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境界の娘 ~人ならざるものと生きていくのも楽じゃないけど、それなりに楽しくやっています~  作者: 狐のボタン


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探索



一日目。


まずは何よりも水と食料。

キッチンの水道は普通に使えるし、冷蔵庫には食品が詰まってる。

人が住んでいる形跡が無いのになんで? でも、ここが現世のコピーならあり得なくもない?

コピーだとしても色々とおかしく感じるけど、私は境界へ入り込んだのも初めてだから判断ができない部分もあるし…。

なんにせよ水と食料が確保できて良かったと思おう。


当然ここには万能オーブンレンジさんは無いから、久しぶりにイチから料理をしたけど、まだちゃんと覚えてるものね。ホッとした…。調味料もあるから困らなかったし。

作った料理でお腹を満たして、家中の設備も見て回る。

お風呂やトイレも当たり前に使えるのは助かるし、二階の部屋にあったクローゼットには服類もあった。

なぜかサイズがぴったりなものばかりで気味が悪いけど、着替えないままもいられないから利用させてもらおう。



二日目。


朝から外に出て見て回るも、家の周りをぐるっと囲むように薄暗い森が広がっているだけ。

しかもどれだけ歩いても気がつくと家に戻ってくる。まるで逃さないとでも言わんばかりに…。

こうなってくると、間違いなくこの家がすべての中心だと思っていい。


外の探索は諦め、家の中をもっとしっかりと見て回るしかない。そう思って片っ端からありとあらゆるタンスやクローゼット、箱やら何から開けられるものは全部開けたけど、何もおかしなものはなく。

…そもそも何を探せばいいのかもわからないのにどうしろっていうの?



三日目。


家の中に何もない以上、もう一度外に出てみて、家から全方向へ真っ直ぐに歩いてみることにした。

先ずは玄関から真っ直ぐすすむ。


しばらく進むと家の真裏に出て、家に戻された。そのまま方向転換してまた真っ直ぐ進むと、玄関に戻ってきた。

同じ事を反時計回りに45度くらいズレては繰り返す。


その結果、わかったことが一つ。

家の玄関がある方向を南として、北東の方角。つまり鬼門の方角へ向かって進むと違和感が…。

言いようのない寒気と、恐怖感に襲われる。同じ感覚をどこかで感じたのだけど…思い出せない。

ひどい頭痛もしてきて、耐えられずUターン。


家に戻り、リビングのソファーで休む。

「何だったのあれ…」

誰もいない部屋に独り言が響く。

ボロアパートでも一人暮らしだったから、こんなのは慣れているはずのに、どうしてこんなに寂しいの?まるで半身を失ったかのような喪失感で胸が締め付けられる…。


水でも飲んで落ち着こうとキッチンへ行き、コップへ水を注ぐ。その持っている左手におかしな痕があるのに気がついた。

「これ、なんの痕?」

左手の薬指に、まるで指輪でもしていたような細い痕がくっきりと。

元カレに指輪なんてもらった覚えもない。

ましてや左の薬指につけるって…。結婚か婚約した時くらいよね?


おかしい…。何がおかしいってその痕を見てたら涙が止まらなくなった。

どうして…。…何か、何かとても大切な事を忘れているような気がする。さっきも感じた胸を締め付けられるような苦しさに、コップも持っていられず。

シンクに落ちたコップは砕け、ガシャンっていう大きな音に驚き身体が跳ねる。


涙で滲む視界のままガラスの破片を拾い集めてたせいで左手の指を切ってしまった。

鋭い痛みと、止まらない血に焦り、手近なタオルで止血。手当てしなきゃ…。こんな場所で化膿したら目も当てられない。


確か家中を引っ掻きまわしていた時に救急箱を見つけて、もしもに備えてリビングに置いておいたはず。

記憶どおり、リビングのテーブルのそばにあった救急箱から消毒と絆創膏を取り出して手当て。

まだズキズキと痛むし、みるみるうちに絆創膏が朱に変わっていく。結構深く切ったらしい…。

絆創膏程度では駄目かと思い、ガーゼと包帯で手当をし直す。


痛い…。いつまでもズキズキと鈍痛が治まらない。


こんな痛みを感じるのいつ以来だっけ。

…ああ、初めての時だ。

あの痛みはこんなのの比じゃなかったし、筆舌に尽くし難かった…。文字通り身体を引き裂かれるような痛みで………。

あれ…? おかしい、おかしい…!


元カレとそんなことはしていない。迫られたけど拒否したのは覚えてる。

じゃあなんで私はあの痛みを知ってる?

妄想なんかじゃない。あの痛みが嘘だったなら、あの後に感じた幸せは…?


幸せ…?誰と?

思い…出せない…。頭が痛い…。

「忘れちゃえば楽になるのに」

突然聞こえた声に驚いて顔を上げると、目の前には短い黒髪の小さな男の子?女の子?わからないけど子供がいた。


「あなたは誰?」

「誰だろうね。そっちこそ誰?」

「私は瑠璃。九城瑠璃」

「ふーん。 せっかく辛い記憶を消してあげたのに、無理に思い出そうとするからもう出てきちゃったよ」

辛い記憶…?


「思い出させて! 辛くてもいいから。大切なものだと思うの! お願いよ…」

「じゃあお願い聞いてくれる?」

「私にできる事なら…」

「ダメ。聞いてくれるって約束してくれなきゃ」

無理難題を言われたらどうしよう…。私にできる事なんて限られてる…。

手持ちには何もないし、あるのはこの身体一つ。まさか身体が目当て?生贄とかにされるために命がほしいって言われたら…。


「お願いを聞いてくれなきゃここから出られないし、記憶も二度と戻らない。どうする?」

どうしよう…。でもあの言い方だと、お願いを聞けば出られるし、記憶も戻してくれるって事よね?じゃあ命は取られないと思っていい…。


「わかったよ。お願い聞くから」

「約束ね」

小さな子は嬉しそうに笑った。







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