得体のしれない子供
にこにこと笑っているのに、どこか不気味な気配を感じる子供は、私に近づいてくると、いきなり抱きついてきた。
「どうしたの!?」
「ママになって!」
「え?」
「だからママになって」
そう言いながら胸に顔をうずめてくる。子供のすることだから…と思ってたら、まさかの鷲掴み。
「ちょっと…それはダメ…」
「なんで?ママになるのに」
母親にこんな事をする子供は聞いたことがない!
「ご飯! ご飯を作ってあげるから。ね?」
「わかった!」
聞き分けは言いようで、素直に離れてくれて助かった。あれ以上されたら力が抜けちゃう。
冷蔵庫から食材を出して、子供が好きそうなものを…と思い、オムライスを作ることにした。
炊飯器もセットして…って、こっちはお米を入れなきゃダメだった! いつもなら、かやくご飯にしろお赤飯にしろワンタッチだったの…に…? お赤飯! ヤダ…思い出しちゃうじゃない…。
……何を? 一瞬何か凄く恥ずかしい記憶がフラッシュバックした気がしたけど、それもすぐに消えてしまった。
はぁ…。今はご飯を作らなきゃ。あの子に何をされるかわかったものじゃない。
子供だからって甘く見てたらだめだ…。ここは普通じゃないし、あの子も得体がしれない。
「まだー?」
「ごめんね、直ぐにはできないから待っててくれる?」
「えー。じゃあ遊ぼうよ」
「遊んでたらご飯作れないよ…」
「むー!」
無茶苦茶言うわね、あの子。
その後も得体のしれない子供の言動はわがままそのもので、名前さえ教えてくれないし、何者かも当然教えてくれない。
しかもやたら私に触ってくる…。見た目は子供なのにやってる事はおっさんのセクハラ…。
包丁を使ってる時、ついにスカートの中にまで手を入れてきて、流石に我慢の限界。
「いい加減にしなさい!! なんなの? ママになってって言うならいうこと聞きなさい!」
「…っ…。 うわぁぁぁぁん!」
いきなり泣き出すとか…。泣きたいのはこっちなのに!
「泣いてもだめです! ご飯食べたいのならおとなしく待ってなさい!」
「うぅ…」
グズりながらもリビングに戻っていったのを見て、ホッとする。
子供相手なのに身の危険を感じるのは勘弁してほしい。…まさかお願いってそっち!?
命を奪うとかの方向じゃなく、そっちでの身体目当て? いや、まさか…子供が…ね?
でもさっきからの行動を振り返えると、否定もできない。
誰ともわからない相手とそんな事をするのはさすがに無理。いくら初めてではなく、今はフリーだとしても…。そんな軽い女にはなりたくない。
子供相手に何でこんな悩みを抱えなくちゃいけないのかと、考えながらもオムライスを作って、出してあげた。
「できたよ」
「ご飯!」
スプーンで食べてる姿は普通に小学生くらいなのに…。
「それで、ママになってってどういう意味?」
「ボクの子供を産んでママになってほしいって意味だよ」
「子供が何を言ってるの? いい加減にしないと私も怒… え?」
「子供じゃなきゃいいんだな?」
オムライスを食べていた子供、だった相手は長い黒髪の成人男性になった。
「…ふざけんな」
「あ?なにがだ」
「子供のフリしてあんなことして! ほんとにふざけんな!!」
小さな子だからと我慢してたけど、それも大人なら立派な犯罪だ。
「うるせぇ女だな。どうせ俺の子を産まなきゃ出られねぇんだから諦めろ。その歳で中古なのは目を瞑ってやるから」
中古!?言うに事欠いて、人に向かって中古!?どこまでふざけてるの?
確かにあの痛みを記憶している以上初めてではないとは思ってたけど、過程の記憶はすっぱりないのに。コイツに言われると事実なんだと感じて無性に腹が立つ。
ダメだ。ここで冷静さを失ったら思うつぼ。落ち着け私。
「…まだ記憶も戻してもらってないし、約束も果たしてもらってないんだから無効よね?」
「約束すると言った時点で確定なんだよ。お前は黙って俺の子を産めばいいんだ」
「お断りします! 誰があなたなんかの子を産みますか!」
「いいのか? 俺の言うことを聞けばここを出る時には大富豪だ」
「何よそれ」
「迷い家って知らねぇか?」
迷い家…マヨイガ…。 伝承みたいなのの一種で、突然現れる幻の家。そこに入れた人は願いが叶う…。それは本で読んだ。まさかここが!?
「お金なんていらない! そもそも迷い込んだのが男だったらどうしてたのよ?」
「その時は種をもらうだけよ?」
突然妖艶な女の人になってるし! 何でもありか!
「とにかく、お金もいらないし、あなたの子も産むのは嫌です! 絶っっっ対にイヤ!!」
「面白いわね、アナタ。今までそんな事を言ったのはアナタが初めてよ?中古のくせに…」
「中古って言うな! そっちのがもっと中古でしょう!」
「言ってくれるわね。 アタシのは経験豊富って言うのよ。相手が望むなら初めてにだってなってあげられるの。男ならアタシの言いなりだったし、女は俺にすぐに股を開くもんなんだがな」
「コロコロ姿変えるな! 気持ち悪っ…」
「…テメェ…いいのか?ここは俺の管理してる家なんだ。意味はわかるか?」
「出てけって言うなら出ていきます!」
「好きにしろ。後で泣きついたら滅茶苦茶にしてやるから覚悟しろよ」
こんなやつに好きにされるくらいなら、他の方法を探します!
私がまず向かったのはキッチン。
「お前は何をしてる?」
「おにぎりを作ってます」
「そういう意味じゃねぇよ。 なんでおにぎりを作ってるんだ?って聞いてんだよ」
「オムライス。作ってあげましたよね? だったら残りのご飯でおにぎりくらい貰っても良くないですか」
「…ふっ、ふはははっ。 おもしれぇ女だなお前。ますます俺のものにしたくなった」
「気持ち悪いからやめてください。子供のフリして触ってくるような変態なんてお断りです」
「可愛げのねぇ女だな…。それもおもしれぇ。いつ俺の言いなりになるか楽しみだ」
絶対になるもんですか!
おにぎりをつつみ、水筒に水を入れて家を出た。これで少なくとも一日はなんとかなる。




