楽でいいけど。わからない事に首を突っ込んでもろくな結果にならないから。
お昼ごはんにと、ものすごく豪華な懐石料理がだされて戸惑うも、なんとか乗り切り…。
凪さんはおっとりとした優しいお姉さんって雰囲気で、一緒にいるのに少し慣れてきた。
ただ、色気がすごいんだよね…。妖艶という表現がぴったりなくらいに。大人の女性ってすごい…。
食後、藤崎家の当主だという、スーツ姿お姉さんと直接顔合わせをした。
「お初にお目にかかります。藤崎家当主、藤崎綾華と申します。 娘の綾女がお手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
まさかのアヤメさんのお母様…。みんな年齢不詳過ぎる!
「アヤメさんがいてくれなかったら私は東雲でどうなっていたか…。本当に助かりました」
「寛大なお言葉、ありがとうございます…。今後も娘はご自由にお使いください」
えっとそれって…。うん、もう諦めるよ。知らない人をつけられるよりずっといい。
「うちは娘がまだ未熟な者しかおらず…お役に立てず申し訳ありません」
「アヤメさんだけで充分ですから! 凪さんにはこちらの事をお任せしてしまいますし、それだけで…」
「ありがとうございます。かならず御家はお守り致します」
もう、みんな固いよ…。誰か助けて。
「瑠璃、いるか?」
この声、雪乃さん! 助けてください!
「おうおう…家のトップが上から雁首揃えて悪巧みでもしてんのか?」
「雪乃、ご当主様の御前ですよ!」
「オレは瑠璃の母親なんだからいいじゃねぇか」
「わたくしは認めていません! 瑠璃様からもなにか言ってくださいませ」
「雪乃さんは私のお母さんです…」
「ほれみろ! 凪はお呼びじゃねぇんだよ」
「くっ…。こんなにお可愛らしいご当主様、わたくしがお守りしなくてどうしますか!」
「お前なぁ…。てめぇのやるべきことがあるだろうが。瑠璃はオレと深葉に任せておけ。子狐丸もいるんだしな」
「確かに御家を疎かにはできませんが…。こんな事なら娘の教育をもっと急ぐべきでしたっ!」
「まぁまぁ凪。うちの娘がいますから。大丈夫ですよ」
「綾女が頼りないから言っているのです!」
「確かにあの子はちょっと抜けてますけど…。メイドとしては問題ないですし」
問題、無いかなぁ…。このニ日だけで色々あったから手放しに肯定はできない。もちろん言わないけど。
「すみません、綾女からです。おそらく瑠璃様宅のお引越しの完了報告だと思いますが、少し失礼いたします」
スマホを持って綾華さんは部屋を出ていった。
「よし、じゃあ帰るか瑠璃」
「はい!」
「瑠璃様、こちらに住まわれてもよろしいのですよ?決してご不自由はさせませぬ…」
「お気持ちは嬉しいんですが、学校が遠くなってしまいますし。大切な友達もいるので転校とかもしたくないんです」
「左様でございますか…。瑠璃様のご意向とあらばこれ以上は申しませぬ。しかし、もし何かあればすぐにご連絡ください。必ず駆けつけます」
「ありがとうございます」
子狐丸もいるし、平気だと思うけどね。
スマホにはいつの間にか九城家の連絡先とか、凪さんに綾華さん、アヤメさんの連絡先まで登録されてた…。
借り物だし、仕方ないね。
「瑠璃様、やはりお引越しの完了の報告でした。すぐに車を回しますね」
「あの! もう少し目立たないのはありませんか?」
「そうですね…お一人の時にあのような車列では目立ってしまいますものね」
うん! それ! 九城瑠璃として顔を伏せるとか言ってるのにいつもあんな事されたら意味わかんないから。
「ではそのように手配致します」
「ありがとうございます」
よかったー…。綾華さんは普通の感覚の人だ…。アヤメさんがあんなだったから不安だったよ。




