激しい思い込み
寝室でこれからの事とか、いっそもう私は必要ないんじゃ?とかずっと悩み続けてたら子狐丸の気配。
部屋に来る! そう思ったら咄嗟に布団の中に頭まで潜り込んでた。
子狐丸は私には関心がないのか、通り過ぎると押し入れを開けた音が…。
ああ、よう子さんの布団…。私が出さなきゃだったね。
「ごめんなさい…」
ボソッとつぶやいたのが聞こえたのか、子狐丸は一度止まったけどすぐに部屋を出ていった。
多分向こうで二人一緒に寝るんだよね。私への当てつけのように色々とするんでしょ?
私のいる前でもベッタリと腕を組んであれだけ押し付けてたくらいだもの。
聞きたくない…。
耳をふさいでたら子狐丸の気配がこっちに。
どういうこと?まさかこっちで始める気?それとも一緒にとか言わないわよね!?どれだけ私を苦しめたら気が済むの…。
「瑠璃…起きてるよね」
いつもと同じ優しい子狐丸の声。なのにそれさえ素直に受け取れなくて…。
「…なに?」
自分から出た酷く冷たい声にびっくりした…。まるで心の底まで冷たい人間になったみたい。
「瑠璃。二人で話をしよう?」
「話すことがなにかあるの?」
「瑠璃が話したくないのはわかる。でも、いつまでも向き合わないままでいるのは良くないと思うんだ」
「そうね…」
ハッキリさせましょうか。よう子さんがいないなら本音を聞けるかもしれないし。
布団から出てしっかりと座り直し、子狐丸に向き合う。
最後になるかもしれないのだから無様は晒せない。私にだって矜持はあるの。
「どうぞ? 聞きますから話してください」
「またどうしてそんな他人みたいな話し方するの? そんなに迷い家が良かった…?」
「そうですね…。帰って来てこんな思いをするくらいならあちらに居たほうがマシだったかもしれません」
「っ!! 本気で言ってる!?」
「これが嘘を言っているように見えます!? 確かに私が子狐丸を疎かにしたのは事実です。でも、奈子さんの手伝いをしたいっていう気持ちも汲んでほしかったです。ちゃんと子狐丸との時間も作れるようにしようと、奈子さんに相談して、帰って来て…私は待ってました。夕食の仕度もしてずっと…」
「それは…!! よう子に呼ばれて…」
「知ってます。朝になっても帰らない子狐丸を探しに街に行きましたから」
「もしかして見たの?」
「ええ。腕を組んで仲良さそうに歩いてたのを…」
「あれには理由があって! というか瑠璃はよう子を認めてくれたんじゃなかったの?」
「堂々と連れてこられて、面と向かってはっきりと二股かけたい、なんて宣言されたら、私は他になんて答えたらいいのですか!」
「え…? ちょっと待って! 瑠璃は何を言ってるの?」
「何を言ってる? それは子狐丸でしょう! 浮気相手を堂々と連れてきて、その人の目の前で”それでも瑠璃といたい“って言ったんですよ? あ、浮気相手は私でしたね。付き合いは私のが短いですし、五年以上も付き合っている人がいて、よくもまぁ”僕には瑠璃だけだ“なんて言えましたね?」
「はぁぁぁぁ…………」
何よその盛大なため息は。今まで気がつかなかった私をバカにしてます?
「瑠璃、さすがに今回は僕もちょっと呆れてるよ」
「そうですか…だったらどうします?腹いせにめちゃくちゃしますか?どうぞ?それで気が済むなら好きにしたらいいじゃないですか…」
「瑠璃が思い込みが激しいのは理解してたけど、流石にここまでは予想外だよ!」
「私にはもうそんな価値もないと…そういう事ですか? 迷い家でも子狐丸との約束は破れないって…そう思ってこの身だけは守ったのに! 子狐丸のバカっ!!」
「迷い家と交わらなかったの!?」
「あんなやつに身体を許す程、軽い女だと思われていたのなら心外です!」
「なんだよそれ…」
子狐丸にとって、そこまで私に価値がなかったなんて…。なんの為にあんな思いまでして抵抗したの?
「瑠璃!」
「え…」
な、なに!?なんで私は抱きしめられてるの?いらない価値のない存在なんでしょ?
「よかった…。瑠璃は僕のだ。僕だけの…」
「二番目なんでしょ…」
「あのね、よう子は妹分だよ。前に話したよね?部下みたいなのがいるって」
はい? うん、それは言ってた。あまり会わせたくないとも…。
「じゃあどうしてあんな風に腕を組んで押し付けてるの?誘惑してるよね?あれは…」
「よう子は小柄だって話覚えてる?」
「う、うん…。部下がそうだってのは聞いた…」
「小柄って刀に沿う様に鞘におさめられてるから、アレが自然な状態になっちゃうんだ…。よう子にそれ以外の感情なんかないよ」
「そ、そんな適当な話でごまかされたりなんて…」
「髪の色も目の色も同じ。そっくりだって思わなかった? だいたい兄ちゃんって呼んでたでしょ」
「…思った。ご飯食べてる姿がそっくりだな、って…それくらい深い関係なんだ…って。呼び方に関しては子狐丸の特殊な趣味かと…」
「僕の一部みたいなものなんだから当たり前だよ! 特殊な趣味って何!?」
えーっと…? じゃあ何? 私は彼氏の妹を浮気相手だと勘違いしてずっと暴走してたと?
そんなの…。
合わせる顔なんてなくて、再び布団に潜り込んだ。どんな顔したらいいのよ。しかも心無い言葉までぶつけて…。
「瑠璃!?」
「ごめんなさい、ちょっとそっとしといて…自己嫌悪で死にそう…」
「じゃあそのままでいいから、迷い家で何があったか教えて?」
それは別にいいけど…。
迷い家での出来事を、布団に潜ったまま子狐丸に話した。
記憶している限り全部…。




