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境界の娘 ~人ならざるものと生きていくのも楽じゃないけど、それなりに楽しくやっています~  作者: 狐のボタン


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再会



迷い家に入り込んで数日。

家事以外にすることが無くて、つまらなくて仕方がない。

外は薄暗い森以外なんにもないし、家の中も特に面白いのもなく…。

唯一の話し相手は私を襲おうとしたヤツ。何かの罰ゲームよねこれ。


この家についても少し聞いたけど、招き入れた相手と交わり、力を維持してるそうで、代わりに返す時に願いを叶えてる。

最初の数日姿を見せなかったのは、私を観察していたからだそう。記憶を消したからその経過をみていたけど、無理に思い出しそうだったから、警戒されないよう子供の姿で出てきたとか…。

子供らしさなんてほとんどなかったけどね。可愛気ないし。

あれ以降手は出してこないけど、毎日のように口説かれていい加減うんざり。

 

「なぁ。いいだろ? お前にも損な話ではないんだから」

「損するの! あなたに身体を差し出したらなにか大切なものを失うの!」

「確かに戻したけどよ…」 

戻した?ああ記憶の話ね…。


「いい加減諦めて。 大体名前もないと呼びにくくて困るってのに。煩わしい話題を振らないでくれる?」

「迷い家でいいだろ」

「それが呼びにくいって言ってるの!」

「じゃあお前が付けてくれ」

「そうね…」

名前か。私がつけていいのなら。

そうね…呼びやすいのにしよう。”あなた“なんて呼ぶのは夫婦みたいでなんかイラッてするのよね。



「場合によっては女の人にもなるのだから、それも踏まえて…シキ! 迷い家、つまりはお屋敷だから、そのお屋敷の敷からとったよ。呼びやすいでしょ?」

「シキか…。悪くねぇ。 ありがとな!」

笑顔でお礼を言われて少し気恥ずかしく感じた。

だってあんな無邪気な笑顔も出来るなんて。ちょっと可愛いと思ってしまったのが腹立たしい。普段は邪気しかないくせに…。


なにか一言くらい憎まれ口でも言ってやらないと…そう考えていたら突然歪む視界。

「なにこれ!?」

「嘘だろ!? 行くな! 瑠璃!!」

どういうこと!? あ、もしかして、名前をつけてっていう願いを叶えたから?

確かに、シキから言い出したお願いだったけど…。急すぎるよ…。


歪んでいた視界が真っ暗になり、次に見えたのは夕暮れの森。

見渡すと見覚えのある景色…。遠くに見える集落は、鎌鼬の人達が住んでるところ。

「戻ってきたんだ…」

確かに私の願いは“帰りたい“だったものね。


戻ってきたんだと、ホッとする反面、今更戻ってきてどうするんだろう?という迷い。

それに…ちゃんとお別れも言えなかったシキ。せっかく名前つけてあげたのにな…。一度も呼んであげる暇もなかった。



私はこれからどうしたらいいのだろう。

ちょうど境界が開いていた場所にぽつんと一人放り出されて。

境界から助けたかった子はちゃんと出られたんだろうか?

あれだけ妖力を持っていかれたんだから、助かっててくれなきゃ嘘よね。


家に帰るのもなぁ…と考えてて思い出したのが、ここから海が近いって事。

もう一度見たい…。そう思って海へ向かい、前と同じように小山を越えるとそこには以前見たのとはまた違う美しい景色が広がっていた。

夕焼けに染まる海は真っ赤で、青色なんてどこにもない。

海が燃えているみたいに光ってて…。なんてキレイなの。



今日はゆっくりと歩き、海岸まできた。

潮風が心地よく、波の音はあの日と変わらない。ただ隣にいたはずの子狐丸だけがいない…。


砂浜に沿って歩き、例の岩場へ。

ここであの子に無理矢理…。それすらももう愛おしい思い出の様に感じるのは、色々と限界なのかも。


岩場に座り、海を眺めていたら夕日も沈み、辺りは真っ暗に。

月明かりでほんのり照らされる海もまたキレイで…。

でも、海は海で妖怪がいるよね?濡れおなごとか海坊主とか…。

想像したらゾッとして寒気が。

「よしっ、帰ろう」

なんだか色々と諦めたら吹っ切れて、家に向かって歩く。


子狐丸が帰って来てもこなくても、私は私にできることをしよう。そう思ったら…。


「無理だよ…子狐丸…ごめんね…。戻ってきて。お願いよ…」

道の真ん中に座り込んで歩けなくなり、涙も止まらない。所詮私の決意なんてこんなものか。

迷い家にいた時には耐えれてたのに…なんでよ…。


「いましたよ!! やっと見つけました!」

「瑠璃!!」

子狐丸の声が聞こえた気がして、また涙があふれる。

「瑠璃!」

突然抱きしめられて、何がなんだかわからず…。でもこの匂いと温かさは…よく知ってる…。

「子狐丸…」

「おかえり、瑠璃」

なんでそんな優しい声で…。


「見つけられてホッとしました…」

……誰?

聞き慣れない声に顔を上げると金髪のきれいな女性が。

というか、この金髪は……子狐丸と腕を組んでた女性だ…。


「この人を私に会わせるためにここまで来たの?」

「瑠璃を迎えに来たのが理由! 会わせたかったのは二の次!」

「そう…」

浮気相手を会わせるためにわざわざ連れて迎えにくるって…つまりそういう事よね?


「家に帰ろうか、子狐丸」

「え…?う、うん!」

これからどうするか、ちゃんと話し合わなきゃね。

当たり前のように連れてこられたらもう覚悟を決めるしかないもの。

人間、とことんまで追い詰められると冷静になるものね…。初めて知ったよ。

涙も枯れてしまったかのようにピタリととまった。


帰り道は一切の会話もなく。

今回は子狐丸も話しかけてこなかったし…。


久しぶりに帰り着いた家はひどく冷たく、寒々しく感じた。

今までならどこよりも温かく感じていた家なのに…。


「お、お邪魔します」

金髪の女性は遠慮がちにそう言うと、子狐丸に案内されてリビングに座る。

お茶くらい出さなきゃね。今はまだここは私の家でもあるんだし。


いくら恋敵みたいな相手とはいえ、嫌がらせとかそんな事をするつもりなんてサラサラない。

普通にお茶を出して話し合いをするだけ。

「粗茶ですが…」

「あ、ありがとうございます」

「瑠璃…?」

「大丈夫よ」

「………」

なんで黙り込むのよ。話を聞くからどうぞっていう意味なんだけど?


子狐丸は俯いたまま黙り込んでるし、女性もおどおどとしてて会話が始まらない。

この女性、見た目は私より年上よね。スタイルもいいし、可愛いというよりは美人。

そう…子狐丸はこういう人が好みなんだ?

金髪同士お似合いよね。私は地味な黒髪だし。


「瑠璃、僕は覚悟できてるから…」

私から別れ話を切り出せと?浮気したのはそっちなのに?

確かに原因は私にあるけど、いくらなんでも酷くないかな。

私が振られて終わる結果にならないよう気を使ってるとでも言うの?

そんな優しさ必要ないし、むしろ優しさでもなんでもないのよ…。

バッサリ振ってくれたほうが…


「あ、あの!! はじめまして…」

このタイミングで挨拶を始めるこの人が理解できない。でも無視するのも負けたみたいで嫌。

「はい。初めまして。 知ってるとは思いますけど、九城瑠璃といいます」

「えっと…その…あたしは名前がなくて…」

迷い家に続きこの子もですか。彼氏なら名前くらいつけてあげなさいよ。少しの怒りを込めて子狐丸を睨む。

目を逸らしたし! そんな態度でよく私に会わせようなんて考えたわね!?

さすがになんか腹が立ってきましたよ?











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