仕えるために
翌日、改めてよう子さんから蹴飛ばした謝罪をされた。治療もしてくれてるのに本当に良い子だ…。
なにより、私はよう子さんには後ろめたい事があるから、蹴られるくらいの制裁は受けて当然だと思ってるし、責めるつもりなんてない。
人懐っこくて、あちらから話しかけてくれるから助かる。やっぱり罪悪感があって私からは話しかけにくくて…。
「あたし料理は何にもできないんです。教えてもらえますか?」
「ええ。いいですよ」
「瑠璃さん、あたしに敬語はいりません! 名前も呼び捨てにしてください! つけてくれたのは瑠璃さんなんですから」
「わかったよ。じゃあよう子ちゃんでいい? まずは簡単な料理から始めようか」
「はいっ!」
こうやって接してると、確かに子狐丸に雰囲気が似てるなって思うところがいくつも見つけられる。
ベーコンエッグを教えた通りに完成させて嬉しそうに笑う顔とか、ご飯を食べている姿とか、美味しそうにしてる顔、どれも兄妹と言われれば納得する。
昨日の自分が如何に冷静じゃなく、疑いというフィルターを通して二人を見ていたかを思い知らされた…。
子狐丸には”よう子に言わなくていい“と言われているから、心の中で謝罪しておく。本当にごめんなさい。これからは仲良くしていけるといいな…。
「そういえば奈子さんは子供さんが生まれたんですよね?」
「うん。後で会いに行ったら? 瑠璃も顔出しに行くでしょ?」
「そうね、あれから奈子さんに呼ばれなくなったけど、無理してないか心配だし…」
「ごめん、瑠璃…。僕もわがまま言った」
「ううん。 実際に子狐丸とゆっくりできてなかったからね。私も反省したよ」
「いいなぁ…。あたしも子供ほしい。というか恋人がほしいです!」
「よう子にはまだ早い!」
「兄ちゃんひどいです!」
うーん…。私はいまいち子狐丸とよう子ちゃんの関係がわからない。いやね、兄と妹っていうのはもう納得してるのよ?
ただ、子狐丸は自分の一部みたいなものだと言ってたけど、しっかりと個として自我はあるし、独立している。そこら辺が理解の範疇を超えているというか…。
「むー。瑠璃さん、あたしも瑠璃さんの恋人にしてください!」
「はい!? え、ちょっと…どういうこと!?」
「あたしは子狐丸という刀の付属品であり刀装具です。とはいえ、刀身は別なので他の刀装具のように兄ちゃんの完全な一部ではないですが、あたしを含めて子狐丸なんです! 除け者にするのはひどいです…」
どういう理屈ですか!! 刀身ごとに自我があるっていうのは納得したけども!
「ちょっと子狐丸!?」
「あー……うん。まぁそうなるよね」
何を納得してるのよ!! しかも貴方の妹よ?
「あたしだって瑠璃さんを誘惑くらいできます!」
そういって迫ってくるよう子ちゃん。ジリジリと壁に追いやられて、いつか子狐丸にされたように顎をクイっと…。
「いいですよね…?」
「ひ、ひゃいっ!」
驚きすぎて返事しちゃったけど…。 相手は女の子で…子狐丸の妹なのに…。キレイな顔立ちと、金色のまつ毛に銀色の瞳は子狐丸にそっくりで…。この子もすっごい美形だー…。
「やった。 許可もらえましたよ兄ちゃん!」
「あー、良かったな」
よう子ちゃんは私を開放してくれたけど、多分私はまた顔が真っ赤だと思う。
それに、子狐丸!? ”良かったな“じゃないのよ! 私は二股をかけるつもりなんてないよ!?しかも子狐丸の妹なのに。
「瑠璃、ちょっと…」
子狐丸に手招きされて…。
「瑠璃、あれはよう子も瑠璃に正式に仕えたいって意味だから。あいつはまだ恋愛みたいなのは全く理解してないからね。恋人イコール仕えると理解してるフシがあるんだ」
「えっと?」
「今まで瑠璃に紹介出来てなかったでしょ?」
「私が誤解しかねないからとか言ってたね」
「実際そうだったし…」
その通り過ぎて何も言い返せない!
「だから、ちゃんと瑠璃に認められて、仕えたがってたんだけどね。ずっと叶わなかったから」
「じゃあさっきのアレは?」
「僕の妹分だし…」
「ああ…」
子狐丸にもされたもんね? って、納得してていいのかな!?
ま、まぁ二股とかにならないのならいいか。子狐丸もよう子ちゃんも嬉しそうにしてるのに何も言えないよ…。
大体、よう子ちゃんに対しては罪滅ぼしというか、希望に添えるなら良かったと納得しておく。
朝食後には二人を連れて奈子さんのお宅へ。
よう子ちゃんとは顔見知りだったそうで…。教えてくれてたら私も暴走しなかったのでは?と。
でも私だからなぁ…。結局は同じだったかもと思わなくもない。はぁ…自己嫌悪…。
「ようやっと瑠璃ちゃんに紹介できたんやな。良かったやないか」
「うん。 奈子、ごめん。世話になったのに…」
「ええって。うちも瑠璃ちゃんに頼りすぎたって自覚はあったんよ。 初めての事でうちも心細かってん。せやから子狐丸が謝ることあらへんよ」
「しばらくはあたしもこっちにいますから、サポートは任せてください!」
「そら心強いなぁ。 ほな、頼むな?」
「はいっ!」
よう子ちゃんは現世で言うなら医療知識みたいなものがあるらしいから、私より頼りになるのは間違いない。
街のお医者様も常に奈子さんにだけついてられないのだから、私としてもよう子ちゃんがいてくれるのは心強い。
久しぶりに再会したからとしばらくは奈子さんの家にいると言うよう子ちゃんを残し、子狐丸と帰宅。
「そういえば瑠璃」
「うん?」
「迷い家で妖力消費したんだよね? 平気?」
「う、うん! ほら、話したけど家に入っただけで回復してたからね」
「迷い家はそのものが妖力の塊みたいなものだから、招き入れられると妖力が回復したのかな…?」
「そういう理屈なの?」
「だって他に考えられないし」
そうよね…。家に入った途端楽になったのは間違いないし。
「本当に交わってないんだよね…?」
「そこを疑うの?」
「だって! 前例がないんだから…」
「前例だけで決められたら堪らないのだけど」
でも…疑いたくなる気持ちはわからなくもない。シキの話では受け入れなかった人はいなかったらしいし。
「そういえば…」
「え…まさか」
「違う違う! 私が連れ出した子、あの子はなんで無事だったんだろう」
「それは瑠璃が妖力を使ってまで助けたからだよ。本気で願った瑠璃の力には迷い家といえど抗えない」
「そういうものなのね」
「うん。まぁ元々子供は迷い家に招き入れられることは無いから」
「なによそれ…」
あいつ、子供は対象外なんだ。へぇ…。意外だわ。てっきり見境なんて無いかと思ってた。
「瑠璃…」
押し倒そうとしてこないで…
「あの…ね? 流石に明るいうちからはやめよう?」
「でもよう子が帰ってきたら…」
「それは仕方ないんじゃないかなー」
「…瑠璃、何か隠してる。 疑いたくないけどそういう態度されると不安になるよ…」
「うっ…。ごめん…」
「それは何に対する謝罪なの!?」
「迷い家であった事については嘘ついてないよ! それは信じて…」
「じゃあ何を隠してるの…?」
「えっと…」
ここで下手に隠しても子狐丸を不安にさせるだけ…。そう思い、よう子ちゃんから聞かされた事実を打ち明けた。
「じゃあ瑠璃は…」
「うん…。もうあの痛みは嫌なの! なんとかして…」
「なんとかと言われても…」
無理難題を言っている自覚はあるけれど、私も無理なの!
「頑張って耐えて」
「無理」
「お願い」
「無理…」
「妖力なくなるよ?」
「そこはほら…他の方法あったでしょ?」
「あの時、瑠璃なんて言ったか覚えてる?」
「覚えてるよ。 これも緊急! つらくて無理だから言ってるの!」
「そんなぁ…」
子狐丸との問答はよう子ちゃんが帰宅するまで続き、その日はなんとか諦めてもらった。
でも…ずっとこのままが無理なのはわかってる。子狐丸に我慢させるという意味でも、私の妖力が減っていくという意味でも…。




